長い人生でむし歯になったり、歯が抜けてしまったりした経験のある方も少なくありません。なかには治療に行くのが嫌で、長年放置している方もいます。
むし歯や歯がない状態を放置するとどのようなリスクがあるのでしょうか。
ここでは歯がない方や、むし歯だらけの方におすすめの治療法や、その費用について解説します。ご自身の歯の状態に不安を感じている方の参考になれば幸いです。
歯科医院に行きたくない理由は?
歯科医院に行きたくない理由は多岐に渡ります。
金銭面や時間的な原因だけでなく、単純に歯科医院が怖い方も少なくありません。
ここではどのような理由で歯科医院に行きたくないのかを詳しく解説します。
歯の治療が怖い
2024年度の歯科口腔保健の実態等に関する調査によると、歯科検診を受診しない理由の15.2%が歯医者が苦手となっています。
歯の治療ではドリルで歯を削ったり歯肉をメスで切開したりといった外科治療が行われるのが一般的です。部分麻酔で痛みを消しても、ドリルの音などに恐怖や不安を感じる患者さんも少なくはありません。
また治療中はお口を開いたまま動けず、何かトラブルがあっても自分では対処できません。
そのため、歯科医師にすべてを委ねないといけない不安感や無力感などが歯の治療を遠ざける原因になっています。
歯がボロボロで恥ずかしい
2024年度の歯科口腔保健の実態等に関する調査によると、歯科検診を受診しない理由の5.2%が口腔内を見せるのに抵抗があるとなっています。
口腔内の環境は病気や怪我と比べて、患者さんの普段からの清掃意識やメンテナンスなどの生活習慣が現れやすい部分です。
そのため口腔内環境の悪さを歯科医師に見せるのは、恥ずかしさや劣等感を生む原因にもなっています。
治療費用が払えない
2024年度の歯科口腔保健の実態等に関する調査によると、歯科検診を受診しない理由の30.6%がお金がかかるとなっています。これは単体の理由では1位です。
この点から歯の治療は歯が欠けたりむし歯になったりしても、痛みなどで生活に不便がなければ後回しにされやすい傾向にあります。
また一般的な治療であれば健康保険が適用される歯の治療ですが、審美目的の内容になると保険は適用外になります。
そのため場合によっては数十万円を超える治療費を請求される可能性もあり、これも歯科医院から足が遠のく理由の一つです。
歯科医院に通う時間が取れない
2024年度の歯科口腔保健の実態等に関する調査によると、歯科検診を受診しない理由の15.0%が時間がない、作れないとなっています。
その他にも行くのが面倒くさいが26.8%、1回で解決しないが22.6%とあり、時間に関する理由が大きく占めています。
基本的に、むし歯の治療には複数回の通院が必要です。これは実際の治療に至るまでにむし歯の進行度の確認が必要な点が、理由の一つです。
また削った歯に被せ物を行う際には、削った形に合わせて型取りをする必要があるので1回の治療では終わりません。さらに抜歯を行った場合は歯の代用品となる物の作成も必要です。
これらの点から時間がかかり面倒と感じ、歯科医院に行かない方も少なくありません。
歯がない方やむし歯だらけの方に対する歯科医師の本音
1989年より日本歯科医師会では8020運動を推進しています。これは80歳になっても20本以上の歯を残そうという運動です。
20本以上の歯があれば、満足のできる食生活が行えるといわれています。
生涯の食生活を自分の歯で楽しめるようにとの願いを込めてこの運動は始まりました。少しでも長く健康的な歯が残せるように、歯に問題のある方は治療をして欲しいのが歯科医師の本音です。
それを実現するために、歯科医師は歯科検診や訪問治療、啓発事業などさまざまな取り組みを行っています。
歯がない状態やむし歯だらけの状態を放置するリスク
歯がない状態やむし歯だらけの状態を放置した場合、治療が困難になるだけでなく健康な歯にまで悪影響が出てしまいます。
ここでは治療を行わずに放置した場合に、どのようなリスクがあるのかを詳しく解説します。
むし歯が進行してしまう
歯がない状態を放置すると、その隙間を埋めようと歯が移動を始めます。そうすると歯が斜めに傾いたり、歯と歯の間に食べ物が詰まりやすい隙間ができたりといった悪影響が起こります。
このような現象は歯の清掃状態を悪くし、むし歯の原因となる一つです。またむし歯を放置することは、むし歯を進行させるリスクになります。
初期のむし歯であれば、患部を削って再石灰化させることで回復も可能です。
しかしむし歯を放置すると表面のエナメル質から奥の象牙質へと進行していきます。
さらに放置すると歯の神経を超えて歯根まで達する可能性もあり、歯だけでなく歯茎にまで影響を与えます。
