インプラント

切らないフラップレスインプラントとは?メリット・流れ・注意点

切らないフラップレスインプラントとは?メリット・流れ・注意点

インプラントとは顎骨に土台を立て、人工歯を取り付ける治療方法です。インプラントは自然歯に近い機能や、見た目の回復を目指せる治療法として注目を集めています。

しかし一般的なインプラント治療には切開を伴う外科手術が必要となり、体力に不安がある患者さんにはネックとなっていました。

そこで紹介したいのが切開することなくインプラントにできる、フラップレスインプラントです。今回の記事では治療の流れ・費用相場・メリットを解説します。

切らないフラップレスインプラントの流れ

治療中

切らないフラップレスインプラントについて教えてください。
切らないフラップレスインプラントとは、歯茎を切開することなくインプラントを取り付ける手術方法です。フラップとは口内の骨や歯を覆う組織の総称です。お口を開けた時に見える、歯茎を含むピンク色の部分といえばわかりやすいでしょう。特にインプラント治療では骨を覆っている組織、粘膜骨膜弁を指します。フラップレスインプラントではフラップを切開することなく、歯肉パンチで穴を開けるのみでインプラント装置を取り付けることができます。2000年代後半頃から歯科医療業界では、患者さんの治療に関わる負担を減らす、患者さん中心の低侵襲治療の追求が主流です。この背景から患者さんの身体的負担を大きく軽減できるフラップレスインプラントは、拡がりをみせている治療法です。
一般的なインプラント治療との違いを教えてください。
一般的なインプラント手術ではフラップを切開して顎骨の一部を露出させ、そこにドリルで穴を開けて土台となるインプラント体を立てます。術後には当日〜翌日をピークに1週間程度、頬部・顎下部に痛み・腫れや発熱などの症状が出ます。しかしフラップレスインプラントならばCT情報をもとに作製したガイドを使い、フラップを切開することなくインプラント手術することが可能です。そのため一般的なインプラント手術よりも、術後の症状を軽減できます。つまりフラップレスインプラントを選択すると一般的なインプラントと比べ、手術に伴う侵襲性・身体的負担を軽減できるようになります。
一般的なインプラント治療と費用面の違いはありますか?
フラップレスインプラントは一般的なインプラントよりも高額になる傾向があります。一般的なインプラント1本分治療費用の相場は、30万〜50万円(税込)程度です。対してフラップレスインプラント1本分治療費用の相場は、40万〜45万円(税込)程度といわれます。ただしどちらの治療法を選んでも患者さんの口腔内環境や治療箇所などによって、治療費用は大きく変動すると理解しておきましょう。歯科医院で提示された治療費用に疑問を感じる場合は、担当の歯科医師に説明を求める・ほかの歯科医院でも相談する・セカンドオピニオンを受けるといった選択肢があります。インプラント治療ではトラブルを避けるためにも、患者さんの理解や納得をえるため歯科医師が丁寧な説明を行う、インフォームドコンセントが強化されています。患者さんは疑問点や納得いかない点があれば、遠慮せず歯科医師に説明を求めましょう。
フラップレスインプラントの治療の流れを教えてください。
フラップレスインプラントの治療ではまずCTで治療箇所を撮影します。次にCTでの撮影データをもとに、インプラントシミュレーションソフトウエアで手術シミュレーションを行います。その結果を用いれば、コンピュータが治療に必要なガイド(サージカルガイド)を設計・生産することが可能です。マウスピースのような形状のガイドを口腔内にはめ込むと、ドリルを差し込む角度を正確にガイドしてくれます。ドリルで開けた穴にインプラント装置を取り付けて、手術は完了です。術後は経過を観察しながら、3ヵ月〜半年の頻度で歯科医院でのメンテナンスとクリーニングを継続します。フラップレスインプラントを支えるのが、コンピュータ支援技術であることがわかるでしょう。このようなCT画像を用いたコンピュータ支援技術は年々拡がりをみせています。
フラップレスインプラントの治療期間はどのくらいですか?
フラップレスインプラントの治療期間は、一般的なインプラントの治療期間よりも短くなる傾向にあります。一般的なインプラントの治療期間は下顎で3ヵ月程度上顎で6ヵ月程度とされます。ここで一般的なインプラントの治療の流れを確認しましょう。
  • 相談・カウンセリング
  • お口の中の全体の検査
  • 抜歯・歯周病治療・むし歯治療など
  • エックス線撮影、血液検査
  • 手術(1回法)
  • 抜歯

上記の流れは、顎骨の骨量と骨の硬さがしっかり確保できている患者さんが1回法でインプラント治療を行ったときの流れです。患者さんの顎骨の量と硬さが不足するときは、骨移植を行ったり手術を2回法に変更したりと治療ステップの追加があり、治療期間も長くなります。対してフラップレスインプラントの流れは以下のようになります。

