インプラント

インプラント除去が必要なケースは?撤去の原因となる症状・方法・費用を解説

インプラント除去が必要なケースは?撤去の原因となる症状・方法・費用を解説

インプラントは時間・費用をかけて患者さんが失った歯を補う治療です。しかし、手に入れたインプラントを撤去しなければならない場合があります。

インプラント除去にも当然費用がかかるとともに、原因によっては除去後も長引く口腔トラブルに悩まされる可能性があり、負担が大きいでしょう。

もしもインプラントを除去しなくてはならなくなった場合には、状態によって身体にかかる負担が異なります。

この記事では、インプラント除去が必要になるケースならびに除去の方法・費用を解説します。問題を防ぐ注意点も含め、治療の参考にお役立てください。

インプラント除去が必要なケースは?

インプラントのイメージ

インプラント治療は、歯を失った顎骨に人工の歯根部となるインプラント体を埋入し、アバットメントおよび人工歯冠を取り付ける治療法です。

残っているほかの歯への負担が少なく天然歯に近い機能・審美性の回復が可能で、生活の質を向上できるメリットを有しています。

一方で外科的手術が必要となり、上部構造を含めると通常1本につき約400,000〜500,000円(税込)の費用がかかります。骨造成を必要とする場合にはさらに追加料金が必要になるため、身体面でも費用面でも負担となるでしょう。

またよく検討したうえで手術を受けたにも関わらず、手に入れたインプラントを撤去しなければならなくなる患者さんもいます。

インプラント除去が必要なケースは、簡単にいえばインプラントを十分に保持し利用できない状態に陥った場合です。

これにはインプラント自体に問題が生じているケースもあれば、患者さん自身の身体に問題が起きている症例もあり、どちらも注意が必要です。

インプラント除去(撤去)の原因となる症状

口内を見る女性

インプラント除去が必要な原因は、症例次第でさまざまです。患者さんによっては、インプラントを撤去しただけでは状況が改善されない場合もあります。

ここからは考えられる大きな5つの原因を取りあげます。すでにインプラント治療を受けた方もこれから受ける方も、除去のリスクを確認しておきましょう。

インプラント周囲炎

インプラント治療を受けるにあたり、すべての患者さんが注意すべきなのがインプラント周囲炎です。プラークに起因して生じる炎症過程を指します。

インプラントを埋入した周囲組織はデリケートで、感染に弱い状態です。そこに歯周細菌を含んだプラークが溜まると、感染および炎症を起こしてしまいます。

初期段階で粘膜のみの発赤・腫脹・出血がある状態を、インプラント周囲粘膜炎と呼びます。この時点で治療を行えば撤去の必要はないでしょう。

しかしさらに進行すると、深いプロービングデプスならびにインプラント周囲の骨吸収が認められるようになります。これがインプラント周囲炎です。

インプラントを支える土台となる周囲組織・骨が弱くなるため、インプラントが動揺して十分な咬合力を得られず撤去が必要になる場合があります。

インプラント体の破損・体内侵入

歯科治療のイメージ

インプラント用の金属材料には、軽量で耐食性が高く骨組織の伝導性・密着性に優れたチタンおよびチタン合金が長年用いられてきました。

日常生活程度では簡単に破損しない素材ですが、使用の仕方によってはインプラント体が破損したり、破損した部品で粘膜が傷付いたりするケースがあります。

例えばむし歯予防に有効なフッ化物がチタンに浸漬すると、従来の耐食性を発揮できない恐れがあります。しかしながら、一般的に含まれている歯磨剤の濃度ではフッ化物がチタンを腐食させる可能性は低く、他の歯の虫歯を予防するためにフッ化物の利用が推奨されています。

