オールオン4は歯周病でもできることをご存知ですか?
歯周病があるとインプラント治療ができないと思われがちですが、治療で症状がコントロールされていれば手術は可能です。
オールオン4は多くの歯を失ってしまった方にはメリットが大きい治療法ですが、注意すべきデメリットも少なくありません。
本記事では、オールオン4治療で知っておくべき以下の点を解説します。
- 歯周病がオールオン4治療に与える影響
- 歯周病でオールオン4を行う場合の注意点
- オールオン4を長持ちさせるためのケア方法
歯周病で歯を失ってしまった方がオールオン4を検討する際に、正しい情報をもとに適切に判断する参考になれば幸いです。
歯周病だとオールオン4ができないといわれる理由
インプラント治療のオールオン4は、歯周病のある患者さんには適応できないといわれることが少なくありません。
実際には歯周病で歯を失った患者さんがオールオン4を選択する場合もあり、歯周病の症状がある程度コントロールされていれば、オールオン4治療は可能です。
しかし、歯周病症状が進行しており、危険性が高い場合には手術前に治療が必要になります。
歯周病があるとオールオン4が難しくなる理由は、主に以下の4点です。
- 細菌感染が起きやすいから
- インプラントが安定しにくいから
- インプラント周囲炎を発症しやすいから
- 施術に高度な技術が必要だから
それぞれの内容を解説します。
細菌感染が起きやすいから
歯周病は、歯の周りの歯周ポケットに細菌が感染して周辺組織が破壊されていく疾患です。
歯周病の原因菌が増殖し始めると、口腔内でほかの部位にも広がっていき、次々に歯を失う原因になってしまいます。
歯周ポケットで増殖した細菌は、微細な傷口から血管に入って全身を回り、糖尿病や高血圧など全身疾患の原因にもなります。
オールオン4手術では、インプラント体を埋め込むために歯肉を切開して骨を削るため、手術中の細菌感染には特に注意しなくてはいけません。
口腔内がある程度清潔であることは重要な条件で、歯周病の症状が重い場合には先に治療と除染が必要になります。
インプラントが安定しにくいから
インプラント体の周辺に細菌が感染してインプラント周囲炎となると、骨吸収によりインプラント体が移動することがあります。
人間の骨は常に新陳代謝を繰り返しており、古い骨は分解されて新しい骨が合成されています。
古い骨が分解されて体内に戻ることを骨吸収といいますが、細菌感染や慢性的な刺激によって骨吸収が過剰となり、埋め込んだインプラント体が動揺したり移動したりすることは少なくありません。
歯周病の患者さんは骨吸収を起こしやすい状態であるため、インプラント治療の前に歯周病治療や骨造成手術が必要となります。
インプラント周囲炎を発症しやすいから
インプラント治療で埋め込んだインプラント体周辺も、天然歯と同じように歯周病の原因菌が感染する場合があります。
インプラント体の周辺で炎症が起こることをインプラント周囲炎といい、インプラントの寿命を左右する重要なリスク因子です。
オールオン4では、埋め込むインプラント体は4本と少ないですが、インプラント周囲炎のリスクは変わりません。
インプラント周囲炎の原因は、歯周病と同じように細菌感染と慢性的な刺激です。
インプラント体を埋め込む前に、口腔内の歯周病原因菌がしっかり除去されていないと、インプラント周囲炎のリスクが高まります。
施術に高度な技術が必要だから
オールオン4は、4本のインプラント体で14本の義歯を支え、上下の噛み合わせを合わせなければいけません。
インプラント手術のなかでも極めて高度な技術と精度を要求されるため、実施できる歯科医院は限られています。
歯周病やむし歯があると、オールオン4の手術精度に影響する因子となるため、先に治療しておく方が望ましいでしょう。
オールオン4をする場合、残っている歯はあらかじめ抜歯しますが、抜歯しても歯周病の原因菌は残っています。
インプラント体を埋め込む骨が溶けている場合もあるため、オールオン4をするにしても、歯周病はあらかじめ治療しておく方が無難です。
歯周病患者さんがオールオン4を受けるメリット
歯周病が重度に進行し、抜歯せざるを得ない歯が少なくない場合には、オールオン4は有力な治療方法となります。
歯周病は日本人が歯を失う原因の第1位であり、治療を続けても難治性となることが少なくありません。
歯周病の原因菌は歯の周りの歯周ポケット内で繁殖するため、歯を抜いてしまえば治療はしやすくなります。
オールオン4は既存の歯をすべて抜く必要がありますが、すべてを人工歯にすれば歯周病の再発リスクは下がるでしょう。
