インプラント

インプラントの上部構造作成時に行う印象採得とは?インプラント治療の流れも解説

インプラントの上部構造作成時に行う印象採得とは?インプラント治療の流れも解説

インプラント治療は、むし歯・歯周病などが原因で喪失した歯を人工の歯で補う治療法です。自分の歯で食事を楽しめたり見た目の回復につながったりします。

印象採得は、人工の歯にあたる上部構造を作るために行う歯型取りのことです。患者さんの口腔内に適した歯を作るために重要な役割を担っています。

今回は、印象採得の方法・種類・インプラント治療の流れなどを紹介します。インプラントでの治療を考えている方やインプラント治療に興味がある方々の参考になれば幸いです。

インプラントの上部構造作成時に行う印象採得とは

歯の模型
印象採得とは、歯型取りのことです。欠損・喪失した箇所に人工の歯を入れるために歯型を取ります。

インプラントの位置や角度・顎堤・粘膜の形態などを把握するのが印象採得の目的です。歯型は、印象材とトレーを使って採取します。

歯型用の化学材料の印象材と水をなめらかなペーストになるまで混ぜ合わせ、上下顎に合った専用のトレーに入れます。

ある程度固まるまで口腔内で2~3分間圧接するため、圧接時に苦しいと感じる方や嘔吐反射が強くでる方には向いていないでしょう。

印象材にはアルギン酸印象材・寒天印象材・シリコーン印象材があり、近年ではアルギン酸印象材・シリコーン印象材が利用される機会が多くなっています。

また、口腔内スキャナーでの印象採得も行われるようになってきています。

光学印象採得と呼ばれ、患者さんの口腔内にペンより少し大きい口腔用スキャナーを入れ、歯型が必要な箇所をスキャンする方法です。

印象材での印象採得とは異なり、患者さんへの直接的な負担も軽減されます。

また、光学印象採得はデジタル化された情報を得られるため、詰め物・被せ物の設計や噛み合わせのシミュレーションなどが行える点も印象材での印象採得と違う点です。

印象採得方法の種類

パソコンとインプラント

印象採得の方法は2つあります。クローズドトレー法とオープントレー法です。印象採得の際に印象用の器具を印象体に取り込むかどうかで分けられます。使うトレーが異なるのも特徴です。

クローズドトレー法

印象材が硬化しトレーを外す際に、印象用の器具が口腔内に残るのがクローズドトレー法です。

印象用の器具が型から一度離れるため、インプラントの位置に誤差が生じる可能性があります。

クローズドトレー法で使う印象用の器具の幅径がオープントレー法で使われる物よりも狭いため、開口量が少なく作業に制限がうまれる状況ではクローズドトレー法が使われるようです。

インプラントを互いに平行に埋め込んでいた場合も、クローズドトレー法が適用されます。

ただし、埋め込んだインプラントに角度がある場合には、単独歯であってもクローズトレー法の適応は難しくなります。

オープントレー法

オープントレー用の印象採得の器具とトレーを一体にして歯型を取る方法です。トレーに印象採得用の器具と連結しているねじを緩める穴が開いているためオープントレーと呼ばれます。

オープントレー法は、印象採得用の器具とトレーが一体になった状態で型を作れるため、クローズドトレー法よりも精度が高いとされています。単独歯でも使われるのが特徴です。

印象採得の手順

施術後の人

以下が、インプラント治療での印象採得の手順です。

  • トランスファーを装着する
  • トランスファー頭部を封鎖する
  • 印象材を塗る
  • 印象を採る
  • アナログと連結する
  • 印象内に取り込む
  • アナログ模型を作る

上記が、クローズドトレー法による印象採得の手順になります。一方のオープントレー法では、上記の手順の2と6を行いません。

クローズドトレー法では、まず埋め込まれたインプラントに印象採得用の器具のトランスファーを直接連結させます。

トランスファーの頭部を隠すために印象キャップを被せ、器具の周囲や残存歯の咬合面に印象材を塗り、既製のトレーで歯型を取ります。

圧接して固まったらトレーを歯から剥がしましょう。口腔内にあるトランスファーを外し、インプラントの複製であるインプラントアナログと連結させます。

連結したトランスファーを印象内に戻し、模型材を注入して歯型を取ります。

オープントレー法は、トランスファーと連結する固定用スクリューが専用のトレーよりも長くなるのが特徴です。

トレーから固定用スクリューが露出するため、印象材の硬化後にトレーの外側から固定用スクリューを緩められます。

トレーとトランスファーがくっついた状態で歯から外せるのがクローズドトレー法と違う点です。

印象採得は痛い?

