インプラント

歯を抜くインプラントと神経を抜く根管治療はどちらがいい?各治療の違いを解説

歯を抜くインプラントと神経を抜く根管治療はどちらがいい?各治療の違いを解説

歯を抜くインプラント治療と、神経を抜く根管治療のどちらがいいか迷ってしまう場合もあるでしょう。

なるべく自分の歯を残したいと思っても、根管治療を繰り返すのは患者さんの心身ともに大きな負担となります。

歯の痛みは生活の質を大きく低下させるため、患者さんははやく解放されたいと思うのが当然でしょう。

本記事では、インプラント治療と神経を抜く治療の違いとそれぞれの特徴を解説します。

歯の悩みを抱える患者さんが、後悔なく適切に対処するための参考になれば幸いです。

歯を失う原因

食事中 高齢者

歯が抜けたり、大きく削ったりした部分を補う治療を補綴治療(ほてつちりょう)といいます。

歯がすべて揃っていないと噛み合わせや歯並びに問題が起こるため、欠けないように予防を心がけましょう。

補綴治療が必要になるのは歯を失うからですが、日本人が歯を失ってしまう原因をご存知ですか?

厚生労働省の調査をもとに、日本人が歯を失ってしまう主な原因を解説します。

むし歯・歯周病

厚生労働省が2018年に行った調査によると、日本人が歯を失ってしまう原因の第1位は歯周病(37%)で、第2位がむし歯(29%)です。

むし歯が歯の病気であるのに対し、歯周病は歯茎や歯槽骨の病気であり、歯を支える土台の部分が溶かされてしまいます。

むし歯は進行すると強い痛みがありますが、歯周病は歯が抜ける寸前になるまでほとんど自覚症状がないため、治療が遅れてしまうのも進行しやすい原因です。

どちらも口腔内の汚れから細菌が増殖するのが原因で、適切な口腔ケアを続けることで予防できます。

毎日の歯みがきはもちろんですが、定期的に歯科健診でむし歯や歯周病のチェックを受けるとともに、歯みがきでは落としきれない汚れをクリーニングしてもらいましょう。

破折

日本人が歯を失う原因の第3位は、歯が折れてしまう破折(18%)です。

歯はお口のなかに出ている歯冠の部分と、歯茎に埋まっている歯根の部分に分かれており、歯根が割れてしまうことを歯根破折といいます。

歯冠が少し割れただけなら修復できますが、歯根が大きく割れてしまうと保存は難しく、抜歯せざるを得ません。

破折の原因は事故やスポーツによる外傷のほか、不適切な詰め物や噛み合わせの乱れが原因となることもあります。

むし歯治療で大きく削った歯は強度が低下して割れやすくなるため、むし歯も間接的に破折の原因となります。

むし歯と破折を合わせると歯周病の割合を超えるため、実質的に日本人が歯を失う原因の第1位はむし歯といえるでしょう。

歯の神経を抜くとどうなる?

