失った歯を補填するインプラント治療の1つに、オールオン4があります。従来のインプラント治療よりも幅広い患者さんに適応しやすい治療です。
オールオン4治療を受ける際、多くのケースで治療前に抜歯が行われます。しかしなるべく自分の歯を残したい方にとっては、不安に感じる点でしょう。
そこでこの記事では、オールオン4治療での抜歯の必要性を解説します。オールオン4治療を行うか検討する際の参考にしてみてはいかがでしょうか。
オールオン4治療で抜歯は必要?
オールオン4とは、上顎もしくは下顎の全顎治療に適応されるインプラント治療の1つです。2003年頃から治療症例が報告されるようになりました。
従来のインプラント治療と異なる点は、骨造成を行わず4本のインプラントのみを埋入して全顎治療を行う点です。そこに固定式の義歯を装着します。
埋入するインプラントの本数が少ないことで身体への負担を軽減できるとともに、95%以上のインプラント残存率を誇る治療法です。
また、インプラントの埋入から仮歯の装着までが1日で完了するため、治療期間の短さでも患者さんの負担になりにくいとされています。
ただし患者さんによるものの、大半の症例で1本以上の残存歯を抜歯する必要がある点に注意しなければなりません。
これは、歯科医師が精密検査を行って確認した口腔状況に基づいて決定する分野です。患者さんの一存で抜歯を避けることはできません。
オールオン4で抜歯をする理由
歯を失ってしまった方にとって、残っている自分の歯を抜くのには勇気がいるでしょう。特に歯科治療に苦手意識がある方は、不安を感じるかもしれません。
しかし、適切なオールオン4治療を行うためには抜歯が必要です。抜歯の必要性を理解するために、主な4つの理由を解説します。
インプラントを適切な位置に埋入するため
オールオン4治療で抜歯が必要となる特に大きな理由は、インプラントを適切な位置に埋入し十分な機能性を確保するためです。
オールオン4の特徴の1つに骨がやわらかい大臼歯部への埋入を避け、小臼歯部から前方へ長めのインプラントを傾斜させて埋入する点があります。
これにより少ないインプラント数で全体を支え、歯茎にかかる負荷を均等に配分できます。奥歯のみに過度に負荷がかからず、咬合力の向上が可能です。
ところが奥歯以外に天然歯が残っていると、その歯が邪魔をしてインプラントが適切な位置と角度で埋入できなくなります。
オールオン4は基本的に無歯顎の患者さんに対する治療です。残存歯がインプラントの安定性や耐久性に影響しない場合を除いて、抜歯が不可欠です。
すでに多数の歯を欠損している
すでに多数の歯を欠損していて上顎もしくは下顎の歯がまばらに残っている状態の方は、歯茎が弱っていて残存歯も抜けてしまうリスクがあります。
この状態でほかの治療法を選択すると、次第に残存歯や歯茎にかかる負荷が増して摂食すら難しくなってしまうケースも見られています。
そのため、インプラントの安定性を高めるためにもまばらに残っている歯を抜歯し、オールオン4治療を行う方が長期間優れた機能性を維持できるでしょう。
オールオン4で使われるインプラントは基本的に4本です。しかし、患者さんの口腔状況によってインプラントを5〜6本に増やして対応するケースもあります。
まばらに残る残存歯を残してオールオン4治療を行う場合、埋入するインプラントが増えて治療負担が大きくなる可能性が高いため、抜歯が必要です。
歯の健康状態が悪い
複数本の歯が残っている方でも、残存歯がむし歯や歯周病になっていて健康状態が悪い場合には、予後への不安から戦略的な抜歯が行われるでしょう。
重度のむし歯や歯周病になっている歯は、歯自体や支える周辺組織が弱っている状態です。この段階では外科手術を伴う治療は行えません。
また健康状態の悪い歯を残していると、細菌がインプラント周辺組織に付着して炎症を起こしたり、インプラント周囲炎を発症したりする原因ともなります。
インプラント周囲炎の放置により、インプラントの動揺や脱落が起こることもあります。口腔内の健康状態をよくするためにも、抜歯が有効でしょう。
さらにオールオン4治療では全顎にきれいな義歯を装着するため、健康状態の悪い歯があると見た目が悪くなります。抜歯すれば審美性も確保できます。
噛み合わせが悪い
欠損歯がある患者さんのなかには、歯並びが傾いていて噛み合わせが悪い方もいるでしょう。特に周囲に支える歯がないと歯の移動や傾きが生じやすいです。
また、歯ぎしりや食いしばり(ブラキシズム)などで歯が削れたり欠けたりして小さくなっている場合にも、噛み合わせが悪くなります。
治療前から噛み合わせに影響を与えている残存歯があると、補綴治療をした際に義歯と干渉して理想とする噛み合わせの実現が困難になります。
