インプラントは第2の永久歯とも呼ばれています。
審美性に優れている・健康な歯を削る必要がない・手術後の痛みが少ないと、メリットの多い治療方法ですが、埋入には外科手術を受ける必要があります。
手術は入院の必要がない日帰り可能なものですが、手術後しばらくは食事に配慮する必要があり、自分で管理しなければなりません。
その際に「いつから食べて良いのか」「食べても大丈夫なものは何なのか」を気にされる方は多いでしょう。
手術後の口腔内は傷がある状態ですので、食べ物によっては痛みや出血を誘発してしまうことがあります。
そこで本記事では、インプラントの手術後はいつから食事をして良いのか、手術部位の負担が少ない食べ物とは何かについて解説します。
手術後しばらくは避けるべき食べ物についても解説しますので、これから手術を予定されている方はぜひ参考にしてください。
インプラント手術後は食事できる?
インプラント手術後の食事は、基本的に当日から可能です。過度の刺激物でなければ、通常の食事メニューを摂っていただいて問題ありません。
インプラントを埋入する手術は一般的な歯科診療で用いられる局所麻酔を使用して行われ、手術も1〜2時間で終わるものです。
麻酔はおよそ2~3時間で切れるので、その後からであれば食事は可能になります。
患者さんによっては静脈内鎮静法という、意識はあるものの眠っているような状態にする麻酔を施すことがあります。
その場合でも、麻酔が切れる3~4時間後には食事が可能です。
食事内容は特に制限を必要としませんが、手術部位の傷はまだ新しく、縫合した糸もある状態です。
通常の食事で痛みを感じるようであれば、食事内容は配慮する必要があります。
インプラント手術後は柔らかい物を食べた方がいい?
前項でインプラント手術直後、痛みを感じる場合は食事内容に配慮する必要があると述べました。では一体どのような食事が望ましいのでしょうか。
結論から申し上げると、インプラントの手術後でも特に食事内容の制限はなく、柔らかい食べ物を食べる必要はありません。
手術後の痛みは当日がピークといわれ、腫れは手術後2~3日がピークとされています。この間に傷口にあたって痛い場合はご自身と相談して食べるものを決めましょう。
例えばうどん・雑炊・ゼリーなどは柔らかく食べやすいかもしれません。
うどん・雑炊・ゼリーなどは、食感が柔らかいので傷口への負担も少ないでしょう。さらに雑炊などでは一緒に野菜を煮ることで栄養も取りやすくなります。
先述したように、食事内容についてはご自身で判断して問題ありませんが、心配な方は普段の食事内容で問題ないのかを歯科医師に確認しておくと良いでしょう。
インプラント手術後に避けるべき食べ物は?
手術後に痛みを感じる場合はやわらかい食べ物が適していると解説しましたが、中には手術直後からあまり痛みを感じず、普段の食事内容で問題ない方もいらっしゃいます。
しかし、感覚として痛みがなくても口腔内には傷がある状態ですから、配慮しないと傷口が開いてしまう・細菌感染を起こすなどの可能性があります。
そうしたリスクを高める可能性のある、インプラントの手術後は避けるべき食べ物を以下で詳しく解説します。
硬い食べ物
手術後に痛みがある場合、極端に硬い食べ物は控えましょう。
縫合したての傷口はまだ衝撃に弱く、食べ物の硬さで傷がつく他、噛む力が負担となり傷口が開く可能性があります。
患部に隣接する歯にも負担となるため、物を噛み砕く・歯を噛みしめるなどの行為も避けるほうが望ましいです。
また手術の麻酔がまだ残っているうちに硬いものを噛もうとすると、力加減を適切にコントロールできず頬の内側・舌などを噛むこともあります。
噛もうとする対象が硬ければ硬いほど力加減を誤ったときのリスクは高くなりますから、充分に注意してください。
ただし本来インプラントは硬いものを思いっきり噛むために装着するものです。
特に痛みなどの不具合がないのであれば、極端に硬いものを遠ざける必要はないでしょう。
辛いものなどの刺激物
辛いものは傷口への刺激となり、痛み・腫れ・出血を誘発する原因となるため痛みを感じていない方も極力避けましょう。
辛み成分は代謝を良くし体温をあげるため、血行を促進する効果があります。血行が促進されると患部を流れる血流が増え、傷口の痛み・腫れ・出血を引き起こします。
患部への刺激は傷の治りを遅らせるため、辛いものなどの刺激物は避けるのが望ましいです。
唐辛子の他、わさび・からしなどの薬味も傷口への刺激となります。塩味やすっぱいものも傷口に染みて刺激となるため避けるようにしましょう。
餅など粘着性の強い食べ物
餅など粘着性の強い食べ物は仮歯がとれる可能性があるので避けるべきです。
インプラントの構造は以下3つのパーツにより成り立っています。
- 顎骨に埋入される人工歯根(インプラント体)
- インプラント体と人工歯を繋ぐ連結部(アバットメント)
- アバットメントに被せる人工歯(上部構造)
3つのパーツは手術で同時に装着されるわけではありません。
まず人工歯根を埋入し、骨との結合を待ってから、段階的にアバットメント・上部構造の装着へと進んでいきます。
この治療期間中は人工歯根の経過観察を行う必要があるので、最終的に取り付ける人工歯はまだ被せるわけにはいきません。
しかし何も被せていない状態では口を開けたとき歯がないように見えてしまいます。
そこで一時的に仮歯を被せるのですが、経過観察できるように作られているため、粘着性の強い食べ物で取れてしまう可能性があります。
完成形のインプラントであれば粘着性の強い食べ物にも対応できますが、治療中の仮歯は取れてしまう可能性があるため、餅などは控えるようにしましょう。
熱い食べ物
手術後、麻酔が切れるまでは口腔内の感覚が鈍っています。その状態で極端に熱い食べ物を食べると温度を正しく感知できず、火傷をしたり、火傷に気づかなかったりする可能性があります。
手術後に熱い食べ物を食べる際は麻酔が切れるまで待つようにし、食べるときも手で唇を触って感覚が戻っているのを確認してから食べるようにしましょう。
インプラント手術後に避けるべき飲み物は?
