インプラント治療は、外科的手術を伴います。安全性の高い治療を行うためにも全身の状態を確認しなければいけません。
手術を行う前に、持病があるかどうか、服用している薬があるかどうかの確認はとても重要です。
歯科医師と、薬を処方している担当医師との連携が必要な場合もあります。
この記事では、インプラントの手術前に確認が必要な薬や、手術後に処方される薬などを解説します。
インプラントを検討中で、持病があり薬を服用中の方は、ぜひ最後までお読みいただき参考にしてください。
インプラント手術前に服用の確認が必要な薬と注意点
服用している薬がある場合は、インプラント治療の前に、歯科医師に薬の内容を伝えるようにしましょう。自己判断で薬の服用を中断しないようにしてください。
お薬手帳の持参、またはマイナンバーカードにより薬剤情報を提供すると便利です。
また、手帳には記載されていない注射投与もあるので、注射を受けている場合はその旨を歯科医師に伝えてください。
薬の種類などにより、歯科医師とかかりつけ医師の両者の連携が必要な場合がありますが、ほとんどの場合インプラント治療は可能です。
降圧剤
高血圧の薬を服用している患者さんは、少なくありません。高血圧など心疾患のある患者さんの場合、血圧の状態や服用している薬の情報が必要です。
患者さんも含め歯科医師とかかりつけ医師の三者で情報を共有し連携することが重要です。
インプラント手術のとき、不安や緊張などにより血圧が上昇する場合があります。バイタルサインを確認しながら、手術が行われます。
抗凝固剤
アスピリンなどの血液をサラサラにする抗血板剤や抗凝固剤を服用されている方は、出血を伴う手術の際に血液が止まりにくくなることがあるので注意が必要です。
そのため、インプラント手術前に薬の内容や用量を確認して手術する必要があります。
以下は、抗凝固剤の代表的な薬です。
- ワルファリンカリウム(ワーファリン)
- プラザキサ
- リクシアナ
- イグザレルト
- エリキュース
次に、抗血小板薬の代表的な薬です。
- アスピリン(バイアスピリン、バファリン)
- 塩酸チクロピジン(バナルジン)
- ジピリダモール(ペルサンチン)
- シロスタゾール(プレタール)
- イコサペント酸エチル(エパデール)
- トラピジル(ロコルナール)
- 塩酸サルポグレラート(アンプラーグ)
- ベラプロストナトリウム(ドルナー、プロサイリン)
- クロピドグレル(プラビックス)
これらの薬を中断してしまうと、脳梗塞や血栓塞栓症のリスクが高まります。
服用を継続したままインプラント手術を行った場合の出血リスクと、服薬中断した場合の血栓症リスクを比べてみましょう。服薬中断による重篤な血栓症リスクの方が生命の危険に関わるため、できるだけ服薬の中断は行いません。
ビスフォスフォネート製剤
骨粗しょう症の治療薬のひとつに、ビスフォスフォネート製剤があります。代表的な薬は、以下のとおりです。
- アレンドロン酸ナトリウム水和物(フォサマック錠、ボナロン錠・経口ゼリー・静注バッグ)
- イバンドロン酸ナトリウム水和物(ボンビバ錠・静注シリンジ)
- エチドロン酸二ナトリウム(ダイドロネル錠)
- ゾレドロン酸水和物(リクラスト静注液)
- ミノドロン酸水和物(ボノテオ錠、リカルボン錠)
- リセドロン酸ナトリウム水和物(アクトネル錠、ベネット)
ビスフォスフォネート製剤を服用している人が抜歯や外科的手術をした場合、顎骨壊死の可能性があります。
そのためビスフォスフォネート製剤の服用中に歯科処置が必要になった場合は、休薬するかどうかなどの考慮が必要となります。
また骨が頑丈な方がインプラント手術では臨床成績がよいため、骨粗しょう症の罹患はリスク因子です。
しかし骨粗しょう症の方でも、骨結合しやすいインプラント体の使用や、埋込方法の検討などによりインプラント手術が可能です。
インプラント手術後に処方される薬と副作用
インプラント手術後に処方される薬は、主に鎮痛剤と抗生物質です。
鎮痛剤は痛みがあるときだけ服用しますが、抗生物質は処方された1日の服用回数・錠数・服用日数をきちんと守る必要があります。
鎮静剤
インプラント手術は、歯茎を切開し、骨にインプラント体を埋入する手術です。
患者さんの痛み・不安・恐怖心を抑えるために麻酔は必要不可欠です。麻酔には、局所麻酔・全身麻酔・静脈内鎮静法(セデーション)があります。
