妊娠中は、いくつかの理由からお口のトラブルが起こりやすくなっています。妊婦さんのなかには歯周病やむし歯のほかに、歯が欠けたという症状で悩まされた方もいるかもしれません。ここでは、そんな妊娠中のお口のトラブルの原因や妊娠期における歯科治療の注意点などを詳しく解説します。妊娠中の女性でお口に関する悩みがある方は、参考にしてみてください。
妊娠中のお口のトラブル
はじめに、妊娠期におけるお口のトラブルについて解説します。
- 妊娠中に起こりやすいお口のトラブルにはどのようなものがありますか?
- 妊娠中は、口の中が乾きやすい、口臭が強くなる、むし歯になる、歯茎の腫れや出血が目立つ、親知らずが痛み出すといった、症状が出やすくなってしまいます。
妊娠中は、全身の健康状態や精神状態が不安定にもなりやすいです。加えて、口腔内にまでこのようなトラブルが発生すると、焦ってしまう方も少なくありません。
- 妊娠中にお口のトラブルが起こりやすい理由を教えてください。
- 妊娠中にお口のトラブルが多くなる理由としては、主に以下の4つが挙げられます。
【理由1】ホルモンバランスの変化
妊娠期に入ると、ホルモンバランスが大きく変化します。特に顕著なのがエストロゲンやプロゲステロンといった妊娠を維持するための女性ホルモンの増加です。エストロゲンは歯周病菌の増殖を促し、プロゲステロンは炎症のもとであるプロスタグランジンを刺激する作用があります。その結果、妊娠性歯肉炎という妊娠期特有の歯周疾患が発症しやすくなるのです。
【理由2】唾液の分泌量や性状の変化
女性ホルモンのバランスが変化すると、唾液の分泌量が低下します。唾液の性質もサラサラからネバネバの唾液へと性状も変化することから、口内細菌が活動しやすい環境へと変わっていきます。その結果、むし歯や歯周病のリスク上昇へとつながるのです。
【理由3】全身の免疫力が低下する
妊娠中は全身の免疫力が低下しやすい状態にあります。母体の免疫反応が赤ちゃんを攻撃してしまわないように、免疫力を抑制させるようになります。お口のトラブルの大半は細菌や真菌、ウイルスなどの病原体が起因となることから、免疫力の低下が口腔疾患の発症へとつながってしまいます。
【理由4】食生活の変化
妊娠中は食生活に変化が起こる方も少なくありません。摂取する栄養素に偏りが生じるだけでなく、間食も多くなることから、口内環境が不潔になりやすいのです。妊娠中のお口のトラブルを引き起こす理由となります。
- つわりとお口のトラブルには関連がありますか?
- つわりの症状が強いと、いつものように歯磨きをすることが難しくなります。症状がひどい場合は、うがいしかすることができず、口腔内が不潔になりがちです。また、つわりに嘔吐を伴う場合は、逆流してきた胃酸によって口腔内のpHが酸性に傾くとともに、歯の脱灰が促進されることでむし歯リスクが高まります。
もともと歯が脆くなっているような方は歯質が欠けやすいため、つわりの症状が引き金になることがあります。口腔内の衛生状態と合わせてケアをすることが大切です。
妊娠中の歯科治療について
次に、妊娠中の歯科治療について解説します。
- 妊娠中でも歯科治療は可能ですか?
- 妊娠中でも歯科治療を行うことは可能です。ただし、妊娠の時期や体調によっては歯科治療が困難となる場合があります。具体的には、妊娠初期(4ヵ月まで)と妊娠後期(8ヵ月以降)は、母体や胎児の体調が不安定となることから、歯科治療を行うにしても応急的な処置に限定されます。母子ともに安定する妊娠中期(5〜7ヵ月)なら、ほとんどの歯科治療を問題なく行えます。歯周病やむし歯の治療を検討している方は、妊娠中期に歯科医院を受診するとよいでしょう。
- 妊娠中の歯科治療で麻酔を使ってもよいのか教えてください
- 妊娠の時期によって、使用の可否が変わります。妊娠初期は、胎児の発育が急速に進む時期であるため、麻酔は極力使わない方がよいとされています。妊娠中期になると、局所麻酔を普段通りに使えますが、後期に入ってくると、麻酔薬の種類を厳密に選択したうえで施術するのが望ましいです。局所麻酔の種類には、妊娠中でも問題なく使えるものがあります。
- 妊娠中にレントゲンの撮影をしても大丈夫ですか?
