インプラント

若い人でも歯がないのはなぜ?原因や治療法を紹介します

若い人でも歯がないのはなぜ?原因や治療法を紹介します

若い人は、すべての歯がそろっていてあたり前というイメージがあるかと思います。歯を失うのは中高年になってからで、20代、30代で歯がない状態というのは、あまり想像できないかもしれません。しかし、実際は若い人でも歯がないケースは少なくありません。それが目立ちにくいのは、失った歯をすぐに歯科治療が補うからなのでしょう。ここではそんな若い人が歯を失う原因や治療法について解説します。若い人で歯を失うのが怖い方やもうすでに失って対処に困っている方は参考にしてみてください。

若いのに歯を失ってしまう原因

若いのに歯を失ってしまう原因 はじめに、若い人が歯を失う主な原因を3つ解説します。

重症化したむし歯

歯を失う原因としてイメージしやすいのは、むし歯ではないでしょうか。むし歯は、ミュータンス菌に代表されるむし歯菌が歯に感染し、酸によって歯質を徐々に溶かしていく病気です。その進行度はCO・C1・C2・C3・C4の5段階に分けられ、C3までは歯科治療で歯を保存できます。

残根状態(ざんこんじょうたい)を意味するC4まで進行すると、根管治療を行っても十分な効果が得られない、あるいは根管治療さえ行うことができないため、抜歯を余儀なくされます。若い人は、むし歯を放置して重症化させることも少なくないことから、歯を失う主な原因のひとつとして挙げられます。

転倒または事故

転倒した際に前歯を強打したり、交通事故で顔面に強い衝撃を受けたりした際に、歯が大きく折れる、もしくは抜けることがあります。こうした外傷による歯の喪失は、すべての年代で起こりうるものですが、若い人は中高年よりも活発に活動することから、リスクも高くなります。

外傷による歯の喪失は、偶発的なトラブルに起因するので、未然に防ぐことは難しいでしょう。スポーツ中の外傷は、マウスガードを装着するなどの対策を講じることは大切です。

重度の歯周病

歯周病は、P.g菌に代表される歯周病菌が歯茎に感染して、炎症を引き起こす病気です。軽度の段階は歯肉炎と呼ばれ、歯茎だけに炎症反応が生じていることから、早期に治療を開始すれば完治させることも難しくありません。歯肉炎の段階で歯がなくなることも少ないでしょう。

炎症反応が歯根膜(しこんまく)や歯槽骨(しそうこつ)にまで波及すると歯周炎へと移行し、不可逆的な症状が現れます。歯槽骨が破壊されて歯を支え切れなくなるケースでは、歯がグラグラと動揺するようになり歯が自然脱落します。これは若い人の歯周病でも起こりうる症状です。

歯がない若い人に起こりうる問題

歯がない若い人に起こりうる問題 歯がない若い人には、次に挙げるような問題が起こりうるため十分な注意が必要です。

歯並びや噛み合わせへの影響

歯並びや噛み合わせは、すべての歯がそろうことで安定します。ただし、すべての歯がそろっていたとしても、顎の骨が小さい、歯のサイズが標準よりも大きい、口呼吸や片側だけで噛む癖などがあるといった、さまざまな理由で歯並びや噛み合わせは悪くなるものです。

歯の喪失によって、歯列内に大きな欠損ができると、想像している以上の悪影響が歯列に生じてしまいます。

はじめに欠損部の両隣の歯は、歯がない部分に向かって倒れ込んできます。失った歯と噛み合わっていた対合歯は、歯がない部分に向かって伸びていきます。この影響は、ドミノ倒しのように隣の歯からその隣の歯へと波及していきます。

進行していくと、上下の歯列全体が乱れることになるのです。若い人の骨は軟らかく、中高年よりも柔軟に動くため、歯並びや噛み合わせの変化も早くなります。

見た目の印象への影響

歯がないことのデメリットは、審美面において強く実感することでしょう。前歯がないと口元には大きな違和感を感じられるようになり、人に見られるのが恥ずかしいと思ってしまいます。歯の欠損によって見た目の印象が悪くなることは、精神面にも深刻な悪影響をおよぼし、人と関わることを極力避けたり、積極性が低くなったりするなどの弊害が現れます。

