風邪の方や持病を抱える方が「今のままインプラント治療を実施できるのか?」と疑問を抱く場合があります。基本的にインプラント体を埋め込む手術は体調不良を抱える状態ではしないほうがよいでしょう。
軽度な症状ならまだしも重篤な方は延期、または取り止めの判断が必要です。体内に蔓延したウイルスの影響で術後の回復が遅れ、呼吸器感染症の発症を招くリスクがあります。
本記事はインプラント治療時に体調不良になったときの対処法と治療前の過ごし方を解説します。
インプラント治療は風邪でも行える?
風邪を患っている方がインプラント治療を受けるのは不可能ではありませんが、推奨はできません。免疫機能が低下した状態で手術するとトラブルが起きる場合があります。
術後の回復が遅れる可能性や感染症の発症リスクの上昇が懸念されます。また手術中に咳やくしゃみが原因で医師の手元が狂い、インプラントの設置箇所がずれるトラブルを引き起こしかねません。
さらに、風邪による免疫状態の低下は、術後に処方する鎮痛剤や抗生物質の副作用のリスクを高める可能性があります。
インプラント治療は風邪以外の体調不良でも行える?
風邪のような一時的な病気ならまだしも慢性的な疾患がある方は手術を伴うインプラント治療を受けるのは危険です。
特に持病を抱えている方はインプラント治療を受けると命に関わる可能性があるため、手術は避けたほうがよいでしょう。心疾患や脳疾患などの重篤な場合や症状が安定しない場合は特に注意が必要です。
持病がある場合のリスクの大きさは病気の種類に応じて変わり、糖尿病の患者さんは危険が大きい方に該当します。術後の傷の回復が遅く、インプラント周囲炎を発症するリスクが高いと考えられるためです。
治療薬の服用により血糖値を適正な範囲内で維持している方でもない限り、手術は延期または取り止めの判断が求められるでしょう。持病を抱えている方でもインプラント治療が可能な疾患の代表例は金属アレルギーです。
主にインプラント体に使用されるチタンはアレルギーを引き起こしにくい素材です。
体調不良時にインプラント治療を受けるリスク
軽度のウイルス性疾患の風邪にかかると鼻水や咳、くしゃみなどの症状に悩まされます。
命に関わる危険な病気ではありませんが、インプラント治療を受ける際は注意が必要です。
リスクを把握して、予定どおりに手術を実施してよいか適切な判断を下しましょう。
治療後の回復遅延の可能性
まず治療後の腫れや痛み、赤みといった症状からの回復が遅れる可能性が考えられます。風邪を引いているときは体内の免疫機能が活性化して、ウイルスを退治しようと活動しています。
さらに心身に負荷をかけるインプラント治療を施すと術後の副作用から立ち直りにくくなる可能性が高いです。インプラントの手術を受けた後は埋め込み部分の痛みや腫れ、出血、口元のしびれに悩まされる場合があります。
いずれも一時的な症状のため、通常は一週間程度で収まります。しかし体調不良の方は免疫機能が正常に働かず、痛みや腫れがなくなるまでの期間が長期化する傾向にあります。
罹患中の呼吸器感染症が悪化する可能性
呼吸器感染症を患っているときは、インプラント治療中に手術を受けたせいで症状が悪化する可能性があります。具体的には咳や発熱、のどの痛みなどの症状が強まり、息苦しさが治療が必要なほど重篤化する場合も珍しくありません。
代表的な呼吸器感染症には、風邪以外にもインフルエンザやコロナウイルス感染症が該当します。免疫機能が低下してウイルスに対する抵抗力が弱まり、心身状態が衰弱してさらなる症状の悪化を防げません。
呼吸器感染症は症状が軽度なら自然治癒力に任せても徐々に回復することが多い疾患です。しかし罹患中にインプラント治療と並行すると重篤化する傾向が見受けられます。
麻酔の効果に影響を与える可能性
体調不良の方は痛みを和らげる麻酔が正常に働かず、術中や術後に苦しい思いをする場合があります。インプラントの手術では局所麻酔を打つ必要があるうえ、副作用を抑えるために鎮痛剤や抗生物質が処方されます。
ウイルスが体内に蔓延して免疫機能が低下している身体には麻酔が正常に効かない可能性が高いです。具体的な症状は術後の腫れや赤みがなかなか落ち着かず、ときには絶叫したくなるほど苦しい思いをすることです。
手術中の咳やくしゃみが手術の精度に与える影響
