事故や病気によって、若いうちに歯のほとんどを失った際のデメリットは非常に多岐にわたります。
顎の筋肉が退化しお顔のバランスが崩れたり、見た目を気にしてお口を大きく開けられなくなったりするのはほんの一例です。
このような状況でオールオン4による治療は有効な手段となります。
この記事ではオールオン4の治療が30代にも可能なのかや、その際のメリット・デメリットを解説します。
オールオン4の治療を検討している方の参考になれば幸いです。
オールオン4の治療方法とは
オールオン4とは、前歯から奥歯まですべての歯が一体化された人工歯を装着する治療法です。
従来のインプラント治療は1本1本の歯にインプラントを埋入するのに対して、オールオン4では片顎に4~6本のインプラント体を埋入し、上部構造を装着します。
通常のインプラント手術と比べて埋入する本数が少ないため、身体的負担や経済的負担を抑えられるのが特徴です。
オールオン4のメリット
失った歯の機能を回復させるには総入れ歯やインプラントなど、さまざまな方法があります。そのなかでもオールオン4は身体的負担・費用的負担・審美性などから見て有効な手段です。
ここではオールオン4を選択したときに、どのようなメリットがあるのか解説します。
顎の骨への影響が少ない
インプラント手術の場合、骨量が不足していると手術が受けられない可能性があります。骨造成手術などで対応できるケースもありますが、追加の手術に対する時間も費用もかかるのが難点です。
また骨量があまりにも少ない場合は、手術そのものが受けられないこともあります。
しかし、オールオン4は骨量が十分にある位置を選んでインプラントを埋入できます。そのため顎の骨への影響が少ない状態で手術が可能です。
また顎の骨は咀嚼行為などで刺激を与えないと、次第に体内に吸収され薄くなるといわれています。
一般的な入れ歯では骨の吸収を防ぐのは難しいとされていますが、オールオン4は刺激がしっかり伝わるので骨の吸収を抑える効果が期待できます。
入れ歯と違い歯が外れない
入れ歯の場合、食事や会話の際に外れてしまうときがあります。
装着する入れ歯の品質にもよりますが、外れやすい入れ歯をしていると大きくお口を開けられなかったりお口のなかの違和感が気になったりします。
オールオン4の場合は埋入した4~6本のインプラントで人工歯をしっかりと固定するので外れる心配がありません。
食事や会話が快適になる
オールオン4は装着したときの一体感や審美性に優れた製品です。総入れ歯は咀嚼力が天然歯の2~3割程度といわれています。
一方でオールオン4は顎の骨に埋入したインプラントが人工歯をしっかりと固定するため、咀嚼力が強く物を噛んだときの刺激が直接顎に伝わります。
これにより天然歯に近い感触が味わえ、楽しい食事が可能です。
また総入れ歯のように大きくお口を開けても外れることがありません。審美性も高く、歯を見せて笑っても人工歯だと気付かれにくいため、気兼ねなく会話を楽しめます。
身体への負担が少ない
仮に片方の顎にすべてインプラントを埋め込もうとした場合、親知らずを除いて14本ものインプラント手術が必要になります。
これだけの手術を行おうとすると身体の負担は非常に大きなものになります。また骨量が足りない場合は事前に骨造成手術も必要です。
オールオン4は片顎に対し4~6本のインプラントを埋入する手術なので、身体の負担が少なくなります。
また骨量が少ない場合でも、事前に骨量の多い部分を調べてそこにインプラントを埋入するので事前の手術もほとんど不要です。
また手術中は局部麻酔や静脈内鎮静法により痛みもほとんどありません。
治療期間が短い
治療期間が短いのもオールオン4の特徴です。インプラントの埋入数が4~6本と少ないため、抜歯からインプラントの埋入、仮歯の装着までを1日で済ませてしまうケースがほとんどです。
その日のうちに食事ができるようになるので、長期間の入院や通院の必要がありません。
また一般的なインプラント手術のような骨造成手術を行う必要がほとんどないといわれているため、トータルで見たときに治療期間が短くなります。
費用が抑えられる
オールオン4手術で歯の機能を回復させようとした場合、一般的なインプラント手術よりも費用を安く抑えられます。
仮にインプラント手術で片顎すべての歯を回復させようとすると14本分のインプラントと、それに伴う手術が必要です。
