インプラント治療の前にサイナスリフトが必要といわれた場合、どの程度の費用がかかるのか不安になる方もいるでしょう。
インプラント体を固定するために十分な骨量がない場合、インプラント治療の前に骨造成手術が必要です。
サイナスリフトは骨造成手術の一種で、インプラント手術に加えて別料金がかかります。
高額な治療と手術を行う前に、サイナスリフトの必要性やほかの治療法との違いを理解しておきましょう。
本記事では、サイナスリフトを行う前に知っておくべき以下のポイントとして、サイナスリフトの概要・サイナスリフトとソケットリフトの違い・サイナスリフトの費用相場と注意点について解説します。
インプラント治療の前に骨造成手術を検討している方が、正しい知識をもって納得のうえで治療に臨むための参考になれば幸いです。
サイナスリフトとは?
サイナスリフトとは、骨が少なくてインプラント手術が難しい際に行われる、骨造成手術です。
インプラント治療は、歯を失った部分の骨に金属製のインプラント体を埋め込んで、人工歯を支えます。
骨に土台を埋め込むため、取り外し可能な入れ歯に比べて、自分の歯に近い感覚で噛めることが大きなメリットです。
しかし、歯を失った部分の骨が退縮して少なくなってしまった場合、そのままではインプラント体を埋め込むことはできません。
インプラント体を埋め込めるだけの骨量を回復させるための手術を、骨造成手術といいます。
サイナスリフトは、上顎臼歯部の骨造成手術として、1980年代から行われている方法です。
上顎の骨が薄くなっている場合、インプラント体が上顎洞(サイナス)と呼ばれる空洞に貫通してしまいます。
サイナスリフトは上顎洞底挙上法とも呼ばれ、上顎の歯茎を切開して上顎洞に器具を挿入し、上顎洞底粘膜を持ち上げて隙間を作る手術です。
骨と粘膜の間に隙間ができると、その隙間を埋めるように骨が成長していき、インプラント体を埋め込めるだけの厚みができます。
骨が薄くなっている患者さんでも、サイナスリフトによって埋め込まれたインプラントは、通常のインプラント残存率とほぼ同等です。
サイナスリフトの費用相場
インプラント手術の前にサイナスリフトが必要になる場合、インプラント治療の費用に加えてサイナスリフトの費用がかかります。
インプラント治療は保険適用外のため、1本あたり300,000~400,000円(税込)の費用がかかり、患者さんの経済的負担は少なくありません。
これに加えてサイナスリフトの費用もかかると、高額な治療になってしまうため、費用総額は事前によく確認しておきましょう。
ここでは、サイナスリフトの費用面で知っておくべきポイントを解説します。
費用相場は150,000~300,000円(税込)
サイナスリフトの費用相場は、一般的に150,000~300,000円(税込)ほどとなります。
サイナスリフトは上顎の奥歯に用いられる手術で、複数の歯をインプラントにする際には特に有効です。
複数のインプラントと合わせると総額は高額になるため、契約前によく確認しておきましょう。
保険適用外のため医療機関によって異なる
インプラント治療は、厚生労働省が定める特定の疾患などを除き、保険適用外です。
サイナスリフトも保険適用外となるため、費用はすべて患者さんの自己負担となり、診療報酬点数も定められていません。
このため、サイナスリフトの費用は各医療機関が自由に設定できるので、治療を受けるクリニックによって費用が異なります。
サイナスリフトの費用や、なぜその治療が必要なのかは、歯科医師から納得いくまで説明してもらいましょう。
治療後のメンテナンス費用も考慮する
インプラントは、手術後にも定期的なメンテナンスが必要です。
インプラントの人工歯には、自分の歯と違って血管が通ってないため、免疫細胞も届きません。このため、清潔を保っておかないと、インプラント周囲炎や隣の歯がむし歯になるリスクが高まります。
インプラントの費用は、治療後の定期通院にかかる費用も含めて考慮しておきましょう。定期的な検診とクリーニングを受ければ、インプラントの寿命を長く保てます。
サイナスリフトのメリット
サイナスリフトは、歯茎を切開して上顎洞に器具を挿入する大がかりな手術です。
手術後には腫れや痛みが出ることもあり、患者さんの負担は少なくありません。