インプラントの手術後は麻酔の効果が切れてからすぐに飲み物を飲んでも問題はありません。
しかし中には避けるべき飲み物もあります。以下で詳しく解説します。
酒類
酒類は血行を促進する効果があり、痛み・腫れ・出血を引き起こす可能性があるため避けましょう。
まだ安定していない傷口は少しの刺激で傷つきやすく、細菌感染を引き起こすリスクがあります。
また意識がはっきりしていない状態では転倒するリスクがあり、患部を傷つける恐れがあります。
中には手術後のアルコール摂取を禁止している病院もあるほどです。傷口が安定してくるまでのおよそ1週間は酒類の摂取は控えるようにしましょう。
熱い飲み物
先述した通り、手術後は麻酔の効果で感覚が鈍くなっています。唇の感覚が戻っていないと飲み物がうまく飲めずに口の端からこぼしてしまうこともあります。
熱さは刺激にもなるため、そのまま飲むのは避けるべきです。手術後に水分を接種する際は温度をよく確認し、適温にしてから飲むようにしましょう。
インプラント手術後の食事の注意点
ここまで解説した内容をまとめると、インプラント手術後の食事における注意点は以下のようになります。
- 手術直後は塩味や辛みなどの刺激が強い食品は控える
- 過度な飲酒は控える
- 硬い食べ物などが傷口にあたって痛い場合は摂取する食品を選ぶ
これらの点を意識しておくのがおすすめです。
ですが食事制限ばかりに目を向けていては、食事自体を楽しめなくなってしまいます。口腔内に違和感や痛みがあると、食欲は低下するものです。
実際にインプラント手術を受けた患者さんの多くが、1日に必要な摂取カロリーを充分に取れていないという研究結果もあります。
しかし食事で充分な栄養が摂れないと、体力・免疫力は低下します。体力・免疫力が低下すると患部の治りは遅くなり、細菌感染するリスクも高くなるのです。
痛みがある場合、手術部位とは反対側で噛むなど工夫をしながら、回復に必要なエネルギーを充分に接種するようにしましょう。
食べ物以外にも注意すべきポイントはある?
ここまでは手術後に適した食事メニュー・避けるべきメニューについて解説してきました。
しかし手術後に配慮する必要があるのは食事メニューだけではありません。
ここからは食べ物以外で注意すべきポイントを解説します。
入浴を避ける
入浴は全身の血行を良くし、傷口の痛み・腫れ・出血を誘発する可能性があるため避けましょう。
一般的に入浴は体の新陳代謝を高め、回復効果があるとされています。しかし入浴は少なからず体力を消費し、血圧の上昇により傷口へ負荷がかかる行為です。
傷口の縫合箇所が落ち着くまでは軽いシャワーで済ませるようにしましょう。
激しい運動を避ける
激しい運動も血行促進効果によって傷口の痛み・腫れ・出血を誘発する可能性があるため控えるようにします。
傷口が落ち着いて抜糸するまでのおよそ1週間は控えるようにしましょう。
軽い運動であっても傷口が開く可能性がある内はおすすめできません。ウォーキングも手術後2~3日は控えるようにしてください。
喫煙を控える
タバコは傷口の回復を阻害してしまうため控えるようにしましょう。
タバコの煙には血管を収縮させる働きがあり、患部に充分な酸素・栄養素が行き渡らなくなってしまいます。その結果傷口の治りが遅くなり、治療の妨げとなることもあるのです。
またインプラント体と顎骨の結合を遅らせることも明らかになっており、手術の失敗確率を高めてしまうとされています。
インプラントの成功だけでなく健康のためにも、禁煙するのが望ましいでしょう。
歯磨き時に手術部位に刺激を与えないように注意する
口腔内の清潔は大切ですが、歯磨きで手術部位に刺激を与えないよう注意しましょう。患部が傷つくと細菌感染が起こりやすくなってしまいます。
歯磨き粉も刺激となるため、使用を避けるのが望ましいです。手術部位の手前まで磨き、その後はうがいのみで仕上げましょう。
縫合した糸に引っ掛けてしまう可能性もあるため、磨く際は充分注意してください。
うがいをする際にも、強い圧力がかからないよう注意します。強くうがいしてしまうと患部を覆う血の塊が剥がれてしまうことがあるのです。
そうすると傷口の治りが遅くなるだけでなく、穴が開いた状態となり、食べ物のカスがつまりやすくなってしまいます。
清潔を保とうとするあまり手術部位に刺激を与えてしまわないよう注意しましょう。
まとめ
手術後の痛みが少ないとされるインプラント手術ですが、患部に負担をかけないよう食事メニュー・日常生活で配慮すべきことはさまざまあります。
極力患部への刺激を減らすことを意識し、何か問題がある場合は自力で解決しようとせず歯科医師へ相談するようにしてください。
制限の多い手術後ですが、配慮した結果は患部の良好な治りに反映されるはずです。しっかり栄養補給し、手術後の回復に努めましょう。
インプラントの一般的な費用相場は1本あたり30~50万円(税込)と高額です。しっかり硬いものも噛めるようになるメリットがありますが、手術が必要で体に負担となる・インプラント歯周炎などの懸念があるなどのデメリットもあります。
せっかく手に入れたインプラントでトラブルを起こすことのないよう、手術後の過ごし方は歯科医師の指示に従いましょう。
参考文献