手術中の咳やくしゃみが医師の正確な施術を妨げ、精度が落ちるパターンです。インプラント治療では二度の手術が欠かせず、一度目の施術にインプラント体を埋め込む必要があります。
その際ドリルを用いて、差し込み用の埋入窩を作る作業が発生します。患者さんが咳やくしゃみをすれば位置がずれるだけでなく、出血や怪我を引き起こす原因です。
手術中は麻酔を投与しますが、必ずしも意識をなくすほど強力な方法が行われるとは限りません。インプラントの埋め込み本数が少ないときは局所麻酔のほか、効力が弱い笑気ガスを用いた吸入鎮静法が採用される場合があります。
治療に使用される薬剤の副作用リスクへの影響
インプラントの治療時は痛みや腫れを抑える鎮痛剤や、化膿止めの抗生物質が処方されます。体調不良の免疫が弱くなった状態では投与された薬剤による副作用リスクが上がる可能性が高いです。
例えば吐き気や頭痛、下痢などの症状が現れ、大変な思いをする状況が想定されます。ほかにも腎臓や肝臓、心臓に疾患を抱える方は持病が悪化するリスクも否定できません。
体調不良の方はインプラント固有の副作用に加え、薬剤の悪影響に悩まされる場合があります。
インプラント治療前に体調不良を自覚した場合の対処法
インプラント治療を直近に控えたとき、風邪やインフルエンザの症状に見舞われた方はどのような行動を起こせばよいのでしょうか?
強引に治療を決行しようとせず、医師のアドバイスを求めるよう心がけましょう。また次のとおり免疫力を高める行動を起こし、当日までに回復させる対応が効果的です。
速やかに医師に連絡して指示に従う
インプラント治療の間近に体調不良を自覚した方は、速やかに施術を担当する医師に連絡して指示を仰ぐとよいでしょう。程度がひどく予定どおりの決行が難しいと判断されれば、延期の措置が下されます。
自己判断で「大丈夫だ」と思い込み、何も言わずに進めると施術後に感染症を発症し、思わぬ怪我の原因になるでしょう。
現在の症状や行っている治療法を医師に告げ、専門知識や経験に基づく信頼できるアドバイスを受ける必要があります。
医師から手術の延期を打診されたときは、安全性を第一に優先して指示を受け入れると、
施術後のトラブルを未然に防げます。
感染対策を強化する
さらなるウイルスの侵入を防ぐためにもうがい、手洗い、マスクの着用をはじめ感染対策を強化しましょう。防御機能を高めて安静な状態を保てば、手術の当日には問題ない状態まで回復する可能性があります。
逆に何もしないと、医師が施術を決行してもよいと判断したにも関わらず、さらに状態が悪化して結果的に感染症や副作用に悩まされる場合があります。
感染対策の強化とはいえ特別な行動は必要とせず、いつもどおりの対応を欠かさずする意識のもと過ごせば問題ありません。なお風邪薬を服用したときは医師にその旨を伝え、延期すべきか否かの判断を仰ぎましょう。
十分な休息をとる
手術直前は仕事や趣味の活動を抑えて、十分な休息をとるよう心がけます。睡眠時間を確保して少なくても6時間以上寝ると免疫機能が発揮されやすく、ウイルスの撃退には効果的です。
逆に夜更かしや徹夜は体力の低下を引き起こし、術後の回復機能の遅延や持病の悪化につながります。
インプラント治療に万全の体調で臨むための過ごし方
インプラント治療では前日の過ごし方が手術当日のコンディションに深く関わります。特に体調不良を自覚しているときは、健康的で安静な生活を意識しなければいけません。
心身状態が不安定な方がいち早く回復して万全な体調で手術に臨むための過ごし方を紹介します。
規則正しい生活を心がける
インプラント治療の直前は規則正しい生活を心がけ、普段どおりに過ごせば問題ありません。万一体調を崩さないよう、健康管理に注意を払い、起床や就寝時刻は一定に保ちましょう。
睡眠不足や疲れが蓄積した状態では麻酔が思わぬ作用を来たし、気分の悪化や吐き気が引き起こされる場合があります。
身体を整える意識を大切にして、普段どおりのリズムで過ごすことが第一です。特に前日はほかの日以上によく眠り、休息をとる意識を重視しましょう。翌日の体調は前日の過ごし方に色濃く影響を受ける可能性が高いためです。
栄養バランスの取れた食事を摂る
手術前は主食・主菜・副菜の三つをバランスよく摂取する栄養価が高い食事を推奨します。また脂っこい食べ物は控え、食べ過ぎは禁物です。
