インプラント治療には手術が必要です。インプラントの本数にもよりますが、だいたい1~2時間の手術で終わることが多いでしょう。基本的に入院の必要はないものの手術をするとなると、手術前はどのように過ごせばよいか、術後はどのように過ごすべきか気になる方もいるでしょう。
インプラント治療は完了まで工程が多いため、トラブルなく完了させるには過ごし方に配慮が必要です。術後の回復を早めるためにも自分で気をつけられることがあります。
生活習慣として簡単に取り入れやすいことなので、インプラント治療を受ける方はぜひ参考にしてください。
インプラントの手術前日の過ごし方
インプラントの手術は基本的に入院の必要がなく、絶食などの制限もありません。手術とはいえ、身体に対するストレスは抜歯と同程度といわれています。
必要以上に身構える必要はありませんが、小さい傷であっても手術は身体の侵襲を伴います。少しでも身体の負担を軽くするために、準備をしておきましょう。
インプラント手術前日のおすすめの過ごし方を紹介します。
体調を整える
基本中の基本ですが、手術前は体調を整えることが鉄則です。インプラント治療は優れた治療法ですが、手術をすると身体が侵襲をうけます。しかし、免疫力が十分あれば、手術のリスクである感染症から身体を守ることができます。
また、術後の経過にもよい影響があるでしょう。免疫力を高めるには、まずは一日3食しっかり食べることが大切です。1食でも欠けるとエネルギー不足になりがちです。
また、風邪などひかないように手洗い・うがいをするのもよいでしょう。ほかにも前日は早めに寝て十分睡眠をとるなど基本的な生活習慣に注意し、体調を整えておきましょう。
飲酒・喫煙は避ける
手術前の飲酒・喫煙は避けましょう。飲酒は、局所麻酔やその他の薬の効果に影響が出ることがあり、血流がよくなると出血や腫れを引き起こしやすくなります。
また、免疫力を低下させる作用があるため、感染症のリスクがあがってしまいます。前日の飲酒は控えましょう。
喫煙は、インプラント治療の結果が落ちる原因になるとされています。インプラント治療は手術後、埋入したインプラントと骨がしっかり結合することが重要です。
しかし、喫煙によるニコチンの摂取は毛細血管を収縮させ、手術の傷の回復を遅れさせてしまいます。傷の回復に必要となる、血流と酸素の運搬が不足しがちになるためです。
また喫煙により摂取される一酸化炭素はヘモグロビンと結合しやすいため、ヘモグロビンが酸素と結合するのを邪魔してしまいます。結果、さらに酸素が運搬されにくくなり、傷の回復が遅れることになります。
傷の治りが悪くなると細菌感染のリスクが高まり、骨結合にも悪影響を及ぼし、インプラント周囲炎の憎悪をまねきかねません。
インプラントの手術当日の過ごし方
インプラント治療の当日はどのように過ごせばよいのでしょうか。手術当日になると期待とともに少し不安を感じる方も少なくありません。
当日の具体的な過ごし方がわかれば不安も少なくなります。注意点を理解し、リラックスして手術に臨みましょう。
食事は早めにきちんと摂る
インプラントの手術では特に食事内容の制限はありません。ただし、お口を大きく開けたまま長時間の治療を受けることになるので、お腹が苦しくなる程食べるのは控えましょう。
緊張や麻酔薬などさまざまな影響で手術中に吐き気を催すことがあります。手術の3~4時間前を目安に早めに食事を済ませておきましょう。
バランスのよい食事をとることが理想的ですが、もともと朝はあまり食べない方や緊張して食べられない方もいるでしょう。
しかし、朝食をまったく食べないと血糖値が下がってしまい、さまざまな不調が現れる可能性があるため、軽くでも食事を摂ることをおすすめします。
また、術後は違和感や治療箇所の安静のため、食事は固いものを避けやわらかいものに限られるようになります。手術前は時間に余裕をもってしっかり食べておきましょう。
術後のためにおかゆやゼリーなど簡単に食べられるものを事前に用意しておくのもおすすめです。
丁寧に歯磨きをしておく
手術前の食事を済ませたら、丁寧に歯磨きをしましょう。インプラント治療では口腔内の衛生状態がとても重要です。