なぜこのような手術が必要なのか、サイナスリフトにどのようなメリットがあるのかを理解し、前向きに治療に臨みましょう。
サイナスリフトの主なメリットは、次の3つです。
- 骨が薄くてもインプラント治療が可能
- 広い範囲で骨造成ができる
- 粘膜損傷などのリスクを抑えられる
それぞれの内容を解説します。
骨が薄くてもインプラント治療が可能
サイナスリフトは、骨が薄くなっていてインプラント治療が難しい患者さんでも、インプラント治療を可能にするために開発された治療方法です。
上顎は下顎に比べて骨が薄く、歯が抜けてから長期間経っていたり高齢になっていたりすると、さらに骨が退縮してしまいます。
骨が退縮して薄くなったことで、インプラント体を埋め込むことができず、ほかの治療方法を選択せざるを得ないケースは少なくありませんでした。
入れ歯治療やブリッジ治療ではなく、インプラント治療を希望する患者さんにとっては、サイナスリフトは重要な骨造成手術です。
広い範囲で骨造成ができる
サイナスリフトは、上顎洞側から上顎洞底粘膜を持ち上げるため、広い範囲で骨を分厚く造成できます。
このため、複数の歯をインプラントにする場合に適しており、奥歯をすべてインプラントとするケースでも用いられます。
隣の歯に架橋して人工歯を支えるブリッジ治療は、多くても3本までしか支えられません。
4本以上の歯を人工歯にする場合は、サイナスリフトによるインプラント治療が有力な選択肢となるでしょう。
粘膜損傷などのリスクを抑えられる
サイナスリフトは、上顎洞に近い歯茎を切開して器具を挿入する侵襲性の高い手術です。
しかし、上顎洞に直接アプローチして歯科医師が上顎洞底粘膜を視認しながら手術を行うため、上顎洞底粘膜を傷つけるリスクは低くなります。
十分な骨量がないのにインプラント体を埋め込むと、口腔から上顎洞へ貫通してしまったり、上顎洞底粘膜を傷つけたりする場合があります。
サイナスリフトが必要かどうかは、歯科医師とよく相談し、納得のうえで治療に臨みましょう。
サイナスリフトのデメリット
サイナスリフト手術を受ける際には、事前にデメリットもしっかり説明を受けて理解しておきましょう。
侵襲性の高い手術であるため、手術に伴うトラブルが発生するケースも少なくありません。
サイナスリフトの主なデメリットは、以下の2つです。
- 骨の定着までに時間がかかる
- 痛み・腫れが出やすい
それぞれの内容を解説します。
骨の定着までに時間がかかる
インプラント治療のためにサイナスリフトが必要な場合、サイナスリフトで作った骨が定着するまでインプラント手術は行えません。
サイナスリフトは、上顎洞底粘膜を持ち上げて骨との隙間を作り、その隙間を埋めるように骨が成長してくるのを待つ治療です。
骨の状態や治療範囲によっても変動し、一般的にサイナスリフトによる骨造成には6~8ヶ月かかります。
すぐに人工歯を入れたい患者さんにとっては、この時間は長く感じられるでしょう。
痛み・腫れが出やすい
サイナスリフトは、歯茎を切開して上顎洞に器具を挿入する侵襲性の高い手術であるため、手術後に腫れや痛みが出る場合があります。
一般的には、腫れや痛みは術後2~3日をピークに10日間程度続く場合もあります。
痛みが強い場合には鎮痛剤を使用し、それでも治まらない場合はすぐに歯科医師に相談しましょう。
サイナスリフトによって上顎洞内に細菌が侵入したり、炎症を起こしたりして痛みが発生しているケースもあります。
上顎洞は耳鼻咽喉科の領域であるため、治療は耳鼻咽喉科との連携で行う場合もあります。
サイナスリフトとソケットリフトの違い
サイナスリフトと似ている骨造成手術として、ソケットリフトがあります。
サイナスリフトは上顎の歯肉側面を切開して上顎洞にアプローチするのに対し、ソケットリフトは歯が生えていた部分から上顎洞にアプローチし上顎洞底粘膜を押し上げる方法です。
歯茎の切開や骨切りなどを行わない分、ソケットリフトの方が低侵襲で、治療期間も短くなります。
ソケットリフトとサイナスリフトは適応条件が異なるため、それぞれの違いを理解しておきましょう。
サイナスリフトとソケットリフトの違いは、主に以下の5点です。
- 対象となる骨の厚み
- 施術を行う範囲
- インプラント治療の時期
- 必要な治療期間
- 治療費の相場
それぞれの内容を解説します。
対象となる骨の厚み
