むし歯や歯周病、外傷などですべての歯を失った状態を無歯顎(むしがく)といいます。無歯顎では、当然ですが食べ物をそしゃくできないどころか、しゃべることにも大きな支障をきたすため、何らかの装置で補う必要があります。その時に選択肢として上がるのがオールオン4と総入れ歯です。どちらもすべての歯を失った症例に適応できる装置ですが、特徴やメリット・デメリットに大きな違いが見られます。ここではそんなオールオン4と総入れ歯に関する疑問に答えます。
オールオン4はインプラントの一種
- オールオン4とは何ですか?インプラントとは違うのですか?
- オールオン4はすべての歯を失った人に向けた、インプラント治療のひとつです。 片側の顎に4本のインプラントを埋め込んで、一塊となった上部構造を装着します。4本のインプラントですべての装置を支えることから、オールオン4という名前が付けられています。無歯顎の場合は、上下の両側に装置を装着するため、埋入するインプラントの本数は合計で8本となります。
◎インプラントとの違い
通常のインプラント治療では、失った歯1本に対して1本の人工歯根(フィクスチャー)を埋め込むことになります。すべての歯を失った症例では、片側だけで8〜10本程度の人工歯根を埋め込んでいたこともありますが、その方法だと患者さんの心身や経済面にかかる負担が大きすぎるというデメリットがあります。 ただし、基本的な考え方は、オールオン4もインプラントも同じです。顎の骨に人工歯根を埋め込んで、その上に人工歯にあたる上部構造を装着します。
- オールオン4にする際の流れを教えてください。
- 検査を元にインプラントを挿入し、最終的に仮歯を人工歯に替えて完成です。
【STEP1】カウンセリング
オールオン4は、特殊な治療法なので、治療の手順やメリット・デメリット、治療にかかる期間などを正しく理解しておくことが大切です。オールオン4に関する疑問や不安がある場合は、カウンセリングの段階ですべて解消しておきましょう。【STEP2】検査・診断・治療計画の説明
オールオン4による治療では、CTを活用した精密検査を実施します。その結果をもとに診断を下し、治療計画を立てます。治療計画に不安がある場合は、遠慮せずに質問することが大切です。【STEP3】インプラントの埋入
顎の骨に人工歯根であるインプラントを埋入します。【STEP4】仮の歯を装着
オールオン4では、手術したその日に仮の歯を装着できます。口腔の状態によっては、翌日以降に仮の歯を装着することもあります。【STEP5】上部構造の装着
仮の歯で3~6ヵ月程度を過ごし、問題がなければ最終的な上部構造を装着します。
オールオン4のメリット
- オールオン4はどのような使い心地ですか?
- 咀嚼機能、会話機能に優れています。 オールオン4の上部構造は固定式なので、食べ物を噛んだり、言葉を発したりする時にずれるようなことはありません。硬い食べ物や弾力性の高い食べ物でも不自由なく噛めるようになります。また、ケアする際に装置を取り外す必要がないため、自分の歯と同じように磨くことができます。この点も着脱式の総入れ歯とは大きく異なる点です。
- オールオン4はどのような見た目になりますか?
- 本物の歯のような審美性の高さを誇ります。 オールオン4の上部構造は、どちらかというとブリッジに近いです。人工歯が複数、連なった構造で歯ぐきの部分は入れ歯よりも少ないです。総入れ歯の「床(しょう)」に当たる部分がほとんどない、というとイメージしやすいかもしれません。そのため一見すると、本物の歯のように見えます。これは人工歯根のある装置ならではの審美性といえるでしょう。 また、オールオン4では噛んだ時の力を人工歯根および顎で受けとめることができるため、歯槽骨が痩せていく現象を抑制できます。
- オールオン4はどれぐらい長持ちしますか?
