歯を喪失した方が、歯の機能を回復できる治療がインプラントです。インプラントは、自分の歯と同じように食べ物を噛めるため、利用者が増加しています。
ただし、インプラントの治療費は高くなりがちで、利用者にとっても負担が大きくなりやすいです。
そこで本記事では、インプラント治療の支払いの時期・費用・費用を抑えるポイントを解説します。
歯科医院ごとにインプラントの費用が異なる理由についても解説するので、自分に合った歯科医院を選び、適切な治療を受けましょう。
インプラント治療の支払いはいつ?
インプラント治療の費用を支払う時期は歯科医院によって異なりますが、多くの歯科医院では治療前にまとめて支払う必要があります。保証金として費用を預かる歯科医院もあります。
インプラント治療はほとんどの場合、保険適用外の自費診療となるので、費用が高額になりがちです。患者さんが支払えないリスクを避けるため、事前支払いを求める歯科医院が多いです。
インプラント治療にかかる費用
インプラント治療の大きな課題が治療費用です。どのくらいの費用になるのか、治療項目ごとに説明します。
検査
インプラント治療を受ける際は、歯科医師が検査を行います。検査の内容はレントゲン検査・CT検査・血液検査などです。
レントゲン検査とCT検査では、顎の神経や血管、残っている歯の状態を確認します。血液検査では全身状態をチェックします。
これらの検査をもとに、インプラント治療が可能か判断するのです。検査費用は歯科医院によっても異なりますが、、約20,000~70,000円(税込)程度になります。
インプラント本体
インプラント治療費用は施術する部位によっても変わり、インプラントのメーカーによっても費用が異なります。
これらの要素を考慮したおおよその費用目安は以下のとおりです。
- インプラント体の費用目安:150,000円(税込)程度
アバットメント
アバットメントとは、インプラント体のうえに取り付ける土台です。アバットメントの費用相場は100,000円(税込)程度です。
被せ物
被せ物とはインプラントの上部構造のことで、被せ物を装着すると、インプラント治療が完了します。被せ物の費用相場は100,000円(税込)程度です。
前歯は審美性が必要なこと、骨が薄いので骨の造成や歯肉移植が必要になることがあり、一般的に高額になる傾向にあります。
上記費用以外にも必要になるものがあります。状況により抜歯しなければいけない場合もありますし、骨の造成や歯肉の移植をしなければいけないケースもあります。
麻酔費用がかかりますし、全身麻酔での治療になると入院費も支払わなければいけません。すると、さらに費用がかかります。
インプラント治療の費用を具体的に紹介している歯科医院がありますが、総額費用がどのくらいになるのか確認したうえで治療を受けることが大切です。
インプラント治療の費用が歯科医院ごとに異なる理由
インプラント治療の費用は歯科医院によって異なります。インプラント治療は自由診療のため、保険は適用されず、各歯科医院が自由に料金を決めることができます。
そのため、歯科医院ごとに費用が異なるのですが、その理由を詳しく見ていきましょう。
使用するインプラントメーカーの価格差
世界にはさまざまなインプラントメーカーがあり、品質も価格もさまざまです。そのため、歯科医院がどのインプラントメーカーのインプラントを使用するかで、費用の総額が変ります。
低価格なインプラントを採用する歯科医院では、治療費を抑えられるでしょう。ただし、品質やアフターサービスなどの面で不安が生じることもあります。
被せ物(上部構造)の素材や種類による違い
インプラントの被せ物には次のような素材の種類があります。
- セラミック
- ジルコニア
- メタルボンド
- メタルクラウン
被せ物素材の種類によって特徴も異なり、費用も異なります。各素材の特徴を簡単に説明します。
セラミックは審美性と透明感に優れますが、強度でやや劣る素材です。ジルコニアは硬度がとても硬く、割れにくい素材です。審美性と耐久性はよいですが、セラミックほどの透明感はありません。
メタルボンドは、内側が金属で外側に白い素材を使用した被せ物です。この金属部分が見えてしまうことがあり、やや審美性で劣るのが弱点です。また、金属アレルギーの方にはおすすめできません。
メタルクラウンは歴史があり、安定した素材です。素材ごとに費用が異なり、選ぶ歯科医院によってもインプラント治療費が変動します。
治療内容(骨造成や追加処置)による影響
インプラントにはいくつかの治療法があります。例えば、All-on-4/6(オールオンフォー/オールオンシックス)・骨欠損部位への骨造造成・広範囲顎欠損へのインプラント治療などです。
All-on-4/6(オールオンフォー/オールオンシックス)は4~6本のインプラントを埋め込んで、そのうえにジルコニアブリッジを装着する治療法です。多くの歯を失った方や入れ歯が合わない方に適した治療法になっています。