ソケットリフトは、歯を失った部分から上顎洞底粘膜を押し上げて骨造成し、インプラント体を埋め込む治療方法です。
インプラント体が骨に初期固定された後、上顎洞底粘膜が押し上げられた隙間に新たな骨が作られ、しっかりとインプラント体が固定されてから人工歯を装着します。
ソケットリフトの適応は、インプラント体を初期固定できる骨の厚みが残っていることが条件で、4mm以上の厚みが必要です。
骨の厚みが足りない場合、ソケットリフトは難しいため、サイナスリフトの適応となります。
施術を行う範囲
ソケットリフトは、歯が生えていた箇所から上顎洞底粘膜を押し上げて、インプラント体1本分の隙間を作ります。
このため、インプラントにする歯が1本だけであれば骨造成が少なくて済むのが大きなメリットです。
逆に複数本の歯をインプラントにする場合は、広範囲の骨造成が必要となるため、サイナスリフトの方が適しています。
インプラント治療の時期
サイナスリフトとソケットリフトは、インプラント体を埋め込める時期が大きく異なります。
サイナスリフトでは、上顎の歯肉を切開して骨に穴を開け上顎洞底粘膜を挙上して隙間を作り、その隙間に骨が造成されてからインプラント体を埋め込みます。
ソケットリフトでは、歯が生えていた箇所から上顎洞底粘膜を押し上げて、そのままインプラント体を埋め込んで初期固定させるのが特徴です。
必要な治療期間
サイナスリフトとソケットリフトでは、骨造成の量が異なるため、治療期間にも差があります。
インプラント体1本分だけの骨造成を行うソケットリフトでは、手術後3~5ヶ月で人工歯の装着が可能です。
広範囲の骨造成をしてからインプラント体を埋め込むサイナスリフトでは、骨造成に約6~8ヶ月かかり、インプラント体を埋め込んでからの固定に約3ヶ月が目安となります。
サイナスリフトの場合、人工歯を装着できるのは手術の約9ヶ月後となります。
治療費の相場
サイナスリフトとソケットリフトは、治療期間や骨造成の量が異なるため、費用相場も異なります。
どちらも保険適用外の治療で、医療機関によっても異なるため、契約前に費用の総額と内訳をよく確認しておきましょう。
一般的に、ソケットリフトの費用相場は1本あたり70,000円(税込)前後で、サイナスリフトの費用相場は150,000~300,000円(税込)です。
ほかの骨造成方法
インプラント手術に必要な骨造成の方法は、サイナスリフトやソケットリフト以外にもいくつかあります。
代表的な方法は、骨移移植法と骨再生誘導法(GBR法)の2つです。
骨移植法はボーングラフトとも呼ばれ、ほかの部位から採取した自分の骨を、インプラント体を埋め込む部位に移植する方法です。
人工骨を移植する方法もありますが、自分の骨の方が拒絶反応が起きにくく、リスクは低いといわれています。自家骨移植法では、自分の骨を採取しなければいけないため、広範囲の骨造成には適しません。
骨再生誘導法(GBR法)は、骨造成したい部位をメンブレンなどの特殊な膜で覆って隙間を作り、その隙間に新たな骨を造成させる方法です。
サイナスリフトやソケットリフトは上顎洞底粘膜を利用するため、上顎臼歯部にしか適応できません。GBR法では人工の膜を使うため、ほかの部位にも適応できるのがメリットです。
骨移植法とGBR法を併用して、少ない自家骨で広範囲の骨造成を行う方法もあります。
まとめ
サイナスリフトの概要と費用相場や、ソケットリフトとの違いを解説してきました。
インプラント治療は骨に土台を埋め込むため、十分な骨量がないと適応となりません。インプラントができない場合、ブリッジ治療や取り外し可能な入れ歯治療が主な選択肢となります。
ブリッジ治療は健康な歯を削る必要があり、入れ歯治療は食事や会話の快適性が大きく低下します。
自分の歯に近い感覚で使用できるインプラント治療は、高額な費用がかかるものの、生活の質を大きく高めてくれるでしょう。
以前はインプラントが難しいとされた患者さんも、サイナスリフトやソケットリフトなどの骨造成手術によってインプラント治療が可能になっています。
上顎洞底粘膜を利用できる上顎臼歯の骨造成なら、サイナスリフトやソケットリフトが適しているでしょう。
インプラントにする歯の本数や、自分の骨の残り具合によって、適切な治療方法は異なります。
自分にはどのような治療方法が適しているかや、必要な費用の総額は歯科医院に相談しましょう。
参考文献