失った歯を回復させる治療法には、オールオン4という選択肢があります。オールオン4は、インプラントを応用した治療法で、総入れ歯と比較されることがありますが、どのようなメリットやデメリットを伴い、どれくらいの治療効果が得られるのか気になるところです。ここではそんなオールオン4の基礎知識からメリット・デメリット、適したケースと適さないケースなどについて詳しく解説をします。
オールオン4の基礎知識
はじめに、オールオン4の基本事項を確認しておきましょう。オールオン4は少し特殊な治療法なので、前提となる基礎知識を正しく学んでおくことが大切です。
- オールオン4とはどのような治療法ですか?
- オールオン4(All-on-4)とは、その名のとおり4本のインプラント体(人工歯根)ですべての人工歯(上部構造)を支える補綴装置です。顎の骨にチタン製の人工歯根を4本埋入して、通常12本の人工歯からなる上部構造を固定します。基本的にすべての歯を失った、あるいは抜歯する予定の症例に適応されるため、総入れ歯にするかオールオン4にするかで迷うケースが多くなるといえます。ちなみに、4本のインプラント体を埋め込むのは片側の顎であり、上下の顎を治療する場合は全部で8本のインプラント体を埋め込むことになります。
- 総入れ歯やインプラントとの違いを教えてください
- オールオン4と総入れ歯・インプラントには、それぞれ以下のような違いが見られます。
◎オールオン4と総入れ歯の違い
オールオン4と総入れ歯の根本的な違いは、人工歯根の有無です。オールオン4には片側あたり4本の人工歯根が存在しているため、人工歯をしっかりと固定できます。一方、総入れ歯には人工歯根がないことから、装置としての安定性はオールオン4より低いです。この点は補綴装置の審美性・機能性・耐久性にも深く関係してくるので、すべての歯を失ったケースでは、オールオン4と総入れ歯の違いを正しく理解したうえで慎重に選択する必要があります。当然ですが人工歯根があり、固定式のオールオン4の方が着脱式の総入れ歯よりも審美性・機能性・耐久性に優れています。ただし、経済面においては総入れ歯に軍配が上がります。なぜなら総入れ歯は保険が適用され、オールオン4は原則として自費診療となる違いがあるからです。
◎オールオン4とインプラントの違い
オールオン4とインプラントは、広義の意味で同じ治療法です。顎骨にチタン製の人工歯根を埋め込み、セラミックなどで作られた人工歯を固定する点は両者に共通しているからです。しかしながら人工歯根を埋入する本数、適応症、上部構造の形態、治療にかかる費用などには違いが見られます。
標準的なインプラント治療では、1歯の欠損に1本の人工歯根を埋めるのに対し、オールオン4ではすべての歯(親知らずを除く14本)の欠損を4本の人工歯根で補います。このことから適応症と上部構造にも明確な違いが現れます。治療にかかる費用に関しては、インプラントですべての欠損歯を補うよりもオールオン4の方が安くなるのが一般的です。
- オールオン4が適しているのはどのようなケースですか?
- むし歯や外傷などですべての歯を失っている、あるいは保存が難しいケースに適しています。重症化した歯周病でもすべての歯を失うことはありますが、顎骨の状態が悪いことが少なくないため、こうしたケースでは必ずしもオールオン4が適しているとも限りません。オールオン4では、一度に4本の人工歯根を埋め込むなど、侵襲性の高い外科手術が必要であることから、全身状態が良好である点も前提条件として重要となります。逆にいうと、すべての歯がなくて顎骨の状態が悪く、全身の健康状態が芳しくないケースは、オールオン4ではなく総入れ歯の方が適しているといえます。
オールオン4のメリットとデメリット
オールオン4は、比較する治療法によってメリット・デメリットが変わります。ここでは総入れ歯とインプラントの2つを比較対象にした場合のオールオン4のメリット・デメリットを解説します。
- オールオン4のメリットを教えてください
- オールオン4と総入れ歯・インプラントを比較した場合のメリットは以下のとおりです。
◎総入れ歯との比較
- 見た目が自然
- 装置がズレたり外れたりしにくい
- 硬い食べ物でもしっかり噛める
- 発音障害が現れにくい
- 装置による違和感、異物感が小さい
- 顎の骨が痩せにくく、口腔周囲筋の衰えも防ぎやすい
オールオン4は人工歯根を埋め込む固定式の装置であるため、総入れ歯と比較すると上記のようなメリットが得られます。
◎インプラントとの比較
- 人工歯根を埋め込む本数が少なくなる
- 治療にかかる費用を抑えられる
- 手術の回数を減らせる
- 歯がない状態を早期に回復できる
- 骨移植が不要となりやすい
オールオン4では、骨がしっかりとしている部分を狙って人工歯根を埋入できるため、通常のインプラント治療よりも骨移植の必要性が低くなっています。
- オールオン4はデメリットがありますか?