さらに治療が大変になる
歯のない状態を放置して歯の移動が始まると、戻すには歯列矯正治療が必要になります。
歯列矯正の期間は成人であれば1~3年が目安です。抜けた歯に対処を行う前にそれだけの期間が必要になる時点で、歯のない状態を放置するのは大きなリスクになります。
またむし歯を放置するのも治療が大変になり問題です。
一般的に歯の治療内容はむし歯の進行具合によって変わります。軽度のものであれば表面のエナメル質を削った後にフッ素の塗布を行い再石灰化を待つだけのものもあり、治療期間も短期です。
しかしむし歯がエナメル質から象牙質、その奥へと進行すると、治療期間も長く困難なものになります。
歯の根のなかには神経や血管が通る根管という管があります。むし歯が根管部分にまで到達すると、この管のなかの神経や血管を除去し周囲への炎症や感染を防がなければいけません。
これを根管治療といいます。この際には空洞になった管のなかに詰め物をする作業も必要になります。
また、根管治療を行っても一度細菌に感染し、むし歯になった歯を無菌化するのは困難です。そのため再発する場合もあり、成功率は70~90%ほどといわれています。
歯を失う可能性がある
歯のない状態を放置すると、その歯の上下対になっている歯が伸びてくる場合があります。
これは実際に歯の長さが変わるのではなく、歯茎のなかに埋まっている部分が出てきているだけです。
そのため歯茎への固定が弱くなり、最終的に抜け落ちる可能性があります。
またむし歯を放置してあまりにも症状が進行すると、根管治療でも対処できないと判断されるケースがあります。
そうなると抜歯が必要です。さらにむし歯が周囲の歯へ感染すると、同様に複数の歯を抜歯しなければならないリスクも高まります。
噛み合わせに影響を与える
歯のない状態を放置すると、歯の移動の影響で噛み合わせが悪くなる場合があります。
一般的に、歯は上下の位置が揃っている状態が正常です。
しかし歯が移動することで、この位置がずれるケースがあります。その結果噛み合わせが悪くなり、物を噛む力が弱くなったり、特定の場所に負担がかかったりするようになります。
また、むし歯を放置するのも噛み合わせが悪くなる原因です。
むし歯が悪化すると、その歯は強い痛みを感じるようになり、物をうまく噛めなくなります。そのため痛みのない場所でばかり咀嚼するようになり、左右の顎の筋肉のバランスがずれ、さらに噛み合わせが悪くなる原因にもなります。
見た目が気になる
前歯など他人に見られやすい場所の歯がないまま放置すると、見た目を気にして大きくお口を開けられないなどの悪影響が出ます。
歯の移動が起こった後も同様で、上下で歯の位置がずれていたり、隙間があったりと見た目の印象が悪くなります。
むし歯を放置した場合も歯の表面が黒ずんだり、歯が欠けたりと見た目に悪影響です。特に前歯がむし歯になるとお口を開けたときに黒ずんだ部分が見えてしまうため、心理的なストレスも少なくありません。
また歯がない、むし歯どちらの場合でも噛み合わせの悪さから顎の筋肉のバランスが悪くなるケースがあります。この際にはお顔の左右が非対称になってしまい、同様に見た目に悪影響を及ぼします。
発音に影響を与える
歯が抜けた状態を放置すると、そこから空気が抜けるため発音に悪影響を与えます。前歯部分の影響が強く、歯が抜けたままだとサ行やタ行の発音が悪くなる傾向にあります。
むし歯を放置した場合でも、歯が欠けるなどが起こった際にはそこから空気が漏れて発音に悪影響です。
いずれのケースでも発音が悪いと舌足らずな印象になるため、相手に与える印象もよくありません。
歯がない方やむし歯だらけの方におすすめの治療方法
歯がないまま放置してもデメリットしかありません。また重度のむし歯の場合、抜歯によって新たに歯を失う可能性もあります。
ここでは失った歯の機能を回復するための治療方法を解説します。
入れ歯
入れ歯とは、むし歯や外傷によって失った歯の機能を回復するための装置です。
人工歯と粘膜に被せる床、固定する留め金から構成されています。装着の際に周囲の健康な歯を削る必要がなく、手術不要なため短期間でものが噛めるようになるなどのメリットがあります。
また取り外しができるのでお手入れが簡単なのも特徴です。
一方で、顎の骨が弱くなりやすく歯茎と入れ歯の間に物が挟まりやすいなどのデメリットもあります。
入れ歯には保険適用が可能なアクリルレジン製のものから、審美性や機能性の高い金属床やノンクラスプなど種類はさまざまで、金額にも差があります。
ブリッジ
ブリッジとは、抜けた歯の両端にある歯を土台にして、橋を架けるように人工歯を装着する方法です。自分の歯の根をブリッジの固定に使うので、本物の歯に近い感覚で使用できます。
