インプラントは、通常の歯科治療とは異なった手順で進めるため、特有の症状が現れることがあります。そのなかでも患者さんによく見られるのが頭痛です。
インプラント治療に伴う頭痛は、人工歯根であるインプラント体を埋め込んだ直後や上部構造を装着した後など、症状が現れるタイミングに個人差が見られます。ここではインプラント治療後の頭痛が続く期間や原因、対策方法などを詳しく解説します。インプラント治療後の頭痛に悩まされている方は、参考にしてみてください。
インプラント治療後の頭痛の持続期間
インプラント治療後の頭痛が続く期間について解説します。インプラント治療後の頭痛で悩まされている場合は、症状の持続期間の目安を知りましょう。。
手術直後の頭痛は数日から1週間程度
インプラント体を埋め込む施術では、直後に頭痛が生じやすいです。メカニズムについては後段で詳しく解説しますが、ほとんどのケースは生理的な反応なので長くは続きません。
早い人だとインプラント手術をしてから2〜3日、遅くても1週間くらい経過したら頭痛は徐々に治まっていきます。それまでは安静に過ごすことはもちろん、歯科医院から処方された鎮痛剤などを服用して乗り切りましょう。
数週間から数ヵ月続くこともある
インプラント手術直後から発生した頭痛が1週間で治まらず、数週間から数ヵ月持続することもあります。こうした頭痛は、手術に伴う侵襲で、身体が生理的に反応している症状とは異なる可能性が高いため、放置するのは望ましくありません。
何らかの異常が生じている疑いもあることから、早期に主治医に相談する必要があります。
頭痛が続く場合に歯科医院を受診すべき判断基準
インプラント治療後に頭痛が生じた場合、どのタイミングで歯科医院を受診すべきかが大きな問題となります。治療後に気になる症状が現れてもとりあえず我慢しようという方も少なくありません。
その結果として歯科医院への受診が遅れてしまうことがあります。そこで知っておいてもらいたいのがインプラント治療後の頭痛が続く場合に歯科医院を受診すべき判断基準です。以下にあげるものに1つでも当てはまる場合は、まず主治医に電話で相談してみてください。
1週間以上経過しても頭痛が治まらない
インプラント手術後の頭痛は1週間程度で治まるのが一般的です。1週間以上経過しても頭痛が治まらない、もしくは症状が強くなっている場合は主治医に相談しましょう。おそらく、歯科医院で診察を受けるよう勧められます。頭痛が治まらない原因を突き止めたうえで、適切に対処する必要があります。
痛み止めを飲んでも改善しない
インプラント手術後の頭痛が痛み止めで改善しない場合も、まずは電話で歯科医師に相談してみてください。インプラント手術後の頭痛の現れ方や感じ方には個人差があります。インプラント手術が適切に行われ、患部に大きな問題が起こっていなかったとしても、痛み止めで軽減できない頭痛が生じることもあります。
痛み止めを飲んでも頭痛の改善が見られないケースは、電話で歯科医師の指示を仰ぐのがよいといえます。もちろん、患者さん自身がどうすることもできない頭痛を感じている場合は、とにかく歯科医院で診てもらうことを優先してください。
頭痛とともに腫れや発熱もある
インプラント手術後には、頭痛以外にも顎の腫れや発熱などが見られることがあります。これらも外科手術に対する生理的な反応にとどまる場合が少なくありませんが、発熱のような全身症状が強く現れているケースでは、その他の原因も考えられるため、歯科医院を受診した方がよいかもしれません。
インプラント治療後に頭痛が起こる原因
インプラント治療後の頭痛がなぜ起こるのかについて解説します。ここではインプラント手術後だけでなく、インプラント治療がすべて終わった後の頭痛に関しても紹介します。
手術による炎症がある
一般的なインプラント手術では、歯茎をメスで切り開き、顎の骨にドリルで穴を開ける処置が必要となります。顎の骨が不足している症例では、骨造成を併せて行うこともあるため、手術の後はほとんどのケースで炎症反応が起こります。
