インプラント治療は、複数のパーツを使用して行われますが、その名称や種類、それぞれの役割などをご存じでしょうか? この記事では、インプラントの構造やパーツ毎の特徴、治療法によって使用されるパーツの違いなどについて紹介します。これからインプラント治療を受ける方や、治療を検討している方は参考にしてみてください。
インプラント治療とは
インプラント治療は、何らかの理由で歯がなくなってしまった場合に、金属とセラミックで作られた人工的な歯を埋め込むことで、噛み合わせを補うための治療です。
インプラントは「埋入する」という意味の言葉で、歯を支えている顎の骨に対して金属製の人工歯根を埋め込んで行うため、インプラント治療と呼ばれます。
インプラント治療のメリット
重度のむし歯や歯周病、外傷などで歯を失ってしまうと、噛み合わせの悪化や発音がしにくくなるなどさまざまなトラブルが生じます。
歯を失った場合の治療法には入れ歯やブリッジといった治療法もありますが、天然の歯のようなしっかりとした噛み心地の実現が難しかったり、治療の際に残っている健康な歯を削る必要があったりといった難点もあります。 インプラント治療は顎の骨に固定するため、天然の歯と同じような噛み心地を実現できる点がメリットです。
さらに、顎の骨は適度な刺激がないと少しずつ痩せていってしまいやすいのですが、インプラント治療は天然の歯と同じように、噛んだときに顎の骨に刺激が伝わるため、骨の減少が生じにくい点もメリットといえます。 また、インプラント治療はほかの歯を削る必要がなく、残っている歯に負担をかけにくいという点や、天然の歯と近い見た目を実現しやすい点も大きなメリットといえるでしょう。
インプラント治療のデメリット
インプラント治療には、いくつかのデメリットもあります。 一つ目が治療にコストがかかりやすいことです。
入れ歯やブリッジの治療と異なり、インプラント治療は事故で顎の多くを失った場合などの特殊なケースを除き、保険適用外の治療となっています。
また、インプラント治療は大がかりな手術が必要であるため、ほかの治療と比べて費用がかかりやすいという特徴があります。
一本の歯を治療するだけで何十万円という費用になる場合もあるため、これをデメリットと感じるケースがあるでしょう。 また、インプラント治療は手術が必要であり、治療期間が長引きやすい点もデメリットと感じる可能性があります。
インプラント治療は埋め込んだパーツが骨にしっかりと固定するのを待つ必要があるため、治療には2ヶ月以上の期間がかかります。
そもそも固定するための顎の骨の量が不十分な場合など、状況によっては手術を行うことができない点も、デメリットといえます。 そして、インプラント治療で生じる可能性があるインプラント周囲炎も、デメリットの一つに挙げることができます。
インプラント周囲炎はインプラント治療を行った歯に生じる歯周病のような症状で、お口のなかの細菌が作り出した毒素によって歯肉が炎症を起こしたり、歯を支える骨が溶かされたりしてしまうものです。
一般的な歯周病よりも進行が早い点が特徴で、進行してしまうとせっかく治療を行った歯が、再度抜けてしまう可能性があります。
インプラント治療によって獲得した歯がむし歯になることはありませんが、適切なケアを行わなければインプラント周囲炎などのトラブルにつながりますので、治療が終わった後も、セルフケアや定期的な歯科検診などをきちんと行う必要があります。
インプラントのパーツそれぞれの名称と役割
インプラント治療は、インプラント体と呼ばれる人工歯根部分と、上部構造と呼ばれる白い歯の部分、そしてその両者をつなぐアバットメントという3つのパーツを使用して行われます。
それぞれのパーツの特徴を紹介します。
インプラント体、フィクスチャー(歯根部)
インプラント治療において、顎の骨に埋め込まれる人工歯根部分のパーツをインプラント体、またはフィクスチャーと呼びます。
インプラント体はチタンやチタン合金、またはジルコニアというセラミックの一種が素材として使用されます。これは、チタンやジルコニアが充分な強度を持っていることに加え、オッセオインテグレーションという、骨としっかり結合して固定することができる働きを持っているためです。
インプラント体を骨にがっちり固定させることで、天然の歯と同じような安定した噛み心地を実現できます。
アバットメント(支台部)
アバットメントは、インプラント体とその上に被せる上部構造を接続するためのパーツです。
インプラント治療はインプラント体を埋め込む手術をしてから、骨と結合するのを待つ必要があり、この期間は細菌の感染などを防ぐため、手術した箇所を歯肉で覆って過ごします。