お酒を飲む行為も極力避け、前日の夜は翌日に差し障る可能性があるほどアルコールを摂取してはいけません。麻酔の効きに影響をきたせば、副作用からの回復遅延や風邪症状の悪化、投薬治療の効果低減に悩まされる場合があります。
また暴飲暴食や刺激物の摂取は胃腸のコンディションを低下させ、当日の体調を悪くさせる可能性が高いです。
リラックスできる時間を作り、緊張をほぐす
手術の前日は意識的にリラックスできる時間を確保して緊張を和らげましょう。ぬるめの湯舟に浸かって心身をほぐし、お気に入りの音楽やアロマを楽しむ落ち着いた過ごし方が効果的です。
抜歯や麻酔が伴うインプラント手術の際に緊張するのは仕方ありません。しかしプレッシャーの程度が強すぎると、安眠を阻害して、翌日のコンディションの悪化を招きます。
ほかにも動画投稿サイトで施術中の映像を見る過ごし方もおすすめしません。過度に不安を煽られ、緊張状態が増して、寝つきを妨げるリスクがあります。
不安なことがあれば遠慮せず医師に相談する
体調や副作用のリスクなど気になることは、遠慮せずに医師に打ち明けて指示を仰ぎましょう。手術の延期が必要な状態でも患者さんから何の意思表示もなければ適切な対応がとれない可能性があります。
相談しても有益なアドバイスを受けられない、または医師の態度や施術方針に不安があるときはほかのクリニックに意見を求めるのも一つの選択です。
インプラントの手術延期や中断には迅速な判断が求められますが、知識や経験が不足する者だと適切な指示ができない可能性があります。
施術を依頼した医院が信頼できないときは、ほかの口腔外科の医師がいるクリニックの受診をおすすめします。インプラント治療に関する相談窓口がある公益社団法人日本口腔インプラント学会の活用は、インフォームド・コンセント(十分な説明を受けたうえでの医師と患者さんの同意)には効果的です。
「トラブルを引き起こす可能性があるから治療は延期すべきだ」と意見をもらったときは施術を担う歯科医院にその旨を伝えます。
上部機関の見解に逆らうとは考えにくいため、強引に手術を決行したら心身に悪影響が生じていた状況でも、未然に事故を防ぐことが可能です。
インプラント治療は医師ごとの技能や経験に差が出やすい傾向があるうえに、患者さん側で担当医の未熟さを見極めるのは困難だといわれています。
相談相手は依頼した歯科医院だけではないため、今の医師の姿勢や技術に疑問を感じるときはほかの医療機関の意見を速やかに求めましょう。
インプラント治療後に起こりやすい体調不良と注意点
インプラント治療後は抜歯のときと変わらないほどひどい痛みに悩まされる場合があります。埋め込み本数が多い方は歯茎を切開する範囲が広がり、強い腫れが生じるケースも少なくありません。
風邪や持病の影響で免疫機能が弱っていると、回復まで余計な時間が必要になる場合があります。また唾液に血が混ざる程度の軽傷で済む場合が多いですが、体調不良の方は多量の出血や鼻血が出るケースがあります。
インプラント治療後は口元に皮下出血による痣(あざ)が発生する症例も珍しくはなく、既往歴がある方や切開の範囲が広い方は注意が必要です。
上記が術後の経過で気を付けたい体調不良の代表例です。術後の過ごし方として食事の際は硬い食べ物や刺激物の摂取は避けたほうがよいでしょう。
傷口の悪化や多量の出血を引き起こすリスクがあるため、やわらかいものや栄養価の高いものを中心に摂取する意識が求められます。また飲酒や喫煙は術後2~3日は控えるよう心がけましょう。
アルコールは血液の循環を促進して、たばこは歯茎の毛細血管を委縮を引き起こす可能性があります。結果的に回復機能の低下や骨とインプラントの結合を阻害する作用をもたらします。
まとめ
風邪の症状が出ているとき、インプラントの手術には細心の注意が必要です。医師に相談して予定どおりに施術をしてよいか指示を仰ぎ、延期したほうがよいといわれたときは素直に従いましょう。
インフルエンザやコロナウイルス感染症などの呼吸器疾患や、持病をもっている方は副作用のリスクが大きいため、インプラント治療は避けたほうが賢明です。
一時的な風邪が原因の咳やくしゃみなら、当日までの過ごし方に気を遣えば、予定どおりに決行できる可能性があります。睡眠や食事に気を配り健康的な生活を心がけ、前日はリラックスできるライフスタイルを取り入れるのが重要です。
参考文献