インプラント治療後に「鼻が詰まる」「息苦しさを感じる」といった症状が出る場合があります。これは、副鼻腔炎(上顎洞炎)が原因となっている可能性があるようです。
本記事ではインプラント治療後の鼻づまりについて以下の点を中心にご紹介します。
- 副鼻腔炎について
- インプラント治療で副鼻腔炎を発症してしまうケースとは
- インプラント治療で副鼻腔炎を起こさないためのポイント
インプラント治療後の鼻づまりについて理解するためにもご参考いただけますと幸いです。ぜひ最後までお読みください。
副鼻腔炎とは
副鼻腔炎とはどのようなものなのでしょうか?
以下で詳しく解説します。
副鼻腔炎の症状
副鼻腔炎とは、鼻の周囲にある空洞(副鼻腔)の粘膜に炎症が生じる状態を指します。蓄膿症ともいわれており、鼻や口周りを中心にさまざまな症状が現れることがあります。
主な症状には以下のようなことがあります。
- 鼻づまり
- 粘り気のある黄色や緑色を帯びた鼻水やにおいが強い鼻水や膿が出る
- 頭痛や顔の痛み:副鼻腔に膿がたまることによる頭重感、頭痛、顔面の痛み
- 鼻水や膿が喉に流れることによる口臭
- 鼻水がのどに落ちる後鼻漏(こうびろう)の影響による咳や痰
症状の程度には個人差があり、軽度の場合は不快感程度で済むこともありますが、重症化すると発熱や強い頭痛を伴うケースもあります。
副鼻腔炎の原因
副鼻腔炎が発症するきっかけはさまざまですが、主に以下のような原因が挙げられます。
1. 風邪やアレルギーによるもの
風邪をひいたときに鼻水が増えるのはよくあることですが、この鼻水が原因で副鼻腔の通り道が塞がれると、膿や分泌物が排出されにくくなります。こうして溜まった膿が炎症を引き起こし、副鼻腔炎となるのです。
アレルギー性鼻炎も同様に、副鼻腔の粘膜が腫れることで炎症が起こることがあります。花粉症やハウスダストアレルギーがある方は、特に注意が必要です。
2. むし歯や歯周病が原因となる場合 上顎の奥歯は、上顎洞(じょうがくどう)という副鼻腔に近い位置にあります。そのため、むし歯や歯周病が進行すると、原因となる細菌が歯や周囲の骨を通じて上顎洞にまで広がることがあり、これがきっかけで炎症が発生することがあります。
特に影響を受けやすい歯として、以下が挙げられます。
- 上顎第一大臼歯(奥から2番目の歯)
- 上顎第二小臼歯(奥から3番目の歯)
- 上顎第二大臼歯(奥にある歯)
むし歯や歯周病によって発生する副鼻腔炎は、歯性上顎洞炎(しせいじょうがくどうえん)と呼ばれます。通常の副鼻腔炎よりも歯の痛みや噛み合わせ時の違和感が特徴的で、むし歯や歯周病を治療しない限り症状が改善しないケースもあります。
3. インプラント治療が原因となる場合
インプラント治療後に副鼻腔炎を発症することもあります。なかでも上顎のインプラント治療では、インプラント体が上顎洞の近くに埋め込まれるため、粘膜を刺激して炎症を引き起こすリスクがあります。
インプラント治療で副鼻腔炎を発症してしまうケース
インプラント治療で副鼻腔炎を発症してしまうケースには、以下のようなことがあります。
ケース1.骨造成の治療
インプラント治療では、顎の骨に人工歯根であるインプラント体を埋め込み、その上に上部構造を固定します。しかし、インプラントをしっかりと支えるためには、顎の骨に十分な厚みと量が必要です。
顎骨が不足している場合、そのままではインプラント体が安定せず、手術が難しくなります。こうした状況では、骨造成と呼ばれる治療を事前に行い、骨の量を増やしてインプラント体が正しく固定される土台を作る必要があります。
特に上顎に骨造成を行う際は、上顎洞(じょうがくどう)と呼ばれる空洞に近い部分を扱うため、粘膜を傷つけるリスクがあります。
上顎洞の粘膜が破れたり傷ついたりすると、その傷口から細菌が侵入し、炎症を引き起こす可能性があります。この炎症が副鼻腔にまで及ぶと、副鼻腔炎(上顎洞炎)となり、鼻づまりや顔面の痛み、頭痛などの症状を伴うことがあります。
ケース2.インプラント体の埋入手術
インプラント治療で上顎にインプラント体を埋め込む際にも、副鼻腔炎を引き起こすリスクが伴います。
インプラント体を顎の骨に固定するためには、専用のドリルで骨に穴を開ける必要がありますが、この過程で上顎洞の粘膜を傷つける可能性があります。粘膜が損傷すると、そこから細菌が侵入し、炎症を引き起こすことで副鼻腔炎の原因となるのです。
上顎の骨は下顎に比べて薄いことがあるため、インプラント体を埋め込む際には細心の注意が必要です。ドリルで穴を開ける際に、粘膜を傷つけるだけでなく、誤って突き抜けてしまうケースもあります。