一方で、噛み合わせを悪くしている残存歯を抜歯してオールオン4治療を行えば、治療後の歯並びの変化を心配せず長期的な機能性の確保が可能です。
さらに、天然歯と変わらない感覚でしっかりと咀嚼できます。食事を十分楽しめるだけでなく、身体と心の健康も保っていけるでしょう。
オールオン4の抜歯方法と手順
オールオン4治療で抜歯をする際、インプラントの埋入手術と合わせて行う抜歯後即時埋入の場合と、事前に抜歯手術を行う待時埋入・早期埋入の場合があります。
即時埋入では抜歯する箇所に局所麻酔をした後、抜歯専用の器具を用いて抜歯をします。歯髄が残っている歯は、切開や掘削の処置で対応されるでしょう。
抜歯を行ったら、その部位に圧力をかけて止血をします。この際、患者さんの出血状態に応じて縫合や出血点の凝固が行われるケースもあるでしょう。
一方、待時埋入では抜歯窩が治癒してからインプラント埋入を行うため、抜歯から6ヵ月程度経過してから埋入手術を行います。
また、早期埋入では抜歯窩周囲の軟組織が治癒した1〜4週後か、抜歯窩に部分的に骨が形成される12〜16週後にインプラントを埋入します。
この場合は抜歯からインプラント埋入までに時間がかかるため、骨吸収に注意が必要です。骨吸収の抑制のために骨補填材を併用する場合もあります。
オールオン4の抜歯が怖い方の対策
抜歯には痛くて怖いイメージを持っている方が少なくないでしょう。オールオン4の治療のために必要でも、抜歯への怖さで治療を躊躇う方もいます。
そこで、抜歯への怖さで治療を諦めてしまう前に確認しておくべき4つの対策を解説します。オールオン4の治療に踏み切れるかどうか検討してみましょう。
治療のメリットを理解する
抜歯の必要性を理解したうえで不安が拭えない方は、あらためてオールオン4治療を受けるメリットを考えて理解を含める点が重要です。
例えば、オールオン4治療を受けるなら顎骨にしっかりと固定されたインプラントによって、本来の口腔機能を取り戻せる可能性が高くなります。
また総入れ歯とは異なり、義歯と歯茎の間に食べ物が挟まったときの痛みや、外出先で総入れ歯の着脱をする手間を煩わしく感じることもありません。
長期的に見ると、顎骨の変形を軽減できて若々しい顔貌を維持できる点もメリットです。外出したり人と会ったりすることに自信が持てるようにもなります。
このような点の多くに魅力を感じると、抜歯の必要性への理解も深まります。そして反対に、今ある残存歯を残すリスクも理解できるでしょう。
抜歯への不安よりも、抜歯をしてオールオン4治療を受けるメリットの方が上回り納得できるなら、抜歯に踏み切りやすくなるはずです。
痛みを軽減する対処法を相談する
患者さんのなかには過去の歯科治療で痛みや恐怖を感じた経験がトラウマとなり、歯科治療全般に極端な不安や恐怖を覚える歯科恐怖症の方がいます。
そうでない方でも、痛みを伴う外科治療は精神的・身体的ストレスになる場合が多いです。そのため、痛みを軽減する対処法を工夫している歯科医院があります。
抜歯時は麻酔の効果によって痛みを感じにくいです。それよりも、抜歯前に粘膜に直接注射針を刺して局所麻酔を行う際の痛みに恐怖する方が多くいます。
そこで局所麻酔の痛みを軽減するために極細注射針を使用したり、刺入点粘膜に表面麻酔を施したりするケースなどが見られます。
また、麻酔が効きにくい体質の方や局所麻酔の方法を工夫しても恐怖心がある方には、自発呼吸を止める全身麻酔で対応する場合もあるでしょう。
歯科医院によって対応している内容が異なるため、事前の相談が大切です。なるべく痛みの少ない治療にこだわっている歯科医院を選ぶことをおすすめします。
鎮静薬を使用する
歯科治療のストレス緩和への有効性が認められ選択されているのが、静脈内鎮静法や笑気吸入鎮静法などの精神鎮静法の活用です。
静脈内鎮静法とは鎮静剤を静脈内に注入し、呼びかけに対する応答が鈍くなる程度まで意識を落とす方法です。眠っているような状態でリラックスできます。
また笑気吸入鎮静法とは、持続的流出麻酔器を用いて笑気ガスを鼻マスクから吸入する方法です。こちらも自発呼吸が可能で、ショックの予防が期待できます。
すべての患者さんに適応できるわけではないものの、考慮する価値はあります。歯科医院にどのような鎮静薬を取り扱っているか相談してみるとよいでしょう。
治療後のメンテナンスを欠かさない
抜歯の手術中だけでなく、抜歯後の痛みや腫れへの心配が大きい方もいるでしょう。抜歯後に痛みや腫れが生じるのは、抜歯創を治すための炎症反応です。
これは個人差はあるものの、大半の方が経験する自然な反応です。とはいえ、症状を長引かせないために日頃のメンテナンスを怠らないようにしましょう。
