インプラントについて説明を受けたり調べたりするなかで、ガイドステント(サージカルステント)という名前を耳にした方もいるかもしれません。
多くの説明でガイドステントを使用すると安全性が高いといわれますが、ガイドステントとはどのようなもので、なぜ安全性を高められるのでしょうか。
今回の記事では、ガイドステントを使用する目的・製作方法・ガイドステントを使用した治療の流れなどについての質問に答えていきます。
インプラント治療で用いるガイドステント(サージカルステント)の目的
- ガイドステントとは何ですか?
- ガイドステントとは、インプラントを埋め込む際の角度・深さのガイドとなる器具です。インプラント治療をする場合には、事前にガイドステントを作製して手術の際に使用します。歯茎にかぶせる厚手のマウスピースのような形状で、ステントを埋め込む位置に穴が開いています。
- ガイドステントを使用するのはなぜですか?
- 従来はガイドステントがなく、事前の検査画像・歯科医師の技術・経験を頼りにインプラント治療が行われていました。しかし、インプラントを埋入する角度がずれると上部構造(人工歯)も予定していた角度ではなくなり、噛み合わせが悪くなります。
また、インプラントは歯槽骨を削って埋入するため、一度ずれると再度埋入し直す必要があります。このようなリスクを減らすために使用されるのがガイドステントです。
- ガイドステントを使用する利点を教えてください。
- ガイドステントを使用する利点は、事前に予定した角度・深さにインプラントを埋入できることです。正確な埋入により、前述のような噛み合わせ不良のほか、大きな血管・神経を傷つけるリスクも下がるでしょう。また、ガイドステントを使用しない場合には、歯肉を切開して骨の状態をみながら手術を進めます。
これに対してガイドステントを使用する場合には、CTで骨の状態を確認して、埋入場所を決めた状態から始めます。つまり、ガイドステントを使用したインプラント治療では切開の必要がなく、また手術時間の短縮が可能です。
埋入のために歯茎・歯槽骨に穴をあけるので身体への侵襲はありますが、切開を行わないため術後の痛み・腫れも従来の方法より少ないと考えられます。
- ガイドステントはすべてのインプラント治療で使用されますか?
- ガイドステントは、インプラント治療にあたって使用が必須の器具ではありません。2010年に行われた日本歯周病学会の評議員・専門の医師に対するアンケートでは、インプラント外科処置を行う際のガイドステント使用率は回答者の73%でした。
なお、使用率は半数を超えていますが、この数字には「ケースにより使用する」という回答も含まれます。このように、治療を行う歯科医院、もしくは患者さんの状態などによりガイドステントを使用しないケースもあります。
インプラント治療で用いるガイドステント(サージカルステント)の作製方法
- ガイドステントはどのように作るのですか?
- ガイドステントを作製する際には、事前に撮影したCT画像のデータを使用します。このデータをもとに専用のソフトウェアを使用して、コンピュータ上で埋入の角度・深さ・使用するインプラントの太さなどのシミュレーションが可能です。
使用するソフトウェアには、CTの会社が作ったもの・インプラントメーカーが作ったものなどがあります。埋入する位置が決定したら、CT画像のデータ・シミュレーションのデータをもとにガイドステントを作ります。
- ガイドステントにはどのような材料が用いられますか?