さらに、インプラント体を正しい位置に埋入できなかった場合、インプラントの先端が上顎洞内に入り込み、粘膜を刺激して炎症を引き起こすこともあります。粘膜が傷ついた状態では細菌感染のリスクが高まり、結果として副鼻腔炎を発症する可能性があります。
ケース3.インプラント周囲炎
インプラント周囲炎とは、インプラントの周囲に炎症が起こる病気で、いわばインプラント版の歯周病です。歯周病菌がインプラント周囲に感染し、炎症が進行すると顎の骨が溶けてしまう恐れがあります。
インプラント周囲炎は、進行することで副鼻腔炎を引き起こすリスクもあります。この病気は進行が早く、初期段階では痛みや腫れなどの自覚症状がほとんどないとされているため、注意が必要です。
インプラント治療が原因で副鼻腔炎になったときの対処法
インプラント治療が原因で副鼻腔炎になったときの対処法は以下のとおりです。
歯科医師に相談
まずは副鼻腔炎の症状がインプラント治療に起因するものかどうか、歯科医師に相談して確認することが大切です。
早期に受診できる場合は、インプラント治療を担当した歯科医師に相談するのが望ましいでしょう。
もし、まずは症状を和らげたいという場合は、耳鼻咽喉科で適切な処置を受けるのも一つの選択肢です。
症状の緩和
副鼻腔炎の症状が現れた場合、まずは炎症や痛みを和らげるための対処が必要です。医師に相談すると、症状の緩和を目的として、抗生物質や鎮痛薬などを処方されることがあります。
これらの薬には、炎症を抑えて上顎洞内の腫れを軽減したり、痛みを和らげたりする効果が期待できます。処方された薬は、指示された用法・用量を守り、継続的に服用することが大切です。自己判断で服薬を中止してしまうと、症状の再発や悪化を招く可能性があるため注意しましょう。
また、治療の一環として、炎症を起こしている部位を洗浄したり、うがいによるケア指導が行われることもあります。うがいを習慣づけることで、口腔内の細菌を減らし、感染の拡大を防ぐことにつながります。
歯性上顎洞炎の場合、上顎洞内(じょうがくどう)の粘膜や骨に炎症が生じているため、まずは抗菌薬や鎮痛薬を用いて炎症を鎮めることが重要です。症状が落ち着いた後も、定期的に医師の診察を受け、状態を確認することで再発を防ぐことができます。
手術
薬物療法や耳鼻咽喉科での洗浄治療を行っても十分な改善が得られない場合、症状を軽減するために手術が必要となることがあります。歯性上顎洞炎に対して実施される主な手術法には、以下のようなものがあります。
1. 内視鏡下副鼻腔手術(ESS)
鼻の穴から内視鏡を挿入し、カメラで上顎洞内の状態を確認しながら炎症を起こしている粘膜を切除します。傷口が外側から見えないため、体への負担が少なく、回復も早いとされています。
内視鏡による手術は、出血が少なく周囲の組織へのダメージを抑えられるため、近年は歯性上顎洞炎の治療において主流となっています。
2. 上顎洞根治手術(じょうがくどうこんちしゅじゅつ)
上顎洞内の炎症が広範囲に広がっている場合に行われる手術法です。上顎洞内の炎症粘膜を切除したり、必要に応じて感染が広がった骨を削除したりして、炎症の原因を取り除きます。
この手術には、コールドウェル法やデンカー法といった代表的な術式があります。コールドウェル法は、犬歯の上部の歯茎を切開し、上顎洞内の炎症組織を取り除く方法です。デンカー法は、上顎洞を含む広範囲の骨を削除する方法で、広い範囲に炎症が及んでいる場合に選択されます。
インプラント体埋入の再手術
インプラント治療において、インプラント体が粘膜を突き抜けて上顎洞内に入り込んでしまった場合、再手術が必要となることがあります。
このようなケースでは、粘膜を突き破ってしまったインプラント体を慎重に取り除き、感染や炎症が発生している場合にはその治療を優先します。炎症が残ったまま再手術を行うと、症状が悪化する恐れがあるため、抗生剤などで細菌感染を抑え、粘膜の状態が正常に戻るまで経過を観察します。
【再手術までの流れ】
1.インプラント体の除去:
上顎洞に突き抜けたインプラント体を取り除き、損傷した粘膜を保護する
2.感染や炎症の治療:
上顎洞内で感染が起きている場合、抗菌薬を用いて炎症を鎮め、必要に応じて、粘膜の洗浄や炎症部分の除去が行われる
3.再手術の計画立案:
炎症が治まり粘膜が正常に回復した段階で、CT撮影などの精密検査を実施し、骨の厚みや粘膜の状態を詳しく確認し、再度インプラント体を埋入する計画を立てる
4.インプラント体の再埋入:
骨の厚みや上顎洞の位置を考慮し、インプラント体が再び粘膜を突き破ることがないように、適切な角度や深さで慎重に埋入する
【再手術での注意点】
インプラント体が粘膜を突き抜ける原因には、事前の診断不足や埋入時の位置や角度の誤りによるものがあります。そのため、再手術の際には、骨の状態や上顎洞との位置関係を詳細に分析し、慎重に計画を立てる必要があります。
