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ソケットリフトはどのような術式?注意点なども併せて解説します

ソケットリフトはどのような術式?注意点なども併せて解説します

インプラント治療を検討しているものの、顎骨が足りないと診断されて諦めた方もいらっしゃるのではないでしょうか。そのようなケースで選択肢となるのが、骨補填材を用いたソケットリフトの術式です。

本記事ではソケットリフトの術式について以下の点を中心にご紹介します。

  • ソケットリフトについて
  • ソケットリフトの術式の手順について
  • ソケットリフトを検討するときの注意点について

ソケットリフトの術式について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。

ソケットリフトの術式とは

ソケットリフトの術式とは

ソケットリフトとはどのような術式なのでしょうか。術式の特徴や治療に伴う痛みの有無、治療期間、治療費などを詳しく解説します。

術式の特徴

ソケットリフトは、上顎の奥歯のインプラント埋入に必要な骨の高さが不足している場合に使用される骨造成の治療法の一つです。ソケットリフトは、上顎の骨の厚みが4mm以上ある場合に適用されます。

ソケットリフトの主な特徴は、複数ある骨造成手術のなかで、手術の侵襲が少ない術式であることです。ソケットリフトは、上顎洞を覆っているシュナイダー膜を押し上げ、そのスペースに骨補填材を入れることで、インプラントを埋めるための骨の高さを増やします。これにより、ほかの骨造成手術よりも、傷口が小さく、外科的な負担が軽減されるため、回復が早く、感染症のリスクも低減します。また、ソケットリフトはインプラント埋入と同時に行える点も特徴の一つです。

痛みについて

ソケットリフトは外科手術であるため、痛みを伴うことがあります。

手術前には局所麻酔が行われるため、麻酔注射によるチクッとした痛みを感じることがありますが、表面麻酔を施すことで痛みは軽減されます。

手術中は麻酔が効いているため、痛みを感じることはほとんどないといわれています。手術中に発生する振動や圧力、器具の音などは感じることがありますが、痛みそのものはありません。もしも音や振動が不快であったり、緊張や不安を感じる場合は、静脈内鎮静法を実施することで、半分眠ったような感覚でリラックスした状態で治療を受けることができます。

術後の痛みは個人差がありますが、傷口の痛みや骨造成による痛み、腫れが発生することがあります。手術後3日程で痛みのピークを迎え、1週間〜10日程度で徐々に収まることが多いとされています。手術後は、処方された痛み止めや腫れ止めを服用して、安静を保ちましょう。

ただし、痛みや腫れがひどく、長期間続く場合は感染症のリスクがあるため、速やかに担当の歯科医師に相談してください。

治療期間

ソケットリフトを伴うインプラント治療の治療期間は、4ヶ月〜半年程度です。この期間には、ソケットリフトの手術とインプラント体の埋入が同時に行われることが多いようです。 手術後、骨が定着するまでに数ヶ月かかるため、インプラントがしっかりと骨と結合するのを待つ期間が必要です。

治療費の目安

ソケットリフトは自費診療となるため、治療費用は歯科医院によって異なりますが、3万円〜15万円程度が相場となっています。費用は使用する材料や補填する骨の範囲、治療の難易度などによって変動しますので、事前に歯科医院に確認することをおすすめします。 また、ソケットリフトはインプラントと同時に行うことができるため、インプラント費用が別途必要となります。

サイナリフトとの術式の違い

サイナリフトとの術式の違い

ソケットリフトとサイナスリフトは、どちらも上顎にインプラントを埋め込むために骨の高さを確保する手術ですが、適用される条件や手法に違いがあります。

ソケットリフトは、小範囲での骨造成が可能とされ、手術時間が短縮でき、身体への負担が軽減される一方、骨の厚みが不十分な場合には適用が難しくなることもあります。

サイナスリフトは、骨量が不足している場合でも広範囲に骨の再生が可能とされ、より多くの骨を補う必要がある場合に選択される手術です。

どちらの方法を選択するかは、患者さんの顎骨の状態や治療の目的に応じて決定されます。

ソケットリフトの術式の手順

ソケットリフトの術式の手順

ソケットリフトは顎骨の再生を目的とした治療であり、外科手術が含まれます。ここでは、ソケットリフト治療の手順について、全体的な流れを解説します。

1.骨に穴を開ける

まずは、局所麻酔を行います。麻酔が効いた後、歯肉を切開して手術部位に到達し、専用のドリルを使用して顎骨に穴を開けます。この際、重要なのはシュナイダー膜と呼ばれる上顎洞と歯槽骨を分けている膜を傷つけないように慎重に操作することです。

2.骨補填材を充填する

次に、骨補填材を充填する工程が行われます。まず、ドリルで開けた穴から上顎洞の粘膜を慎重に押し上げ、骨を補うためのスペースを作ります。その後、この空間に必要な量の骨補填材を充填します。使用する補填材は、患者さん自身の顎から採取した自家骨や人工の骨補填材が多いようです。

