インプラントは欠損した歯を補うための技術です。機能の改善だけでなく見た目をよくする利点があります。
しかし同時に注意点も複数あります。少なからず痛みや感染症のリスクがあるため、対処法を知っておけば予防ができるでしょう。
この記事ではインプラント治療後に歯茎が痛くなる原因や対処法、予防方法などを解説しています。
インプラント治療に不安がある方、治療後の対応を知りたい方は参考にして頂けると幸いです。
インプラント治療後に歯茎が痛い原因
- インプラント治療後に歯茎が痛い原因について教えてください。
- インプラント治療において、歯茎を切開したり顎の骨に穴を開けたりするため、治療後しばらくの期間は痛みを感じることがあります。その他にも、インプラントの周囲に炎症が生じるために痛みが生じることもあるでしょう。口腔内の清潔が保たれていないと、プラーク(歯垢)が溜まったところから細菌が繁殖しやすくなります。
Tord Berglundhらにより、プラーク形成が炎症の原因とする実験結果が発表されています。また、Lamont RJやCosterton JW・Schwarz Fらにより、歯周病やインプラント周囲炎など感染症の原因はプラークが約65%に及ぶと示されました。インプラントへの負担、喫煙や糖尿病なども感染症増悪のリスクとなるので注意が必要です。
歯ぎしりなどインプラントに負担をかける行為も、炎症の原因となります。
- 痛みは治療後に生じやすいものですか?
- インプラントは術後に麻酔が切れ始めると、歯茎を切開されたことによる痛みが生じる場合があります。また、感染症に伴う痛みも無視できません。。
TBrägger UやPérez-Chaparro PJらによると、インプラント治療後に見られる合併症のうちインプラント周囲炎は平均22%を占めているとのことです。
- 歯茎の痛みは放置しても治りますか?
- 歯茎の痛みは数日続いて収まることもありますが、痛みが続いているときは感染症の恐れがあるので放置してはいけません。
- 痛みはどのくらい続きますか?
- 治療後の痛みは一般的には約2~3日、長くても1週間程度で収まるとされています。約1~2週間で痛みが収まらない場合、インプラント周囲炎など感染症の可能性があるため対処が必要です。
歯茎の痛みなどトラブルへの対処法
- 歯茎の痛みへの対処法はありますか?
- 歯茎の痛みへの対処法は以下のとおりです。
- 処方された痛み止めを飲む
- 患部を冷やす
- やわらかい歯ブラシで歯磨きする
- 食事をやわらかいものにする
- 過度な運動や喫煙・飲酒を避ける
痛みがあるときは、無理をせず処方された痛み止めを飲んだり患部を冷やしたりすることが大切です。しかし冷やしすぎると血流が悪くなり、治癒が遅くなるので注意しましょう。清潔を保つための歯磨きや、歯への負担を軽くするためにやわらかい食事にするのもよい方法です。
歯磨きは出血に注意して優しく行うことが大切です。過度な運動や喫煙・飲酒を避けて安静にすることも重要となります。
- 歯茎の痛みが発生したら受診をすべきですか?
- 1週間以上経っても歯茎の痛みが収まらない場合、インプラント周囲炎など感染症の恐れがあるので早めに受診する必要があります。
インプラントは自然な歯よりも抵抗力が低いため、インプラント周囲炎にかかると通常の歯周病よりも早く進行する可能性があります。痛みを放置するとインプラント脱落の危険性が高まるので、早急に医師に相談しましょう。
- 痛みに対してどのような治療法がありますか?
- 軽度の炎症による痛みにはセルフケアとして歯磨きが効果的ですが、歯ブラシで磨いてもプラークは十分に除去できません。
プラークの除去には、歯科医師や歯科衛生士が実施するPMTC(プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング)やデブライトメントが有効です。これらの施術は汚れや着色をある程度除去する効果があります。また、炎症に対する治療としてManoj MuthukuruらによりEr:YAG(エルビウムヤグ)レーザー治療が効果的であると示されました。Er:YAGレーザーは身体の組織に含まれる水分に反応するレーザーであり、むし歯や炎症のある部分のみに作用します。
組織へのダメージが少なく、治療による痛みが生じにくいといわれている施術です。重度の炎症の場合は歯肉を切開して直接汚れを取り除く外科的手術が必要です。
治療費用は軽度であれば数千~数万円で済むことがありますが、重度になると数十万円かかる可能性があります。炎症が軽度であるうちに早めに治療しましょう。
治療後に生じた歯茎の痛みの予防方法
- 治療後に生じた歯茎の痛みの予防方法はありますか?