- 妊娠中のレントゲン撮影も安定期であれば問題はありません。歯科のレントゲンはデンタルやパノラマといった、口腔とその周囲だけにX線を照射する撮影法なので、胎児が被ばくすることはまずありません。また、歯科のレントゲン撮影を行う際には、基本的にX線を遮断する鉛製のエプロンを着用することから、胎児への放射線防護も徹底されているのです。どうしても心配な方は、妊娠の初期後期といった胎児の発育への影響が大きい時期を避けて、レントゲン検査を受けるとよいでしょう。
- 妊娠中に歯科治療薬は使えますか?
- 妊娠中期と妊娠後期は、歯科治療薬の種類を慎重に選んだうえで使用することができます。妊娠初期に関しては、鎮痛剤や抗菌薬などは極力使わない方がよいです。どうしても服用しなければならない場合は、歯科医師や医師による指示を厳密に守る必要があります。
妊婦さんのお口の健康と赤ちゃんへの影響
妊婦さんのお口の健康状態は、これから生まれてくる赤ちゃんにも直接的な影響を与えることがあるため、十分な配慮が必要となります。
- 妊婦さんのむし歯はお腹の赤ちゃんにうつりますか?
- 妊婦さんがむし歯になった場合、お腹の赤ちゃんにうつるということはありません。むし歯菌は、唾液などを介して感染が広がるものなので、妊婦さんの口腔内から子宮にいる赤ちゃんのお口に移動することは起こりえないからです。お腹の赤ちゃんにはまだ歯が生えていないことから、むし歯菌が口腔内に定着することも不可能といえます。
ただし、出産後からは注意が必要です。食べものを口移しで与える、キスをするなどの行為は、唾液を介して感染が広がる可能性が生じます。出産後はもちろん、妊娠中の段階でもお母さんはお口の中を清潔に保つよう努力することが赤ちゃんの健康にも重要といえます。
- 妊婦さんの歯周病と赤ちゃんへの影響について教えてください。
- 妊娠中の歯周病は、赤ちゃんに深刻な悪影響を及ぼしかねないため、歯周病ケアは大切です。歯周病を重症化してしまうと、口腔内の歯周病菌が血流に乗って全身を巡り、子宮で炎症反応を引き起こすことがあります。炎症反応は、早産や低体重児出産のリスクが高まるため、歯周病治療は行うほうがよいでしょう。
妊娠中のお口のケア
妊娠中のお口のケア方法について紹介します。
- つわりで歯磨きがつらいときにはどうすればよいですか?
- つわりの症状が強くて、どうしても歯磨きできないときは無理をせずにお休みしましょう。食後はうがいをして食べカスなどを洗い流す程度のケアでも構いません。もう少し頑張れそうなときは、小さめのヘッドの歯ブラシを使って、ゆっくりと丁寧に磨いてください。歯磨き粉の臭いが気持ち悪い場合は、使わなくてもよいです。お口の奥から前に向かって掻き出すような形で歯磨きすると、嘔吐反射も起こりにくくなります。
- 妊婦歯科検診について教えてください。
- 妊婦歯科検診とは、妊婦さんのためのお口のメンテナンスです。一般的には、母子ともに体の調子が安定する妊娠中期に受診をします。妊娠歯科検診の内容は、歯科医院によって少しずつ異なりますが、基本的には普通の歯科検診と大きな差はありません。歯周病やむし歯の有無の確認、歯のクリーニング、歯磨き方法の指導を受けることができます。妊娠中の口腔ケアの方法など、疑問に感じることがあれば、妊婦歯科検診で質問しましょう。
編集部まとめ
今回は、妊娠中のお口のトラブルの原因や歯科治療の注意点について解説しました。妊娠中はホルモンバランスの乱れや唾液分泌量の減少、食生活の変化などによってお口のトラブルが起こりやすくなっているため十分に注意しなければなりません。妊娠中に歯周病やむし歯になったとしても、安定期なら問題なく治療を受けられますので、まずは歯科医院に相談してみてください。安定期に妊婦歯科検診を受けることで、そうしたお口のトラブルを未然に防ぎやすくなるでしょう。
参考文献