歯科医院ではインプラント治療後に定期的なメンテナンスを受けるよう説明を受けたものの、引越しで通院ができなくなった場合はどうすればよいのでしょうか。
引越し準備に気を取られ、新しい歯科医院探しを先送りにしたり歯科医院間の引き継ぎを怠ったりすると、インプラントに悪影響が出てしまうリスクがあります。
今回はインプラント治療後のメンテナンスの重要性を再確認しながら、引越しの際に覚えておきたい対処法と注意点を紹介します。
インプラント治療後のメンテナンスは必要?
インプラント治療には、術後の継続的なメンテナンスが必要不可欠です。
インプラント治療とは、天然歯をむし歯や外傷などで失ったときに顎の骨に人工の歯根を埋め、その上に人工歯を取り付ける治療法です。
インプラント治療は見た目が自然で天然歯に近く、金属製の歯根を立てるため丈夫な点がおすすめできます。適切なインプラント治療を受ければ95%のインプラントが10年は持続できるといいます。
できるだけインプラントを長持ちさせたい場合、歯科医師の指示にしたがって3ヵ月〜半年に1回の頻度でメンテナンスが必要です。
メンテナンスでは患者さんのホームケアでは取りきれない汚れを除去したり、口腔内に変化がないかチェックをしたりします。
このメンテナンスによって、インプラントが抜けるリスクや歯科疾患のリスクを抑えられます。適切なメンテナンスを受けながら、インプラントが長持ちするように努めましょう。
インプラント周囲炎を予防しやすくなる
インプラント治療後に気をつけたい疾患に、インプラント歯周炎があります。
インプラント歯周炎とは、インプラント体周辺が歯周病菌に汚染され炎症を起こす疾患です。
初期症状では痛みもなく、患者さん自身で気が付きにくい特徴があります。インプラント歯周炎が進行すると顎骨が失われ、インプラント脱落につながりかねません。
インプラントは骨に結合しますが、粘膜との結合が強くない特性を持つため、天然歯よりも感染に弱い欠点があります。
歯科医院で定期的にメンテナンスを受け、ケア方法のアドバイスを受けたり早期に病変を発見したりできれば、インプラント歯周炎の予防と早期発見が可能です。
インプラントが長持ちしやすくなる
歯科医院で適切なメンテナンスを受けた場合、インプラントが長持ちしやすくなります。インプラントを長持ちさせるには、整った口腔内環境が必要です。
インプラントに悪影響を与えるリスク因子には以下のようなものがあります。
- 歯周病
- むし歯
- 噛み合わせの圧迫
- 溜まった汚れ
メンテナンスの際に、リスク因子をチェックしておくことで口腔内を常に清潔に保つことを心がけましょう。歯科医師の指示にしたがい、適切な頻度でメンテナンスに通うとよいでしょう。
インプラント治療後のメンテナンスの内容
インプラントの治療後に必要なメンテナンスとは、具体的にはどのような内容なのでしょうか。以下は歯科医院で受けることができる、一般的なインプラント治療後のメンテナンス内容です。
- 口腔内チェック
- 口腔洗浄
- 歯石の除去
- 歯磨き指導
メンテナンスの所要時間は40~60分程度が一般的です。以下でメンテナンス内容を詳しく解説します。
口腔内の状態のチェック
歯科医院のメンテナンスでは、まず口腔内の状態をチェックします。チェックするのは以下のようなポイントです。
- 口腔内に汚れが溜まっていないか
- インプラント周辺の歯茎が腫れていないか
- インプラント周辺の歯茎が下がっていないか
- 噛み合わせに問題がないか
- 歯周ポケットに触れたとき血や膿が出ないか
- インプラント体周囲に痛みはないか
- 被せ物に破損がないか
- 骨吸収が起こっていないか
- スクリューの緩みがないか
- インプラントのぐらつきがないか
いずれもインプラントの維持に重要なチェックポイントです。
取り切れない汚れの除去
患者さんによる毎日のホームケアでは取り切れない汚れを取り除きます。除去の対象となる汚れのプラークは、口腔内に溜まった食べかすを餌にして細菌が作り出す、ネバネバした塊のことです。
ホームケアでもある程度のプラーク除去は可能ですが、歯の隙間や歯周ポケットなど、ケアが難しくプラークが溜まりやすい部位があります。
歯科医院ではPMTC(Professional Mechanical Tooth Cleaning)と呼ばれるお手入れが可能です。
PMTCとは歯科医師、あるいは歯科衛生士による、専用機器と研磨剤を用いたプラーク除去です。研磨剤を使って歯の表面をツルツルに磨き上げるため、プラークが付着しにくくなる効果も期待できます。
歯石の除去
メンテナンスでは歯石の除去も行います。
歯石とは溜まったプラークが石灰化したもので、固くなった歯石が歯茎を刺激するため炎症の原因にもなります。
また歯周病のリスクも上がるため、インプラント歯周炎予防のためにもしっかり除去しなければなりません。
歯科医院では超音波を使い歯石の除去に優れた機器を使うほか、被せ物の人工歯を一度取り外して歯石を徹底的に除去することも可能です。
歯磨き指導
メンテナンスで受けられる歯磨き指導も、インプラントの維持に役立ちます。患者さんの口腔内環境は十人十色で、適切な清掃方法やポイントは異なります。
口腔疾患を招く口腔内環境には、以下のような要素が関係しています。
- 歯磨き習慣
- 食生活
- 喫煙習慣
- 唾液の性状
例えば歯石を取ってみても、食生活や唾液の性状によって、歯石がつきやすい患者さんとつきにくい患者さんがいます。
歯科知識を持つ歯科医や歯科衛生士のアドバイスを取り入れて、ホームケアの質を高めましょう。
インプラント治療後に引越した場合のメンテナンスは?
