オールオン4は、歯がまったくない方でも4本のインプラントで固定式の歯を取り戻せる治療法です。しかし、喫煙習慣がある場合、手術への影響や治療後のトラブルが心配になる方も多いでしょう。紙巻きタバコや加熱式タバコを吸っていても治療は可能なのか、喫煙がインプラントに及ぼす悪影響や対策、そして治療後のケア方法を解説します。
オールオン4とタバコの関係
- オールオン4の手術は紙巻きタバコや加熱式タバコを吸っていても行えますか?
- はい、喫煙者でもオールオン4インプラント手術を受けること自体は可能です。ただし、喫煙習慣があるとインプラント治療の成功率が低下するおそれがあるため、多くの歯科医師は手術前後の禁煙を強くすすめます。特に、加熱式タバコ(電子タバコ)も含め、タバコはすべてインプラントに影響するおそれがあるため、「電子タバコなら大丈夫」ということはありません。インプラント治療前に歯科医師から「電子タバコを含むすべてのタバコを控えてください」と指導されることもあるでしょう。喫煙者の方は治療自体は受けられますが、手術の成功と長持ちさせるために可能な限り禁煙することが望ましいといえます。
- タバコがオールオン4の手術に与える影響を教えてください
- 喫煙はオールオン4手術の成功率や治癒過程にマイナスの影響を与えます。タバコに含まれるニコチンの作用で血管が収縮し、歯茎や顎骨への血流が減少します。その結果、インプラント埋入後の傷口の治りが遅れ、感染や炎症のリスクが高まります。また、喫煙者は非喫煙者に比べてインプラントが骨としっかり結合しない(オッセオインテグレーション不全)ケースや、インプラント周囲炎を発症するリスクが高いことが報告されています。以上のように、タバコはオールオン4の成功と安全性を脅かす大きなリスク因子です。
参照:『Association between smoking and peri-implant diseases: A retrospective study』(Clinical Oral Implants ResearchVolume)
- タバコの影響を抑えるためにはどうすればよいですか?
- 効果的なのは手術前後を含めた禁煙です。禁煙期間を設けることで、インプラントと骨の結合が順調に進み、術後合併症のリスクを抑えることが期待できます。どうしてもやめられない場合も、喫煙本数を減らす、手術当日や直後は絶対に吸わないなど、できる限り影響を減らす努力をしましょう。
また、口腔衛生を徹底することも重要な対策です。手術前から歯科医師や衛生士の指導のもとで適切な歯磨き方法やフロスの使用、専門的なクリーニングを受けて口腔内を清潔に保ってください。
さらに、定期的な検診やクリーニングの頻度を上げることで、タバコの悪影響による兆候を早期に発見し対処できます。これらのことに取り組むことで、タバコの影響を抑えることが期待できます。
- どうしても禁煙ができないときの対処法を教えてください
- 禁煙が難しい場合は、専門家の助けを借りることを検討しましょう。歯科医師や医師に相談すれば、禁煙補助剤(ニコチンパッチやガムなど)や禁煙外来の紹介などの、医学的な支援を受けることができます。例えば、ニコチン代替療法を利用すれば、ニコチンの摂取量を軽減できるため、少なくとも手術期間中の喫煙による影響を減らすことが期待できます。
併せて、減煙から始めるのも一つの方法です。一日に吸う本数を徐々に減らし、口寂しさにはシュガーレスガムを噛むなど代替行動を取り入れてみてください。また、前述のとおり口腔ケアや定期検診は通常以上に徹底し、喫煙以外のリスク因子をおさえる生活習慣(十分な睡眠と栄養、ストレス管理など)を心がけましょう。
オールオン4治療後のタバコとの付き合い方
- オールオン4の治療が完了したらタバコを吸ってもよいですか?
- 治療完了後であっても、可能な限り喫煙は控えることが望ましいです。たとえインプラントが無事に定着し治療が完了した後でも、タバコによる作用は続きます。
喫煙を再開すれば、インプラント周囲の骨や歯茎に悪影響を与え、長期的なトラブルを招く可能性があります。特に、オールオン4は4本のインプラントですべての人工歯を支えるため、1本でもダメになると噛み合わせ全体に支障が出てしまいます。
そうしたリスクを避けるためにも、治療後も禁煙を継続することが理想です。どうしても吸いたい場合でも、歯科医師の指示した治癒期間が終わるまでは吸わないようにしましょう。「治療が終わったからもう吸っても安心」ということは決してないと心得てください。
- ニコチンやタールによってオールオン4の色が変わりますか?
