歯を失った人にとって、インプラントは希望ともいえる治療です。まるで天然の歯のように感じられるインプラントは、噛み応えもよく審美面も美しく、歯を失った方にとって魅力的な治療方法です。
ですが、複数の歯を失った人にとって気になるのは治療費でしょう。近年では、4~6本のインプラントで上か下の片顎すべての歯列を治療できるオールオン4という方法が存在しています。
オールオン4とは一体どのような治療法なのか、そして顔が変わるといわれる理由などについてまとめました。インプラント治療に興味はあるけど、高額な治療費が気になる人はぜひ読んでみてください。
オールオン4とは
オールオン4とは、4本のインプラントで片顎の前歯から奥歯までの全歯列を支える手術です。総入れ歯が合わない、もしくは多くの歯を失った人に適した治療方法です。
それだけではなく、通常のインプラント治療と比べて価格面も抑えられる点も魅力でしょう。歯を失った人にとって、インプラントは非常に便利な手術です。
入れ歯と異なり噛み応えが良く、まるで天然歯のように感じられるインプラントは歯を失った患者さんにとって貴重なものといえるでしょう。
ですが、インプラントは自由診療であり、一本埋めるだけでもかなりの治療費がかかります。特にたくさんの歯を失った人が、失った歯のすべてをインプラントに置き換えた場合、それだけ治療費がかかるようです。
ほかにも以下のようなデメリットがあります。
- インプラントの本数が多い程治療費がかさむ
- インプラントの本数に応じて手術の回数もかさむため体力的な負担が大きい
- インプラントを多数埋め込むことで隙間がなくなり、血行が悪くなるなど成功率が下がるケースがある
- 手術をしてから歯が入手できるまで何ヵ月も待つ必要がある
- 歯槽骨の厚みが十分にないと骨造成という別の手術が必要だったり、手術自体を断られたりするケースもある
オールオン4は、長年インプラント治療に取り組んできたスウェーデンのノーベルバイオケアという会社が開発し商標登録した商品名であり、以下のような特徴があります。
- 4本のインプラントで上顎か下顎の全歯列を支えるため体や金銭面での負担が軽い
- 4本のインプラントは歯槽骨の厚みのある部分を選んで埋め込むことができるため、基本的に骨移植の必要がなく骨の薄い方でも治療が可能な場合が少なくない
- 手術したその日から仮歯を入れて食事ができる
歯槽骨の状態によっては、手術した日は仮歯の装着ができないケースもあるようです。ご自身の歯の状態を歯科医師によく診てもらうといいでしょう。
このほか、入れ歯とオールオン4との違いも明確にあります。
- 入れ歯と異なり人工歯が動いたり外れたりする心配がない
- 歯茎を覆わないため違和感が少なく、発音のしづらさを感じることが少ない
- 固定式であり食後に外して洗浄する必要がない(定期的に歯科医院で人工歯を取り外して洗浄する必要性あり)
- 入れ歯にありがちな口臭も少ない
骨が溶けて減ってしまうことを骨吸収と呼びます。入れ歯の場合、噛む力を負担するのは顎の骨とその上を覆っている粘膜になります。そのため、合わない入れ歯を使い続けていると歯槽骨が吸収されるそうです。
そして、一度骨吸収された歯槽骨をもとに戻すのは基本的に難しいとされています。その点、オールオン4はグラつきがほとんどなく、歯槽骨の吸収もほとんど起こりません。
なお、口腔内の環境には個人差があります。歯槽骨がすり減っていることなどが原因で4本のインプラントでは支えられない場合には、6本のインプラントを埋め込むこともあるようです。
オールオン4の仕組み
オールオン4は、4~6本のインプラントを顎の骨である歯槽骨に埋め込み、その上に被せ物を装着して片顎の全歯列を支える仕組みです。通常のインプラント同様にしっかり固定されるため、入れ歯よりも噛み応えがよくガタつきにくいのが特徴です。
また、奥歯のインプラント体は歯槽骨に対して斜めに埋め込みます。こうすることで、噛む際の力を顎全体に配分させることができてより安定感が増すため、少ないインプラントでも全歯列を支えられます。
治療方法
治療方法として以下の流れが一般的です。
- 麻酔を打つ
- 歯茎を切開して歯槽骨を削って平らに均す
