一般的なインプラント手術は、2回法で行われます。人工歯根であるインプラント体を顎の骨に埋め込む一次手術と、アバットメントを装着する二次手術の2回に分けられることから、このような名前がつけられています。
インプラント治療における山場は前者であり、外科的な処置も大がかりになります。そのため、インプラント治療の一次手術ではどれくらいの痛みが生じるのか不安に感じている方も少なくないようです。この記事ではインプラントの一次手術で感じる痛みとその対処方法について詳しく解説をします。
インプラントの手術で痛みを感じるタイミング
インプラントの一次手術では、どのタイミングで痛みを感じるのか。まずはその点を解説します。
一次手術前の麻酔の際
インプラントの一次手術は、局所麻酔下で行われます。通常のむし歯治療とほぼ同じ状態で外科手術が行われます。
細い注射針を歯茎に刺して麻酔液を注入します。患者さんが強く鋭い痛みが生じるのは、注射針の刺入時で、チクッという感覚が生じます。麻酔液の注入時は、施術部位の一定範囲に圧迫するような刺激が伝わります。電動麻酔器を活用していたりすると、それ程不快に感じることはありません。
局所麻酔を行う前に、ジェル状の薬剤を塗布した表面麻酔を行って麻酔注射による痛みの軽減をする歯科医院もあります。
インプラントの一次手術後
インプラントの一次手術が終わった後は痛みが生じます。インプラントの一次手術では、歯茎をメスで大きく開き、顎の骨にドリルで穴を開けるという処置を行っています。
インプラントの一次手術後の痛みは、一般的なむし歯治療よりも強くなる傾向です。痛み止めや腫れ止め、抗菌薬などを服用して安静に過ごすことで、手術後の生活も問題なく送れるケースがほとんどです。
インプラント手術の内容や術後の過ごし方によっては、食事や睡眠を妨げる程の痛みが生じることもあるため、事前に正しく理解しておく必要があります。
麻酔が切れた後に感じる痛み
インプラントの一次手術で施した麻酔は術後2〜3時間、強めの麻酔を施した場合は3〜6時間程度で効果が切れます。
麻酔が切れたタイミングで強い痛みを感じやすいため、痛みへの対策はしっかり行うようにしてください。インプラントの一次手術が終わってからの過ごし方で、麻酔が切れた後の痛みにも違いが見られますので、歯科医師の指示どおりに対策をとるようにしましょう。
一次手術中の痛みを軽減する方法
インプラントの一次手術では、以下の方法で痛みを軽減することができます。
局所麻酔を用いる
局所麻酔は、インプラントの一次手術の痛みを軽減する処置となります。局所麻酔への感受性は、患者さんの体質や体重などによって変わります。
手術中に痛いと感じた場合は、局所麻酔がきちんと作用していない可能性が高いので、遠慮せず歯科医師に伝えるようにしましょう。もし、強い痛みがある状態でインプラントの一次手術を受けることは、患者さんに負担がかかるだけでなく、体動によって術者の手元が狂うといったトラブルにもつながりかねません。
インプラントの一次手術で行われる局所麻酔は、以下の2つにわけられます。
- 浸潤麻酔(しんじゅんますい)
- 伝達麻酔(でんたつますい)
浸潤麻酔は、歯茎から浸潤させる形で周囲組織の感覚を麻痺させる方法で、通常のむし歯治療の局所麻酔がこれにあたります。
伝達麻酔は、手術部位よりも上流の太い神経に麻酔薬を作用して、下流の細い神経まで麻痺させる方法で、難症例の親知らずの抜歯などで行われます。
インプラントの一次手術でも患者さんのお口の状態や施術の難易度によって、適切な方を選ぶことになります。
静脈内鎮静法を併用する
近年は、インプラントの一次手術で静脈内鎮静法を併用するケースが増えています。静脈内鎮静法とは、ミダゾラムやプロポフォールといった薬剤を腕の静脈から投与して、半分眠ったような状態にする麻酔法です。