また、元々咬合力が強い方あるいは歯ぎしり(ブラキシズム)が癖になっている方は、インプラント体に負担がかかりやすく破損しやすいです。

細菌感染

術中の細菌感染がきっかけでインプラント周囲炎・上顎洞炎などのトラブルを引き起こし、インプラントを撤去しなければならないケースもあります。

特にインプラント手術を不衛生な環境下で行った場合や、患者さんの身体の治癒力が弱まっている状態で行った場合には細菌感染が起こりやすいです。

感染予防で重要なのは、治療に使用する器械・材料の滅菌管理および術者の手洗いです。さらに、口腔内の術前清掃ならびに消毒も欠かせません。

細菌感染が起こると、インプラント体・顎の骨が結合しなくなる恐れがあります。感染対策を十分に行っていない歯科医院での手術は危険です。

神経麻痺

歯を気にする女性

日本顎顔面インプラント学会の報告によると、インプラント治療の合併症で特によくみられ医事紛争にも発展している問題が神経麻痺です。

解剖学的に下顎骨内を下歯槽神経が走行しています。当然麻痺を避けるために埋入位置・傾斜の検討、あるいはショートインプラントの使用が試みられています。

しかし、インプラント窩形成時のドリルによる損傷・インプラント体そのものの神経圧迫などの理由から、神経麻痺が生じる恐れがあるでしょう。

インプラント体が下顎管に近接もしくは接触し神経麻痺の症状が現れている場合は、なるべく早くインプラント除去手術を行わなければなりません。

早期に撤去した3割程の患者さんは症状が軽快しています。とはいえ6割程の患者さんは、対応が遅れ症状不変で麻痺が残ると報告されています。

金属アレルギー

細菌感染以外でインプラントの辺縁骨吸収が起こる一次的原因の1つは、インプラント体に使用されているチタンに対する金属アレルギーです。

チタンは生体内で安定しやすく、イオン化が極めて少ない金属です。そのため、金属アレルギーの原因とはなりにくいと考えられてきました。

しかしほかの金属が混ぜられたチタン合金を使用したインプラント体の場合、チタン以外の金属によりアレルギーを発症する可能性があります。

また、稀にインプラント治療を行ってからチタンアレルギーを発症する患者さんもいます。金属アレルギーでない方でもリスクがある点に注意してください。

インプラント除去の方法

歯科治療中

インプラントは外科的治療のため、撤去の際にも手術が必要です。除去手術の内容をあらかじめ知っておくと、実際に受ける際の不安を軽減できるでしょう。

ここではインプラント除去手術の流れを解説します。不安の要因となる手術の痛みに関する情報もぜひ参考にしてください。

除去手術の流れ

インプラント除去手術はインプラントを埋入してからの期間、またインプラント・周辺組織の状況などの要素を考慮したうえで撤去方法を検討します。

埋入手術からの期間が短く骨結合をしていない場合は、局所麻酔の後にインプラント体を回転させたりプライヤーで引き抜いたりして撤去できるでしょう。

近年の治療ではほとんど用いられないブレードタイプまたは骨膜下インプラントを撤去する場合、骨を大きく削る可能性があります。

なお、細菌感染が要因となって骨吸収が進んでおりインプラントが動揺しているケースでは、骨を削る量は少なくなるでしょう。

除去手術に痛みはある?

前述したように手術中は基本的に局所麻酔を行っているため、埋入手術と同じように術中の患部の痛みはほとんどありません

とはいえ、意識があるため骨を削るドリルの音・振動あるいは歯科医師たちの会話などが気になり、精神的にも身体的にもストレスを感じる恐れがあります。

不安な方は、笑気吸入鎮静法・静脈内鎮静法などの精神鎮静法の利用も検討できます。良好な鎮静状態を得られるため、手術が効率的に行えるでしょう。

インプラント除去にかかる保険適用・保険適用外の費用

領収書

内容に関わらず、治療を受ける際には費用面が気になるものです。保険が適用されるかで患者さんの負担は大きく変わってきます。

インプラント除去は保険適用される場合もあれば、されない場合もあります。

また、インプラント除去が短期で行われた場合では、治療した医院での補償があるかもしれません。

適用条件およびそれぞれに必要な費用を確認しておきましょう。

保険適用の場合

保険適用のポイントは、どこで除去手術を受けるかです。インプラント手術を受けた歯科医院とは別の歯科医院で撤去する際は保険適用となります。

また、撤去するインプラント体の種類により手術の保険点数が異なります。1個あたりの種類別保険点数は以下のとおりです。

  • 人工歯根タイプ:460点
  • ブレードタイプ:1,250点
  • 骨膜下インプラント:1,700点

保険が適用される患者さんは1〜3割負担で受けられるでしょう。なお、骨の開削を行った場合は所定点数の100分の50に相当する点数が加算されます。

保険適用外の場合

インプラントに不具合が生じた際は、手術を受けた歯科医院に相談するのが基本でしょう。しかし、除去手術を同じ歯科医院で受けると保険適用外となります。

保険適用外となった患者さんは、保険点数に基づく費用を全額自費で支払わなければなりません。1個あたりの種類別除去手術費用の一例は以下のとおりです。

  • 人工歯根タイプ:約4,600円(税込)
  • ブレードタイプ:約12,500円(税込)
  • 骨膜下インプラント:約17,000円(税込)

しかし、自由診療では手術を受ける歯科医院によって費用が異なります。費用はあらかじめ確認しておくのがよいでしょう。

インプラント除去後に再手術は可能?