- インプラント体を埋入する
- 歯茎を縫合して仮歯を装着、切開した歯茎がくっつくのを待つ
- 歯茎がくっついたら抜歯し、再び仮歯を装着する
- 仮歯装着から3~6ヵ月後に仮歯を取り外し、最終的な人工歯を装着する
上記のとおりインプラントの本数は4~6本と少なく、手術時には麻酔もかけるため腫れや痛みを極力抑えることができます。なお、場合によって痛み止めが処方されることもあるようです。
負担が少ないため、高齢者の方や体力の弱っている方でも向いている治療方法といえるでしょう。
費用相場
オールオン4は自由診療となり、健康保険の適用外となります。片顎の全歯列をオールオン4に変えた場合、かかる治療費は3000,000円(税込)前後のようです。
インプラントの治療の場合は1本あたり300,000円(税込)程度かかることが少なくなく、片顎の全歯列を治療するとオールオン4の方が安く済む傾向にあるようです。ただし、患者さんの顎の状況によって治療費は変動するため、ご自身の治療費がいくらかかるかについては歯科医院へご相談ください。
また、歯科医院によってはデンタルローンを受けることもできます。その他、高額な医療費の場合に医療費控除が受けられるケースもあります。
医療費控除は1年間に支払った医療費が100,000円以上の場合に、支払った所得税の一部が戻ってくる制度です。医療費控除は以下のような特徴があります。
- 1月1日から12月31日までの1年間で、税金を納める本人と生計を一にする親族が支払った医療費が10万円を超えた場合
- 確定申告をすることで、最大2000,000円まで所得税の還付が受けられる
制度の詳細については、国税庁のホームページをご確認ください。
オールオン4にすると顔が変わる?
オールオン4の魅力は、通常のインプラントよりも治療費が安く済むことだけではありません。オールオン4を装着することで、表情が明るく変化することが魅力と感じる人も少なくないでしょう。
なぜ明るくなるのか、それは以下の点にあるといわれます。
- 顔の印象が変わり、口元が若々しくなること
顎の骨がなくなるというのは、顎の骨が吸収されて厚みをなくすことを意味します。顎骨の吸収ともいわれますが、人の体は合理的にできており、使わなくなった骨は簡単に縮小するそうです。
上下の歯がなくなることで顎の骨に噛むという刺激が伝わらなくなります。刺激が伝わらなくなると、人の体は顎の骨が必要なくなったと判断し、体内に吸収されていくようです。
顎骨の吸収は、顔全体の輪郭を変化させます。顔の骨が縮小することで顔が弛んだり、しわが増えたりなど表情すらも変化させ、これによって老けて見えるそうです。
オールオン4の手術は、歯槽骨に直接固定させるため噛む刺激がダイレクトに顎骨に伝わります。そのため、顎骨の厚みが吸収されたり輪郭が変化したりなどは起きにくいとされています。
オールオン4の術後に顔が変わる理由
オールオン4では前述したとおり、顎骨が鍛えられるために顔が変わる可能性があります。どのように変化するのか、見てみましょう。
よく噛めるようになり表情筋が鍛えられる
まず挙げられるのは、表情筋が鍛えられる点です。表情筋は口腔周辺に分布している筋肉ですが、オールオン4は歯槽骨に直接固定されるので、表情筋にも刺激が伝わり筋肉を鍛えられます。
歯が入ることで若く見える
歯が入ることで若々しく見えることも、オールオン4を取り入れることのメリットでしょう。歯を失った方のなかには高齢者も少なくなく、歯がないとそれだけでどうしても、歳を重ねたように見えてしまいがちです。
実年齢よりも老けて見える可能性すらありますが、オールオン4で人工歯を装着することは、見た目が若々しく見えることに貢献するでしょう。
自信を持って笑えるようになり表情が明るくなる
メラビアンの法則に代表されるとおり、人は元来、他者からどう見られているかを気にする生き物です。歯がない状態では失いがちだった自信も、オールオン4により再び自信を取り戻すことができるかもしれません。
自信を取り戻した結果、表情が明るくなることもあるでしょう。
オールオン4のメリット
オールオン4治療を行うことによるメリットは何があるのでしょうか。以下のとおり、まとめました。
