インプラント治療は、歯を失ってしまった場合でも自然な見た目と機能を回復できる治療方法です。
しかし体内に異物を入れる処置のため、稀に免疫が過剰に働いてしまう拒絶反応が起きる場合があります。
この記事ではインプラント治療で拒絶反応が起こるケースがあるかについて、原因や症状、対処法と併せて解説します。
インプラント治療を検討している方は予防の観点から、すでに治療を受けている方は対処法を知るために、目を通していただければ幸いです。
インプラント治療の特徴や流れ
- インプラント治療の特徴を教えてください。
- 歯科におけるインプラント治療は歯を失った際の治療方法のひとつで、顎の骨に器具を埋め込み人工歯を取り付ける方法です。インプラントは一般的に、次の3つのパーツからできています。
- 歯根部(顎骨に埋め込むパーツ)
- 支台部(歯根部と人工歯を連結するパーツ)
- 人工歯(義歯となるパーツ)
主な材質は、歯根部と支台部はチタンなどの金属、人工歯はプラスチックやセラミックです。日本では1983年に治療が開始され、約20種類のインプラントが発売されています。ほかの歯への負担がなく、ほかの歯に近い状態で機能や見た目が回復できるメリットがあります。一方、手術が必要なことや顎骨の質の影響を受けること、治療期間が長いこと・治療費が高額などの点がデメリットです。
- どのような流れで治療が行われますか?
- インプラント治療は次の流れで行われます。
- 初診:X線撮影と型取り
- CT検査
- 術前処置(骨移植や歯周病治療などが必要な場合)
- 手術
- 人工歯の製作と装着
- メインテナンス
初診ではX線検査で口腔内の状態を確認し、歯の型を取って模型を作ることで嚙み合わせの確認をします。続いてCT検査で、インプラント治療に必要な十分な量の骨があるかを確認します。骨の量が不足している場合は、骨移植を行うなどして不足を補う処置が必要です。併せて、歯周病の症状がある場合は治療を行います。術前処置の完了次第、手術を行います。手術は2回に分けて行うのが一般的です。一次手術ではインプラントを埋め込む部分に麻酔をかけ、粘膜を切開して顎骨を露出させます。ドリルで骨に穴を開け、インプラントの歯根部を埋めて縫合します。所要時間は本数によって異なり、2・3本の場合は40~50分程度です。7〜10日で抜糸し、インプラントと骨が結合するまで3〜5ヵ月の治癒期間をおきます。二次手術では歯根部上部の粘膜を切開および切除し、歯根部に支台部を連結したうえで縫合して手術は完了です。その後、嚙み合わせを調整しながら人工歯を製作し、支台部に装着します。手術後も1年以内は定期的に通院し状態の確認を行います。1年後以降もメインテナンスのために年1回の通院が必要です。
- インプラント治療の成功率はどのくらいですか?
- インプラント治療の成功率は90~95%です。失敗は次の2つのパターンがあります。
- 一次手術後、治癒期間をおいてもインプラントと骨が結合しない
- 利用を開始してから義歯としての機能を果たせない
失敗の原因は次のようなものが挙げられます。原因が明確でない場合もあり、現在も研究が続けられています。
- 骨密度
- 全身疾患
- 喫煙
- 歯ぎしり
- 不適切な手術
- 細菌感染
- 接触性皮膚炎
インプラント治療で拒絶反応が起こるケースがある?
- インプラント治療で拒絶反応が起こるケースはありますか?
- インプラント治療では稀に拒絶反応が起こるケースがあります。インプラント治療の拒絶反応は、主に金属アレルギーによる接触性皮膚炎の形で発生します。
- 拒絶反応の原因を教えてください。
- 拒絶反応の原因は体内から異物を排除しようとする免疫のしくみです。拒絶反応は広義にはアレルギー反応のひとつであり、遅延型過敏症に分類されます。原因物質である抗原の接触から48時間以上経ってから発症するのが特徴です。抗原に対して過剰な免疫反応が起きることで症状が発生します。拒絶反応の一種である金属アレルギーの症状は、感作相と惹起相の2つの過程を経て発症します。
- 感作相:抗原提示細胞が抗原をT細胞に提示し、T細胞が抗原の情報を記憶する
- 惹起相:T細胞が記憶した抗原が再び皮膚や粘膜に接触し、T細胞が抗原を攻撃する
T細胞が抗原を攻撃した結果、金属アレルギーの症状として皮膚炎が発生します。つまりインプラントに使用されている金属が抗原として認識され、T細胞による免疫反応が起きた状態が拒絶反応です。
- 拒絶反応が起こった場合どのような症状が出るのですか?