男性医師と女性医療従事者

インプラントを撤去すると、また歯を失った状態に戻ってしまいます。そのため、なるべく再手術をしてインプラントを入れたいと考えるでしょう。

しかし、すべての患者さんが再手術を受けられるわけではありません。再手術が可能なケース・できないケースをそれぞれ解説します。

再手術が可能なケース

インプラントによる再治療を希望される場合には、インプラントを撤去しなければならなくなった原因をしっかりと把握し、再治療を行う事が重要となります。

例えば、インプラント体の破損はインプラントを交換すれば再手術が可能です。細菌感染も、治療し炎症症状が治まっていれば再手術できるでしょう。

また骨吸収が少ないか撤去時に骨を削る量が少なかった方で、インプラントを埋入できる骨の厚みが十分にあるなら埋入位置を変えて取り付けが可能です。

感染が広範囲に広がっており骨の状態が不十分であっても、GBR(骨造成)を併用すれば骨の厚みが改善されて再手術できる可能性もあります。

再手術ができないケース

患者さんが再手術によるインプラントの埋入を希望していても、除去原因が改善できないのが明らかであれば再手術はできません。

金属アレルギーを発症している患者さんは、症状が治まっても次のインプラント体で再びアレルギー反応が起きる危険があります。

また神経麻痺が起きている場合、もしくはショートインプラントを用いても神経に圧迫する場合は、インプラント治療は適切ではありません。

インプラントの再手術ができない患者さんは、代わりに入れ歯もしくはブリッジを選択できるでしょう。インプラントよりも短期間で治療を行えます。

インプラント除去を避けるための注意点

男性と白衣の女性

インプラント治療を行ったらできるだけ長持ちさせたいと願うのは当然です。撤去を避けるには、患者さん自身が覚えておくべき注意点があります。

ここからは、インプラント除去を避けるのに有効な3つの注意点を取りあげます。インプラント治療前に確認して、対策をしておきましょう。

治療を受ける歯科医院をよく選ぶ

インプラント治療を成功させるために重要なのは、治療を受ける歯科医院をよく選ぶ点です。まず感染対策を徹底している歯科医院を選びましょう。

特に診療室が個室あるいはパーテーションで隔離されているか、簡単な処置でも手袋の交換・器具の洗浄が行われているかなどを確認できるでしょう。

またインプラント治療に限らず、理解しやすい言葉で治療のメリット・デメリットを公平に説明してくれる歯科医師を選ぶのも大切です。

歯科医師・患者さん間のコミュニケーションが十分に取れる関係性が築けるなら、失敗は減らせます。信頼して任せられる歯科医院を選択してください。

日々の歯磨きを徹底する

歯ブラシ

インプラント除去の大きな要因となるインプラント周囲炎の予防には、日々の歯磨きを徹底しプラークコントロールを行うのが有効です。

歯磨きを行う際に丁寧に磨こうとして力を込めて擦ると、インプラントおよび周辺組織を傷付けるだけでかえって磨き残しが生じやすくなります。

歯列および歯の大きさなど、自分の口腔内の状態に合わせて磨きやすい歯ブラシをを使い、圧をかけすぎないように小刻みに動かしながら丁寧に磨いてください。

電動歯ブラシを使用するのもよいでしょう。ただしブラシの歯面への当て方によってはうまくプラークが除去できない場合があるため、注意が必要です。

また、歯ブラシが届きにくい部分にはタフトブラシ・デンタルフロス・歯間ブラシなどの補助用具を併用し、細やかなプラーク除去を心がけましょう。

定期的なメンテナンスを行う

毎日の食事・歯磨きで気を付けていても、思いがけずインプラント体の破損あるいは細菌感染などが原因でトラブルが生じるかもしれません。

しかし、早期発見により除去手術を行わずに処置ができる可能性もあります。治療後の定期的なメンテナンスを欠かさないようにしましょう。

患者さんの口腔内の状況およびインプラント体の状態によるものの、一般的には3ヵ月〜半年に1回の通院が必要となります。

メンテナンスでは噛み合わせ・歯周チェックに加え、インプラント周囲に生じやすい磨き残しに対するプロフェッショナルケアを受けられます。

通院を面倒に感じる患者さんは少なくないでしょう。とはいえ埋入したインプラントをできる限り長く利用するためにも、継続して受けるようにしてください。

まとめ

笑顔で歯を見せる女性

この記事ではインプラント除去に関わる情報を解説しました。インプラントは口腔機能を向上する点で有効な治療ですが、天然歯以上に気を遣う必要があります。

インプラントを撤去しなくてはならない状態になると口腔機能が低下するほか、身体面ならびに費用面での大きな負担を身に招くでしょう。

トラブルを避けるポイントは、患者さん自身がインプラント治療に伴うリスクをきちんと把握し、リスク回避のために積極的に行動する点です。

インプラントを除去しなければならない状態になる前に、早期に対処できれば対応できる可能性もありますので、定期検診やメンテナンスは欠かさず行う方がよいでしょう。

参考文献

この記事の監修歯科医師
大津 雄人医師(医療法人社団GLANZ大津歯科医院 副院長 / 東京歯科大学インプラント科 臨床講師)

大津 雄人医師(医療法人社団GLANZ大津歯科医院 副院長 / 東京歯科大学インプラント科 臨床講師)

東京歯科大学歯学部 卒業 / 東京歯科大学大学院歯学研究科(口腔インプラント学) 卒業 / 現在は大津歯科医院勤務 / 東京歯科大学インプラント科臨床講師 / 専門は口腔インプラント

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