- 10年後の生存率は約90%といわれています。 これはあくまで人工歯根を埋入してから10年経過した時点での残存率なので、その後も適切なセルフケアとプロフェッショナルケアを継続していけば、20年、30年と使い続けることも難しくはありません。ちなみに、保険診療で作った総入れ歯の10年生存率は、約50%といわれています。
◎保険の入れ歯の寿命が短い理由
インプラントは少なくとも10年以上持つのに、なぜ保険の総入れ歯は4〜5年しか使えないのか。それは材料の違いが大きく影響しています。 保険の総入れ歯は義歯床も人工歯もプラスチック製で、摩耗や変性、破折などが起こりやすくなっています。また、総入れ歯には人工歯根がないことから、歯槽骨や歯茎が痩せていていくため、適合性が悪くなるのです。総入れ歯で定期的な調整が必要になるのはそうした理由からです。装置としての寿命も自ずと短くなります。
総入れ歯は費用・リスクが抑えられる
- オールオン4と総入れ歯の費用相場を教えてください。
- オールオン4の相場は200〜300万円、総入れ歯は保険適用で1〜2万円程度、自費診療で50〜60万円程度です。 そのため費用面においては、総入れ歯に軍配が上がるといえます。そもそもオールオン4を含むインプラントは、原則として自費診療となるため、どうしても費用が高くなってしまうのです。 オールオン4の費用をできるだけ抑えたいという人は、医療費控除の利用が勧められます。デンタルローンを活用すれば、高額な費用を分割で支払うことも可能です。
- 総入れ歯にするリスクはありますか?
- 外科処置はないので、大きなリスクはありません。 とはいえ、ある程度のデメリットがあることは知っておかなければなりません。総入れ歯は簡単に作れる分、固定式のオールオン4と比較すると、装着感や使用感に劣ることがあります。食べ物を噛みにくい、発音しにくいといったデメリットを感じることもあるかもしれません。また、総入れ歯は着脱式の装置なので、ケアする時は必ず口腔内から取り外さなければなりません。噛んだ時の力は口腔粘膜で受けとめることから、歯槽骨が徐々に痩せていきます。
- オールオン4のリスクはありますか?
- 外科処置によって神経や血管が傷つくリスクがあります。 そのためオールオン4の検査では、顎の骨の神経や血管の位置を正確に把握できるCT撮影が必須といえるでしょう。 顎の骨の状態が悪かったり、歯科医師の技術が低かったりすると、骨とインプラントが上手く結合せず失敗に終わる可能性もあります。専門的には「オッセオインテグレーション」と呼ばれる現象で、手術から3〜4ヵ月は経過を見る必要があります。 治療後のケアが不十分だと、インプラント周囲炎というインプラント特有の歯周疾患を発症するリスクがあるため、十分な注意が必要です。インプラント周囲炎は、インプラント治療が失敗する主な原因として挙げられ、歯槽骨の破壊や人工歯根の脱落を招きます。 オールオン4に伴うそうしたリスクを回避するためには、経験豊富な歯科医を選び、ケアを怠らないことが大切です。とくにインプラント治療後のメンテナンスは、定期的に受けることが必須となります。メンテナンスを怠ると、オールオン4の保証も受けられなくなるため要注意です。
- 総入れ歯を使っていました。今からオールオン4にできますか?
- 可能です。 総入れ歯は歯茎や顎の骨に外科的な処置を施さずに製作・装着できる装置なので、オールオン4に切り替える際に大きな支障をきたす要素はほとんどありません。実際、総入れ歯を作ってみたけれど、しっかり噛めなかったり、上手くしゃべれなかったりするなどの理由でオールオン4に切り替える人もいます。ただ、長期間にわたって総入れ歯を使っていて、顎の骨が痩せてしまっているケースでは、顎の骨を増やす手術が別途必要な場合もあります。
◎骨不足のケースにも適応しやすいオールオン4
標準的なインプラント治療では、顎が痩せているケースに対して、骨造成が必須となりやすいですが、オールオン4の場合は比較的柔軟に対応できます。なぜならオールオン4では人工歯根の埋入位置や角度をある程度、自由に決められるからです。骨が十分にある部位を狙って埋入すれば、骨造成の処置も不要となります。そういう観点からもオールオン4は総入れ歯から移行しやすい治療法といえます。
編集部まとめ
このように、インプラント治療の一種であるオールオン4と総入れ歯には、大きく異なる特徴やメリット・デメリットがあります。固定式の装置であるオールオン4は、見た目が自然で美しく、よく噛めて、ずれにくい。それに対して着脱式の総入れ歯は、使っていく中で不自由やストレスを感じることも人によってはありますが、費用が安いというメリットを伴います。 ですから経済面だけを重視するのであれば総入れ歯が推奨されますが、審美性・機能性・耐久性を追求する場合はオールオン4を検討しても良いでしょう。どちらにしようか迷っている人は、その点も踏まえた上で、歯科医師に相談してみましょう。
参考文献