治療中の女性

むし歯治療中に、歯科医師から「神経を抜きます」と言われたことがある方は少なくないでしょう。

むし歯が進行して歯の神経(歯髄)にまで達すると、歯髄が通っている根管を通じて歯の根元まで溶かされてしまいます。

むし歯で歯の根元が溶けるのを防ぐためには、神経を抜いて根管を封鎖する治療が必要です。

歯の神経を抜くと再生できないため、歯科医師とよく相談して判断してください。

歯の神経を抜くと、主に次のような影響が現れます。

  • 歯が脆くなる
  • 歯が変色する
  • 痛みを感じなくなる
  • 細菌感染しやすくなる

それぞれの内容を解説します。

歯が脆くなる

歯の内部には根管というトンネルがあり、根管には神経や血管が通っています。

むし歯が根管にまで達すると根管内で細菌が繁殖するため、神経を抜いて根管を空洞にしてから、入念に消毒と封鎖を行います。

神経を抜いて根管内をきれいにするには、歯を大きく削らなくてはいけないため、どのような補修をしても歯の強度低下は避けられません。

歯は治療を繰り返すために脆くなっていくため、治療が必要にならないように予防が不可欠です。

歯が変色する

歯が変色

歯の神経を抜く治療を行うと、歯が黄色く変色してしまうケースが少なくありません。

歯の表面は硬いエナメル質で覆われており、その内部はやわらかい象牙質となっています。

歯の神経を抜く際に血管から出血し、象牙質に血液の成分が沈着すると、歯が黄色や茶色に見えてしまうのです。

このような内因性の変色の場合、いくら歯を磨いたりコーティングしたりしても白い歯には戻りません。

歯質が十分に残っていれば、変色した象牙質を取り除く治療もありますが、歯の強度は低下していきます。

治療を繰り返して歯質が十分に残っていない場合は、変色が気になる歯を差し歯やインプラントにする場合もあります。

痛みを感じなくなる

神経を抜いた歯は、痛みを感じる神経がないため、痛みを感じにくくなります。

むし歯は歯の表面から進行し、神経に近づくと耐え難い程の痛みとなりますが、神経が完全に壊死してしまうと痛みはほとんど感じなくなります。

痛みがないので受診が遅れて、抜歯せざるを得なくなるケースも少なくありません。

治療で神経を取った後も、歯の残った部分でむし歯が進行することはあるため、毎日のセルフケアと定期的な歯科検診は不可欠です。

細菌感染しやすくなる

神経を取った歯は血管も一緒に取ってしまうため、血管を通じて免疫細胞が運ばれなくなります。

このため、細菌を撃退する免疫細胞が届かなくなり、細菌感染のリスクが高まります。

痛みを感じないので受診が遅れることも、細菌が広まりやすい原因といえるでしょう。

神経を取った後の根管が十分に封鎖されていないと、根管内に細菌が侵入して歯の根元を溶かされてしまいます。

神経を取った後に根管に再感染した場合は、一度封鎖した根管を再度治療するため、歯をさらに大きく削らなくてはいけません。

治療を繰り返すたびに歯の強度は低下するため、抜歯してインプラントにする場合もあります。

歯を抜くインプラント治療と神経を抜く根管治療の違い

治療中の医師

歯の根元までむし歯や歯周病が進行している場合は、歯の神経を抜く根管治療や、歯を抜いてしまうインプラント治療などの治療方法があります。

自分の歯を多く残すことは重要ですが、インプラントにした方が患者さんの生活の質が高まるケースもあるでしょう。

インプラント治療と根管治療の特徴と、主な違いを解説します。

インプラント治療の特徴

インプラント治療は、歯槽骨に金属製の土台を埋め込んで人工歯を支える治療方法です。

入れ歯治療やブリッジ治療と違い、骨に埋め込まれたインプラント体で人工歯を支えるため、ほかの歯に負担をかけることがありません。

土台が骨に埋め込まれているため、極めて強い安定感を得られ、自分の歯に近い感覚で利用できるのが大きなメリットです。

インプラント治療は保険適用外であるため、1本あたり300,000~400,000円(税込)の費用がかかるのがデメリットとなります。

歯の根元で細菌が増殖して炎症を起こすことを根尖病変といい、難治性となって何度も治療を繰り返す方は少なくありません。

歯の痛みは生活の質を大きく低下させ、心身ともに弱ってしまう場合もあります。

根尖病変や歯周病を繰り返す歯は、抜歯した方がほかの歯への影響を抑えられるでしょう。

難治性の根尖病変や歯周病の治療を繰り返す場合には、歯を抜いてインプラント治療も検討してみてください。

根管治療の特徴

治療をする男性医師

根管治療とは、歯の神経にまでむし歯が達した際に、神経が通っている根管内を洗浄して封鎖する治療です。

歯科医院で「歯の神経を抜きます」といわれるのが根管治療で、感染した神経は除去しないと感染部位がどんどん広がってしまいます。

一般的には歯を表面から削って根管を露出させますが、感染部位が深い場合には歯肉を切開して歯の下側からアプローチする場合もあります。

根管内に侵入した細菌を除去して、再度侵入しないように充填剤で入念に封鎖します。

大きく削った部位に詰め物や被せ物をして、根管治療は終了となりますが、治療後に再発するケースは少なくありません。

歯の根管は極めて細く複雑に入り組んでいるため、経験豊富な歯科医師であっても感染根管を見落とすことがあります。

歯の根元で増殖した細菌を完全に除去するのは困難で、根管治療を繰り返すたびに歯の強度は低下してしまいます。

インプラント治療と根管治療に痛みはある?

治療を受ける女性

歯の治療の際に、多くの患者さんが心配するのが痛みです。

インプラント治療でも根管治療でも、治療中には麻酔をするため、痛みは感じにくくなっています。

しかし、麻酔の注射自体にも痛みがあるため、注射の痛みを軽減するために歯茎に塗る表面麻酔などもあります。

インプラント治療の場合は、骨にインプラント体を埋め込む外科手術となるため、患者さんによっては全身麻酔で行うことも少なくありません。

糖尿病や高血圧症などの全身状態によっては麻酔の使用に制限があるため、インプラント手術の前に持病の治療が必要なケースもあります。

根管治療では、痛みを感じる神経が壊死しているため、治療中も痛みを感じにくいことがほとんどでしょう。

しかし、神経の壊死した部分を正常な部分から切断したり、治療の際に正常な神経を刺激したりして痛みが生じるケースは少なくありません。

根管治療は局所麻酔を行いますが、麻酔が切れてきたタイミングで痛みが生じることがあります。

根管治療後の痛みは数時間で消退するケースがほとんどですが、治療当日には歯科医院で痛み止めが処方されます。

インプラント治療と根管治療はどちらがいい?

