インプラント治療において、従来の方法に比べて負担が少ないとされるフラップレスインプラントという方法があります。メスを使用せず、縫合の必要がない治療法ですが、患者さんにとってどのようなメリットがあるのでしょうか?
本記事ではインプラント治療で縫わないフラップレスインプラントについて以下の点を中心にご紹介します。
- 縫わないインプラント治療とは
- インプラント治療で縫わないことのメリット・デメリット
- フラップレスインプラントの費用相場
インプラント治療で縫わないフラップレスインプラントについて理解するためにもご参考いただけますと幸いです。ぜひ最後までお読みください。
縫わないインプラント治療について
縫わないインプラント治療には、どのような特徴や利点があるのでしょうか?以下に説明します。
フラップレスインプラントとは
フラップレスインプラントとは、歯茎を切開することなくインプラントを埋め込む手術方法です。
従来のインプラント治療では、歯茎を切開して骨の状態を直接確認しながらインプラントを埋め込むのが一般的です。
一方、フラップレスインプラントでは、歯科用パンチやドリルを使用して歯茎に小さな穴(4mm程度)を開けるだけで、インプラントを埋め込むことが可能とされています。
フラップレスインプラントは、事前にCTスキャンで骨の形状や位置を正確に把握し、コンピュータシミュレーションを用いて埋入位置を計画します。計画に基づいて製作された手術用ガイドを使用すれば、高い精度が期待できます。
フラップレスインプラントの特徴は、歯茎を切開しないため、手術後の腫れや痛みが少なく、回復が早い点です。また、切開や縫合が不要なため、治療全体の負担を軽減できるのもメリットの一つです。
フラップレスインプラントの施術は患者さんの骨や歯茎の状態をしっかりと確認したうえで適用されるため、歯科医師の高い診断と技術が求められます。
フラップレスインプラントの治療の流れ
フラップレスインプラントの治療の流れは、以下のとおりです。
- 検診・検査
最初に歯科医師による検診を受け、口腔内の健康状態や治療に関する希望を詳しく相談します。CTやレントゲン、歯周病検査を行い、顎の骨や神経の位置を把握したうえで治療計画を立て、患者さんの状態に合わせた方法が提案されます。 - 治療計画とサージカルガイドの製作
CTデータを用いて、専用ソフトで治療のシミュレーションを行います。 インプラントを正確に埋め込むためのサージカルガイドを製作し、神経や血管を避けつつ、適切な位置や深さを計画します。 - インプラント手術
ガイドを活用し、歯肉に小さな穴を開けてインプラントを埋め込みます。歯肉を大きく切開しないため、痛みや出血を抑えることが可能とされています。 - 仮歯の装着
インプラントが骨と結合する期間として、上顎だと2〜3ヶ月、下顎だと3〜6ヶ月程を要します。その間は仮歯を装着し、見た目や咀嚼の機能を維持します。 - 上部構造の装着と治療完了
インプラントが骨としっかり結合したら、患者さんの希望に沿った材質の上部構造を選び装着します。
これで治療は完了ですが、健康な状態を維持するために定期的なメンテナンスが必要です。
インプラント治療で縫わないメリット
インプラント治療で縫わないメリットについて解説します。
身体への負担が少ない
フラップレスインプラントは歯茎を切開しない治療法です。手術後の出血や腫れが少なく、痛みも軽減されることから、治療後の回復期間を含め、患者さんの身体的負担を軽減できます。
また、歯科治療に対して不安を抱える方でも、切開や縫合が不要なフラップレスインプラントならば、治療に伴うストレスを軽減できる可能性があります。
切開による不安や恐怖感を和らげたいと考える患者さんにとって、フラップレスインプラントはおすすめの治療法です。
周辺組織を傷つけにくい
フラップレスインプラントは、歯茎を切開せずに行う治療法のため、粘膜や周囲の組織に与える影響を抑えられるとされています。手術後の傷が小さいため、痛みや腫れ、出血が軽減されます。
従来のインプラント治療では、インプラントの正確な埋入は歯科医師の技術に依存する部分が大きく、神経や血管を傷つけるリスクがありました。
一方、フラップレスインプラントでは、サージカルガイドを活用して事前にシミュレーションした位置に穴を開けるため、施術箇所のズレを防止し、こうしたトラブルの可能性を低減できます。
歯茎が下がりにくい