また骨量が足りない場合は事前に骨造成手術を行う必要があり、それらすべての費用を合わせると高額になります。
オールオン4の場合4~6本分のインプラントとそれに伴う手術のみで済むので、全体的な費用が安くなります。
また顎の骨の厚みがある部分を調べてそこにインプラントを埋入するので、骨造成手術を行う必要がほとんどありません。
オールオン4のデメリット
さまざまなメリットがあるオールオン4ですが、当然デメリットもあります。
オールオン4は歯茎と一体化させる総入れ歯のようなものです。
そのため健康な歯が残っていた場合の対処も考えなければいけません。また、治療後には定期的なメンテナンスのための手間も時間もかかります。
オールオン4を検討する際にはメリット・デメリットを十分に理解したうえで、最終的な判断をすることが重要です。
ここではオールオン4の治療を行う際のデメリットを解説します。
健康な歯を抜くケースがある
オールオン4はすべての歯を失った際に有効な手段です。
一方で何本か健康な歯が残っていた場合には、その歯を抜く必要があります。仮に入れ歯であれば部分入れ歯を使用して健康な歯を残す治療が可能です。
また一般的なインプラントの場合も、失った歯の部分だけインプラント手術を行い健康な歯を残せます。
残っている歯がすでに悪くなっていれば別ですが、健康なままであればオールオン4を選択するのが必ずしもよいとは限りません。
天然歯は一度失うと二度と戻ってこないので、慎重に考える必要があります。
治療後のメンテナンスが必須
オールオン4は人工歯を一体化させた上部装置をインプラントによって歯茎と密着させ、歯の機能を取り戻す製品です。
一度装着した後は、取り外しをしません。常にお口のなかにあるものなので、治療後のメンテナンスが非常に重要になります。
入れ歯のように歯茎との隙間に食べかすが詰まることはありませんが、口腔内の清潔さが保たれないとインプラント周囲炎のリスクが高まります。
インプラント周囲炎とは、インプラント特有の歯周病に似た病気です。歯茎の腫れや出血、口臭などの症状があり、ひどくなるとインプラントのぐらつきや取れてしまうケースもあります。
オールオン4の寿命は一般的なインプラント治療と同程度で、10~15年程度といわれています。しかし治療後のメンテナンスをしっかり行わないと最悪の場合インプラントが取れてしまう可能性も少なくありません。
セルフケアと併せて歯科医師の定期的な診断を受け、リスクを回避するのが大切です。
オールオン4は30代でもできる?
オールオン4は骨の成長が終わっていれば、年齢に関わらず適用可能です。そのため30代での治療は十分可能です。一般的な下限の年齢は20歳以降といわれています。
事故や病気などで若いうちに歯のほとんどを失ってしまった方であれば、早めにオールオン4を検討するのもよい手段です。
ただし個人差や普段の生活環境による影響もあるので、まずはオールオン4に精通した歯科医師に相談をしてはいかがでしょう。
オールオン4を30代で行う注意点
若いうちに失った歯を機能性・審美性に優れたオールオン4で代用するのは有効な手段です。しかしオールオン4は入れ歯とは違い一度装着すると取り外しのきかない製品です。
そのため、その後の付き合い方をしっかりと理解したうえで検討する必要があります。
例えばメンテナンスを怠ると、インプラント歯周炎やインプラントの脱落といった悪影響が出る可能性があることを知っておくのも重要です。
またどの程度のスパンでどの位の費用がかかるのかも知っておかないと、将来的に費用面で大きな失敗をする可能性もあります。
何本か歯が残っているのであれば、その歯をどうするのかも考えなければいけません。
ここでは、30代でオールオン4を装着した場合の注意点を解説します。
日々のメンテナンスを徹底する
オールオン4の寿命は10~15年程度といわれています。
しかし、これも日々のメンテナンスが行われてこそ、オールオン4の寿命を延ばせるのです。
お口のなかのケアを怠るとインプラント歯周炎を起こし、インプラントが取れてしまう可能性もあります。
この場合には再治療が必要なだけでなくインプラントの除去と再埋入が必要な場合もあります。