骨造成は骨を増やす手術です。インプラント治療をする場合、骨が痩せているとできない場合があります。また、高さや審美性の点でも問題が生じることがあり、骨造成を行うことがあります。
広範囲顎欠損は次のような原因で発生する症状です。
- 歯肉がんによる腫瘍性病変
- 顎骨骨髄炎に対する顎骨の切除手術
- 交通外傷
- 唇顎口蓋裂(先天的疾患の一つで、口唇(くちびる)・顎堤(はぐき)・口蓋(お口の中の天井部分)に割れ目が残っている状態)
これらの原因で広範囲顎欠損が生じると、咀嚼機能が低下し、審美性にも影響を与えます。そのようなときにインプラント治療が行われることがあります。
このように、歯科医院ごとに導入する治療法が異なるため、インプラント治療の費用にも差が生じるのが一般的です。
設備投資や手術の環境によるコストの違い
インプラント治療を行う歯科医院にはさまざまな設備が必要です。いくつか例を挙げてみましょう。
- 歯科用CT:骨や歯の状態を立体的に正確に見ることができる画像診断装置
- 専用の手術室
- マイクロスコープ:歯の細部を数倍から数十倍に拡大して観察できる装置
- 歯科用レーザー:痛みや不快感を少なくしながら治療するのに必要
- 遠心分離機:患者さんから採血した血液をかけて分離・濃縮し、手術時に使用(傷の速やかな治癒・止血・組織再生の促進・術後の痛み軽減などに使える)
- 生体情報モニター:インプラント手術の際に患者さんの心電図・血圧・体温・脈拍数などを測定し、全身管理をするための機器
- オートクレーブ:器具を滅菌する装置
- ミーレジェットウォッシャーディスインフェクター:治療後の器具を洗浄・消毒するための洗浄機
- 超音波洗浄機:血液などのタンパク汚れを細部まで徹底的に取り除く装置
- 紫外線滅菌キャビネット:オートクレープで滅菌した器具の滅菌状態を維持しながら保管する装置
- 酸性水生成器:ほかの機器で殺菌しきれない機器を強力な殺菌力で殺菌処理する装置
ここで取り上げたのはインプラント治療を行う歯科医院が導入すべき基本的な設備です。各歯科医院でも導入していますが、その設備の種類や状況はさまざまです。
そのため、歯科医院ごとにインプラント治療の費用も変わってきます。
インプラント治療の費用を抑えるポイント
インプラント治療には基本的に保険が適用されないため、費用が高額になりがちです。そのため、費用がネックになり、治療を諦める方もいます。
ただし、治療費用を抑える方法はあります。治療費用を抑えることで、治療を受けられる可能性が高まりますので、以下その方法を紹介しましょう。
複数の歯科医院で見積もりをもらう
インプラント治療の費用は次のような要素によって決まります。
- 検査法
- インプラントの種類
- インプラントする本数
- インプラントで使用する材料
- 治療方法
- 設備
- 治療に参加するスタッフ数
- 歯科医師の経験
そのため、各歯科医院ごとに費用が異なります。インプラント治療の費用を抑えようと思ったら、複数の歯科医院の見積もりをもらいましょう。
一つの歯科医院の見積もりだけでは、適正な費用かどうか判断できません。複数の歯科医院の見積もりを比較することで、より安い料金の歯科医院を選べる可能性が高まります。
医療費控除を申請する
インプラント治療は医療費控除の対象になります。インプラント治療の費用負担を軽減するために、医療費控除の申請を検討しましょう。
以下に、医療費控除の適用条件を示します。
- 所得が2,000,000円以上の方:支払合計金額が100,000円以上で適用される
- 所得が2,000,000円以下の方:所得金額の5%を差し引いて適用される
医療費控除を受ける際は、健康保険の給付金や保険金の支給額を差し引いた金額が控除対象となります。
高額療養費制度を利用する
高額療養費制度は、高額な診療を受けた際に窓口での支払額が一定額に抑えられる制度です。
事前に認定証を申請し交付されると、適用されます。70歳以上の方は事前申請は必要はありません。
認定証を提示しない場合は、高額療養費の支給申請をし、支払った窓口負担と限度額の差額が後日加入している健康保険組合などから支給されます。
適用対象となるのは保険医療機関・保険薬局・指定訪問看護事業者などで受けた保険診療などです。インプラント治療は保険適用外のため、原則として高額療養費制度の対象外です。
ただし、歯科医院でインプラット治療と同時に保険適用の治療を受ければ、高額療養費制度を利用できます。
インプラント治療そのものの費用を抑える方法ではありませんが、総体的な費用総額を低くするのには役立つでしょう。
なお、歯科医院で高額療養費制度を利用する場合、ほかの診療科とは別枠で計算されます。
安すぎるインプラント治療は危険?