インプラントの一次手術の痛みを直接的に軽減する方法ではありませんが、外科処置への不安感や恐怖心を感じることなく治療することが可能です。目が覚めた頃に手術は終わっています。
静脈内鎮静法はすべてのケースに適応できるわけではありませんし、いくつかのリスクを伴いますが、基本的には安全性の高い麻酔方法となります。
リラックスした状態で手術を受ける
インプラント手術は、歯科医師の技術や経験、設備が大切ですが、患者さんにも準備できることがあります。リラックスして万全の状態で一次手術を受ける意識も大切です。 前日までにお酒をたくさん飲んだり、睡眠不足が重なったりしていると、体調が整わないまま手術当日を迎えることになります。呼吸や脈拍、血圧を乱すだけでなく、手術への不安感や恐怖心を強めることにもつながるため、痛みを感じやすくなるかもしれません。
患者さんが自己管理を徹底するように努めましょう。心も体もリラックスした状態で手術を受けられれば、インプラント体の埋入処置もスムーズに進み、術後の痛みも抑えられやすくなります。
一次手術後の痛みへの対策
インプラントの一次手術を終えた後の痛みへの対策方法を解説します。これからインプラントの一次手術を控えている方は、知りたいポイントになるかと思います。
処方された痛み止めを服用する
インプラントの一次手術後には、痛み止めや腫れ止め、抗菌薬などが処方されます。
痛み止めを服用することで、インプラントの一次手術後の痛みを直接的に軽減させることができるので、用法と用量を守って服用するようにしましょう。
インプラントの一次手術後の痛みは、ある程度、鎮痛剤で軽減できるため過剰に心配する必要はありません。ただし、これは痛み止めと併せて処方された腫れ止めや、抗菌薬も指示どおりに服用していることが前提となります。
歯科医師の指示を無視して痛み止めだけを服用していると、患部が想定以上に腫れたり、細菌感染によって深刻な痛みや出血をもたらしたりする可能性もありますので注意しましょう。
術後の過ごし方のポイント
インプラントの一次手術後は、患者さんの過ごし方によって、感じる痛みも変わってきます。具体的には、以下のポイントを意識して術後の生活を送るようにしましょう。
【ポイント1】安静に過ごす
インプラントの一次手術は、顎の一部分だけに外科処置を施す治療なので、手足や全身状態に大きな影響が現れることはありません。そのため、インプラントの手術後、すぐに仕事したり、ネットやゲームに熱中したりしてしまう方も少なくありません。
体は動くので、なんらかの活動はしたくなりがちですが、原則としては安静に過ごすようにしましょう。歯茎をメスで切開して、顎の骨に穴を開けた手術を受けた直後の状態のため、少なくとも当日は帰宅して傷の回復に専念するのが理想です。
【ポイント2】激しい運動・スポーツは控える
インプラントの一次手術から1週間程度は、全身を動かす運動やスポーツは控えるようにしましょう。
激しい運動やスポーツは、インプラント体を埋め込んだ部分に大きな負荷をかけたり、血流を増加させて再出血や治癒の遅れをもたらします。
【ポイント3】入浴と飲酒にも注意が必要
熱い湯船にはいると全身の血流がよくなって傷口が開いてしまうことがあります。飲酒も同じ理由から、インプラントの一次手術を受けてから1週間程度は控えるようにしましょう。
入浴は手術の翌日からでも問題ありませんが長湯は避けてください。
【ポイント4】喫煙はNG
喫煙はインプラント治療の大敵です。タバコの煙に含まれるニコチンや一酸化炭素は、歯周組織の血流を悪くし、酸素や免疫細胞の供給を滞らせることから傷の治りが遅れます。
インプラント周囲炎のリスクも高まるため、インプラントの一次手術を受けた直後だけでなく、その後も原則としてタバコは吸わないようにしましょう。
術後の食事の注意点