通常のインプラント手術では、歯茎を切開し、剥離や縫合を行うことで歯肉に負担がかかり、歯茎が下がるリスクがあります。歯茎が下がると、見た目や口腔内の健康に悪影響を及ぼす場合があります。
しかし、フラップレスインプラントは歯茎を切開せずに行うため、歯肉への負担を軽減し、歯茎が下がる可能性を抑えます。
従来のインプラント手術では、歯肉のダメージを補うために移植や追加処置が必要なこともありますが、フラップレスインプラントはその必要がほとんどないといわれています。歯肉へのダメージが少ないため、審美性と健康面の両方においてよい選択肢でしょう。
手術時間や治療期間が短い
フラップレスインプラントは、歯茎を切開せずに行うため、従来のインプラント手術と比べて治療にかかる時間が短縮される点が特徴です。
従来のインプラント手術に要する時間が1本あたり30分程度かかるのに対し、フラップレスインプラントの治療時間は、1本あたり5~10分程度です。
また、歯茎を切らないため傷口の治りが早く、縫合や抜糸も不要なため、通院回数や治療期間を抑えられます。
持病のある方も受けやすい
高血圧や糖尿病などの全身疾患をお持ちの方でも、インプラント治療を受けられる可能性があります。
通常のインプラント治療では、外科的な処置を伴うため、感染リスクや傷口の治癒が遅れるリスクが指摘されることが少なくありません。特に持病を抱える患者さんにとっては治療が困難とされる場合が多々ありました。
しかし、フラップレスインプラントは、歯肉を切開せずにインプラントを埋入する手法が特徴です。これにより、感染のリスクが軽減されるだけでなく、術後の傷口が小さく抑えられるため、治癒までの期間が短縮されます。
そのため、出血しやすかったり傷が治りにくかったりする糖尿病や高血圧の患者さんや服薬している方でも、治療を受けられる可能性があります。
さらに、身体への負担が従来の治療法と比べて軽減されるため、体力が低下しやすい高齢の方にとっても、インプラント治療の選択肢を広げる重要な手段といえます。
全身疾患を抱える方々が健康リスクを抑えつつ治療を受けられる点は、患者さんだけでなく、医療従事者にとっても安心材料となります。
従来のインプラント治療では手術後のリスク管理や長期間の治療プロセスが課題となっていましたが、フラップレスインプラントは、こうした課題を解決するだけでなく、患者さんの生活の質(QOL)を高める手段としてもおすすめの治療法です。
インプラント治療で縫わないデメリット
インプラント治療で縫わないデメリットについても解説します。
適応しない症例がある
フラップレスインプラントはどなたでも受けられるわけではなく、骨の状態や歯茎の条件が良好な場合にのみ適応可能とされています。
骨の量が不足していたり、骨の幅が狭い場合など、十分な骨支持が確保できない場合には、適応が難しくなります。
また、骨の高さが不十分、神経の配置が複雑、または歯茎の幅や厚みが不足しているケースも、フラップレス手術が適さない要因となります。
これらの条件がある場合は、歯茎を切開し、骨の状態を直接確認しながら行う従来の手術法が必要となる場合があります。
さらに、重度の全身疾患を抱えている方も、リスクが高まるため慎重な検討が必要です。
ドリルの位置がずれるリスクがある
フラップレスインプラントは、CTスキャンやシミュレーションソフト、サージカルガイドといった先進的な機器を活用し、インプラントを外科的侵襲で適切な位置に埋め込むことを目指した治療法です。
しかし、高度な機器を用いても、治療プロセス全体でわずかな誤差が生じる可能性を完全に排除するのは難しいのが現実です。
フラップレスインプラントの手術は複数の精密機器を組み合わせて行われますが、各工程で発生する微細な誤差が積み重なり、結果としてドリルの位置が計画からわずかに逸れるリスクが考えられます。
例えば、歯周病を抱える患者さんの場合、サージカルガイド製作時から手術実施時までの間に病状が進行し、顎の骨の形状が変化してしまうことがあります。わずかな骨の変形が、インプラント埋入時の位置ずれにつながる可能性があります。
こうしたリスクを抑えるためには、事前の診断と治療計画を慎重に行うだけでなく、手術直前に再度患者さんの状態を確認し、必要に応じて計画を見直す柔軟性も求められます。 また、機器の精度や操作の正確性に依存する部分が大きいため、歯科医師の経験や技術力も必要です。
フラップレスインプラントの成功率を高めるためには、こうした細やかな配慮と技術の積み重ねが不可欠です。
