むし歯、歯周病、ケガなどの原因によって歯がなくなってしまう場合があります。歯がない状態でも、痛みや不便を感じなければそのまま放置してしまう人も少なくありません。しかし、歯がないことによって、歯だけではなく体全体にさまざまなリスクが生じることがあります。歯がない人の特徴や歯がなくなる原因、リスク、おすすめの治療法をご紹介します。
歯がないことで生じる主な特徴
歯がなくなってしまうと、どのような変化が起きるのでしょうか。歯がないことで生じる主な特徴をご紹介します。
咀嚼力が低い
歯がなくなると、うまく食べ物を噛めなくなってしまいます。特に、野菜やお肉などの硬い食べ物を噛むには、歯の強さと耐久性が必要です。歯がないと硬い食べ物を噛むことが困難になります。硬い食べ物は細かく噛み砕けない状態で大きな塊のまま摂取することになるため、消化不良のリスクも生じるでしょう。また、噛み砕けない程硬い食べ物を避けるなど、食事の選択肢が狭まると、栄養バランスの偏りも生じます。咀嚼力が低いことは、単に噛みづらいだけではなく、全身の健康状態の低下を招くことにもつながります。
発音や滑舌が悪い
歯のすき間から空気が漏れることで、滑舌が悪くなってしまいます。聞き取ってもらえなかったり、会話がしづらくなったりすることで、コミュニケーションがうまく取れなくなってしまい、ストレスを感じることや自信を喪失することもあるでしょう。
顔のたるみや変形など老け顔になりやすい
歯がないと、顎の骨は徐々に吸収されて縮小していく傾向にあります。これによって、顔の輪郭の変化が起きる可能性があります。顎の骨が縮小すると、顔の筋肉がうまく機能しなくなり、顔のたるみやしわが発生して老け顔になりやすくなるのです。
自信が持てず、笑顔が少なくなる
歯がないことで、自分に自信が持てなくなってしまうケースは少なくありません。お口の中を見られるのが嫌で、笑顔が少なくなってしまうこともあります。また、うまく噛めないことで食事が嫌になる、滑舌が悪くなってコミュニケーションがとりづらくなる、顔が変形してしまって自信を失ってしまうなど、歯がないことが明るく過ごせない原因になる場合も少なくないでしょう。
歯がないことで健康に与える4つの影響
歯がないことにはさまざまなデメリットがあります。特に注意しなければならないのは、健康上の問題です。歯がないことで起きる健康上の影響とはどのようなものがあるのか説明します。
消化不良を起こしやすい
食べ物は細かく噛み砕いて食べることで、食物の表面積が増えて消化酵素が効率よく作用します。しかし、歯がないとうまく咀嚼できないため、食べ物を細かく噛み砕けずに大きな塊のまま摂取することになります。大きな塊のまま胃に到達すると、消化不良が生じ、胃の不快感、腹痛、膨満感などの症状を引き起こし、栄養素の吸収が不十分になってしまいます。さらに、不十分に消化された食物が長時間腸に滞留することで、ガスの発生や便秘の問題が起きる場合もあるでしょう。
認知症のリスクが高まる
厚生労働省による調査では、65歳以上でほとんど自分の歯がなく、入れ歯も使用していない人は、歯が20本以上残っている人と比較して、認知症になり介護が必要になる可能性が高くなると報告されています。噛めない生活を送っていると、脳に送り込まれる血液の量が減ってしまい、認知症のリスクが高まってしまうということです。 また、血流の減少以外にも、栄養状態の低下、コミュニケーション困難や自信喪失による社会活動の低下も、認知症の進行リスクを高めていると考えられています。 ほかにも、歯と脳は神経でつながっており、噛むことによって、脳の神経ネットワークが刺激されます。あまり意識されることはありませんが、噛むことは脳に刺激を与え続ける大切な動きでもあるのです。
周辺の歯が抜けやすくなる