  • 相談・カウンセリング
  • お口の中の全体の検査
  • 抜歯・歯周病治療・むし歯治療など
  • エックス線撮影、血液検査
  • 手術(フラップレス)

フラップレスインプラントはそもそも患者さんの骨量と骨の硬さが十分にある前提で選択されるため、骨移植の追加・2回法への変更はありません。また切開をしていないため抜歯も不要となり、患者さんの通院回数も減ります。

切らないフラップレスインプラントのメリット・注意点

治療説明中

フラップレスインプラントのメリットを教えてください。
一般的なインプラントと比べた、フラップレスインプラントのメリットは以下のとおりです。
  • 手術の身体的負担が少ない
  • 治療期間が短い
  • 術後の痛み・腫れが少ない

各項目の詳細は今回の記事内で解説しています。フラップレスインプラントは一般的なインプラントよりも身体的な負担が少ないため、高齢や基礎疾患といったハンディキャップを持った患者さんの選択肢にもなりつつあります。

フラップレスインプラントにデメリットはありますか?
低侵襲が魅力のフラップレスインプラントにも、デメリットがあります。
  • コストが高い
  • 診査結果によっては受けられない
  • 先進的な医療設備が必要となる
  • 歯科医師の経験・技術が必要となる

フラップレスインプラントの治療はコストがネックになるうえに、条件が揃わなければ受けられないことがわかります。まずは患者さんが通える範囲に、フラップレスインプラントが可能な歯科医院があるかを確認しましょう。

治療を受けるにあたっての注意点を教えてください。
フラップレスインプラントには知っておきたい注意点があります。それはフラップを切開しないため、歯科医師が治療前と治療中に骨の状態を肉眼で確認できなくなる点です。熟練した技術を持つ歯科医師が、細心の注意を払って手術にあたらなければ、以下のような偶発症を起こすリスクがあります。
  • 骨穿孔(こつせんこう)
  • 血管損傷
  • 神経損傷

骨穿孔とは文字どおり、骨に穴を開けてしまうことです。フラップレスインプラントを検討するときには、丁寧な検査でリスク回避してくれる先生や、経験豊富な先生にお願いしたいものです。

フラップレスインプラントを受けられないケース

ドクターストップ

フラップレスインプラントの治療に向いている人を教えてください。
以下ではフラップレスインプラントの治療に向いている人を紹介します。
  • 切開手術に恐怖心を感じる人
  • 持病・年齢などから手術の身体的負担を抑えたい人
  • 短い治療期間でインプラントにしたい人

フラップレスインプラントの治療を選ぶとコストがかかりますが、侵襲性・身体的負担・治療期間を抑えたインプラント治療が可能です。そのため侵襲性・身体的負担・治療期間などがネックになってインプラント治療に踏み出せない人にもおすすめできます。

治療を受けられないケースもありますか?
フラップレスインプラントの治療を受けられない場合もあります。術前の診査で患者さんの骨量や骨の硬さ、顎骨の形態に問題があると判明した場合です。フラップレスインプラントでは手術で装置を埋め込んだ時、しっかり受け止めて固定できる丈夫な顎骨が必要となるためです。

編集部まとめ

自身のある女性

フラップレスインプラントはCT画像とコンピュータ支援技術を用いた、低侵襲の治療方法です。

コンピュータで行ったシミュレーションをもとにガイドを作るため、歯茎を切開せずともインプラント体を埋め込むための正確な穴を顎骨に開けることが可能です。

手術に伴う身体的な負担が軽減されるうえに、治療期間も短くなるメリットがあります。

一方でコストが大きく、先進的な治療法であるため実施できる歯科医院・歯科医師が限られるというデメリットがあります。

年齢・基礎疾患の問題で外科手術に耐えられる体力がない患者さんに、新たな選択肢として確立されようとしている治療方法です。

参考文献

この記事の監修歯科医師
遠藤 眞次医師(グランメゾンデンタルクリニック)

遠藤 眞次医師(グランメゾンデンタルクリニック)

長崎大学歯学部を卒業後、東京と群馬の歯科医院で分院長を歴任。臨床のかたわら、歯周治療やインプラント治療についての臨床教育を行う「Dentcation」の代表を務める。他にも、歯科治療のデジタル化に力を入れており、デジタルデンチャーを中心に、歯科審美学会やデジタル歯科学会等で精力的に発表を行っている。

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長崎大学歯学部を卒業後、東京と群馬の歯科医院で分院長を歴任。臨床のかたわら、歯周治療やインプラント治療についての臨床教育を行う「Dentcation」の代表を務める。他にも、歯科治療のデジタル化に力を入れており、デジタルデンチャーを中心に、歯科審美学会やデジタル歯科学会等で精力的に発表を行っている。

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