そして、一定期間が経過して骨と結合したら再度歯肉を切開する手術をしてインプラント体を露出させ、上部構造を取り付けるための土台となるパーツとして、アバットメントを接続します。 なお、インプラント治療には大きくわけて1回法と2回法という2つの手術法があり、上記は2回法での手術方法です。
1回法の場合は、インプラント体を埋め込む手術の後、パーツが露出した状態で結合を待つため、2回目の手術が必要なく、そのまま上部構造の取り付けが行われます。
そのため、1回法の手術の場合はインプラント体とアバットメントが同時に接続されるか、インプラント体とアバットメントがくっついた、ワンピースタイプと呼ばれるパーツが使用されます。
1回法の治療は手術回数を少なくできる点や、手術後すぐに仮歯を取り付ける即時荷重という治療が可能である点がメリットですが、2回法と比べて感染のリスクが高いことや、対応しているクリニックが少ない点などがデメリットとなっています。 また、アバットメントは単純にインプラントと上部構造を接続するだけではなく、上部構造の角度を調節する役割も担っています。
インプラント体は、周囲の歯や骨の状況などによってまっすぐ埋め込めない場合があり、この場合には角度のついたアバットメントを使用すると、上部構造を垂直にすることが可能となります。 さらに、治療後に強い負荷がかかった場合には、アバットメントが衝撃を吸収してくれるため、インプラント体の破損を防ぎやすくなり、再手術のリスクを減らせるという特徴もあります。
上部構造(人工歯)
上部構造は、いわゆる被せ物のことです。
埋め込んだインプラント体、そしてアバットメントを土台として、セラミックなどで作成した上部構造を取り付けることで、天然の歯と同じような見た目と機能を実現します。
一般的に、歯科医院で被せ物の治療を行う際は保険適用である銀歯やハイブリッドセラミックなどで治療を行うことが多いですが、インプラント治療はそもそも保険適用外であるため、天然の歯と近い見た目を実現可能なセラミックで作られるケースが多いといえます。 なお、一般的な被せ物は歯を削って作った土台に対して歯科用の接着剤で固定されますが、インプラント治療の上部構造は、専用のネジなどで固定される場合もあります。
この場合、必要に応じて取り外すことができるため、メンテナンス性が高まるというメリットがあります。
インプラント治療の過程で使用されるパーツの名称
インプラント治療を行う過程では、上記に挙げたパーツ以外にも下記のようなパーツが使用されます。
ヒーリングアバットメント
ヒーリングアバットメントは、1回法の治療で使用されるパーツで、埋め込んだインプラント体が骨に結合されるまでの間、治療部位を保護する目的で利用されます。
通常のアバットメントよりも大きい構造をしていて、一見すると銀歯のようにもみえます。
1回法の手術は、歯肉を塞がずに骨とインプラント体が結合されるのを待ちますが、ヒーリングアバットメントを使用することで手術後の傷口を保護し、さらに周囲の歯が倒れてくることを防げます。
手術後の傷口が露出したままの状態になる1回法で、細菌感染などを防ぐための重要な役割を担うパーツといえるでしょう。
ヒーリングキャップ
ヒーリングキャップは、アバットメントの接続から仮歯や上部構造の装着までに期間が空いてしまう場合に用いられるパーツです。
アバットメントが汚れたり傷ついたりすることを防ぐと同時に、周囲の歯が倒れこんできてしまうのを防ぐといった役割があります。
ワンピースタイプのインプラント体を使用して行う1回法の治療時に、ヒーリングアバットメントのような役割で使用されることもあります。
カバースクリュー
カバースクリューは、埋め込んだインプラントに蓋をするように被せるパーツです。
2回法の手術では、埋め込んだインプラント体の上に歯肉を被せて保護しますが、インプラント体にはアバットメントを取り付けるための穴が空いています。この穴を塞ぐパーツがカバースクリューです。
2回目の手術でインプラント体を露出させた後は、カバースクリューを外してアバットメントを取り付けます。
仮歯
仮歯は、インプラント治療の途中で使用される、一時的な上部構造のことです。
インプラント治療はパーツと骨が結合するまでの待機時間などを含め、数ヶ月という長い時間が必要であり、その間は歯がない状態で過ごすこととなってしまいます。
そこで使用されるものが仮歯で、骨との結合を待つ間も、仮歯を被せておくことで見た目を自然に保ち、ある程度の噛み合わせを回復させることも可能となります。
仮歯をインプラントの手術直後に入れる方法を即時荷重とよび、1回法による治療のメリットの一つといえます。
インプラント体の種類による違い
インプラント体には、さまざまな種類があります。それぞれの特徴を紹介します。
スクリュータイプ
スクリュータイプのインプラント体はネジのような構造になっているもので、ネジを回して顎の骨にインプラントを埋め込み、固定させます。