このうち、静脈内鎮静法は、手術時の不安・恐怖・緊張感を緩和し、リラックスした状態でインプラント手術を受けられる方法です。
うたた寝をしているような状態で手術を受けられますが、鎮静剤には痛みを抑える作用がないため局所麻酔との併用が一般的です。
鎮静剤と麻酔薬の併用により、眠気やふらつきが起きることも少なくありません。そのため、手術後は車の運転など行動に制限がかかります。
また、麻酔が切れた後は痛みが出るため、鎮痛剤が処方されます。
痛みは数日で治まることがほとんどです。痛みがある場合は鎮痛剤を服用しましょう。
抗生物質
インプラント手術後、インプラントを埋入した部分から細菌が入り歯茎が化膿する場合があります。
細菌による感染を防ぐために、インプラント手術後、抗生物質が処方されます。
処方された抗生物質はすべて服用することが大切です。痛みや腫れがなくなったからといって、途中で服用を中断しないようにしてください。
抗生物質による副作用は、主に下痢症状です。服用する日数は数日なので、軽い下痢症状であれば最後まで飲み切るようにしてください。
ただし、日常生活に支障をきたすような場合は、抗生物質を変更する場合もあるため、歯科医師に相談しましょう。
消炎酵素剤
消炎酵素剤は、炎症を抑える薬として以前はよく使用されていました。鎮痛剤や抗生物質と併用します。
なかでも塩化リゾチーム製剤は、卵白の成分が入っているため卵アレルギーの方は注意が必要です。
しかし、厚生労働省の再評価の結果、十分な効果が認められず2016年に販売が中止されました。
インプラント治療に注意が必要なケース
高血圧・心疾患・骨粗しょう症・糖尿病などの持病がある方は、インプラント治療を受ける際に注意が必要です。
また、歯周病があるとインプラント周囲炎のリスクが高まるため、治療が終了し口腔内環境が健康な状態になってから、インプラント治療を行います。
糖尿病など持病がある
糖尿病などの持病がある方は、インプラント治療前に歯科医師に相談してください。
薬の服用がなくても、持病により体の機能が低下していると、手術中の麻酔薬や手術後の鎮痛剤や抗生物質の服用で影響を及ぼす場合もあります。
糖尿病の患者さんは、手術後の傷の治りが悪く感染のリスクが増します。
また、骨を作る細胞の機能や数が低下して骨結合ができない可能性があり、治療後にはインプラント周囲炎を起こしやすくなります。
内科的な治療が行われ血糖値が良好にコントロールされている場合、歯科治療はほとんど問題がありません。
しかし、コントロール不良の場合、傷の治りが悪く口腔内の細菌感染に対する抵抗力が弱いためコントロールされるまで治療は延期します。
妊娠中
インプラント治療はレントゲンやCT撮影が必要なため、妊娠中は胎児への影響を考慮し、できるだけ妊娠中をさけて治療を行います。
妊娠中にインプラント治療を行うリスクは次のとおりです。
- レントゲンやCTによる胎児への影響
- 治療中の仰向けの状態による負担
- インプラント治療中の出血とそれに伴う早産のリスク
- つわり中の妊婦さんの負担
- 麻酔薬や手術後の服薬によるリスク
- 通院による疲労とストレス
手術中、仰向けで長時間お口を開けることは、妊婦さんにとって大きな負担です。
また、手術時には麻酔を使用し術後には鎮痛剤や抗生物質などの薬も処方されるため、妊娠中だけでなく授乳中の場合も注意が必要です。
アレルギーがある
インプラント治療は、インプラント体(チタンを主成分とする人工歯根)を顎骨に埋入する治療です。
チタンはアレルギーをおこしにくい金属として知られ、医療分野でもペースメーカーや人工関節などにチタンが使用されています。
しかし、まったくアレルギーを起こさない物質ではありません。
ほかの金属に対してアレルギーのある人はチタンに対しても起こす可能性があるため、事前にアレルギー検査を受けることをおすすめします。
インプラント治療に対する検査は、一般的に接触皮膚炎テスト(パッチテスト)が行われます。
インプラント手術前の過ごし方
薬の内容によっては、インプラント治療の際に休薬が必要になる場合があります。
高血圧・心疾患・骨粗しょう症・糖尿病などの持病がある方で、歯科医師・かかりつけ医師から休薬の指示を受けている場合は、指示を守るようにしてください。
静脈内鎮静法(セデーション)で手術を受けられる予定の方は、向精神薬の併用にも注意が必要です。この場合も医師の指示に従いましょう。
