歯科用インプラントは、失った歯を補うための治療方法で、天然歯に近い見た目と機能性を持っています。そして、日々の歯磨きがインプラントの寿命に影響を与えていることをご存知でしょうか。 本記事ではインプラントの歯磨きについて以下の点を中心にご紹介します。
- インプラントと歯磨きの重要性について
- 歯磨きのポイント
- 歯科医院でのメンテナンス
インプラントの歯磨きについて理解するためにもご参考いただけますと幸いです。 ぜひ最後までお読みください。
インプラントとは?
インプラントは医療分野で用いられる人工物で、体内に永続的に埋め込む医療器具や材料のことを指し、心臓ペースメーカーや美容整形のシリコンなど、多岐にわたる用途があります。
歯科分野では、「歯科インプラント」と呼ばれる技術が広く知られています。これは、失った歯を補うために、顎の骨に直接埋め込まれる人工の歯根で、天然歯と同じような機能と外見を持つため、審美的にも機能的にも整っています。 インプラントはほかの歯を削ることなく設置できるため、残っている歯に負担をかけることなく、安定した咬合力を持つため「第2の天然歯」とも呼ばれています。
インプラントの10年後の残存率は90〜95%程度とされていますが、これはメンテナンスの頻度によって変わるため、あくまで目安です。ほかの歯科装置であるブリッジや入れ歯と比較しても、より寿命が長い傾向にあります。
歯磨きの重要性
インプラント自体はむし歯になることはありませんが、インプラント周囲の粘膜は炎症を起こしやすく、インプラント周囲粘膜炎やインプラント周囲炎といった病気に罹患するリスクがあります。これらは歯垢が蓄積することで細菌が増殖し、発症するため、日常の歯磨きが重要になってきます。
インプラント周囲粘膜炎は、インプラント周辺の歯茎が赤く腫れたり、出血したりすることが特徴です。この状態が進行すると、より重篤なインプラント周囲炎に発展する可能性があり、この場合、炎症が骨にまで及び、インプラントが不安定になり、最悪の場合にはインプラントが抜け落ちてしまうこともあります。
そのため、インプラント後のケアはとても重要で、定期的な歯科訪問とともに、正しい歯磨きの方法を身につけ、毎日の歯磨きを欠かさないことが求められます。正しい口腔ケアにより、インプラント周囲の健康を保ち、長期にわたってその機能を維持します。
正しい歯ブラシの選び方のポイント
インプラントを長く保つためには、適切な歯ブラシを選び、正しい磨き方をすることが大切です。 歯ブラシの選び方について、以下に解説します。
毛先が細い歯ブラシを選ぶ
歯ブラシ選びのポイントは、細かい部分までしっかり磨けるように、毛先が細い歯ブラシを選ぶことです。
毛先が細い歯ブラシは、歯と歯茎の間やインプラントの周りの細かいスペースに溜まった汚れを取り除き、インプラントの周りに炎症が起こってしまうのを防ぎます。また、毛先が一箇所に集まっているタフトブラシも、インプラントと自分の歯の境界や歯茎のラインを丁寧に磨くのに役立ちます。
毛先が細い歯ブラシを使って、毎日しっかりと歯磨きをすることが大切です。こうした日々のケアが、インプラントを長く使い続けるためには必要です。
傷口の状態に合わせて歯ブラシの硬さを決める
インプラントの治療後は、歯茎の傷口が敏感な状態になっています。そのため、最初は柔らかい歯ブラシを使い、徐々に通常の硬さへ切りかえましょう。適切な硬さの歯ブラシを使って、歯茎を傷つけずに歯垢を取り除くことが大切です。
歯茎の状態が回復したら、普通の硬さの歯ブラシに切り替えますが、歯茎に炎症がある場合や、力を入れすぎて磨く傾向がある場合は、柔らかい歯ブラシの使用をおすすめします。 インプラントを長く保つために、自分の口の状態に合った歯ブラシを選びましょう。
歯磨き粉の選び方のポイント
インプラントのトラブルを避け、長持ちさせるためには、使用する歯磨き粉選びにも注意が必要です。 どのような歯磨き粉を選ぶべきか、以下に解説します。
研磨剤入りの歯磨き粉は避ける