- インプラント治療で拒絶反応が起こった場合、次の症状が現れます。
- インプラント周囲の腫れや炎症
- 口腔内の痛みや赤み、口腔粘膜の異常
- 全身的な症状としての湿疹や掌蹠膿疱症(手足の水ぶくれや膿のあるぶつぶつ)、水疱、かゆみなど
金属アレルギーは金属との接触面に限らず、全身的な症状が現れる場合があります。上記の症状がインプラント治療後に発生した場合はインプラントによる金属アレルギーの可能性があるため、歯科医師に相談しましょう。なお、アレルギー性鼻炎や食品アレルギーを持つ方は、そうでない方に比べて金属アレルギーを発症する確率が高いといわれています。
- 拒絶反応が起こるとインプラントは抜けてしまいますか?
- 拒絶反応が発生した状態を放置すると、インプラントが抜ける原因となります。金属アレルギーによる接触性皮膚炎はインプラントの動揺を引き起こすためです。加えて金属アレルギーは、インプラントを埋め込んだ顎骨の骨吸収を加速させる可能性があります。骨は常に吸収(骨が解ける)と形成(骨が作られる)を繰り返しており、吸収が形成を上回ると骨密度が減少します。骨密度の減少はインプラントが抜ける原因のひとつです。インプラント治療後も定期検診をしっかり受け、早めに異常に気付くことが大切です。
- 拒絶反応が起こりにくい素材はありますか?
- 拒絶反応が起こりにくいインプラント素材として、ジルコニアがあります。ジルコニアは金属ではないため、金属アレルギーになる心配がありません。チタンと同様、インプラントに必要な生体親和性(骨と結合する性質)に優れています。一方、強度の高さから顎骨への負担が高い、素材の価格が高いといったデメリットもあります。なお現在インプラント素材の主流であるチタンは、ほかの金属と比較すると拒絶反応が起こりにくい素材です。事前にチタンアレルギー検査を実施することで、チタン製インプラントの利用に問題がないかを確認できます。また、チタン合金製よりも純チタン製のインプラントを選ぶことで拒絶反応が起こりにくくなります。チタン合金はアルミニウムなどほかの金属が含まれるため、チタン以外の金属により金属アレルギーを発症する場合があるためです。
拒絶反応で歯茎が腫れた場合の対処法
- 拒絶反応が起こった場合どのような処置が行われますか?
- 拒絶反応が起こった場合はインプラントを除去する処置が行われます。金属アレルギーによる症状は免疫反応の抗原となっている物質を除去しなければ解消しません。金属アレルギー検査により抗原を特定し、インプラント周囲の不具合が拒絶反応によるものと判明した場合はインプラントを除去します。インプラントの除去により拒絶反応による症状がただちに改善するとは限らず、症状の治癒に時間がかかる場合もあります。なお、インプラントの除去は金属アレルギー自体の治療とは異なることに注意が必要です。除去後は患者さんが金属アレルギーを持っていることを考慮したうえで、失った歯を治療するための代替策を講じる必要があります。代替策としては、金属アレルギーを起こさないインプラント材質の使用や、ブリッジなどほかの義歯を利用する方法があります。
- 歯茎が腫れた場合の対処法を教えてください。
- インプラント治療を行った場所の歯茎が腫れた場合は、歯科医院を受診し検査を受けましょう。歯科医師による視診やX線検査、ペリオテスト(インプラントの動揺の程度を測定する検査)などにより、症状の原因と対処法を検討します。金属アレルギーの頻度が増加していることもあり、状況によっては金属アレルギー検査を行う場合もあります。
編集部まとめ
顎骨に器具を埋め込み人工歯を取り付けるインプラント治療は、歯を失った際の治療方法のひとつです。
成功率は90〜95%で、失敗の要因のひとつとして拒絶反応(金属アレルギー)による接触性皮膚炎が挙げられます。
チタンによる金属アレルギーの発症頻度は低いとはいえ、0ではありません。拒絶反応が起こりにくい材質としては、非金属のジルコニアがあります。
拒絶反応が起こった場合は症状の治癒のため、インプラントの除去が必要です。歯茎の腫れに気付いた場合はできるだけ早めに歯科医院を受診しましょう。
これからインプラント治療を検討している方は、事前に金属アレルギー検査を行うことをおすすめします。
参考文献