再手術後は、しばらくの間インプラント部位の違和感や腫れが生じることがあります。定期的なメンテナンスと適切なセルフケアを行うことで、トラブルを防ぎ、インプラントを長期的に安定させることが可能とされています。
インプラント治療で副鼻腔炎を起こさないために
インプラント治療で副鼻腔炎を起こさないために気を付けることは、以下のとおりです。
歯科医師の知識や経験をしっかり確認する
インプラント治療に伴う副鼻腔炎の主な原因のひとつは、歯科医師の経験や技術の不足です。インプラント治療自体は歯科医師が行えるとされていますが、その技術力には大きな差があるため、治療を受ける際には歯科医師の経験や実績を確認することが大切です。
経験豊富な歯科医師であれば、インプラント治療に必要な設備が整っており、事前に顎の骨の状態をしっかり確認したうえで、インプラント体を適切な位置・角度で埋入することができます。
こうした丁寧な診断と正確な処置によって、インプラント体が上顎洞に入り込むなどのトラブルを防げる可能性が高まります。万が一、手術中や治療後に問題が生じても、知識と経験を活かして的確に対応してもらえるでしょう。
インプラント治療を検討する際は、歯科医師の経歴や症例数などを参考に歯科医院を選ぶよう心がけましょう。
適切な診断と治療計画を行ってくれる歯科医院を探す
インプラント治療を進めるためには、事前の診断と綿密な治療計画が欠かせません。特に上顎のインプラント治療では、副鼻腔(上顎洞)との位置関係を正確に把握する必要があります。そのためには、CTスキャンによる精密検査が重要です。
通常のレントゲン撮影では、骨の厚みや奥行き、上顎洞の立体的な構造を正確に確認することができません。しかし、CTスキャンなら顎の骨の状態や副鼻腔との距離が詳細にわかるため、リスクを事前に把握し、治療計画を立てることが可能とされています。
診断の結果、骨の厚みが十分であれば問題なくインプラント治療を進められますが、骨量が不足している場合には、無理にインプラントを埋め込むのは危険です。骨が足りない状態で手術を行うと、インプラントの先端が上顎洞に突き抜けてしまい、副鼻腔炎や感染症を引き起こす原因となるためです。
こうしたリスクが確認された際は、ソケットリフトやサイナスリフトといった骨造成術を検討し、インプラント体がしっかりと支えられる骨の環境を整える必要があります。
治療前に副鼻腔炎の治療や体調管理をしておく
手術前に慢性副鼻腔炎や軽度の炎症が確認された場合は、事前に治療を行うことで、術後のトラブルやリスクを軽減できます。
必要に応じて、インプラント埋入の前に耳鼻科と連携し、炎症の原因を取り除いてから手術を進めることが望ましいでしょう。
術後のケアを適切に行う
インプラント手術後は、術部周辺に炎症が起こりやすい時期です。
そのため、術後は丁寧な口腔ケアを心がけるとともに、必要に応じて抗生物質などで炎症を抑える対策が求められます。
さらに、インプラント治療の前後には必ず禁煙するようにしましょう。喫煙は傷の治癒を遅らせるだけでなく、口腔内の細菌が増殖しやすい環境を作るため、感染リスクを高める可能性があります。
インプラント治療後の鼻づまりは放置せずに早期に対応しよう
インプラント治療後の鼻づまりを放置すると、慢性的な疲労感や集中力の低下、イライラなど、日常生活や健康にさまざまな悪影響を及ぼす可能性があります。
さらに、鼻で呼吸できずに口呼吸が増えることで口腔内の乾燥が進み、歯周病や口臭などの口腔トラブルにつながる可能性があります。
また、症状が悪化したり、場合によってはインプラントの再手術になることもあるため、 ただの鼻づまりだと放置せずに、早めに歯科医師へ相談しましょう。
まとめ
ここまでインプラント治療後の鼻づまりについてお伝えしてきました。インプラント治療後の鼻づまりの要点をまとめると以下のとおりです。
- 副鼻腔炎とは、鼻の周囲にある空洞(副鼻腔)の粘膜に炎症が生じる状態
- インプラント治療で副鼻腔炎を発症してしまうケースは、骨造成の治療、インプラント体の埋入手術、インプラント周囲炎などが挙げられる
- インプラント治療で副鼻腔炎を起こさないためのポイントは、歯科医師の知識や経験をしっかり確認する、適切な診断と治療計画を行ってくれる歯科医院を探す、治療前に副鼻腔炎の治療や体調管理をしておく、術後のケアを適切に行うこと
インプラント治療後に鼻づまりが続く場合、副鼻腔炎が原因となっている可能性があります。早めに歯科医院や耳鼻咽喉科を受診し、適切な処置を受けることで症状の悪化を防ぐことができます。
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。