- はい、タバコのヤニの主成分であるタールによってオールオン4の人工歯が着色することがあります。天然の歯と同様に、人工歯も長期間タバコの煙にさらされると徐々に黄ばみが出てくることがあります。アクリル樹脂の人工歯は表面に傷がつきやすく汚れが付きやすいため、タバコのタールが染み込みやすいのです。
一方でセラミック製の人工歯は樹脂よりも着色耐性が高く変色しにくいですが、それでも喫煙で表面にヤニが付着すれば光沢が失われるなど、多少の変色は起こりえます。いずれにせよ、喫煙習慣があるとオールオン4の見た目の美しさが損なわれる可能性があるため、ヤニ汚れを防ぐためにも禁煙あるいは減煙や、日々の歯磨きが重要です。
また、すでに付いてしまったヤニによる着色は、歯科医院での研磨やクリーニングである程度除去できますが、ひどい場合には着色が取れないおそれがあります。せっかく手に入れた白い歯を長持ちさせるためにも、タバコによる着色には十分注意しましょう。
- タバコを吸うことで治療後のオールオン4の寿命が短くなりますか?
- 残念ながら、喫煙によってオールオン4の寿命が短くなる可能性はあります。喫煙者はインプラント周囲の骨吸収や歯肉の後退が非喫煙者より起こりやすく、結果としてインプラントのグラつきや上部構造の不適合や破損といったトラブルが生じやすくなります。実際、ある5年追跡調査の研究ではインプラントを失った患者さんの大半が喫煙者で占められており、143人中インプラント脱落を起こした9人のうち7人が喫煙者だったとの報告があります。喫煙によってインプラント周囲炎が加速すると骨の支えが衰えてしまい、最終的にはインプラント自体が抜け落ちてしまうかもしれません。長持ちさせるためには禁煙が重要ですが、吸い続ける場合は非喫煙者以上に頻繁なメインテナンスとケアでリスク管理を行いましょう。
参照:『A meta-analysis evaluating the risk for implant failure in patients who smoke』(Compend Contin Educ Dent)
タバコを吸っている方のアフターメンテナンス
- タバコを辞められない場合に、普段のケアで気を付けることを教えてください
- 喫煙者の方は非喫煙者以上に徹底した毎日のセルフケアが求められます。普段のケアでは以下のポイントに気を付けましょう。
(表は横にスクロールできます)ケア項目 ポイント 丁寧な歯磨き - インプラント周囲も含めて正しく歯磨き
- 歯茎との境目や人工歯の裏側も行う
- 喫煙後は水うがいや軽い歯磨きで汚れを残さないようにする
補助清掃の活用 - デンタルフロス・歯間ブラシを使用する
- インプラントと歯茎の間のプラーク除去を行う
- ウォーターピックで歯周ポケット内の汚れを洗浄する
洗口・保湿 - 喫煙後は水や洗口液でお口をすすぎ、ヤニや有害物質を減らす
- 唾液分泌が減りやすいため、こまめな水分補給で口腔内の潤いを維持する
定期的な受診 - 歯科医院での定期検診あるいはクリーニングを必ず受ける
- 自宅で落とせないヤニや歯石を除去する
- インプラント周囲の炎症や緩みを確認する
- オールオン4の治療後に喫煙を継続している場合は、どの程度の頻度で通院すればよいですか?
- 喫煙者の方は、非喫煙者よりも短いサイクルで定期検診に通いましょう。一般的にインプラント治療後の定期メインテナンスは年2回程度が目安ですが、喫煙を継続する場合はそれでは不十分です。少なくとも3〜4ヶ月に1度は歯科医院で検査とクリーニングを受けましょう。
これはインプラント周囲の清掃やレントゲンによる骨状態の確認をこまめに行い、異常の早期発見や早期対応を図るためです。担当医と相談のうえ、自身の口腔内リスクに見合った適切な来院頻度を設定するとよいでしょう。
なお、定期検診ではインプラントだけでなく残存歯や口腔粘膜のチェックも同時に行われます。喫煙者は歯周病や口腔がんのリスクも上がるため、そうした疾患の予防という観点からも定期的な受診はとても重要です。
編集部まとめ
タバコを吸っていてもオールオン4の治療自体は受けられますが、喫煙は手術の成功率や治療後の予後を悪化させる要因であることがわかっています。そのため、できる限り早い段階で禁煙するようにしましょう。
どうしても禁煙が難しい場合でも、せめて手術前後の一定期間は喫煙を控え、口腔ケアの徹底と通常以上の頻度での通院によってリスクを管理する必要があります。治療後に喫煙を続ければ、人工歯の着色やインプラントの寿命短縮などデメリットが大きいため、オールオン4にしたのにまた歯を失うという事態につながります。オールオン4は高価な治療であり長く快適に使い続けることが望ましいので、この機会にぜひ禁煙に挑戦し、大切な歯と健康を守っていきましょう。
参考文献
- 『A meta-analysis evaluating the risk for implant failure in patients who smoke』( PubMed)
- 『Association between smoking and peri‐implant diseases: A retrospective study – Martinez‐Amargant – 2023』(Clinical Oral Implants Research – Wiley Online Library)
- 『プログラム|ニコチン代替療法』(最新たばこ情報)
- 『Smoking can cause implants to fail』(British Dental Journal)
- 『各種資料(口腔・消化器疾患)』(日本禁煙推進医師歯科医師連盟)