生活の質への影響

歯がないことは、機能面にも深刻な影響をもたらします。奥歯を失ったケースでは、食べ物を細かくすりつぶすことが難しくなり、しっかりと咀嚼しない状態で飲み込むことになります。前歯を失ったケースでは、食べ物を噛み切ることが難しくなることでしょう。

食事の選択肢を狭めると同時に、食材の味を楽しみにくくなるので、食事がおいしくないと感じるようになるかもしれません。

大きな食塊のまま飲み込むと、消化する胃や腸に過剰な負担がかかるようになり、お腹の調子も悪くなります。食べ物から十分な栄養素を吸収できなくなることもあるでしょう。これは全身の健康維持にも関わる悪影響といえます。その他、歯がない部分があることで、咀嚼能率が低下し、お口周りや首、肩の筋肉に大きな負担がかかって、肩こり、頭痛などを引き起こす場合もあるのです。

若くして歯を失った場合の治療法

若くして歯を失った場合の治療法 若い人が歯を失っても、ほぼすべてのケースに適切な治療法が用意されています。ここでは失った歯を補う代表的な治療法を紹介します。

治療方法の選択肢

失った歯の治療法としては、入れ歯・ブリッジ・インプラント・歯牙移植(しがいしょく)などが挙げられます。1〜2本ではなく、すべての歯を失った場合でも総入れ歯やオールオン4、オールオン6などの方法で治療することが可能です。

失った歯の治療法にはたくさんの選択肢があることから、どれを選んだらよいのか迷ってしまう方も少なくありません。そこで個々の治療法の特徴やメリット・デメリットについては、後段で解説します。

入れ歯治療

入れ歯は着脱式の装置で、残った歯を大きく削ったり、外科手術を行ったりする必要はありません。口腔内の状態にはめ込む形で使用することから、侵襲性が低い治療方法といえるでしょう。

患者さん自身で取り外せてケアもしやすく、保険も適用されるため、安価に作製できます。一方で、装置の安定性は低く食事や会話の際にズレたり外れたりすることもあります。装置が壊れやすい、見た目が不自然になりやすいなど、デメリットもあることは理解しておきましょう。

◎部分入れ歯
歯がないのが部分的な場合に適応できる入れ歯です。歯を1本から複数本失った症例まで使えますが、すべての歯を失ったケースには適応できません。人工歯とプレート部分に当たる義歯床(ぎししょう)、残った歯に引っかけるクラスプから構成されます。

◎総入れ歯
すべての歯がない症例に適応される入れ歯です。若い人でも交通事故や先天性の病気によって歯が1本もない無歯顎(むしがく)の患者さんの選択肢として挙げられます。総入れ歯は人工歯と義歯床から構成され、基本的には口腔粘膜に吸着させることで固定します。

ブリッジ

失った歯の両隣の歯を支えとして、ブリッジと呼ばれる装置を固定する治療法です。ブリッジは、複数の人工歯が連結された被せ物のような装置で、支えとなる歯は大きく削る必要があります。

削る量は一般的な被せ物治療と同等であることから、健康な歯を削ることに抵抗がある方には、選択しにくい治療方法です。

ブリッジは壊れたときの修理がしにくいというデメリットもありますが、入れ歯のようにズレたり外れたりすることはなく、見た目も自然に仕上げることができます。

◎通常のブリッジ
上段で解説したブリッジです。基本的には1~3本の欠損に適した治療法です。

◎接着ブリッジ
接着ブリッジとは、支台歯の切削量を抑える治療法です。そのため、支台歯は歯の神経を活かしたまま使用できます。

審美性は通常のブリッジより高く、むし歯リスクも抑えられるというメリットがあります。一方でデメリットとしては、通常のブリッジよりも外れやすく、適応する口腔内の状態も限られています。1〜2本の欠損で支えとなる歯の神経が生きている、また、ブリッジに大きな力がかかりにくいなどの条件下で選択できる治療法です。

インプラント

歯がない部分にチタン製の人工歯根を埋め込んで、セラミック製の上部構造を装着する治療法です。現状、失った歯を歯根から回復できる治療法は、インプラントのみです。インプラントは人工歯根があることから、見た目が自然で美しい、天然歯のようにしっかり噛める、歯がない部分の骨が痩せにくい、装置の寿命が長い(10年以上)、装置の安定性が高い、天然歯と同じようにケアできるなどのメリットを伴います。