骨補填材が充填されることで、インプラントを支えるために必要な骨の厚みを確保することができ、インプラントがしっかりと固定できる環境が整います。

3.インプラントを埋入する

骨補填後、インプラントをその補填材のなかに埋め込みます。ソケットリフトは、骨補填の範囲が小さいため、インプラントの埋入は補填と同時に進めることができます。インプラントと骨補填材、そして患者さん自身の骨が一体化するオッセオインテグレーションの過程が進みます。3〜6ヶ月程の時間をかけて、インプラントはしっかりと固定されます。

インプラントが顎骨と結びついた段階で、上部構造が製作されます。完成した上部構造を装着すれば、治療は完了です。

ソケットリフトのメリット

ソケットリフトのメリット

ソケットリフトは、上顎の骨が不足している場合にインプラント治療を実施するための骨再生手術の一つですが、どのようなメリットがあるのでしょうか。主なメリットは、以下のとおりです。

身体的負担が抑えられる

ソケットリフトのメリットの一つは、身体的な負担を抑えられる点です。ソケットリフトは、インプラント埋入用の穴を利用して骨補填材を充填するため、歯肉の切開や大きな外科的処置を必要としません。そのため、手術による侵襲が少なく、患者さんの身体への負担が軽減されます。

個人差はありますが、ソケットリフトはサイナスリフトと比較して回復が早く、日常生活への影響が少ないため、忙しい方でも治療後の負担を感じにくい治療方法といえるでしょう。

治療期間が短縮できる

ソケットリフトのメリットの一つは、治療期間が短縮できる点です。ソケットリフトは、手術範囲が小さく、歯茎を切開する量も少ないため、手術自体が短時間で終了します。 また、骨補填材を充填した後、インプラントの埋入を同時に行うことができるケースも少なくないため、骨の再生を待つ必要がなく、治療回数や通院の回数も減り、全体的な治療期間が短縮されます。

ソケットリフトのデメリット

ソケットリフトのデメリット

ここでは、ソケットリフトの主なデメリットについても解説します。メリットとデメリットの両方を理解したうえで治療を検討しましょう。

骨造成の範囲が限られる

ソケットリフトのデメリットの一つは、骨造成ができる範囲に制限がある点です。具体的には、上顎の歯槽骨の厚みが4mm以上でないと、ソケットリフトを行うことができません。もし骨の厚みがそれ以下の場合、ソケットリフトでは十分な骨量を確保できないため、別の治療法が必要となります。このような場合には、サイナスリフトなどのほかの骨造成手術を検討することになります。

上顎洞粘膜損傷のリスクがある

ソケットリフトは、上顎洞の粘膜を持ち上げて骨を補填する手術を行いますが、この粘膜を目視することができないため、手術中に傷つけてしまうリスクがあります。もし粘膜が損傷すると、炎症や感染を引き起こす可能性があり、副鼻腔炎や蓄膿症などの症状が現れることがあります。

腫れや痛みが残る場合がある

ソケットリフトは負担の少ない治療ですが、術後に腫れや痛みが生じることがあります。術後の腫れや痛みといった症状は数週間で収まることが多いようですが、治療中に上顎洞の粘膜を押し上げる際に、その粘膜が破れてしまうことがあります。粘膜はとても繊細で、破れることがあるため、強い腫れや痛みを伴うことがあります。 さらに、ソケットリフトでは、破れた粘膜を目視で確認できないため、医師が破れを認識するのが難しいこともあります。これが原因で、術後に予想以上の腫れや不快感が生じることもあります。 術後の痛みについては、局所麻酔が効いている手術中には感じにくいとされていますが、麻酔が切れると痛みが現れることが多いようです。特にソケットリフトやサイナスリフトを伴うインプラント治療では、痛みや腫れがインプラント手術単独よりも強くなることがあります。

ソケットリフトの術後のケア

ソケットリフトの術後のケア

ソケットリフト手術後は、治療部位の回復を助けるため、しっかりとしたアフターケアが必要です。まず、口腔内の清潔を保つことが重要です。手術後24時間は、出血のリスクを避けるためにうがいを控え、歯磨きも傷口に触れないよう注意して行いましょう。

術後2~3日は軽い血の味を感じることがありますが、これは時間とともに収まります。しかし、傷口に刺激を与えることは避けるべきです。特に、激しい運動や歌唱などの強い呼吸を伴う行動は約2週間控えることが推奨されます。さらに、くしゃみや鼻をかむことにも注意が必要で、これらの行為が治療部位に悪影響を与える可能性があるため、慎重に行動しましょう。

食事に関しては、術後数日はやわらかい食べ物を摂取し、噛む力が強く必要な食事や辛い、硬い、熱い食べ物は避けるようにしましょう。また、仮歯を使用している場合でも、あまり硬いものを噛まないようにすることが大切です。

インプラント治療後は血流をよくする行動も避ける必要があります。例えば、長時間の湯船、激しい運動、アルコール摂取などは、傷口からの出血を引き起こすことがあるため、これらは手術後数日間は避けるよう心がけましょう。