治療方法が変更になる可能性がある
フラップレスインプラントの治療計画は、CTスキャンやシミュレーション技術を用いて、精密かつ緻密に計画されます。
しかし、手術中に患者さんの口腔内や骨の状態が事前の予測や計画からずれることがあり、骨の質や量、またはインプラント埋入位置の微調整が必要になるケースがあります。 予期せぬずれが起きた場合は、治療の安全性や成功率を最優先に考慮し、フラップレス手術から通常のインプラント手術へ切り替える判断が下される可能性があります。
しかし、従来のインプラント手術であれば、歯茎を切開して骨の状態を細部まで直接確認しながら手術を進めることができるため、より柔軟な対応が可能とされています。
対応できる歯科医院が限られている
フラップレスインプラントは高度な技術を要する治療法であるため、対応可能な歯科医院が限られています。経験や技術力のある歯科医師による施術や、CTをはじめとする先進的な設備が不可欠です。
しかし、フラップレスインプラントはまだ新しい技術であることから、十分な実績を持つ歯科医院は多くありません。
そのため、治療を検討する際は、歯科医院の設備や歯科医師の経験・資格を事前に確認し、自身の信頼できる医療機関を選ぶことが重要です。
治療費が高額になる可能性がある
フラップレスインプラントは、新しい技術と高度な知識と技術を必要とするため、一般的なインプラント治療と比べて治療費が高くなる傾向にあります。
フラップレスインプラントは、精密検査や専用のサージカルガイドの製作が不可欠であり、治療プロセスがより高度化していることが要因の一つです。
また、治療費はインプラントを埋入する本数や歯科クリニックごとの料金設定によっても異なります。
さらに、フラップレスインプラントを含むインプラント治療は保険適用外の自由診療に分類されるため、全額自己負担となる点も費用が高額になる理由の一つです。
治療を検討する際は、まず歯科クリニックで診察を受け、治療計画や見積もりをしっかり確認しましょう。
支払い方法は、分割払いが可能なクレジットカードやデンタルローンを利用できる場合もあるため、費用面で不安がある場合は事前に相談してみましょう。
フラップレスインプラントの費用相場
フラップレスインプラントの費用は、一般的なインプラント治療と比較してやや高めに設定されることが多いようです。
東京都内での費用相場は40万~45万円程度とされていますが、価格は施術する部位や患者さんの口腔内の状態によって変動します。
また、フラップレスインプラントの治療で使用されるサージカルガイドの材料費も治療費に加算されることがあります。
一般的なインプラントの相場が1本あたり30万~45万円程とされるなかで、フラップレスインプラントはやや高い水準ですが、治療内容や追加の検査費用などを含めると相場以上に変動する場合もあります。
クリニックを選ぶ際は、費用だけでなく、治療内容や使用機器の確認も推奨されます。
まとめ
ここまでインプラント治療で縫わない治療についてお伝えしてきました。 インプラント治療で縫わない治療・フラップレスインプラントの要点をまとめると以下のとおりです。
- フラップレスインプラントの特徴は、歯茎を切開しないため、手術後の腫れや痛みが少なく、回復が早い点にある。また、切開や縫合が不要なため、治療全体の負担を軽減できるのもメリットの一つ
- フラップレスインプラントのメリットは、身体への負担が少ないこと、周辺組織を傷つけにくいこと、歯茎が下がりにくいなどがある。デメリットは、骨や全身の状態によって適応できない方がいたり、治療計画と手術時の口腔状態にずれが起きていて、ドリルの位置がずれてしまうことがあるなど
- フラップレスインプラントの費用は、通常のインプラント治療と比較してやや高めに設定されることが多いとされている。東京都内での費用相場は40万~45万円程度とされているが、価格は施術する部位や患者さんの口腔内の状態によって変動する
フラップレスインプラントは従来の方法と比較すると費用がやや高くなる傾向にありますが、治療時間の短縮や負担の軽さを考慮すると、多くのメリットが期待できるのではないでしょうか。
フラップレスインプラントは歯科医師の経験や技術力、クリニックの設備によって治療の質が左右されるため、自身の信頼できるクリニックを選び、医師との十分な相談のもとで治療を検討しましょう。
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。