歯磨きにより細菌数を減らせば感染のリスクを抑えられます。いつも以上に丁寧に歯磨きをしておくとよいでしょう。
歯ブラシはやわらかく毛先が丸いものがおすすめです。歯と歯茎の間にあてて、左右に小さく動かしながら1本ずつ丁寧に磨きましょう。
歯間ブラシやフロスを使うと、歯ブラシでは落としきれない歯と歯茎の間の隙間の汚れを落とすことができます。
車やバイクの運転は避ける
インプラント治療は局所麻酔を使った治療です。患者さんによっては局所麻酔が効きにくかったり恐怖心が強かったりして、静脈内鎮静法を使用して手術することもあります。
静脈内鎮静法は全身麻酔と違って意識はありますが、うとうとした状態になるので麻酔が切れた後もなんとなくぼーっとしたりふらついたりすることがあります。麻酔の種類によっては数時間感覚が鈍くなることがあり、車やバイクの運転に影響が出るため、運転は避けましょう。
また、術後は痛みや不快感が伴います。これらのいつもとは違う感覚も、直後の運転能力に影響を及ぼす可能性があります。安全を考慮して車やバイクの運転は避けるようにしましょう。
家族に送迎してもらうか、公共交通機関を利用するなど事前に計画を立てておくと安心です。
インプラントの手術後の過ごし方
インプラントの手術が無事に終わったら、どのように過ごせばよいのでしょうか。インプラント治療は手術だけで治療が完結するわけではありません。
手術で埋入したインプラント体と顎の骨がしっかり定着し、感染症などを起こさず傷口が治癒しなければなりません。
術後の過ごし方で経過をよくすることができるので、以下の点に気をつけて過ごしましょう。
安静に過ごす
インプラントの手術後は安静に過ごします。少なくとも手術当日は予定をあけてゆっくりと過ごしましょう。
インプラントの手術は、通常1~2時間の手術で入院の必要もありませんが、手術により心身ともにある程度ダメージを受けています。仕事などの都合がつく場合は、2〜3日お休みをして安静に過ごすと回復がスムーズに進むでしょう。
インプラントと骨の結合と傷の回復を助けるため、術後3日程度はウオーキングやストレッチなどの軽い運動も控え、ゆっくりと安静に過ごすよう心がけましょう。
その後は普通に生活できますが、激しい運動は血流が多くなり、血が止まりにくくなったり腫れや痛みを感じたりする原因になります。
無理をすると回復が遅れる原因になりかねないため、術後1週間から10日程度は無理のない生活を心がけましょう。
飲酒・喫煙は引き続き控える
手術前から控えるべき飲酒・喫煙ですが、術後も継続して控えるようにしましょう。特に喫煙は、全身の健康状態に悪影響を及ぼすため注意が必要です。
喫煙することで口腔内が乾燥し、細菌が増えやすくなり細菌感染のリスクが高まります。細菌感染はインプラント治療が失敗する主な理由です。
また、タバコに含まれているニコチンは毛細血管を収縮させるため傷が治りづらくなります。細菌感染や毛細血管の収縮は、インプラント体と骨の結合にも悪影響を及ぼすため、禁煙をおすすめします。
インプラント治療において喫煙は大きなリスクを伴うことが証明されています。手術前後はもちろん、その後インプラントをよい状態で維持するために、インプラント治療を機に禁煙を考えるのもよいでしょう。
また、アルコールは血流を促し傷の治りに影響するほか、免疫力の低下や鎮痛剤などの薬の作用を弱まらせる可能性があります。飲酒も手術前から手術後3日程度は控えると、傷の回復が助けられます。
歯磨きやうがいは優しく行う
術後1週間程度で傷が治るまでは、傷の箇所を避けてそれ以外の歯を丁寧に磨きましょう。
歯ブラシが傷にあたってしまうと、傷の治りが遅くなったり出血したりする恐れがあります。傷口に当たらないよう気をつけましょう。
インプラント治療後は口腔内の清潔を保つことがとても大切です。口腔内の細菌を減らすため、うがい薬を使って1日に何度もうがいをします。細菌に感染したり、歯周病になったりするとインプラントの残存率が低くなるという報告があります。
ただし、手術の傷があるため、強めのぶくぶくうがいをするのは傷の回復によくありません。傷への刺激にならないよう頬を膨らませず、軽くうがいをしましょう。