インプラント治療の費用を抑えようと思うと、できるだけ治療費が安いところを選びたくなるでしょう。
しかし、安すぎるインプラント治療にはそれ相応の理由があり、危険性も伴います。その理由を見てみましょう。
まず、無計画にインプラントを埋め込んでいる可能性があります。
インプラント治療では十分な検査と計画のもとにインプラントを骨のあるところに埋め込むのですが、無計画に行うと、見た目や噛み合わせが悪くなることがあります。
その結果、治療のやり直しになることもあり、かえって費用が高くなるかもしれません。
インプラント治療が安すぎる場合、安い素材を使い、コストの低い歯科技工所に発注している場合があります。その場合、耐久性・見た目・衛生管理などに問題が生じやすいです。
インプラント治療前後のケアはとても大切ですが、安すぎる治療を提供している歯科医院では、この点がおろそかになっている恐れがあります。
歯科医院が基本的なケアを怠ると、患者さんがインプラント周囲炎になるリスクが高まります。
インプラント治療で使用するインプラントの品質や価格はさまざまです。治療費が安すぎる歯科医院の場合、安価なインプラント体を仕入れて、治療に使用している可能性があります。
しかし、安価なインプラント体では、適用できる症例も限られる場合があります。
以上の理由から、極端に安価なインプラント治療を提供している歯科医院には注意が必要です。相場よりも大幅に費用が低い歯科医院は利用しない方が無難です。
インプラント治療の支払いを分割払いにする方法
インプラント治療の費用はかなり高額になるので、一括では支払えない方もいるでしょう。その場合、利用できる分割払いの方法を紹介します。
クレジットカード
インプラント治療で分割払いができるかどうかは歯科医院によっても対応が分かれますが、可能なところではクレジットカードを使った分割払いが利用できる場合があります。
分割払いのほか、クレジットカードによるリボリビング払いが可能な歯科医院もあります。
デンタルローン
デンタルローンは歯科治療費の分割払いで利用できるローンです。デンタルローンの仕組みは、ローン会社がインプラント治療費を立て替え、患者さんは手数料を加えて分割で返済します。
支払い回数は6~120回程度で、一般的なローンより支払い回数を多く設定できます。金利はクレジットカードの分割払いよりも安く、毎月の返済額を抑えることも可能です。
デンタルローン利用は、担保や保証人が不要なケースが多くなっています。手続きも簡単で、審査もスムーズなため、患者さんが利用しやすいローンです。
デンタルローンを扱う歯科医院は多く、ローン会社と提携していて、院内で手続きができる場合もあります。
デンタルローンを利用すれば、高額になるインプラント治療費の支払い見通しもつきやすくなるでしょう。
まとめ
今回の記事では、インプラント治療の支払時期・費用相場・費用を抑えるポイント・分割払い方法などを解説しました。
インプラント治療には保険が適用されないうえ、さまざまな処置が必要になるため、総額が高額になりがちです。
ただし、インプラント治療の費用を抑える方法や分割払いの選択肢があります。インプラント治療の費用をすぐに準備ができず、治療を受けられないと諦めている方はこれらの方法をぜひ利用してみましょう。
これらの方法を活用することで、治療を受けられるようになる可能性が高まります。
ただし、極端に安いインプラント治療を提供する歯科医院の利用は避けた方がよいでしょう。
そのような歯科医院のインプラント治療にはさまざまな問題点もあり、治療後に後悔することもあります。例えば、保証がなかったり上部構造の値段が含まれていなかったりします。
治療後に後悔しないためにも、適正価格で治療を受けられる歯科医院を選びましょう。また、費用だけではなくインプラント埋入後の保証期間やアフターサービスの確認をすることも大切です。
参考文献
- 外来のご案内|独立行政法人 国立病院機構 名古屋医療センター
- 歯科インプラント治療|東京女子医科大学 歯科口腔外科
- インプラント歯科|昭和医科大学歯科病院
- 歯科インプラントセンター|東北大学病院
- インプラント治療に掛かるおおまかな費用
- インプラント|日本歯科医師会
- インプラント治療|宮崎大学医学部 感覚運動医学講座 顎顔面口腔外科学分野
- 口唇口蓋裂(唇顎口蓋裂)|一般社団法人 日本形成外科学会
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