インプラントの人工歯は、取り外し可能な入れ歯に比べて安定性が高く、天然の歯に近い感覚で咀嚼・発音ができます。
見た目も天然の歯とほとんど見分けがつかず、口元の審美性が気になる方にも有用な治療方法です。
歯周病患者さんがオールオン4を受けるデメリット
オールオン4のデメリットは、取り外し可能な入れ歯治療に比べて治療費が高額になることです。
インプラント治療は保険適用外であり、オールオン4治療にかかる費用は片顎で2,000,000〜2,500,000円(税込)が相場です。
費用が高額であるため、まずは取り外し可能な総入れ歯とし、後からオールオン4を検討する患者さんも少なくありません。
ただし、総入れ歯にしている期間が長いと顎の骨が退縮していくため、インプラント治療を受けられないケースもあります。
オールオン4の手術ができるかどうかは、歯周病の症状によっても変わり、適応できないケースもあります。
また、オールオン4治療後にもインプラント周囲炎の予防のため、定期的なメンテナンスが不可欠です。
歯周病を進行させてしまった原因が、甘いものの食べ過ぎや歯みがき不足であった場合、オールオン4後にもインプラント周囲炎のリスクが高まります。
オールオン4治療で歯がきれいになっても、それを保つためのセルフケアが重要で、セルフケアができない方は手術ができません。
歯周病でオールオン4治療を行う場合の注意点
オールオン4は、歯周病で複数の歯を失った方の補綴治療として選択されることが少なくありません。
重度の歯周病で治療が難しい場合は、すべての歯を抜いてオールオン4にする場合もあります。
口腔内の状況が大きく変わる手術であるため、患者さん自身でも治療前に重要な注意点を確認しておきましょう。
歯周病の患者さんがオールオン4治療を行う際には、以下のような注意点があります。
- オールオン4治療前に歯周病治療を完了させる
- 骨の量が十分にあるかを確認する
- 良好な健康状態を保つ
それぞれの内容を解説します。
オールオン4治療前に歯周病治療を完了させる
オールオン4治療を行う前には、進行している歯周病を治療しておくことが不可欠です。
口腔内に歯周病の原因菌があふれている状況では、手術により感染リスクが高く、治療後もインプラント周囲炎となるリスクが高まります。
オールオン4が片顎だけの場合には、残っている歯の歯周病も治療しておかなくてはいけません。
重度の歯周病で完治が難しくても、治療によって細菌数をある程度コントロールし、歯科医師が可能と判断したタイミングで手術を行うのが望ましいでしょう。
骨の量が十分にあるかを確認する
歯周病が進行している方や、長期間総入れ歯を使用している方は、顎の骨が退縮している場合があります。
オールオン4では、人工歯を支えるインプラント体を骨に埋め込むため、骨の量が十分になければ適応できません。
骨が少ない場合は、骨造成手術で骨を増やすか、ザイゴマインプラントでのオールオン4も選択肢のひとつです。
ザイゴマインプラントとは、歯槽骨ではなく頬骨まで達するインプラントで、頬骨を土台として人工歯を支える治療方法です。
インプラント治療の前に骨の状態を確認し、どのような治療方法が適切か歯科医師とよく相談しましょう。
良好な健康状態を保つ
インプラントの手術は、歯肉を切開して金属製の土台を骨に埋め込む侵襲性の高い手術です。
口腔内だけでなく、全身の健康状態を良好に保つことが必要で、生活習慣病や骨粗しょう症などの病気がある方も適応できない場合があります。
糖尿病・高血圧・貧血などの病気があると、創傷治癒や骨の再生が遅れて麻酔にも制限があるため、インプラント手術はできません。
オールオン4では残っている歯を抜いて、4本のインプラントを1度に埋め込むため、傷の回復に問題がない健康状態である必要があります。
血糖値・血圧・コレステロール値などは一定の基準があり、治療によって症状がコントロールされていればインプラント治療は可能です。
まずは日頃の生活習慣を改善し、不安のない状態にしておくことが重要です。
オールオン4を長持ちさせる術後のケア方法
厚生労働省の調査では、インプラント埋入後10~15年の累積生存率は、上顎で約 90%・下顎で 約94%と報告されています。
しかし、歯周病のある患者さんの場合は、インプラント周囲炎のトラブル発生率が高くなることも報告されています。
歯周病の方がオールオン4治療を行った後には、長持ちさせるためにもセルフケアがより重要といえるでしょう。
オールオン4を長持ちさせるために必要なケア方法は、主に以下の3つです。
- ホームケアを十分に行う
- 歯科医院でクリーニングを受ける
- 定期的に細菌検査を受ける