インプラントの一次手術後は、以下の3点に注意して食事をしましょう。いずれも意識して取り組むことで、その後の痛みを軽減できるものです
【注意点1】手術当日は噛まずに飲み込めるものがおすすめ
インプラントの一次手術を受けた日は、局所麻酔による影響や傷口への負担を減らすことを考慮して、噛まずに飲み込める食事を心がけた方がよいです。 お粥やスープ、ヨーグルトなどが望ましいです。インプラント体を埋め込んだ部位以外は噛める状態ですが、万が一のことを考えて、手術したその日だけでも咀嚼するのは控えてもよいかもしれません。 手術の翌日以降の食事では、歯応えのある食品を徐々に増やしていきましょう。
【注意点2】熱いもの・辛いもの・冷たいものは避ける
熱いものや辛いもの、冷たいものは患部に不要な刺激を与えることから、手術後しばらくは避けるのが望ましいです。 刺激の少ない料理は、食事の満足度も低下するかもしれませんが、インプラント治療を成功させることをモチベーションに頑張って我慢していきましょう。
【注意点3】手術した部位で噛まない
インプラント体を埋入した部位で噛まないことも手術後に注意すべき点のひとつです。軟らかいものでも患部で噛むと、傷口が開いたり、感染したりするリスクが高まるため、その他の部位で噛むようにしてください。
歯磨きの際の注意点
インプラントの一次手術を行った後で意外に困るのが歯磨きです。
インプラント体を埋め込んだ部位に触れないよう注意しながらも、その他の歯は、普段よりもしっかりケアする必要があります。
特に傷口を避けるようにして歯磨きしていると、インプラント体を埋め込んだ両隣の歯が不潔になりやすく、感染のリスクも上昇するため、患部の隣接面はやわらかめの歯ブラシでやさしく、丁寧に歯磨きするよう努めてください。
痛みが強い場合に考えられること
インプラントの一次手術後に強い痛みが生じた場合は、以下の2つの理由が考えられます。
術後感染症の可能性
インプラント術後感染症を起こしている可能性が考えられます。
術後感染症を引き起こす原因としては、
- インプラント手術を行っている施設環境がよくなかった
- インプラント術後の衛生管理が不十分だった
インプラント手術を行っている施設環境がよくなかった インプラント術後の衛生管理が不十分だった インプラント手術中の環境が悪かったり、手術後の衛生管理が不十分だったりすると、傷口に細菌感染が起こって強い痛みを伴ってしまいます。
そのなかでも注意すべきなのは、インプラント周囲炎です。インプラントの周りの歯茎や骨に炎症反応が起こって、腫れや出血などを伴います。インプラント周囲炎は、通常の歯周疾患と同様、自覚症状に乏しくはあるのですが、重症化すると強い痛みが生じます。
インプラント周囲炎への対処法
インプラント周囲炎は、自然に治らない病気なので、歯科医院での治療を受けてください。
軽度から中等度であれば、通常の歯周病治療と同じ方法で症状の改善が見込めますが、重症例では外科処置が必要になったり、インプラント体を撤去したりする必要性も出てきます。
痛みが強い場合は歯科医院に相談を
インプラント一次手術後には痛みが生じますが、どうしても我慢できない程であることは稀です。もし、強い痛みのせいで食事や睡眠などに支障をきたすようであれば、細菌感染などのトラブルが疑われるため、まずは歯科医院に相談することをおすすめします。
まとめ
今回は、インプラントの一次手術で感じる痛みとその対処方法について解説しました。インプラントの一次手術では、麻酔処置、手術後、麻酔が切れたときの3つのタイミングで痛みが生じやすくなっています。
手術中の痛みは局所麻酔や静脈内鎮静を施すことで軽減できますし、手術後の痛みも歯科医師の指示どおりに対処すれば問題なく乗り切れることが一般的です。ただし、一部の症例は我慢できない程の強い痛みが生じることもあるため、少しでも異常を感じたら主治医に相談するのが望ましいです。
参考文献