失った歯を補うことができるインプラント。一見すると天然歯そっくりの色や形、光沢を備えていることから、どのような素材を使っているのか気になる方もいるでしょう。上部構造と呼ばれるパーツには、セラミック以外にもいくつかの選択肢が用意されています。
本記事ではインプラントの上部構造に使える素材の種類や装着方法、選び方のポイントなどを詳しく解説します。インプラント治療で後悔や失敗をしたくない方はこのコラムを参考にしてみてください。
インプラントの構造
はじめに、インプラント全体の構造を確認しておきましょう。標準的なインプラントは、上部構造、アバットメント、インプラント体の3つのパーツで構成されています。
上部構造
上部構造とは、インプラントにおける被せ物に当たるパーツです。口腔内に露出している部分が上部構造であり、審美性と耐久性が求められます。一般的な被せ物とは構造が異なり、アバットメントに連結する形で固定されます。
アバットメント
アバットメントとは、上部構造の土台となる部分で、インプラント体との連結も担う重要なパーツです。アバットメントはインプラント体と同じチタン合金やセラミックの一種であるジルコニアで作られるのが一般的です。
インプラント体
インプラント体とは、人工歯根にあたるパーツです。基本的にはチタン合金や純チタンで作られており、オッセオインテグレーションという現象によって、顎の骨とインプラント体が結合します。近年では、チタンアレルギーがあるのために、ジルコニア製のインプラント体も作られるようになっています。
上部構造の素材の種類
上部構造に使われる素材の種類を紹介します。臨床の現場で広く使われる6種類の特徴やメリット・デメリットを解説します。
オールジルコニア
ジルコニアは、酸化ジルコニウムから構成されるセラミックの一種で、金属に匹敵する硬さを備えていることから、人工ダイヤモンドとも呼ばれています。オールジルコニアは、ジルコニアのみで構成された素材を意味します。
◎オールジルコニアのメリット
・見た目が白くて自然な仕上がりが期待できる
・強度が高くて壊れにくい
・生体親和性が高い
・金属アレルギーのリスクがない
・経年的な摩耗や変色が起こりにくい
◎オールジルコニアのデメリット
・天然歯よりも硬いため、噛み合う歯を傷つけるリスクがある
・透明感においてはオールセラミックに劣る
・費用が高い
オールセラミック
セラミックのみで構成された素材をオールセラミックといいます。歯科素材のなかで審美性の高い素材で、前歯のインプラント治療に適しています。
◎メリット
・天然歯の色調、光沢、透明感を再現できる
・生体親和性が高い
・金属アレルギーのリスクがない
・経年的な摩耗や変色が起こりにくい
◎デメリット
・強い衝撃を受けると割れることがある
・費用が高い
ジルコニアセラミック
外側を透明感に優れたセラミックで覆い、内側を強度に優れたジルコニアで作った被せ物です。セラミックとジルコニアの両者のメリットを引き立たせた素材です。
◎メリット
・審美性が高い
・強度が高い
・金属アレルギーのリスクがない
・経年的な劣化が起こりにくい
◎デメリット
・費用が高い
・オールジルコニアよりは強度が劣る
ハイブリッドセラミック
セラミックと歯科用プラスチックのレジンを混ぜ合わせた素材です。両者の中間的な性質を持っています。
◎メリット
・セラミックやジルコニアより安い
・レジンより自然な仕上がりが期待できる
・レジンより強度や耐久性に優れている
・金属アレルギーのリスクがない
・噛み合う歯を傷つけるおそれが少ない
◎デメリット
・セラミックより強度や審美性に劣る
・経年的な変色や摩耗は避けられない
メタルボンド
外側をセラミックで覆い、内側を金属で作った被せ物をメタルボンドといいます。被せ物の大部分が金属で作られているため強度が高く壊れにくい素材です。被せ物の表側にはセラミックが焼き付けてあることから審美性にも優れています。
◎メリット
・審美性と強度に優れている
・セラミックと比較すると費用が安い
◎デメリット
・金属アレルギーのリスクがある
・歯茎が黒ずむメタルタトゥーが起こりうる
・セラミックの部分が割れることがある
・オールセラミックより審美性に劣る
金属
歯科用合金を使って被せ物を製作する方法です。使用する金属によって治療にかかる費用は異なりますが、セラミックよりは安価であるケースがほとんどです。ゴールドを選択した場合はセラミックより高くなることがあります。
◎メリット
・強度が極めて高い
・セラミックより費用が安い
・外れにくい
◎デメリット
・金属アレルギーのリスクがある
・メタルタトゥーのリスクがある
・見た目が悪い
・経年的な劣化が起こる
上部構造の装着方法の種類
上部構造を装着させる方法を紹介します。上部構造の装着方法は、セメント合着とスクリュー固定の2つに分けられます。
セメント合着
セメント合着とは、歯科用のセメントで上部構造をアバットメントに固定する方法です。上部構造が緩んでしまったり脱離するということは、スクリュー固定より起きにくいとされています。上部構造を直接アバットメントにはめることができるため、余計な構造が必要ないため、スクリュー固定よりも審美性に優れています。
セメント合着は、頻繁に着脱することを前提としていないことから、上部構造やアバットメントにトラブルが起きた場合は、修理に手間がかかります。場合によっては上部構造を壊さなければならないこともあるでしょう。
スクリュー固定