それぞれの内容を解説します。
ホームケアを十分に行う
オールオン4で装着した人工歯はむし歯で溶けにくくなっていますが、歯みがきは変わらずに必要です。
人工歯の間で細菌が増殖すれば、口臭の原因となり、口腔内のほかの部位に広がっていく可能性もあります。
インプラント体の周囲で細菌が増殖すればインプラント周囲炎となり、インプラントの寿命が短くなってしまうでしょう。
口腔内の細菌を増やさないためにも、毎日の歯みがきは必ず行ってください。
歯科医院でクリーニングを受ける
歯みがきや歯間ブラシだけでは、口腔内の汚れをすべて落とすのは困難です。
オールオン4後には人工歯と歯肉の隙間も生まれるため、セルフケアでは限界があるでしょう。
3ヵ月間隔を目安に歯科医院に通院し、歯科衛生士によるクリーニングを受けましょう。
また、歯科医師に定期的に診察してもらうことで、インプラントの状態を客観的にチェックできます。
定期的に細菌検査を受ける
歯周病やインプラント周囲炎の原因菌が繁殖していないか、定期的にチェックを受けましょう。
歯科医院でのクリーニングの際に一緒に診てもらえることがほとんどで、歯周ポケットから検体を採取して顕微鏡で観察します。
動きの活発な細菌が多数みられる場合は、その部位のクリーニングを重点的に行い、セルフケアでも注意すべき箇所がわかります。
オールオン4を長持ちさせるためのケア以外のポイント
オールオン4を長持ちさせるには、口腔ケアだけでなく全身ケアが必要です。
インプラント体は骨に埋め込まれており、骨が再生していく過程でインプラント体と骨が強固に結合します。
これをオッセオインテグレーションといいますが、骨は常に新陳代謝しているため、健康状態が悪化するとオッセオインテグレーション不全になる場合も少なくありません。
オールオン4治療を契機に、以下のような生活習慣の改善にも取り組みましょう。
- 禁煙する
- 歯ぎしりや食いしばりの癖を改善する
- 全身疾患を治療する
それぞれの内容を解説します。
禁煙する
喫煙は、インプラント手術の障害となる明確なリスク因子です。
口腔内の状態が悪い場合、インプラント手術の前に禁煙を指示されることも少なくありません。
タバコに含まれるニコチンは毛細血管を収縮させ、歯肉の血行を悪化させ、創傷治癒を遅らせます。
また、血液中の酸素は赤血球と結合して運搬されますが、タバコに含まれる一酸化炭素は酸素よりも200倍以上赤血球と結合しやすいのが特徴です。
毛細血管が収縮するだけでなく、酸素の運搬が阻害されることで、歯肉や骨に酸素が届かずに治癒が遅れてしまいます。
この状態が慢性的に続くと、インプラント体周辺の歯肉や骨が退縮していき、人工歯を支えられなくなってしまうでしょう。
歯ぎしりや食いしばりの癖を改善する
インプラントが喪失する原因は、インプラント周囲炎のほかにも人工歯の破損があります。
人工歯が破損する原因のほとんどは、想定以上の過重であり、歯ぎしりや食いしばり癖があるとインプラント破損のリスクも高くなります。
片顎だけをオールオン4する場合には、治療後の噛み合わせも計算して製作するため、噛み合わせを乱す原因となる歯ぎしりは改めましょう。
歯ぎしりの原因はさまざまですが、日中のストレスが原因である場合には、適度に休養を取って睡眠の質を高める工夫が大切です。
歯ぎしり癖はすぐには治らないため、歯を守るためにマウスピースの装着も有効です。
全身疾患を治療する
生活習慣病や骨粗しょう症などの全身疾患も、インプラントの寿命を左右するリスク因子となります。
糖尿病・脂質異常症などは毛細血管の血行を悪化させるため、歯肉や骨を退縮させてオッセオインテグレーション不全の原因となります。
全身の骨が退縮していく骨粗しょう症も、歯槽骨が退縮してインプラント体が脱落する大きなリスク因子です。
全身の血流を悪化させる運動不足や、カロリー過多による肥満を改善することで、インプラントだけでなく全身の健康状態を改善できます。
オールオン4は高額な費用のかかる治療になりますから、これを契機に生活習慣をあらためて健康寿命を伸ばしましょう。
まとめ
本記事では、歯周病でもオールオン4はできるかどうかや注意点を解説してきました。
オールオン4やインプラントを用いた治療にはメリット、デメリットがあり患者さん一人ひとりに合った治療計画が重要です。
適切なメンテナンスの方法や清掃に用いる道具の選択も大変重要ですので、歯科医師や歯科衛生士のアドバイスをしっかりと聞き、定期的な検診を受けるようにしましょう。
歯周病だからといって諦めずに、噛める力を取り戻せるオールオン4をぜひご検討ください。
参考文献