炎症反応が周囲組織にまで広がって、頭痛を引き起こすことがあります。ただし、炎症反応が強く現れていて、許容範囲を超えるような頭痛やその他の症状が見られる場合は、次にあげる上顎洞炎の可能性も否定できません。
上顎洞炎の発症している
上顎の歯のすぐ上には、上顎洞という空洞が存在しています。上顎洞は副鼻腔の一種で、顔面の衝撃緩和や声の共鳴、免疫機能などを担っている解剖学的構造で、上のインプラントを埋め込む際には、位置関係が重要となります。
上顎骨の厚みを見誤り、インプラント体を必要以上に深く埋入すると、先端部分が上顎洞へと突き出てしまうことがあります。インプラント体が上顎洞へと迷入して、取り除くための外科手術が別途、必要となることもあるでしょう。
上顎洞に関連したトラブルでは、細菌感染による上顎洞炎を発症することがあります。上顎洞炎になると、頭痛や目の下の痛み、頬の痛みなどが見られます。インプラント治療後の頭痛の原因が上顎洞炎の場合は、迅速な対応が求められるだけでなく、インプラント手術そのものが失敗している可能性も高いため、早急に歯科へ受診しなければなりません。
噛み合わせの問題が生じている
インプラント治療が終了してから頭痛が生じた場合は、上部構造の噛み合わせに問題が生じている可能性があります。人工歯根にあたるインプラント体ですが、その上に被せる上部構造の高さや形が悪いと、噛み合わせが悪くなって頭痛を引き起こすことがあります。
セラミックで作られた上部構造は硬く、噛み合う天然歯を傷めることもあるため、噛み合わせは精密に調整しなければなりません。噛み合わせに異常があれば、対合歯やインプラント体に過剰な圧力が加わり、その影響が頭痛として現れることもあります。
歯ぎしりや食いしばりがある
インプラントと対合歯の噛み合わせが適切であっても、歯ぎしりや食いしばりの習慣がある人は要注意です。成人の男性が噛む力というのは、100kgに達する強いものなので、力のコントロールが適切になされない歯ぎしりや食いしばりでは、想像している以上に大きな影響があります。歯ぎしりや食いしばりの習慣がある患者さんの歯は、エナメル質が摩耗して象牙質が露出していることも珍しくありません。
インプラントは、見た目も噛み心地も天然歯にそっくりではありますが、あくまで人工物です。人工歯根には歯根膜というクッションの役割を果たす組織が分布しておらず、顎の骨とは直接、結合していることから、歯ぎしりや食いしばりによる影響もダイレクトに伝わります。その結果、頭痛が起きるだけでなく、インプラント体と顎の骨との結合が失われるリスクも伴うため、十分な注意が必要です。
インプラント周囲炎を発症している
インプラントのセルフケアやメンテナンスが不十分だと、インプラント周囲炎という歯周疾患を発症することがあります。インプラント周囲炎は、インプラントの周りで炎症反応が起こる病気で、進行すると顎骨の破壊を引き起こします。それに伴って頭痛が誘発されることもありえるのです。
インプラント周囲炎を発症すると、頭痛のほかにも以下のような症状が現れます。
- インプラントの周りの歯茎が腫れている
- インプラントの周りの歯茎から出血がある
- インプラントで噛みにくくなったように感じる
- インプラントとアバットメントの境目が見えるようになった
- インプラントがぐらつく
- 口臭が強くなったように感じる
インプラント周囲炎も基本的には通常の歯周炎と同じ症状が見られますが、進行が早いため注意が必要です。また、治療直後は上部構造の周りを歯茎がしっかり囲んでいたのに、いつの間にかアバットメントやインプラント体が露出するようになっていたら、もうすでにインプラント周囲炎がかなり進行をしていることを意味するため、早急に対処する必要があります。
インプラント治療後の頭痛を軽減させる方法