こうした点を踏まえると、歯を失った場合は若い人はインプラントを選択した方が得られるメリットも多くなるといえます。もちろん、インプラントには保険が適用されない、外科手術が必須、治療期間が長い(6ヵ月程度)、定期的なメンテナンスの必要性が高いなどのデメリットも伴いますが、それらを許容できるのであれば、若い人にもインプラント治療を推奨できます。

歯牙移植治療の特徴

歯牙移植とは、歯がない部分に自分の歯を移植する治療法です。一般的には、親知らず抜歯して歯がない部分に埋め込みます。移植歯が自分の歯であるため拒絶反応は起こりにくいです。外科処置や残った歯に大きな負担をかけることも不要です。

移植歯には歯根膜があるため、健康な歯と同じような噛み心地が得られます。患者さんにとってメリットある治療法ですが、健康で移植に適した親知らずがあり、技術の確かな歯科医師に施術してもらうことが必要であったりと、一定の条件があって受けることができます。移植歯が100%定着するとは限らないことも理解しておかなければなりません。

すべてまたはほとんどの歯を失ったときの治療

すべての歯、またはほとんどの歯を失った症例では、総入れ歯やオールオン4、オールオン6という治療法が用意されています。

◎総入れ歯
歯が何本か残っているが保存不可能な状態は、抜歯をしたうえで全顎補綴を行った方がよかったりする場合は、総入れ歯が第一の選択肢となりやすいです。

◎オールオン4、オールオン6
オールオン4は、顎の骨に4本のインプラントを埋め込んで、総入れ歯の形をした上部構造を固定する治療法です。総入れ歯よりも安定性が高く、審美性や機能性にも優れた治療法となります。

自費診療で高額な費用が必要ですが、若い人で全身の健康状態がよく、経済的に余裕があるようでしたら、オールオン4が推奨されます。ちなみに、オールオン6は、6本のインプラントを埋め込む治療法で、基本的にはオールオン4と同じです。

若い人がこれ以上歯を失わないために

若い人がこれ以上歯を失わないために 歯がない若い人に向けて、これ以上歯を失わないためにすべきことや注意すべきポイントを解説します。そのうえでまず伝えておきたいのは、失った歯をできるだけ早く治療することです。

早期に治療を受けるべき理由

歯がない状態を放置していると、見た目が悪いだけでなく、歯並びや噛み合わせも悪くなって、残った歯に大きな負担がかかります。その結果、残存歯の寿命が縮まってしまいます。

歯科医院を選ぶポイント

入れ歯とブリッジは、ほとんどの歯科医院で受けられますが、インプラントや歯牙移植、オールオン4などは、対応している歯科医院が一部に限られる点に注意が必要です。治療法の選択肢が狭い時点で、自分に適した方法を選びにくくなります。また、失った歯の治療の経験が豊富である点も歯科医院選びの重要なポイントとなります。

歯を失った原因への対策

突発的な事故以外で歯を失った場合は、その原因を突き止めて適切な対策をとる必要があります。歯周病やむし歯が原因の場合は、口腔ケアを徹底してそれらを予防するよう努めましょう。そのためには、失った歯の治療を受けた後も定期的に歯科検診・メンテナンスを受けることが大切です。

まとめ

今回は、若い人が歯を失う原因や治療法について解説しました。若い人が歯を失う主な原因は、重症化したむし歯や歯周病、事故などによる外傷です。歯がない状態を放置していると見た目が悪くなり、口腔環境も悪化するため、できるだけ早期に補綴治療を受けるのが望ましいです。失った歯の治療法としては、入れ歯・ブリッジ・インプラント・歯牙移植などが挙げられます。どれが適した治療法であるかは、患者さんの年齢や身体の状態、予算などによっても変わるため、まずは歯科医院に相談することをおすすめします。

参考文献

この記事の監修歯科医師
竹本 竜太朗歯科医師(北海道大学病院歯科診療センター(歯科矯正科) 大学院生)

竹本 竜太朗歯科医師(北海道大学病院歯科診療センター(歯科矯正科) 大学院生)

北海道大学歯学部 卒業 / 現在は北海道大学病院歯科診療センター勤務 / 専門は歯科矯正科

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