- インプラント治療後の痛みの予防法は以下のとおりです。
- 歯磨きを適切に行う
- 生活習慣を見直す
- 歯ぎしりに対応する
- メンテナンスを受ける
痛みを予防するためには、口腔内を清潔に保つために適切な歯磨きが重要となります。やわらかい歯ブラシを使って優しく磨きましょう。禁煙するなど生活習慣を見直して全身状態を維持することも、口腔内の環境を整えるには重要です。
歯ぎしりはインプラントに負荷がかかって痛みが生じることがあるため、歯ぎしりの癖のある方は注意しましょう。
ストレスや睡眠不足の解消・ナイトガード(マウスピース)の使用が有効です。また、インプラント治療後のメンテナンスを欠かさず受けることも大切になります。
定期的なメンテナンスを受けることで、痛みや感染症の予防だけでなく異常の早期発見にもつながります。歯の磨き方も含め気になることがあれば担当の歯科医師にその都度相談するようにしましょう。
- インプラント治療後の歯茎ケアのポイントを教えてください。
- インプラント治療後は、炎症の原因となるプラークを除去するために歯茎ケアが重要です。歯磨きは念入りに行い、インプラント専用の歯間ブラシやデンタルフロスなど細かい部分を磨ける道具を使用することも大事です。短時間で歯を磨ける電動歯ブラシを使用するのもよいでしょう。
しかし、もし出血があるときは無理に磨くと悪化させる可能性があるので要注意です。また、しっかり歯磨きを実施した後でマウスウォッシュを使うのも有効です。刺激のあるものは避けて、自分に合うものを選ぶようにしましょう。研磨剤や顆粒は歯を削ったり歯周ポケットに入り込んだりすることがあるので、歯磨き粉の使用には注意が必要となります。
顆粒の侵入が炎症を引き起こすわけではありませんが、抗菌成分が含まれているものやインプラント専用の歯磨き粉がおすすめです。プラーク除去を徹底するために、歯科医師や歯科衛生士が行うプロの施術を受けるのもよい方法です。
- 痛みが生じた際にやってはいけないことは何ですか?
- 痛みが生じた際にやってはいけないことは以下のとおりです。
- 痛み止めを自己判断で飲む
- 熱い風呂に長時間入る
- 激しい運動をする
- 喫煙や飲酒をする
- 辛いものなど刺激物を食べる
痛み止めは処方されたものを指示どおりに飲むようにしましょう。自己判断で服用を辞めてしまったり量を増やしたりしてはいけません。長時間の風呂や激しい運動、飲酒や刺激物の摂取など血流を促進する行為も厳禁です。血流がよくなりすぎると、痛みが増幅する恐れがあります。また、喫煙は逆に血流が悪くなる可能性があります。血流が悪くなることで免疫力低下や唾液減少が生じて治癒が遅くなってしまうため、煙草は避けましょう。
編集部まとめ
インプラント治療後は痛みが約2~3日続くことがありますが、1週間程度で収まるとされています。
しかし、1週間以上痛みが続くときは感染症の可能性があるので対処しなくてはいけません。
感染症の痛みは、プラーク(歯垢)などによる炎症が原因です。日常の歯磨きや歯科医師などによる施術を受けて、プラークを除去する必要があります。
また、激しい運動や喫煙・飲酒は痛みを助長させる恐れがあるので避けなければいけません。
やわらかい食事にしたり辛いものを食べないようにしたり、インプラントに刺激を与えないことも重要です。
インプラント治療後のメンテナンスは必ず受けて、痛みや異常があれば必ず医師に相談するようにしましょう。
参考文献
- 歯周病|厚生労働省
- インプラント周囲炎を非外科治療にて対応した症例
- 歯科インプラント治療指針
- 喫煙と歯周病の関係|厚生労働省
- 自由診療に関わる治療リスクと副作用について|神奈川歯科大学附属病院
- より安全な口腔インプラント手術-歯科・口腔外科-|慶応義塾大学病院
- PMTC(歯石除去・歯面清掃)|厚生労働省
- 歯みがきを助けるもの(電動歯ブラシ・歯磨剤・洗口液)|厚生労働省
- オーバーロードとインプラント治療の偶発症
- かみ合わせの異常|日本歯科医師会
- 歯間部清掃(デンタルフロス・歯間ブラシ)|厚生労働省
- 歯磨剤に配合された顆粒成分のインプラント周囲溝への侵入性の調査
- 歯みがきによるむし歯予防効果(予防法)|厚生労働省
- 歯間部清掃(デンタルフロス・歯間ブラシ)|厚生労働省