- ガイドステントに使用する素材の条件として重要なポイントは、下記のとおりです。
- 加工のしやすさ
- 誘導に適した強度
- 滅菌のしやすさ
- 術野(手術する範囲)の確保
このような条件をすべて満たす素材として、多くの場合、ガイドステントの素材には透明なレジン(樹脂)が用いられます。
- ガイドステントを作製する費用を教えてください。
- ガイドステントの製作費用は6万~12万円(税込)が目安です。多くの歯科では、埋入するインプラントの本数により価格に段階を設けており、埋入本数が増えればガイドステントの作製費用も高額になります。一方、ガイドステントの作成を別料金とせず、CT・分析などの費用とまとめて診断料として請求している歯科医院もあります。
なお、ガイドステントの作製費用は医療保険適用外です。そのため、治療を受ける医療機関により作製にかかる費用は異なります。
ガイドステント(サージカルステント)を用いたインプラント治療の流れ
- ガイドステントを用いた治療の流れを教えてください。
- インプラント治療を行う場合は、まずカウンセリングを行い患者さんの希望する仕上がり・予算などを確認していきます。また、カウンセリング時にCTを撮影して歯・歯槽骨の状態も確認します。
この時点で骨量が少なくインプラント埋入が難しかったり、歯周病があったりした場合には、インプラント治療に先行して骨造成・歯周病治療などが必要です。必要な治療が完了したら、CT画像・シミュレーションのデータから作成したガイドステントを使用してインプラントの埋入を行います。
手術の際には局所麻酔を使用することが多いですが、全身麻酔・静脈鎮静法を使用することもあります。ガイドステントは、インプラントを埋入する前にマウスピースのように歯茎に固定して使用する器具です。このガイドステントの誘導に従い、歯科医師がインプラント体を歯槽骨に埋入していきます。
この時点では歯茎の外から見える上部構造(人工歯)・アバットメントはまだ付いていません。症例により、インプラント埋入の当日に仮歯を入れる場合と、一度歯茎を閉じて後日2度目の手術で上部構造・アバットメントを取り付ける場合があります。
- インプラント治療にはリスク・副作用が伴いますか?
- インプラント治療は歯茎・歯槽骨に人工物を埋め込む外科手術です。そのため、治療にはいくつかのリスクが伴います。主な合併症・副作用は下記のとおりです。
- 腫れ・術後の痛み
- 内出血・出血
- 縫合不全
- 手術創からの感染
- 生着不良
- 上顎洞炎
インプラント迷入腫れ・術後の痛み・内出血・出血などの症状は、日数が経過すれば徐々に落ち着くことが多いでしょう。しかし、痛みが強くなるなどの異常を感じた場合は、縫合不全・感染の可能性があります。
また、生着不良とはインプラント体が歯槽骨にうまくなじまず脱落することです。インプラント体の生着率は97%程とされていますが、糖尿病・喫煙歴などがある方は生着率が下がる可能性があります。
なお、口蓋(口の天井)のすぐ上には、副鼻腔の一つである上顎洞という空間があります。そのため、上顎にインプラントを埋め込んだ際には鼻出血が起きることがあるほか、上顎洞炎にも注意が必要です。
さらに、埋入の位置がずれたり歯槽骨が少なかったりすると、埋入したインプラントが歯槽骨の外に入り込むことがあります。インプラントが迷入する場所としては骨外・骨髄内のほか、前述の上顎洞などがあります。
- インプラント手術後の生活で気をつけることはありますか?
- インプラントの手術を受けた後は、歯茎・歯槽骨が傷ついた状態です。そのため、術後の腫れ・痛みが治まり傷の状態が落ち着くまでは、激しい運動・長湯・サウナの利用などを避け、食事は噛みにくいもの・熱いもの・刺激物・アルコールなどを避けましょう。
なお、喫煙は傷の治りが遅くなるだけでなく、傷が治癒してからも歯周病のリスク要因となります。歯茎の健康を損なえば、インプラントが脱落する可能性もあるため、禁煙をして適切な歯磨きを続けるなど口腔環境の維持に努めることをおすすめします。
また、検診・メンテナンスのために歯科医師から指示された頻度で定期的に通院し、気になる点があれば積極的に受診を心がけましょう。
編集部まとめ
インプラントは機能性・審美性から注目されている治療方法です。しかし、外科手術であり、手術の侵襲・合併症などにより身体がさまざまな影響を受けることがあります。
このような手術によるリスクを軽減するためには、事前に十分な検査・分析を行うとともにガイドステントの使用も有効と考えられています。
インプラント治療を考えている方は、受診を検討している歯科医院でガイドステントを使用しているかどうかも事前に確認してみてはいかがでしょうか。
参考文献