インプラントのトラブルを防ぐためには、歯磨き粉を選ぶ際に粒子の大きな研磨剤が含まれていないものを選択することが推奨されます。研磨剤が入った歯磨き粉は、歯の表面の汚れを落とす一方で、歯や歯茎、インプラントへダメージを与える可能性があります。 インプラントと歯茎の隙間に研磨剤が入り込むと、歯茎が炎症を起こしインプラントの周りの敏感な部分に損傷を与えることがあるため、使用を控えるべきです。
歯磨き粉を選ぶ際には、市販されている歯磨き粉の成分表示などを確認し、顆粒の大きな研磨剤が含まれていないものを選ぶか、歯科医院で推奨される歯磨き粉を使用すると良いでしょう。
フッ素入りの歯磨き粉は使用可能
インプラントを持つ方々の中には、「フッ素入りの歯磨き粉がインプラントに悪影響を及ぼすのではないか」と懸念する声があります。インプラントに使用されるチタンは安定した素材ですが、高濃度のフッ素に反応する可能性があるからです。 しかし、市販されている歯磨き粉のフッ素濃度は、インプラントに使用しても問題がないレベルとされています。日本で一般に販売されている歯磨き粉のフッ素濃度は1,000〜1,500ppm程度で、この濃度であれば日常的に使用してもインプラントが痛んだり腐食したりすることはありません。
フッ素は歯質を強化し、むし歯の原因となるバクテリアの活動を抑えることで、むし歯の予防に役立ちます。さらに、初期のむし歯を修復する効果も期待できるため、むし歯リスクが高い人は、フッ素を含む歯磨き粉を積極的に使用することをおすすめします。
歯磨き粉に迷ったら歯科医師に相談しよう
ここまでに歯磨き粉の選び方についてのポイントを述べてきましたが、市販品の歯磨き粉は多くの種類があります。
そのため、適切な歯磨き粉の選択に迷った場合、まずは受診している歯科医院の歯科医師や歯科衛生士に相談するとよいでしょう。
インプラントのある方は、インプラントと天然歯の両方を保護するために、適切な成分を含む歯磨き粉の使用が重要となります。
たとえば、歯周病のリスクが高い方には、抗炎症作用や殺菌作用を持つ成分が含まれた歯磨き粉が推奨されることがあります。一方で、むし歯が心配な方には、フッ素配合の歯磨き粉が有効とされています。歯科医師や歯科衛生士は、個々の健康状態や口内環境に基づいた歯磨き粉を教えてくれます。
インプラント治療段階別の歯磨き方法
インプラントの治療は、仮歯期間・人工歯(上部構造)装着後・治療完了後の段階に合わせた歯磨きの方法を行うことが大切です。
適切なケアを行うことで、インプラント周囲の組織が健康に保たれ、インプラントが安定した状態になるまでの回復を助けます。
治療段階別の歯磨き方法について、以下に解説します。
仮歯期間
インプラントの治療を受けている方が仮歯を使用している期間は、仮歯が使える状態ではありますが、インプラント埋入部はまだ完全には固まっておらず、デリケートな口内環境です。
歯ブラシ選びのポイントでも述べたように、硬いブラシや強い力で磨くと、インプラント部位に不必要な圧力をかけ、傷口の開きや出血・炎症を引き起こす原因となるため、合わせて注意することが大切です。食事後には、こまめにうがいをして、食べ物の残りかすや糖分が残らないように、口の中を清潔に保つことが重要です。
そのほかに、刺激の強い歯磨き粉やデンタルリンスの使用は避けるべきです。これらのケア製品は、仮歯やインプラントの周囲の敏感な組織を刺激し、不快感や炎症を引き起こすことがあります。
人工歯装着後
インプラントの治療で人工歯(上部構造)が装着された後は、患者さんは日常生活においてより快適に食事ができるようになります。しかし、この時期はインプラントの周囲がまだ安定しておらず、手術直後は歯肉が腫れやすく出血しやすい状態です。そのため、人工歯(上部構造)への負担を抑えることが重要です。
人工歯(上部構造)を装着した直後は、優しく歯磨きをするようにしましょう。力を入れすぎず、歯と歯肉を優しくなでるような感覚で磨くとよいでしょう。また、歯間ブラシやフロスを使用する際も、同様に慎重に扱い、歯肉への強い刺激に注意してください。
この時期には、仮歯期間と同様にアルコールや強い香料が含まれていない、優しい成分の歯磨き粉やデンタルリンスが適しています。歯科医師の指導に従い、適切な口腔ケアを行いましょう。
治療完了後