インプラント治療後に起こる頭痛の持続期間や原因について解説してきました。インプラント手術直後に見られる軽度の頭痛は、誰にでも起こるもので避けるのは難しいですが、それ以外の頭痛に関しては、適切に対処することで軽減、あるいは予防することが可能です。
治療前に噛み合わせのチェックを受ける
インプラント治療前に、噛み合わせのチェックを受けることで、頭痛という症状は予防しやすくなります。治療後の噛み合わせのチェックは重要なので、少しでも違和感がある場合は、主治医に相談しましょう。インプラントの上部構造の噛み合わせは、咬合調整という形で改善することが可能です。
定期通院と経過観察をしっかり行う
インプラント治療後も定期的な通院を継続することで、頭痛の原因となる上顎洞炎や噛み合わせの問題、インプラント周囲炎などを早期に発見できます。これらのトラブルは、早期に対処する程、頭痛などの症状が起こりにくくなります。
ストレスや生活習慣の見直しをする
インプラント治療後の頭痛は、歯ぎしりや食いしばりが原因となる場合があります。歯ぎしりや食いしばりは、ストレスや睡眠不足、疲れが誘因となりやすいため、規則正しい生活リズムを身に付けることは、インプラント治療後の頭痛を予防するうえでも重要といえるでしょう。その他、極端に硬い食べ物を噛んでインプラントに大きな負担をかけるような食生活も見直す必要があります。
頭痛以外に起こる可能性のある副作用
インプラント治療後には、頭痛以外にも以下に挙げるような副作用がおこりえます。ここではそれぞれの原因や対処法を解説します。
インプラント埋入後の腫れや内出血
顎の骨にインプラント体を埋め込んだ直後は、患部に腫れや痛み、内出血などが生じます。このような副作用は、インプラント手術のほとんどの症例で見られます。
インプラント埋入後の腫れや内出血は、術後2〜3日をピークに少しずつ引いていくことから、過剰に心配する必要はないでしょう。インプラントを埋め込む本数が複数の場合や手術の方法によっては、大きな腫れや内出血が見られるかもしれません。術後の腫れや内出血がひどく続く場合は、すぐに主治医に相談しましょう。
神経損傷によるしびれや違和感
顎にはさまざまな神経や血管が走っています。そのひとつに、下の顎に分布している下歯槽神経があります。下歯槽神経とは、下顎骨の下の方を走っている神経で、口唇やその周囲の感覚をつかさどっています。
この神経をインプラント手術で損傷すると、術後にしびれや違和感が生じることがあります。こうしたインプラント手術における神経損傷は、検査を精密に行い、正しい治療計画を立てることで回避しやすくなります。
インプラントの緩みや脱落のリスク
インプラント治療が終了して、頭痛や腫れ、神経障害などに悩まされなかったとしても、インプラント体が緩んだり、脱落したりするリスクは存在しています。
インプラント体は本物の歯根とは異なる形で骨と結合していることから、インプラント治療後のセルフケアが不十分であったり、メンテナンスを定期的に受けていなかったりすると、思わぬトラブルが生じてしまうのです。それは人工歯にあたる上部構造や連結装置であるアバットメントにも同様のことがいえるため、インプラント治療後は天然歯以上に丁寧なセルフケアと定期的なメンテナンスを怠らないようにしましょう。
まとめ
インプラント治療後の頭痛の継続期間や原因、対策する方法などについて解説しました。インプラント治療は侵襲性が高く、手術直後に頭痛が生じるのは珍しくありませんが、痛みの程度が強かったり、長引いたりしている場合は、上顎洞炎のような炎症性疾患を発症している可能性が考えらます。インプラント治療後しばらくして頭痛が生じた場合は、噛み合わせの問題や歯ぎしり・食いしばりによる影響、インプラント周囲炎の発症などが疑われるため、早期に歯科を受診するのが望ましいです。インプラント治療後の頭痛を軽減、もしくは解消する方法はケースによって異なります。
参考文献