カウンセリング中

印象採得は、歯を削ったり骨に穴を開けたりする治療ではなく歯型を取る行為のため、痛みを伴うことは少ないでしょう。

しかし、歯肉の状態によっては痛みを感じる場合があります。

例えば、上顎の前歯を失い下顎の前歯が残っているケースでは、下顎前歯が上顎の前歯部と接触する機会が増えフラビーガムと呼ばれる状態になりやすいです。

フラビーガムは、上顎前歯の顎堤がこんにゃくのようにやわらかくなるため、接触などにより強い痛みを訴える方もいます。

印象採得の際になるべく圧をかけないように配慮が必要です。また、やわらかめの印象材を使ったりフラビーガムにあたるトレーの部分をリリーフしたりと工夫も必要になるでしょう。

インプラント治療の全体の流れ

カウンセリング中

インプラント治療は、カウンセリングからメンテナンスまで細かく分けて9つの段階で成り立っています。以下で、全体の流れを1つ1つ紹介していきます。

カウンセリング

まずは、患者さんの主訴を明らかにし、一緒に治療の方針を決めていくのがカウンセリングです。患者さんが求めている審美面・機能面での希望を考慮し、適切な治療法を考えます。

インプラントの手術は外科手術であり全身状態も関係するため、現状の全身状態・糖尿病などの既往歴・喫煙や飲酒などの生活習慣の問診などが行われるでしょう。

口の中の検査

現時点での口腔内の状態を確認し、患者さんの特徴を把握します。歯の状況・噛み合わせや顎関節機能の状態などをチェックします。

口腔内を見ることで、むし歯・歯周病になりやすい方や歯ぎしりをする方など個人の特徴がわかり、インプラントの治療にも反映させやすいでしょう。

インプラントの持ち具合にも影響を及ぼすため、口腔内の検査は大切です。

むし歯・歯周病の治療

口腔内の検査でむし歯・歯周病が見つかることがあります。見つかった際には、インプラントの手術の前にむし歯・歯周病の治療を行いましょう。

歯周病の既往のある方では、インプラントを早期に失う可能性やインプラント周囲炎の進行リスクが高いためです。

インプラント治療の前にむし歯・歯周病の治療を行うことで、インプラント装着後のリスクを軽減できます。

インプラント治療は時間がかかるので、口腔内の状態を整えてから治療に臨みましょう。

エックス線撮影・血液検査

検査中

顎の骨にインプラントを埋め込んで自分の歯と同じように使える人工の歯を作ります。顎の骨に埋め込むため、顎の状態を知ることは大切です。

顎の骨のボリューム・形・通っている神経の位置などを知るためにエックス線での撮影を行い、疾患の有無や全身の状態を把握するために血液検査も行います。

検査などの結果をもとにインプラント治療の適否や治療計画をたてます。

必要に応じて骨造成を行う

顎の骨の状態によっては、骨造成が必要になるでしょう。検査で顎の骨が細かったり低かったりするとインプラント手術を行えません。

手術のために下顎の奥の骨を取ったり人工的な骨を使ったりして、骨のボリュームを増やす必要があります。骨造成を行う場合、骨が定着するのに4~6ヵ月程かかります。

患者さんの骨・体の状態によって治癒期間は変わるため、治療が終了するまでには時間がかかると考えておくといいかもしれません。

インプラントを埋める手術

顎の骨の状態が整ったら、インプラントを埋め込む手術を行います。麻酔を行い、歯肉を開いて顎の骨にドリルで穴を開けます。

開けた箇所にインプラントを埋め込み、しっかりと埋まっていることを確認してから歯肉を戻す流れです。手術自体は1〜2時間程かかるでしょう。

歯肉の覆い方には、インプラントの頭の部分までを歯肉で覆う方法や頭の部分を口腔内に出す方法があります。

インプラントの種類・骨の強さにより、骨とインプラントがくっつくまでの期間は異なり、3〜6ヵ月程の期間が必要です。

手術法によっては、インプラントと骨が結合してから2回目の手術を行う場合もあります。気持ちにも日程にも余裕をもって治療に臨みましょう。

仮歯を入れる

歯の模型

骨とインプラントがくっついたら仮歯を着ける段階です。口腔内の印象採得・仮歯や噛み合わせの調整などを行います。

まずは、プラスチック製の仮歯を使ってもらい、噛み合わせや清掃性を確かめた後に金属やセラミックのような硬い材質の物を装着し直していきます。