ブリッジも入れ歯と同様に、保険診療の効くものからセラミックやジルコニアなどの高額なものまで種類はさまざまです。
入れ歯と違いお口のなかに固定するため食べかすが詰まりやすく、デンタルフロスや歯ブラシを使った丁寧なお手入れが必要です。
歯科医師による定期的なメンテナンスも重要になります。
またブリッジを取り付けるために、土台となる両端の歯を少し削る必要がある点がデメリットです。
インプラント
インプラントはインプラント体というネジ状のものを歯茎に埋め込み、その上に人工歯を装着する治療法です。顎骨にしっかりと固定するため、本物の歯に近い噛み心地になります。
残っている歯に負担が少なく、審美性も高い点が特徴です。
一方でインプラントは保険外治療になるため、保険の適用はありません。
また入れ歯やブリッジと違い一本一本治療するため、治療本数が増えると費用面では高額になります。
この他にも、インプラントを装着した際にはインプラント周囲炎に注意する必要があります。インプラント周囲炎とは歯周病に似た病気です。
ブリッジと同様に、デンタルフロスや歯ブラシを使用した細かい清掃や歯科医師によるメンテナンスが必要になります。
治療方法別の費用相場と保険適用
入れ歯の場合、保険が適用されるアクリルレジンというプラスチックの樹脂で製作したものと、それ以外で費用が大きく変わります。
保険の適用が効く場合は三割の費用負担となり、5,000~10,000円程度の費用です。
保険適用外のものとしてはノンスクラプや金属床義歯、アタッチメント義歯などです。ノンスクラプ義歯の場合、88,000~330,000円(税込)程度の費用がかかります。樹脂のみで作成するか、裏層にチタンなどを使用するかで金額差が出ます。
金属床義歯の場合、198,000~412,500円(税込)程度の費用です。
ノンスクラプ義歯と同様に素材によって費用は変わります。磁石で歯茎と入れ歯をつなげるアタッチメント義歯の場合、1ヶ所あたり110,000円(税込)程度の費用です。
ブリッジの費用も保険が適用されるかどうかで大きく変わります。
ブリッジの保険適用には厚生労働省によって厳しい条件が定められています。条件は以下のとおりです。
- 連続して失った2本の歯に対して適用
- 前歯は連続した4本まで可能
- 奥歯に使用できるのは銀歯のみ
- 前歯は金属で作成し表面をプラスチックで加工したもの
これらの条件を満たした場合、1本あたり20,000円ほどの費用で作成可能です。
保険適用外のケースではセラミック製のブリッジとなり、1本あたり123,200~253,000円(税込)程度の費用になります。
インプラントの費用は人工歯とインプラントのセットで350,000~400,000円(税込)ほどかかります。これに加えて検査費用として40,000~50,000円(税込)ほどと手術費用が1本あたり50,000~120,000円(税込)ほど必要です。
またインプラント手術を行う際には十分な顎の骨量が必要なため、場合によっては造骨手術も必要になります。この場合、別途50,000~250,000円(税込)の費用が必要です。
お金がなくて歯の治療が受けられない場合の対処法
お金がなくて歯の治療が受けられない場合にもいくつかのケースがあります。
- 収入も貯金もない
- 収入はないが貯金はある
- 収入はあるが貯金がない
収入も貯金もない方は無料低額診療事業の制度を利用できる場合があります。
無料低額診療事業とは、低収入の方や無収入など経済的な理由で医療を受けられない方が、無料または低額で診療を受けられる制度です。
全国に約700ヶ所の施設があるので最寄りの施設に問い合わせをしてみるとよいでしょう。
とりあえずの貯金はあるが、収入がないため安く抑えたい場合は健康保険の適用される範囲で治療を検討するのも一つの方法です。
歯科医師に相談をして、安価で済む方法を話しあいましょう。
定期的な収入はあるが現時点で貯金がない方は、デンタルローンの利用が可能です。
これは歯のことに関するローンで、高額な費用を分割して支払うことで月々の負担を抑えます。歯科医院によって提携の有無もあるので、歯科医院にて確認しましょう。
まとめ
歯のない状態やむし歯だらけの状態で放置すると、大きなリスクがあることを解説しました。
代用品はあるものの、天然の歯は一度失うと二度と戻ってきません。それだけではなく、費用や時間の面でも大きな負担になります。
むし歯を作らないことが大切ですが、仮になってしまった場合には、すみやかに治療し別の歯に悪影響が出ないように注意しましょう。
参考文献