また、インプラントは麻酔を使用する外科手術です。疲労・睡眠不足など体調が優れない場合、手術中に気分が悪くなる可能性があります。
十分な睡眠を摂り、リラックスした状態で手術日を迎えましょう。
インプラント手術前に、飲酒・喫煙を控えることも重要です。過度の飲酒を避け、インプラント手術前日はアルコールを控えます。
タバコは、インプラント治療に関わらず口腔内の環境を悪化させる要因です。タバコを吸う方は、事前に禁煙しましょう。
手術前2週間は禁煙するように歯科医師から指示があるでしょう。
インプラント手術後の過ごし方
インプラント手術後は痛みや腫れが落ち着くまで、少なくとも3日程度は安静に過ごしましょう。
処方された薬は指示どおりに飲む
インプラント手術後に処方される薬は、主に鎮痛剤と抗生物質です。
鎮痛剤は痛みがあるときに服用する薬のため、痛みがなければ服用する必要はありません。痛みがあれば、我慢せずに服用しましょう。
また、細菌による感染を防ぐために処方される抗生物質はすべて服用する必要があります。痛みや腫れが治まった場合でも、途中で服用をやめないようにしてください。
手術食後は安静に過ごす
手術後は、運動を避け安静に過ごしてください。腫れが出ている間は、血行が良くなる行動は避けましょう。
湯船に浸かるのは控え、入浴はシャワーで済ませます。体が温まり血流が良くなると、腫れや出血が悪化する可能性があるからです。
デスクワークの場合は翌日からの仕事も可能ですが、運動量の多い仕事の場合は歯科医師と相談して再開の時期を決めましょう。
飲酒を控える
インプラント手術後は、鎮痛剤や抗生物質などが処方されるため、飲酒は控えましょう。
アルコール多量常飲者の場合、アセトアミノフェン(カロナール)の服用で肝不全を起こしたとの報告もあります。
また、飲酒により血流がよくなるので、術後の部位から出血や腫れなどの症状が出る可能性があります。手術後1週間は飲酒を控えるようにしましょう。
喫煙も控えるように歯科医師から指示されます。
喫煙による粘膜の血流の悪化から傷が治りにくくなり、骨を作る細胞の増殖や分化に影響し、インプラント体と骨が結合せず定着しにくい可能性があります。
口腔内への刺激となる行動を避ける
手術の傷が気になりますが、舌で患部に触れるようなことはしないようにしましょう。また、強いうがいや患部の歯磨きも避けてください。
患部以外の場所は通常どおり歯磨きできますが、患部は医師の指示があるまで触れないようにします。
また、インプラント手術後1〜2時間は、麻酔でお口の中の感覚がない状態です。お口のなかを傷つける危険があるため飲食は避けましょう。
手術後2〜3日間は、なるべくやわらかいものを反対の顎で噛んで食べるようにし、刺激物は避けましょう。
服用中の薬がある場合は事前に担当医師と歯科医師に相談しよう
インプラント治療は外科手術を伴うものであり、服用中の薬がある場合は、担当医師と歯科医師の両方に相談する必要があります。
特に高血圧・心臓疾患・糖尿病・骨粗しょう症などの薬を服用中の方は注意が必要です。お薬手帳があれば歯科医師に確認してもらうようにしてください。
インプラント治療を検討することになれば、かかりつけの担当医師に外科手術を受けることに問題がないか、確認が大切です。
特に注意が必要なのは骨粗しょう症の薬や血液をサラサラにする薬ですが、これらの薬を服用していなくても担当医師と歯科医師に確認してもらうようにしてください。
手術後の鎮痛剤は、腎機能が低下している方には、ロキソニンではなくカロナールを使用するなど薬剤の選択も大切になります。
自分で判断せず、相談することが大切です。
まとめ
インプラント治療を行う前に、持病や服用中の薬を歯科医師に相談することが大切です。
薬の内容によっては、かかりつけの医師にインプラント治療を行ってもよいか確認する必要があります。
ほとんどの場合、薬は継続したまま治療を行いますが、場合によっては一時的に薬を中断するよう指示がある場合もあります。
治療後に使用する鎮痛剤や抗生物質のなかで、副作用などで服用できない薬があるかどうか確認することも大切です。
また、インプラント治療では禁煙も重要になります。これを機会に、担当医師に禁煙の相談をするのもよいでしょう。
手術後は、安静に過ごし、お仕事や家事など決して無理をしないようにしてください。
参考文献