インプラント治療後には、インプラントを維持するために継続的なメンテナンスが欠かせません。
メンテナンスは患者さんの口腔内環境や治療の経緯をよく理解している、インプラント治療を受けた歯科医院で受けるのが理想です。
しかし患者さんの都合で引越しが決まり、インプラント治療を受けた歯科医院に通えなくなるケースもあるでしょう。
その場合はメンテナンスを治療を受けた歯科医院から、引越し先の歯科医院に引き継いでもらう必要があります。
ご自身の判断でメンテナンスを中断すると、インプラント歯周炎やインプラント体脱落のリスクが上がります。メンテナンスの引き継ぎは計画的に進めましょう。
インプラント治療後に転院する場合の対処法
インプラント治療後のお口の状態が安定したメンテナンス期間であっても、歯科医院の転院は難しいとされます。
その理由は、手術や歯を入れたときの状況は担当医でなければわからないためです。
ほかにもインプラントの種類が同じメーカーでも種類やサイズが細かく違うなど、とても複雑であることも挙げられます。
いずれにせよ、インプラント治療の内容を歯科医師間で引き継いでもらえるよう、早急にインプラント治療を受けた歯科医院に相談する必要があります。
紹介状を書いてもらう
引越しが決まったら、まず現在かかっている歯科医院に相談し紹介状を準備してもらいましょう。
インプラント治療の引き継ぎに際しては、治療記録の引き継ぎが適切にされることが重要です。具体的には以下のような記録を準備してもらいましょう。
- 治療記録
- レントゲン写真
- インプラントの種類
- メーカー情報
このとき現在かかっている歯科医院に、転院先で探す歯科医院探しのポイントも確認しておくとよいでしょう。
インプラントの情報を確認しておく
インプラント治療の引き継ぎで混乱を招きやすいのは、インプラントの種類です。
なぜならばインプラントの種類はとても多く、見た目をヒントに種類を突き止めるのは困難とされるためです。
インプラントは日本国内では40数種類近く販売されており、このなかから患者さんの口腔内に取り付けられたインプラントを判別するだけでも大変な作業です。
さらに輸入インプラントが使用されるケースもあるため、全世界で販売されている200数十種類のインプラントも視野に入れなければなりません。
同じインプラントメーカーでも種類やサイズが細分化されているため、判別はますます困難になります。
引き継ぎがうまくいくよう、現在の歯科医師から詳細なインプラント情報を聞いておきましょう。
保証制度が利用できるか調べておく
利用している保証制度が、現在通っている歯科医院独自の保証ならば、引越し先の医院では保証を受けられなくなる可能性があります。
インプラント治療の保証には、大きく分けて以下の3種類があります。
- 歯科医院独自の保証
- インプラントメーカーによる保証
- 第三者機関(保証会社など)の保証
患者さんが引越しをする際に気をつけてほしいのは、歯科医院独自の保証のみ受けているケースです。
保証を提供している歯科医院での診療にのみ保証が付くことがほとんどであるため、事前に歯科医院に確認しておきましょう。
また第三者機関である保証会社を利用している場合は、患者さん情報の住所変更が必要であるため、引越しが決まったら早めに連絡しておきましょう。
引越し先での歯科医院選びの注意点
転院する際は、今までの歯科医院とは異なるため不安なことも多いでしょう。
患者さんの口腔内環境や生活習慣などによっても注意点は異なるため、インプラント治療を受けた歯科医院にも相談しておくとよいでしょう。
ここではインプラント治療後に定期的なメンテナンスが必要な患者さんが、歯科医院を転院するときに気をつけたい注意点を解説します。
インプラント治療に対応しているか
歯科医院の数はコンビニエンスストアよりも多いといいますが、質の高いインプラント治療を受けられる歯科医院は限られます。
治療を行っている歯科医師の経験や資格にも注目して、インプラント治療の質が高い歯科医院を選びましょう。
歯科医院や所属する歯科医師の情報は、歯科医院のホームページや学会のホームページなどから確認できます。
エリアごとにインプラント治療に精通した歯科医師を探したい場合、学会ホームページからの検索がおすすめです。