- オールオン4と総入れ歯・インプラントを比較した場合のデメリットは以下のとおりです。
◎総入れ歯との比較
- 保険が適用されず、費用が高額になる
- 外科手術が必要となる
- 外科手術にはさまざまなリスクを伴う
- 対応できる歯科医院が一部に限定される
- 適応範囲がやや狭い
- 広義の意味で不可逆的な治療となる
オールオン4では、顎の骨にチタン製の人工歯根を埋め込んだり、骨造成の処置を施したりするなど、不可逆的な処置が必要となります。総入れ歯は、口腔組織に手を加えず、そのままの状態で装置を製作・装着するため、治療で後悔や失敗をした場合でももとに戻せます。
◎インプラントとの比較
- 治療の難易度が高い
- 抜歯が必要になることがある
オールオン4は、インプラントを応用・発展させたような治療法なので、自ずと難易度も高くなります。そのためオールオン4を適切に行える歯科医院は、全国的にも一部に限られます。また、数本の歯が残っている場合、通常のインプラントなら欠損部だけを治療することが可能ですが、オールオン4は無歯顎の状態を作る必要があるため、保存できる歯を抜歯しなければならなくなる可能性も否定できません。
オールオン4の治療について
最後に、オールオン4に関するよくある疑問に答えます。
- オールオン4で噛む力や見た目はどの程度まで回復しますか?
- 入れ歯による治療では、失った歯の噛む力を40%程度まで回復でき、インプラントならその値を80%程度まで高められるといわれています。これをそのままオールオン4に置き換えることは難しいですが、人工歯根の埋入によって相応の回復力が見込まれることは確かです。見た目に関しては、総入れ歯よりもよい結果が期待できます。オールオン4の上部構造は歯茎の部分がほとんどなく、人工歯根にしっかり固定できることから、治療後に目立ちやすくなる可能性は低いです。ただし、オールオン4によって回復する機能性や審美性は、患者さんのお口の状態によって大きく変わるため、一概に語ることは難しいのが現実です。
- 従来のインプラント治療より治療期間は短くなりますか?
- オールオン4では、1回の手術で4本の人工歯根を埋め込み、その日から仮の上部構造を装着できるため、従来のインプラントより治療期間が短くなるのが一般的です。
- オールオン4の治療ができないケースはありますか?
- 抜歯するのが望ましくない歯が残っていたり、顎の骨の状態や全身の健康状態が著しく悪かったりするケースは、オールオン4を適応できないことがあります。
- オールオン4に適さないのは天然歯がどの程度残っている場合ですか?
- 健康な天然歯が1本でも残っていて、それを抜くことのデメリットがメリットを上回る場合は、基本的にオールオン4は適さないといえます。つまり、天然歯が何本残っているかではなく、その歯がどのような状態にあるかがオールオン4による治療の要否を決めるポイントとなるのです。
編集部まとめ
今回は、オールオン4の基礎知識やメリット・デメリットなどについて解説しました。オールオン4は、すべての歯を失った、あるいは抜歯する予定のケースに適した治療法です。顎の骨に人工歯根を埋め込み、人工歯を装着する点は従来のインプラントと同じですが、装置の構造や治療の手順、費用などに違いが見られます。総入れ歯ともさまざまな点で異なるため、それぞれの治療法のメリット・デメリットをしっかりと比較したうえで自分に合った方法を選択することが重要といえます。
参考文献