上部構造を入れる

仮歯の見た目・噛み心地・話しやすさなど仮歯を使うなかで生じた不具合や噛み合わせを調整し、上部構造の本歯を作って装着します。

インプラントと上部構造の固定方法には、スクリュー固定とセメント固定があります。固定方法での利点・欠点があるため、しっかりと理解しておきましょう。

定期的なメンテナンス

上部構造の本歯を取り付けて終わりではありません。短くない治療期間と1本25万~35万円(税込)程はかかる治療費を考えると、長い期間使えるように手入れが必要です。

インプラントの残存率は10年で92~95%で、20年以上使用している方もいます。長く使うためには、定期的なメンテナンスが大事になります。

インプラントを長く良好な状態で使うためには、1年に2,3回の定期的なメンテナンスが必要です。メンテナンスでは、インプラントや歯肉の状態・噛み合わせなどをチェックします。

また、メンテナンスでは歯のクリーニングも行ってくれるため、歯磨きだけではとれない汚れも除去できます。

自身の健康とインプラントを長く使うためにも、定期的に歯科医院に通うようにしましょう。

上部構造の取り付け方法

歯の模型

上部構造の取り付け方法には、スクリューで固定する方法とセメントで固定する方法の2つがあります。互いの特徴を以下で紹介します。

スクリューで固定する方法

埋め込んだインプラント体と上部構造をスクリューで固定する方法です。

スクリューはねじを指しており、上部構造の咬合面に開けたアクセスホールとよばれる穴にスクリューを入れて固定します。

スクリューで固定するため、取り外しが可能です。取り外しができるため、上部構造やインプラントに不具合が生じても修理や調整などのメンテナンスが手軽に行えます。

上部構造の取り付けは、スクリューで固定するのが主流の方法です。

また、食事や歯ぎしりなどでインプラントに過剰な負荷が生じた場合にスクリューが緩んで外れることがあります。

インプラント体に直接ダメージが加わりにくい点もスクリュー固定の利点です。

しかし、スクリューでの固定のため固定が緩みやすい・アバットメントの隙間から細菌などが侵入しやすいなどの欠点があります。

加えて、アクセスホールが開いているため見た目が悪い点やアクセスホールがあるために埋め込む位置や方向が限定される点なども欠点でしょう。

セメントで固定する方法

インプラントとアバットメントをスクリューで固定し、仮着用セメントで上部構造を固定する方法です。

スクリュー固定と違いアクセスホールがないため見た目への懸念が減ります。

アクセスホールの位置などを考慮する必要がないため、インプラントを埋め込む位置・方向などの自由度が高くなります。

ただし、セメントで固定するため取り外しができず、上部構造やインプラントの不具合を感じても気軽に修理が行えないのが欠点です。

スクリュー固定が難しいケースで行われることが少なくありません。また、装着の際のセメントの残留・仮着用セメントの歯肉への溶出にも注意が必要になります。

歯肉に流れたセメントを除去するのは難しく、放っておくと歯槽膿漏に似たインプラント周囲炎といわれる症状にもつながります。

また、スクリューでの固定と異なり、インプラント体に直接負荷がかかりやすいのもセメントでの固定の欠点です。

まとめ

硬い煎餅を食べる男性

印象採得の方法・種類・インプラント治療の流れなどを紹介してきました。インプラント治療での印象採得は、上部構造の人工歯を作るために必要な工程です。

インプラント治療は、インプラントと顎の骨がくっつくのを待つなど治療に長い時間を要します。

印象採得は、インプラント治療でかかる時間と比較するとわずかな時間ですみますが、上部構造の位置・形に影響を及ぼすことを考えると重要な工程です。

インプラント治療は費用も時間もかかります。インプラントを作って終わりではなく、良好な状態で長く使えるように定期的なメンテナンスを行っていきましょう。

参考文献

この記事の監修歯科医師
若菜 康弘医師(若菜歯科医院院長)

若菜 康弘医師(若菜歯科医院院長)

鶴見大学歯学部大学院卒業 / 現在は若菜歯科医院の院長

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