こうなってしまうとせっかく高額な費用を支払って治療をしたのに、また高額な治療費が必要です。金銭的な損失だけでなく身体的負担や時間も無駄にしてしまいます。
インプラント歯周炎は炎症や腫れが目立ちにくく気付きにくい一方で、病気の進行速度は歯周病の10倍以上といわれています。
日々のメンテナンスを心がけ、お口のなかに負担をかけない生活が重要です。
また喫煙もインプラント周囲炎の原因の1つです。たばこに含まれるニコチンやその他の物質は血流を遅くしたり、免疫力を落としたりします。
そのため喫煙者はインプラント周囲炎のリスクが非喫煙者の数倍あるといわれています。メンテナンスの一環として禁煙を行うのも大切です。
健康な歯が残せる可能性を精査する
天然歯は一度失ってしまうと二度と取り戻せません。
オールオン4は審美性や機能性に優れた製品ですが、健康な歯が残っている場合、なるべくそれを活かしたいと考えるのもおかしくありません。特に年齢が若いうちはまだまだ歯が丈夫な可能性も高いです。
オールオン4は上顎と下顎それぞれに対して使用可能です。そのため仮にどちらかに健康な歯が多く残っているのなら、そちらは部分入れ歯やインプラントに切り替えるのも方法の1つです。
オールオン4治療を行う際には、最初にカウンセリングを行います。
その後CT撮影などを行い患者さんと歯科医師とで今後の治療方針を話し合ったうえでどのような方法がよいか最終判断を行います。
できる限り健康な歯が残せる可能性を精査するのは、後々になって後悔しない治療を進めるためにも大切です。
費用負担の計画を立てる
オールオン4を30代で考える際には、長期的な費用負担を考慮した計画を立てる必要があるでしょう。
仮に30歳でオールオン4を装着したとして、85歳まで使うと考えた場合、55年間の生活をともに過ごすパートナーとなります。オールオン4の寿命は10~15年程度といわれています。
大事に使っても単純計算で4回の購入が必要です。
この先にオールオン4自体の性能があがり製品寿命が延びても、3回は購入しないといけません。1回の購入で15年のローンを組んだとして、問題なく払い続けられる金額なのか把握しておく必要があります。
また定期的なメンテナンスにかかる費用も長い目で見れば馬鹿になりません。年に2回の通院でも85歳までに110回の通院費が必要です。
仮に1回5,000円(税込)の通院費だった場合、累計で見れば550,000円になります。ご自身の現在の収入や貯金、将来的な年収も踏まえ、オールオン4を検討する時期を計画するのが大切です。
オールオン4の治療費
オールオン4の治療は自由診療になるので、保険の適用外となります。そのため治療費は高額です。
オールオン4の治療費はインプラントの埋め込み本数や人工歯の素材によって変動しますが、目安として約2,600,000~3,850,000円(税込)が必要になります。
またこれは片顎分の費用なので、上下すべての歯をオールオン4にする場合は単純計算でこの倍の費用が必要です。
インプラント1本あたりの費用相場は約350,000~400,000円(税込)なので、片顎14本すべてをインプラントにした場合、約5,000,000円(税込)前後になります。
オールオン4の費用は高額ですが、1本1本の歯に対してインプラント手術を行う場合と比べると、比較的費用が抑えられます。
それでも高額には違いありませんので、ローンを利用して1回の支払いを抑えたり、医療費控除を利用したりするのが有効な手段です。
医療費控除とは生計をひとつにする家族が前年一年間(1月1日~12月31日)に支払ったすべての医療費が100,000円を超える場合、その一部を所得税から控除できる所得控除制度になります。
控除となる対象金額は医療費から保険などで補填された分と100,000円を差し引いた金額になり、医療費控除の最高限度額は2,000,000円です。
なお、その年の総所得金額が2,000,000円未満の場合は、総所得金額の5%を控除対象額とします。
まとめ
オールオン4の治療はほとんどの歯を失った方にとって有効な手段の1つです。
しかし治療後のメンテナンスの大変さや費用面を考えると、簡単に手を出せない部分もあります。
歯を失った場合に機能を回復させる方法はほかにも入れ歯という方法があります。
歯科医師と相談しながらご自身が納得のできる治療法を探しましょう。
参考文献