ネジの構造にすることで骨とインプラントの接合面が大きくなり、しっかりと固定されやすくなる点が特徴です。
現在、インプラント治療で主流の形状といえます。
シリンダータイプ
インプラント体にネジ山がなく、円筒の形をしたものが、シリンダータイプと呼ばれるものです。
スクリュータイプのように回しながら差し込むのではなく、ハンマーで叩いて埋め込みます。
埋入させる治療の難易度が下がるメリットがありますが、スクリュータイプと比べて固定が弱くなる可能性があります。
バスケットタイプ
インプラントの側面などに穴が空いていて、そこに骨が入り込んでくることで、より強度な固定が可能という理論で作られたパーツです。
ただし、インプラント体に穴をあけているため、強度が低くなってしまう難点などがあり、現在はあまり使用されていません。
ワンピースタイプ
インプラント体とアバットメントが一体型になっているもので、1回法の手術で用いられます。
手術を1度で完了させられるため、身体への負担が小さいというメリットがありますが、強い負荷などでインプラント体が損傷しやすくなるリスクなどがあります。
ツーピースタイプ
インプラント体とアバットメントが別々になっているタイプで、インプラント治療において主流のものです。
アバットメントで歯の角度などを微調整可能なほか、インプラント体の損傷を防ぐことができるなどのメリットがあります。
インプラントで使用される素材
インプラント体は、主にチタンやセラミックで作られています。それぞれの素材の特徴を解説します。
純チタン
純チタンは、金属の一種であるチタンの純度が高い素材です。チタンは時間経過とともに骨と結合する性質があるほか、イオンとして溶けだしにくいため、金属アレルギーの方でも使用しやすいという特徴があります。
チタン合金
チタン合金は、チタンとほかの金属を混ぜた素材です。
混ぜ合わせる金属の種類によって、純チタンよりも強度が強く、より破損しにくいパーツを作ることができます。
一方、混ぜ合わせる金属によっては金属アレルギーなどのリスクが生じる可能性があります。
ジルコニア(セラミック)
ジルコニアはセラミックの一種で、人工ダイヤモンドとも呼ばれるほど硬く、高い強度を持った素材です。
ジルコニアもチタンと同じように骨と結合しやすく、また金属アレルギーの心配がないことが特徴です。
ジルコニアはとても硬いため加工が難しいのですが、加工技術の進歩によって、インプラント体の素材として使用されるようになってきました。
上部構造の種類
インプラント治療においては、必ずしもインプラント体1つに対して1本の上部構造を接続するのではなく、ブリッジなどの上部構造を使用することで、手術の負担を減らすことも可能です。
インプラント治療で利用することができる上部構造の種類を紹介します。
被せ物
一般的なインプラント治療では、インプラント体1つに対して、1つの上部構造、つまり被せ物を行います。
天然の歯と同じような構造が実現できるため、自然な噛み心地を実現しやすく、顎の骨の減少を防ぐことも可能となります。
ブリッジ
歯の欠損部位が連続した数本の場合は、上部構造にブリッジを使用することもできます。
一般的なブリッジの治療の場合、歯が1本または2本連続して欠損している場合にしか治療を行えませんが、インプラントを使用することで3本の歯が欠損しているときでも、ブリッジでの治療を行うことが可能となります。
オーバーデンチャー
オーバーデンチャーは入れ歯の一種で、インプラントによって内側から固定し、安定感を高められる入れ歯です。
歯がすべて抜け落ちてしまった場合など、全部の歯にインプラント治療を行うと身体への負担が大きくなってしまいますが、オーバーデンチャーを使用すると、インプラント手術は4本ほどで治療を行えます。
また、一般的な入れ歯よりもしっかりと固定しやすく、固定のためのパーツが内側に隠れて見えにくいため、見た目も噛み心地も自然な状態に近い治療が行える点がオーバーデンチャーの魅力です。
オールオンフォー
4本ほどのインプラント体で、すべての歯を補う治療がオールオンフォーです。
総入れ歯タイプのオーバーデンチャーでもすべての歯をカバーすることができますが、オールオンフォーは歯科医院で固定するため、より高い安定感を獲得しやすい点が特徴です。
まとめ
インプラントで使用されるパーツはさまざまで、治療の方法などによって使用されるパーツが異なります。
それぞれの名称を知っておくと、治療の理解を深め、自分にあった治療法の相談もしやすくなるのではないでしょうか。
どのような治療が適しているかは、人それぞれのお口の状態や生活習慣などによっても異なりますので、まずは歯科医院でじっくり相談してみてくださいね。
参考文献