よく噛めるようになる
インプラントを歯槽骨にしっかりと固定させるため、入れ歯と異なり安定感があります。食事の際にグラグラすることが少なく、擦れて痛くなることが少ないです。
お口を大きく開けた際にポロッと落ちてしまうこともありません。
会話がしやすくなる
会話がしやすくなる点も、オールオン4の特徴です。入れ歯の場合はぐらついたりなどで発音がしにくいことがありますが、オールオン4はしっかり固定させるため、発音のしづらさを感じることも少ないでしょう。
顎の骨の吸収が抑えられる
前述したとおり、顎の骨は上下の歯が噛み合うことで刺激を受け、健康な状態を保っています。噛み合うことがなくなると刺激を受けなくなり、骨が吸収されてしまうそうです。
入れ歯の場合は骨の吸収を抑えることは困難とされていますが、オールオン4は骨の吸収を抑える効果が期待できます。骨は基本的に、吸収されるともとに戻すことができないので、この点でもオールオン4はメリットが大きいといえるでしょう。
短い治療期間で歯が入る
通常のインプラント治療では、歯ごとにインプラント体を埋め込む必要があるため治療期間も長くなりがちでした。
オールオン4では4~6本程度しか埋め込まないため、治療期間が短い傾向にあります。また仮歯の装着も手術を受けたその日や翌日に行えるケースも少なくないそうです。
インプラントよりも費用が安い
インプラントの場合、一本埋めるだけでもかなりの治療費がかかるため、何本もの歯をインプラントに置き換えた場合にかかる治療費はかなりのものになります。
それに対してオールオン4では、4本〜6本のインプラントを埋め込むので治療費はインプラントよりも安く済む場合があります。
オールオン4のデメリット・リスク
オールオン4にはデメリットも存在します。まず、オールオン4を行った場合、インプラントと異なりネジ穴が外から見えます。4本の支えを歯の上から行うため、特に奥歯は歯の上からネジで押さえます。
前歯については歯の裏側よりも奥にネジを刺すため目立ちにくいですが、奥歯は一般的に歯の中心にネジを刺すことが少なくありません。そのため、歯を上から見たときにどうしてもネジ穴が見えてしまいます。
その他、以下のデメリットがあります。
治療による痛み・腫れ・出血の可能性
オールオン4の治療時における痛みや腫れ・出血の可能性はあるでしょう。これはオールオン4を取り付ける際、歯茎を切開したり歯槽骨にネジを埋め込んだりする際に、骨などの組織が損傷を受けるためです。
ですが、手術時には麻酔をかけ、また術後も痛み止めを処方してもらうことも少なくありません。そのため、痛みや腫れもさほど気にならないというのが通例のようです。
個人差はありますが、手術後1週間程度で痛みや腫れも引いてくるでしょう。
インプラント周囲炎のリスク
歯槽骨が吸収される1番の理由は、歯周病といわれています。インプラントはチタンでできていることが少なくなく、それ自体が歯周病になることはありません。
ですが、歯茎のなかに埋入するインプラント周辺は汚れが付着しやすく、常に歯周病のリスクにさらされています。付着した汚れが炎症を起こすと、インプラント周囲炎を起こすこともあります。
インプラント周囲炎になると歯茎を弱らせてしまったり、場合によってはインプラントを脱落させたりもするそうです。オールオン4手術を受けた後は、歯ブラシや歯間ブラシなどを使って毎食後の丁寧なメンテナンスを怠らないようにしましょう。
また、磨きすぎもご用心です。歯磨きにかける時間は10〜15分程度がよいとされています。
定期的なメンテナンスが必要
オールオン4は定期的に、歯列を取り外してメンテナンスを行う必要があります。これは人工歯のみを埋め込むインプラントと異なり、人工歯だけでなく歯茎の一部も取り付けるオールオン4の場合は食べかすなどが付着しやすいためです。
毎食後の丁寧な歯磨きでは落としきれない歯垢や汚れが生じてしまうため、歯科医院にてオールオン4を取り外して洗浄してもらいます。取り外しと洗浄は自分自身ではできず、また欠かすことのできない大切な作業なので、歯科医院へ定期的に通うようにしましょう。
オールオン4の治療ができないのはどのような人?