診察中の男性

むし歯や歯周病を繰り返して完治しない場合、根管治療とインプラント治療のどちらにするか迷う方は少なくないでしょう。

それぞれ治療方針が大きく違うため、歯科医師と相談して慎重に判断してください。

根管治療とインプラント治療のどちらにするか、判断基準を解説します。

自分の歯を残したいなら根管治療

根管治療は、自分の歯の温存を目的としており、なるべく歯の寿命を伸ばすための治療です。

歯の根元まで細菌が侵入すると、治療しないと歯が抜け落ちてしまいます。

根管治療を繰り返せば歯の強度は低下しますが、少しでも歯の寿命を伸ばすためには有効な治療です。

高齢になる程、自分の歯がたくさん残っている人の方が健康寿命が長いことがわかっており、どのような形でも自分の歯を残すことは重要となります。

自分の歯を抜かずに残したい場合には、根管治療を選択しましょう。

失った歯を取り戻すならインプラント治療

歯の模型

インプラント治療は、歯を失った部分を補う治療であり、自分の歯を残せなくなったときに選択する治療方法です。

自分の歯を残せるなら残した方がよいですが、難治性の根尖病変や歯周病を繰り返して症状が辛い場合には、抜歯してインプラントにする選択肢もあるでしょう。

自分の歯が数本しか残っていない場合には、残った歯も抜歯して全体をインプラントにするオールオン4治療があります。

オールオン4治療とは、4本のインプラント体で14本の人工歯を支える治療方法で、手術の負担や費用を軽減できるのがメリットです。

総入れ歯よりも安定性が高く、食事や発音の快適性も保たれるため、自分の歯に近い感覚で使用できます。

自分の歯を長く残せない場合には、インプラントなどの補綴治療を検討しましょう。

インプラントと天然歯の寿命を延ばす方法

レントゲン写真

インプラントであっても天然歯であっても、歯の寿命を延ばすには適切なケアが不可欠です。

ケアせずに放置していては、天然歯だけでなくインプラントも劣化し、再度の治療が必要になってしまいます。

歯の寿命を延ばすためにも、以下のようなケアを心がけましょう。

  • 治療の技術が高い歯科医院を受診する
  • 定期的なメンテナンスを受ける
  • セルフケアを十分に行う

それぞれの内容を解説します。

治療の技術が高い歯科医院を受診する

インプラント治療や根管治療は、極めて高い技術が要求されるため、治療を受ける歯科医院選びも重要となります。

神経を抜く根管治療を正確に行うには、1mm以下の細い根管を詳細に観察できるマイクロスコープや、唾液の侵入を防ぐラバーダムなどの設備が必要です。

このような設備を導入している歯科医院は、根管治療にも力を入れている歯科医院だと判断する目安になるでしょう。

インプラント治療では、歯科医院のホームページで実施件数を公表しており、インプラント専用の手術室を完備してる歯科医院などを選ぶようにしましょう。

定期的なメンテナンスを受ける

歯の隙間や歯周ポケットにたまった汚れは、歯ブラシだけでは除去できないため、定期的に歯科医院でメンテナンスを受けることが不可欠です。

汚れのクリーニングだけでなく、歯周病やむし歯が進行していないか歯科医師にチェックしてもらいましょう。

早期に発見できれば、治療の際に歯を削る量も少なくなります。

セルフケアを十分に行う

歯の寿命を延ばすためには、毎日のセルフケアが不可欠です。

インプラントの人工歯も、歯の周りに汚れがたまると歯周病と同じようにインプラント周囲炎となります。

人工歯も天然歯も、毎日歯みがきと歯間ブラシを行い、汚れがたまらないように清潔を保ちましょう。

まとめ

OKサイン 女性

歯の神経を抜く根管治療と、インプラント治療の特徴や違いを解説してきました。

根管治療は自分の歯を残すための治療であり、インプラント治療は自分の歯を失ったときの治療です。

自分の歯を残した方がいいのは当然ですが、難治性の歯周病や根尖病変では、抜歯してインプラントにする選択肢もあります。

ほかの歯への影響や心身の状態を考慮し、総合的に判断しましょう。

セカンドオピニオンによって判断が変わることもありますので、お口の症状でお悩みの際はまず歯科医師にご相談ください。

参考文献

この記事の監修歯科医師
山下 正勝歯科医師(医療法人徳洲会 名古屋徳洲会総合病院)

山下 正勝歯科医師(医療法人徳洲会 名古屋徳洲会総合病院)

国立大学法人 鹿児島大学歯学部卒業 / 神戸大学歯科口腔外科 勤務 / 某一般歯科 7年勤務 / 国立大学法人 山口大学医学部医学科卒業 / 名古屋徳洲会総合病院  呼吸器外科勤務 / 専門は呼吸器外科、栄養サポートチーム担当NST医師

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