スクリュー固定は、ネジによって上部構造をアバットメントに固定する方法です。上部構造にはネジを通すための穴(アクセスホール)が必要なため、審美面においてはセメント合着より劣ってしまいます。
ネジが緩むことでアバットメントやインプラント体に不要な圧力が加わったりするリスクもあります。その一方で、上部構造やアバットメントにトラブルが起きたときの対処がしやすく、定期的なメンテナンスも行いやすいというメリットがあります。
上部構造を選ぶときのポイント
上部構造の素材にはたくさんの選択肢があることから、自分に合ったものを選ぶ必要があります。その際、以下に挙げる3つのポイントに着目すると、上部構造の素材の選択で後悔しにくくなることでしょう。
色や形状の審美性
インプラント治療の審美性に関わるのは上部構造の素材です。インプラント治療でしっかり噛めるようになったとしても、見た目が悪かったら満足度も大きく低下してしまうものです。治療する歯の部位によっては、上部構造の色や形状にこだわる必要性も低くなりますが、審美面を第一に考える方にとっては、選択できる素材が限られます。
例えば、前歯のインプラント治療で高い審美性を求める場合は、オールセラミックがおすすめです。審美性を重視しつつ、強度にもこだわりたい場合は、ジルコニアセラミックやメタルボンドも選択肢に入るでしょう。奥歯のインプラント治療で審美性と耐久性を両立させたい場合は、ジルコニアセラミックやオールジルコニアが候補になります。
費用と長期的なコスト
インプラント治療は、健康保険が適用されないため、外科手術の費用だけで数十万円は必要になります。そのため、上部構造の費用だけでも抑えたいという方は少なくありません。
そのような場合は、ハイブリッドセラミックやメタルボンド、金属などの素材が候補となります。オールセラミックやジルコニアセラミックのような初期費用の高い素材は、費用面で考えると敬遠しがちになります。しかし、メンテナンス費用や破損のリスクも含めて長期的なトータルコストの観点で検討することも後悔しない選び方のポイントです。
治療する歯に適した素材
治療する歯によっても適した素材は変わります。ここでは前歯と奥歯で適した素材を紹介します。
◎前歯のインプラント治療に適した素材
・オールセラミック
・ジルコニアセラミック
・メタルボンド
・ハイブリッドセラミック
◎奥歯のインプラント治療に適した素材
・オールジルコニア
・メタルボンド
・金属
上部構造を長持ちさせる方法
インプラントの上部構造を長持ちさせる方法について解説します。
毎日セルフケアを行う
上部構造を長持ちさせるうえで大切なのは毎日のセルフケアです。
インプラントの上部構造は、天然歯そっくりではありますが、アバットメントとの連結部分は特殊な構造をしており、汚れがたまりやすくなっています。歯垢や歯石が堆積すると、インプラント特有のインプラント周囲炎を発症するリスクが高まってしまいます。
上部構造と歯茎の境目を硬い歯ブラシでゴシゴシと磨くのは避けましょう。セラミックに傷がついたり、アバットメントやその周りの歯茎にダメージがあるため、やわらかめの歯ブラシで優しく磨くようにしてください。
上部構造と歯の間は、デンタルフロスや歯間ブラシを使って汚れを取り除きましょう。適切なセルフケア方法は、歯科医院でのメンテナンスで指導を受けるようにしてください。
負荷がかからないようにする
インプラントはチタン製の人工歯根があることで、天然歯のようにしっかり噛むことができますが、過剰な負荷がかからない配慮が大切です。
例えば、硬いナッツ類やおせんべいなどを習慣的に食べていると、上部構造のセラミックが欠けてしまうことがあります。食べものを噛むときは、インプラントの部分だけでなく歯列全体で均等に噛むことを心がけましょう。
歯ぎしりや食いしばりの習慣がある場合は、できるだけ早期に改善するのが望ましいです。上部構造が割れる程度であれば修復は容易ですが、インプラント体や顎の骨まで破壊されると、再治療が困難になります。必要に応じて歯科医院でのスプリント療法なども検討しましょう。
禁煙をする
タバコの煙に含まれるニコチンや一酸化炭素は、歯茎や顎の骨の血流を悪くして栄養素や酸素、免疫細胞の供給を滞らせます。歯周組織の免疫力が低下して、インプラント周囲炎を発症することがあります。
インプラント周囲炎を発症すると、顎の骨が破壊されてインプラント体やアバットメント、上部構造が不安定となり、さまざまなトラブルを引き起こします。
歯科医院で定期的にメンテナンスを受ける
上部構造の寿命を延ばすためには、歯科医院での定期的なメンテナンスも欠かせません。3〜4ヵ月に1回のメンテナンスを受けることで、上部構造の異常を早期に発見し、適切に対処できるようになります。
アバットメントの緩みやインプラントの清掃不良も大きなトラブルとなる前に対応できることでしょう。また、上部構造やインプラント体の保証を受けるためには、歯科医院でのメンテナンスを定期的に受けていることが条件となっているため、通院をやめることはおすすめできません。
まとめ
今回は、インプラントの上部構造の種類や選び方、装置を長持ちさせるポイントについて解説しました。インプラントの被せ物に当たる上部構造は、オールジルコニア、オールセラミック、ジルコニアセラミック、ハイブリッドセラミック、メタルボンド、金属などの種類から自分に合ったものを選ぶことができます。その際、ポイントとなるのは、審美性、費用と長期的コスト、治療する歯に適した素材の3つです。治療が完了した後もセルフケアとプロフェッショナルケアを両立させることで、上部構造を長持ちさせましょう。
参考文献