大変便利なオールオン4ですが、人によってはその治療ができない人もいるようです。
オールオン4によって人工歯を手に入れても、人工歯の装着前にあったわずかな天然歯にあるむし歯や、歯槽骨にある歯周病などは人工歯の安定性を低下させます。
特に歯周病は歯槽骨を溶かし、歯髄にある血管を通して体全身に細菌を行き渡らせてしまう可能性があります。その結果、全身疾患に陥ることも珍しくありません。
そのためにまずは、むし歯や歯周病を治してからオールオン4手術を受けましょう。
また、歯槽骨が満遍なく薄い人や脆い人も要注意です。オールオン4は骨の厚いところを狙って手術ができますが、どこを選んでも薄い人や、骨粗鬆症など骨が脆い人の場合は手術できない可能性があります。
近年では骨造成や骨移植によって手術が可能となるケースもありますが、高い技術が必要となるため専門知識や技術を有する歯科医師のもと、治療を受けることが望ましいです。
その他、未成年など顎骨が成長段階にある方もオールオン4を初めとしたインプラント治療自体が受けられない可能性が高いです。糖尿病・高血圧など全身疾患を患っている方も、まずはこれらを治療してからオールオン4手術を受けた方がいいでしょう。
糖尿病や高血圧がコントロールできている場合はオールオン4手術を受けられるケースもあるようなので、歯科医師へご相談ください。
また、オールオン4に似たものとしてロケーター義歯があります。特徴として以下があります。
- 2本のインプラントで支えるためオールオン4よりも治療費が少なく済む可能性がある
- ボタン式なので取り外しが用意
- 入れ歯よりしっかり固定されておりグラつきにくい
ロケーター義歯はロケーターインプラントとも呼ばれています。オールオン4は4本のインプラントで片顎の歯列を支える仕組みですが、ロケーター義歯はロケーターと呼ばれる留め具を使用しインプラント体と入れ歯を固定します。
また、オールオン4はインプラントをネジで止めていますが、ロケーター義歯はボタンのようなもので固定されています。オールオン4との違いとして以下があります。
- 2本のインプラントで支えるため、手術時の負担はオールオン4よりも軽く済む可能性がある
- 治療費がオールオン4よりも安価な可能性がある
- 留め具で留めるだけなのでオールオン4よりは固定性が低くなりがち
- 審美面はオールオン4の方がより優れている
ロケーター義歯のメリットはさまざまあります。気になる方は歯科医師へ相談してみてください。
まとめ
オールオン4は安価な治療費でインプラント治療ができる魅力的な治療方法であり、表情も明るくなるなど効果が期待できる治療方法です。
しかしながら通常のインプラント同様、むし歯や歯周病の懸念がある方や、歯槽骨が薄い方も治療を受けられないケースがあります。
ご自身の歯の状態がどうなっているのか、まずは歯科医師へ相談してみることをおすすめします。
参考文献