例えば日本口腔インプラント学会は、口腔インプラント専門医や口腔インプラント指導医など、知識と経験を持つ歯科医師をホームページでも紹介しています。
院内が清潔か
院内感染を防ぐため、歯科医院の衛生管理は重要です。以下のポイントに注目してみましょう。
- 掃除が行き届いている
- 物が整理されている
- 歯科用吸引装置などを導入している
歯科用吸引装置とは歯科治療を行う際に飛び散る唾液や粉塵を吸収する装置で、歯科医院の衛生を保つために役立ちます。
歯科用吸引装置の設置は、厚生労働省に届け出る歯科外来診療環境体制加算に必要な基準のひとつにもなっています。
設備が整っているか
質の高いインプラント治療を受けるために必要な設備が整っているかも確認しておきましょう。インプラント治療に必要な設備には以下のようなものが挙げられます。
- 歯科用3DCT
- CT画像解析ソフト
- CAD/CAM
特に歯科用3DCTは平面的な画像データしか取れないレントゲンと異なり、立体的に患者さんの口腔内を確認できるため、インプラント治療には欠かせない設備です。
説明が丁寧か
インプラント治療は外科手術を伴い、自費診療であるためコストも大きい治療法です。
担当する歯科医師と患者さんの間にすれ違いや理解不足があると、後のトラブルにつながります。そこでインプラント治療では、治療前に詳細な説明を行うインフォームドコンセントが重視されています。
インフォームドコンセントで説明されるのは以下のようなポイントです。
- 患者さんの状態
- 必要な検査
- 治療法
- 治療部位
- 予後
- リスク
- 費用
- 治療期間
丁寧に時間を取って、わかりやすく説明してくれる歯科医院を選びましょう。
インプラントのメンテナンスにかかる費用
インプラント治療後のメンテナンスでかかる費用の平均は、1回につき約3,000~10,000円(税込)程度です。
メンテナンスは一般的に保険適用外ですが、医療費控除の対象となります。
詳細は患者さんによって異なりますが、一般的には患者さんが家族で年間10万円以上の医療費を支払った場合、所得控除の対象となります。メンテナンスの領収書は保管しておきましょう。
まとめ
インプラントを維持するためには、歯科医院での定期的なメンテナンスが必要です。
メンテナンスにより、インプラントへの不要な負担を減らしたり、感染に弱いインプラントを清潔に保ったりできれば、インプラントを長持ちさせることができるでしょう。
もしインプラント治療後に引越しが決まった場合、治療を受けた歯科医院から引越し先の歯科医院に明確な内容を引き継ぎをしてもらう必要があります。
治療を受けた歯科医院から紹介状と治療記録を用意してもらい、転院先でトラブルが起きないようにしておきましょう。引き継ぎはメンテナンスのスケジュールに差し支えが出ないよう、計画的に進めるとよいでしょう。
参考文献
- 口腔インプラント専門医|公益社団法人日本口腔インプラント学会
- 入れ歯やブリッジとの違いは|公益社団法人日本口腔インプラント学会
- 治療中・術後のトラブル対策|公益社団法人日本口腔インプラント学会
- インプラントのメリット・デメリット|公益社団法人日本口腔インプラント学会
- 専門医の選び方とは?|公益社団法人日本口腔インプラント学会
- インプラントの費用は?|公益社団法人日本口腔インプラント学会
- よくあるご質問|公益社団法人日本口腔インプラント学会
- 医療費控除って知ってる?|公益社団法人日本口腔インプラント学会
- インプラントのお手入れ|公益社団法人日本口腔インプラント学会
- 相談から治療の流れ|公益社団法人日本口腔インプラント学会
- あなたの歯科インプラントは大丈夫ですか -なくならない歯科インプラントにかかわる相談-
- インプラント周囲炎の診断・リスク因子・治療に関するエビデンスと今後の課題
- PMTC(歯石除去・歯面清掃)|厚生労働省
- 歯科治療Q&A|北海道大学病院
- 口腔の健康状態と全身的な健康状態の関連|厚生労働省
- 歯科外来診療医療安全対策加算(外安全)とは?|特定非営利活動法人 歯科医療情報推進機構
- 歯科インプラント治療指針