無歯顎であっても、食事後にメンテナンスを怠るとプラークが生じます。プラークが治癒中の傷に侵入してしまったら炎症がさらに悪化してしまいます。
そのため、常に清潔な口腔状態を保つためのメンテナンスが不可欠です。ホームケアに加え、歯科医院での定期健診とクリーニングを継続しましょう。
歯科治療を成功させる鍵は、患者さん自身が受け身にならず意欲的に治療に励むことです。毎日メンテナンスのための時間を取り分けて対策をしましょう。
抜歯を避けたい方のオールオン4以外の治療法
オールオン4治療のメリットや痛みを緩和する対策を検討しても恐怖が上回る方や、今ある自分の歯を残したいと強く希望される方もいるでしょう。
そのような方は、オールオン4よりもほかの治療法が向いている可能性が高いです。オールオン4以外に考慮しておきたい3つの治療法を取り上げます。
従来のインプラント治療
残存歯が複数あり、オールオン4治療では多くの抜歯が必要になってしまう方は、従来のインプラント治療を選択するのがよいでしょう。
インプラント治療では歯を失った1箇所につき1本ずつインプラントを埋入し、インプラントと顎骨の定着期間を経て上部構造を装着します。
インプラント治療のメリットは、1箇所のみの欠損でも周りの歯を削らずに対応できる点です。また、天然歯のような自然な噛み心地を得られます。
さらにインプラント治療を受けられる歯科医院でも、オールオン4は取り扱っていない場合があります。歯科医院の選択肢が広い点でも治療が受けやすいです。
ただし欠損歯が多数ある方は埋入するインプラント体の数が多くなるため、身体と費用面の負担が大きくなる点に注意して検討するのがおすすめです。
部分入れ歯
抜歯を避けるだけでなく外科手術自体を避けて身体と費用の負担を抑えたい方は、保険適用可能な部分入れ歯が向いているでしょう。
部分入れ歯は歯科用プラスチックでできた義歯床と人工歯を、金属のスクラプを使って周囲の歯に引っかけて固定する治療法です。
欠損歯が1本のケースから残存歯が1本のケースまで、幅広く適用できます。構造がシンプルかつ短期間で製作でき、早く歯の機能を回復させたい方におすすめです。
また患者さん自身で着脱が可能で、口腔内や部分入れ歯を清潔に保ちやすい利点もあります。さらに、対応している歯科医院も豊富です。
しかし保険適用の部分入れ歯は金属が見えて目立つため、審美性には劣ります。見た目が気になる方は、審美性も兼ね備えた自費診療も検討しましょう。
インプラントオーバーデンチャー
抜歯せずにインプラントの安定性と入れ歯のメンテナンスのしやすさを得たい方は、インプラントオーバーデンチャーも選択できるでしょう。
インプラントオーバーデンチャーは、残存歯と2〜6本のインプラントで入れ歯を支持する治療法です。抜歯とインプラント埋入による身体への負担を軽減できます。
また部分入れ歯では機能面に不満があった方も、インプラントが支えることにより硬いものやくっつきやすいものでも、ズレや外れを気にせず食べられるでしょう。
さらにオールオン4と似た治療でありながら入れ歯の構造のシンプルさから、残存歯にトラブルが起きても修理しやすい点でも優れています。
しかし入れ歯を支える残存歯やインプラントに負担がかかりやすく、バランスを考慮した設計が必要です。残存歯のむし歯リスクにも注意しなければなりません。
まとめ
この記事ではオールオン4治療での抜歯の必要性を解説しました。オールオン4は、基本的にどの患者さんも治療前に抜歯が必要になる治療です。
抜歯に恐怖心を持っている方も治療を行う歯科医院をよく選び、痛みや恐怖を軽減できるよう対策を講じるなら、オールオン4治療の価値を実感できるでしょう。
重要なのは治療に関わる各要素の必要性を理解し、本当に自分に合っている治療かどうかを検討する点です。日常をもっと楽しむための決断をしましょう。
参考文献
- All-on-4 conceptに基づいた上顎インプラント治療の3年以上の経過後の臨床的検討
- 上下顎無歯顎患者の下顎に即時荷重型インプラントを適用した 5 年経過症例
- 義歯床の適合と機能回復─口腔機能と脳機能の活性化をめざして─
- 歯周炎患者におけるインプラント周囲炎の病態と治療法
- 義歯装着と装着に伴う問題
- 静脈内鎮静法に笑気吸入鎮静法を併用して行ったインプラント手術—症例
- 無痛的局所麻酔方法
- 全身麻酔下日帰りインプラント手術周術期管理の検討
- 抜歯創の治癒経過に関する臨床的検討
- 部分入れ歯一覧表
- 入れ歯編①
- インプラントオーバーデンチャーの有効性~全部床義歯との比較~
- インプラント支持による下顎オーバーデンジャーの臨床
- インプラント|日本歯科医師会