歯がないまま放置すると、抜けた歯の両サイドの歯が内側に傾いてしまいます。放置し続けるとさらに奥の歯も倒れてきて、ドミノ倒しのように徐々に噛み合わせが悪くなってしまいます。傾いて倒れた歯は、根本部分や隙間が空いた歯の間に汚れが溜まりやすくなり、むし歯や歯周病になることもあるでしょう。 また、歯がないスペースに、噛み合う歯(対合歯)が伸びてくることもあります。歯が伸びると、伸びた歯が抜けてしまったり、下の歯にあたって顎全体がずれてしまったりする場合もあります。
肩こりや頭痛が起きやすい
歯がないことで噛み合わせが悪くなると、肩こりや頭痛が起きやすくなります。顎の筋肉は肩や首筋の筋肉とつながっているため、噛み合わせが悪いと顎や肩、首筋の筋肉が緊張してしまい、肩こりや頭痛が起きやすくなるのです。
歯がなくなる主な原因
そもそも歯がなくなってしまう原因にはどのようなものがあるのでしょうか。歯がなくなる主な原因をご紹介します。あてはまるものがある方は、ぜひ早めに対処して大切な歯を守りましょう。
歯周病など歯茎の疾患
歯を失う原因としてよく挙げられるのが歯周病です。歯周病とは歯茎の炎症のことをいいます。初期段階では痛みを感じることが少ないため放置されてしまうことが少なくないのですが、進行すると歯を支えている顎の骨(歯槽骨)を溶かしてしまい、歯が抜けてしまいます。
歯周病を悪化させる主な原因は歯石です。磨き残しなどにより歯石ができてしまうと、歯周病菌が活発に繁殖して歯茎に炎症が起こります。
むし歯が進行してしまった
歯を失う原因の多くは、むし歯の進行を原因とする抜歯です。むし歯とは、お口の中の細菌が食べ物に含まれる糖を分解して酸を出し、歯の組織を溶かしてしまう症状のことです。進行すると、歯の中の象牙質や神経、歯根まで蝕まれていきます。神経にまで細菌が入り込み、根管治療ができない程進行してしまうと抜歯が必要になります。
事故や怪我などによる喪失
事故や怪我など、外からの衝撃によって歯が折れたりなくなってしまったりするケースもあります。少し欠ける程度であれば治療で修復することができますが、歯根が欠けたり折れたりした場合は、抜歯となる可能性があります。事故やトラブルによってお口を怪我した場合には、早めに医師の診察を受けましょう。
日常的に歯に負担がかかっていた
歯ぎしり、食いしばり、歯列接触癖などは、歯に大きな負担をかけてしまい、歯がすり減る、割れる、顎関節症につながるなどのさまざまなデメリットが生じます。これらの癖があると日常的に繰り返し歯に負担がかかり、歯を失くす原因になってしまうのです。
歯がない状態を改善するための治療法
歯がないことで、さまざまなリスクやデメリットが発生します。それでは、一度歯を失ってしまった場合にはどうすればよいのでしょうか。歯がない状態を改善するための、主な治療法をご紹介します。それぞれのメリット・デメリットも解説しますので、自分に合った治療法を選択しましょう。
ブリッジ
ブリッジは、なくなった歯の両側にある歯を支点として、その間に人工の歯を固定する方法です。両隣に健康な歯が残っている場合に選択することができます。
ブリッジのメリットは、入れ歯よりも安定感があり違和感が少ないことです。また、ブリッジを入れる箇所によっては保険適用となるため、安く治療が受けられます。
デメリットは、両隣の土台になる歯を削ることになるため、健康だった歯にも悪い影響が出てしまうことです。土台になる歯に問題がある場合は、先にそちらを治療する必要があります。また、ブリッジと歯茎の隙間に食べカスなどが詰まり、歯垢が溜まりやすくなります。これによって新たなむし歯や歯周病が進行してしまう場合があるので、注意が必要です。
入れ歯
入れ歯は着脱可能で手軽に使用できることが特徴です。メリットは、なくなった歯の数が多くブリッジでは対応できない場合でも治療が可能なことです。入れ歯のバリエーションもさまざまなため、一人ひとりの症状に合わせた入れ歯を作ることができます。手術も必要ないため、短時間で治療が終わるのもポイントです。