治療が完了したインプラントは、ほかの天然歯と同じように口腔ケアを行えるようになります。しかし、インプラント周囲炎やインプラント周囲粘膜炎など、特有の問題に注意を払う必要があります。
そのためには、日々の歯磨きはもちろん、歯間ブラシやデンタルフロスを使用して歯間部分の清掃も忘れずに行うことが大切です。日常生活の中で適切なケアを行い、健康な口内環境を保ちましょう。
また、自宅でのケアだけでなく、定期的に歯科医院へ通院し専門的なチェックを受けることも重要です。次の「歯科医師で行われるメンテナンス」では、歯科医師による診察やクリーニングについて詳しく解説します。
歯科医院で行われるメンテナンス
インプラント治療では、歯科医院で定期的なメンテナンスを行うことが推奨されています。 ここでは、歯科医院で行われているメンテナンスについて解説します。
噛み合わせや歯茎のチェック
インプラントの維持には定期的なメンテナンスが不可欠です。歯科医院での定期検診では、口内の健康状態全般をチェックし、インプラントの安定性や周辺の歯茎の健康に重点を置いて評価が行われます。
まず、インプラントのぐらつきがないかどうかと歯茎の炎症の有無を確認します。これにより、インプラント周囲炎などの初期の問題を見つけ出し、適切な対策を講じます。また、歯と歯茎の間にある歯周ポケットの深さを測定することで、歯茎の健康状態を評価します。
噛み合わせのチェックも重要なポイントです。不適切な噛み合わせは、インプラントに余計な負担をかけ、その寿命を縮める原因になります。歯科医師は、色付きのカーボン紙を使用して噛み合わせを試し、必要に応じて調整を行います。
歯磨き指導
歯科医院での定期的なメンテナンスには、歯科衛生士による詳細な歯磨き指導が含まれます。この指導では、個々の口内状態に合わせた歯磨き方法や歯間ブラシ、デンタルフロスの使用方法が教えられます。
主に、磨き残しが発生しやすい部分の特定とその改善方法に焦点を当てることで、インプラントや天然歯の健康を長期にわたり保ちます。また、自宅での口腔ケアに使用する具体的な製品の提案も行われる場合があります。
歯磨きの技術を向上させることは、口腔内の清潔を保ち、歯周病やインプラント周囲炎などのリスクを減らすのに役立ちます。
歯のクリーニング
歯科医院で行われるPMTC(プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング)は、専用の機器を使って通常の歯磨き方法では除去できない歯垢やバイオフィルムを取り除く方法です。落としきれない汚れがある場合、人工歯(上部構造)を取り外しての洗浄作業が行われることもあります。
自宅での日常的なケアだけでは十分ではないため、定期的に歯科医院での専門的クリーニングを受けることが推奨されます。
適切な歯磨きでインプラントを長持ちさせよう!
ここまで述べてきたように、インプラント治療後の適切なケアは、長期にわたるインプラントの健康と機能を維持するために重要です。なかでも日常の歯磨きは、インプラント周囲炎などの問題を防ぎ、口腔内を清潔に保つ基本的なケアとなります。
日々の歯磨きを適切に行うことや使用するケア用品の見直し、定期的な歯科医院でのメンテナンスにより、インプラントはより長く機能を維持し、快適な口腔環境を維持していけるでしょう。
まとめ
ここまでインプラントの歯磨きについてお伝えしてきました。インプラントの歯磨きの要点をまとめると以下の通りです。
- インプラント自体はむし歯になることはないが、インプラント周囲粘膜炎やインプラント周囲炎といった病気に罹患しインプラントが脱落するリスクがあるため、歯垢や細菌の増殖を抑えるための日常の歯磨きが重要
- インプラント治療における歯磨きのポイントは、正しい歯ブラシと歯磨き粉を使用し、治療段階別で歯磨き方法を変えること
- インプラントを長持ちさせるためには、日々の歯磨きに加えて歯科医院での定期的なメンテナンスで口腔内の状況を診察し早期に対策することが大切
インプラントの寿命は、日々の歯磨きと定期的なメンテナンスに左右されます。インプラントを長く維持できるように、適切な口腔ケアを行いましょう。 最後までお読みいただき、ありがとうございました。