また、治療部位に触れないよう注意が必要です。傷口や糸に触れたり、歯磨きを怠ったりすると、感染のリスクが高まるため、できるだけ手術部位を清潔に保つことが重要です。

ソケットリフトを検討する際の注意点

ソケットリフトを検討する際の注意点

ソケットリフトの成功にはいくつかの重要な要素が関わっています。ここでは、ソケットリフトを検討する際に注意すべき点を詳しく説明します。

1. 信頼できる歯科医院の選定
ソケットリフトの成功には、治療を行う歯科医院の選定が重要です。まず、インプラント治療に特化した歯科医院を選ぶことが推奨されます。歯科用CTなどの設備を整えている歯科医院では、顎骨の状態などを詳細に把握できるため、より精密な治療が期待できます。また、手術の進行状況を慎重に監視し、万が一のトラブルにも対応できる体制が整っていることも重要です。

さらに、治療後のフォローアップやメンテナンスがしっかりと行われている歯科医院を選ぶことで、定期的なチェックやケアがインプラントの長期的な成功につながります。

2. 歯科医師の技術と経験
ソケットリフトの手術は、上顎洞の粘膜を持ち上げる精密な作業が必要です。このため、歯科医師の技術や経験が治療の成功に関わります。手術中に粘膜を傷つけるリスクがあるため、充実した医療設備に加えて、十分な経験と技術を持つ歯科医師を選ぶことが肝要です。また、患者さんが治療法を理解し、納得したうえで治療を受けるためにも、カウンセリングを丁寧に行い、治療の内容やリスクについてもしっかりと説明している歯科医師であることも重要なポイントです。

3. 健康状態の確認
インプラント治療は外科手術を伴うため、全身の健康状態に影響します。なかでも、糖尿病や高血圧、心疾患、骨粗しょう症などの疾患を持っている方は、治療中や治療後にトラブルが発生するリスクが高くなるとされています。そのため、治療前に歯科医師へ持病の有無をしっかりと伝え、必要に応じてかかりつけの医師とも相談しましょう。

服用中の薬がある場合、その調整が必要になることもあります。治療が可能かどうかは、歯科医師またはかかりつけの医師との連携を通じて判断されます。また、喫煙習慣がある方は治療後の回復に影響を及ぼすため、禁煙を検討することが推奨されています。歯科医院によっては、喫煙者のインプラント治療を受けていないケースもあります。

また、喫煙は血流を悪化させ、傷口の治癒を遅らせる原因となるため、治療期間中だけでなく、その後も禁煙することが大切です。

4.ソケットリフトの治療は慎重に進める必要がある
ソケットリフト手術は繊細な処置であり、慎重に進める必要があります。特に、シュナイダー膜という薄い膜を持ち上げる際、万が一膜が破れてしまうと、手術は中止となる場合もあります。シュナイダー膜が破れる原因として、患者さんのくしゃみや強い鼻をかむ動作が影響を与えることがあります。そのため、手術後はしばらくの間、注意深く過ごすことが大切です。

5.費用が高くなる場合がある
ソケットリフト手術は保険適用外であるため、費用が高くなることがあります。また、手術からインプラントの埋入までには数ヶ月の回復期間を要するため、治療全体のスケジュールも考慮して検討する必要があります。

まとめ

まとめ

ここまでソケットリフトの術式についてお伝えしてきました。ソケットリフトの術式の要点をまとめると以下のとおりです。

  • ソケットリフトは、上顎の奥歯のインプラント埋入に必要な骨の高さが不足している場合に使用される治療法で、上顎の骨の厚みが4mm以上ある場合に適用される術式である
  • ソケットリフトの術式は、①骨に穴を開ける、②骨補填材を充填する、③インプラントを埋入の手順で行われる
  • ソケットリフトを検討するときの注意点は、信頼できる歯科医院を選定すること、歯科医師の技術と経験を考慮すること、健康状態をしっかりと確認すること、ソケットリフトの治療は慎重に進める必要があること

インプラント治療を成功させるためには、十分な骨量が不可欠です。骨量が不足している場合に活用されるソケットリフトのメリットとデメリットを理解し、ご自身の状況に合った治療法を選択しましょう。

これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

この記事の監修歯科医師
松浦 明歯科医師(医療法人 松栄会 まつうら歯科クリニック)

松浦 明歯科医師(医療法人 松栄会 まつうら歯科クリニック)

出身大学:福岡歯科大学 / 経歴:1989年福岡歯科大学 卒業 1991年松浦明歯科医院 開院 2020年医療法人松栄会まつうら歯科 理事長就任 / 資格:厚生労働省認定研修指導医 日本口腔インプラント学会認定医 ICOI (国際インプラント学会)Fellowship認定医 / 所属学会:ICOI(国際口腔インプラント学会) 日本口腔インプラント学会 日本臨床歯科学会(SJCD) 福岡支部 理事 日本顎咬合学会 会員 日本臨床歯科CAD/CAM学会(JSCAD)会員

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