一方で、見た目や噛み心地に違和感が出る場合があるのがデメリットです。天然の歯と比べると噛む力も弱くなります。総入れ歯の場合は、食べ物の熱が伝わりにくいため、本来の味わいを感じにくいこともあるでしょう。部分入れ歯の場合は、固定している両隣の歯に負担がかかり、健康な歯を傷める原因にもなりやすいです。
入れ歯には保険適用と自費治療があります。保険適用の場合は、見た目や装着時の違和感は出やすくなりますが、入れ歯作成の費用を抑えることができます。また、自費治療の場合は費用面では負担が大きくなりますが、使える素材の幅が広がるため、見た目も自然で、快適に装着することができます。
インプラント
インプラントは、顎の骨に人工歯根を埋め込んで、そのうえに上部構造を固定する治療法です。天然歯に近い見た目と噛み心地を求める人は、インプラントがおすすめです。
インプラントのメリットは、見た目も噛み心地もよく、天然歯に近い状態に復元できることです。異物感もほとんどなく、自分の歯のようにしっかりと噛むことができるでしょう。入れ歯のように外して手入れする必要がないため、いつもどおりの歯磨きが可能です。しっかりとメンテナンスをしていけば、半永久的に使い続けることができます。
デメリットとしては、治療には外科手術が必要なことです。顎の骨量が少ない場合は、骨造成治療が必要になるケースもあり、症例によっては対応できない場合もあります。今すぐに歯が欲しいという人には向かないでしょう。また、治療には保険が適用されないため、ブリッジや入れ歯に比べて費用が高くなります。
ただし、長い目で見ればインプラントにした方が、かかった費用以上の価値を感じられることもあるでしょう。これからも長く生活していくうえでは、天然歯に近いインプラントはいかがでしょう。
歯がない方が選択できるインプラントの種類
天然歯に近い装着感が得られるインプラントの治療方法にもさまざまな種類があります。一般的なインプラントのほか、オールオン4とオールオン6という治療方法について解説します。
インプラント
通常のインプラントは、歯がない部分に対して治療を行います。治療の流れとしては、歯を入れたい箇所の顎の骨にインプラントを埋め込み固定した後、被せ物の人工歯を接続します。失った歯の本数に応じてインプラントを埋め込む必要があります。
オールオン4
オールオン4とは、顎の骨に少なくとも4本のインプラントを埋め込むことで、連結した12本の人工歯を固定できる治療方法です。すべての歯がない人の場合でも、片顎4本ずつのインプラントによって、すべての歯を入れることができます。通常のインプラントよりも体にかかる負担が少なく、治療費用も抑えることができます。
オールオン6
オールオン6は、6本のインプラントを埋め込んで、片顎のすべての歯を固定する治療方法です。オールオン4との違いは、オールオン6の方がより強く安定しているため、噛む力が強く、人工歯の寿命も長くなります。一方で、治療期間や手術回数が多くなること、オールオン4よりも治療費が高くなることは注意点といえるでしょう。
インプラント治療後の注意点
インプラント治療後数時間は、まだ局所麻酔の効果が残っているため、感覚麻痺による怪我を防ぐためにも飲食は控えましょう。その後、当日中の食事はできるだけやわらかいものを選び、あまり刺激を与えないようにしてください。
また、治療から1週間程度は、飲酒や喫煙も血流に影響が出るため控えましょう。また、10日間程度は手術箇所の直接的な歯磨きも避けましょう。手術箇所や体に負担がかからない生活を送るのがポイントです。
まとめ
さまざまな理由で歯がない人はたくさんいます。痛みがなければ放置してしまいがちですが、歯がない状態のままだと、残っている歯だけでなく体の至るところに悪い影響が出ることもあります。歯の治療としてはブリッジ、入れ歯、インプラントがあります。インプラントは、治療費は高くなりますが、自然な歯を復元することができます。一般的な方法のほか、オールオン4、オールオン6という治療法もありますので、症状や状態に合わせて治療方法を検討しましょう。
参考文献