インプラント治療の経過をよくするための注意点
インプラント治療後、経過をよくするにはどのようなことに気をつければよいのでしょうか。インプラント治療は、手術が終わればすぐに治療した歯が使えるわけではありません。
傷口が閉じて、埋入したインプラント体と顎の骨がしっかり結合するまでは、治療した個所を安静に保つ必要があります。安静に保つにはどうすればよいのでしょうか。
以下で、術後の経過をよくするための注意点をあげているので、参考にしてください。
患部には触らない
術後すぐは麻酔が効いていますが、数時間たって麻酔が切れてくると、違和感や痛みを感じる方もいます。傷口が気になるかもしれませんが、舌などで触らないようにしましょう。
また、術後すぐは麻酔の影響で口腔内がしびれています。熱さや辛さなどの刺激に気付かなかったり、舌や頬、唇を噛んでしまうかもしれません。麻酔が切れるまでは飲食は控えた方が安心です。
歯ブラシや食べ物があたるのも気をつけなければいけません。固いものは食べるのを控えましょう。インプラントが骨としっかり結合するのに時間がかかるため、結合が不十分な間は、治療箇所に負担がかかり、傷の裂開にもつながります。
また、先述したように熱いものや辛いものも傷への刺激になってしまいます。術後しばらくは、傷口の刺激になる食べ物は控える方がよいでしょう。
血行がよくなる行動は避ける
インプラント治療後は血行がよくなる行動は避けます。血行がよくなると、出血や痛みの原因になるためです。以下のような行動は血行がよくなるので控えましょう。
- 飲酒
- 運動
- 入浴
飲酒はアルコールの摂取で血行がよくなり、運動は心拍数があがって全身の血液循環がよくなります。
入浴は身体が温まり、血管が広がって血の巡りがよくなります。サウナも同じです。飲酒・運動については先述しましたが、入浴も同じように血行がよくなり、傷口から出血しやすくなり、塞がりかけていた傷口がまた開いてしまう可能性があります。
痛みを増幅させる原因にもなってしまいます。特に寒い時期はお湯につかりたくなりますが、手術後は傷口の回復とインプラントが安定することを優先した生活を心がけましょう。
術後3日~1週間程度は浴槽には入らずシャワーで済ませるとよいでしょう。
薬を飲み忘れない
手術前・手術後には、医師から抗生剤や痛み止めの飲み薬が処方されます。感染を防ぎ、インプラントが定着するために大切な薬なので、飲み忘れに注意しましょう。
痛み止めの飲み薬もあります。術後、麻酔が切れてきたら痛みが出る場合があるので、医師の指示どおりに飲みましょう。
どちらの薬も、腫れや痛みの程度が軽い場合などに自己判断でやめてしまうと、それまで薬で抑えられていた腫れや感染を悪化させてしまう可能性があります。処方された薬は指示どおりに最後まで正しく服用しましょう。
気になる症状がある場合は歯科医師に相談しよう
インプラントの手術後、痛みや腫れのピークは術後3日頃で、数日で引くことがほとんどです。しかし、追加の治療が必要なケースもあります。
術後1週間以上たっても痛みが治まらない、出血が続いているなど心配な症状があれば、歯科医師に相談しましょう。インプラントを長くよい状態で保つには、日頃のケアと定期検診などのメンテナンスがとても重要です。
インプラントの手術から時間がたってからトラブルが起こることもあるため、日頃のケアに気をつけ、気になる症状があれば早めに歯科医師を受診しましょう。
まとめ
インプラント治療は成功率・満足度ともに高い治療です。入院せずに治療を受けられますが、手術は身体の負担になります。
治療前から体調に気をつけ、禁煙禁酒や基本的な生活習慣の見直しをして、少しでも身体への負担を軽減しましょう。
術後は治療個所を刺激しないよう心がけ、運動・飲酒・入浴など血行が促進されることは控えましょう。安静を保つと、スムーズな回復が期待できます。禁煙はインプラントの手術のときだけでなく、メンテナンス中も継続できたらよいですね。
日頃のケアと定期検診などのプロのメンテナンスが重要ですが、何か心配な症状があるときは早めに歯科医師に相談し、インプラントを長く健全に保てるようにしましょう。
参考文献