インプラントは顎の骨に人工の歯根を埋め込む治療ですが、歯槽膿漏でも治療はできるのでしょうか。
歯槽膿漏とは、歯周病のなかで特に症状が進行した状態をいいます。歯茎の腫れや出血などの症状が出て、顎の骨が溶け、最終的には歯が抜けてしまう場合があります。
インプラント治療は、事故・むし歯・歯槽膿漏などが原因で歯を失った人が顎の骨に人工歯根(インプラント体)を埋め込み、人工歯(上部構造)を取り付ける治療方法です。
インプラントは自然歯のような機能性・審美性を回復することができるため、注目を集めている治療方法です。しかし、歯槽膿漏の状態でも治療ができるのか、ここでは詳しく解説していきます。
歯槽膿漏でもインプラントはできる?
歯周病は歯茎の炎症状態によって、歯肉炎と歯周炎に分けられます。歯肉炎は初期の段階で、歯茎が炎症を起こしている状態です。歯磨きの際に出血することがあります。歯茎の炎症がひどくなり、歯槽骨や歯根膜の破壊が始まると歯肉炎と呼ばれます。
歯周炎は進行状態によって、歯周炎・中等度歯周炎・重度歯周炎に分けられ、歯槽膿漏は特に進行が進んでいる重度歯周炎の状態です。歯槽膿漏は、歯を失う原因の多くを占めています。
歯槽膿漏で、インプラント治療を希望する場合に、起こるケースを下記に記載します。
- 歯槽膿漏ではインプラントが難しいケースもある
- 人工の骨を造ることでインプラントが可能なケースも
- 技術力のある歯科医院で治療を受けることが大事
ここでは、上記のケースに関して、詳しく解説していきます。
歯槽膿漏になるとインプラントが難しいケースもある
歯槽膿漏になると、インプラントが難しいケースもあります。
歯周病は進行していくと顎骨を吸収していくため、重度の歯槽膿漏が原因で歯を失った場合には周囲の骨を大きく失ってしまっている場合があり、インプラント治療を行うための骨量が不足してしまう可能性があります。
そのため、歯槽膿漏の患者さんはインプラント治療が難しいのです。
人工の骨を造ることでインプラントが可能なケースも
骨が足りない場合は、足りない骨の量を補う骨造成治療を行うことでインプラントが可能になります。
顎以外の他の部位から骨を移植したり、人工骨を移植したりする方法があります。
ただし、全身疾患などによりリスクがあると判断された場合は、骨造成治療ができないこともあります。この場合、インプラント治療そのものにもリスクがあるため、治療が難しいでしょう。
また、歯槽膿漏などにより多くの歯を失っている場合は骨造成治療はおすすめできません。失われた骨の量が多い可能性があり、費用面や心身において患者さんにかかる負担が大きくなるためです。
技術力のある歯科医院で治療を受けることが大事
インプラントの治療を受ける場合は、技術力のある歯科医院で治療を受けることが重要です。
骨造成はすべての歯科医師ができるわけではありません。専門性が高い治療で、トラブルが起こらないようにするにはどうしたらいいか、万が一トラブルが起きたらどう対処するかが大事になってきます。
そのため、骨造成治療の経験が豊富な歯科医師が在籍する歯科医院がおすすめです。
インプラント治療においては、インプラント専門の医師の資格の有無も大事になってきます。インプラント専門の医師の資格は、日本口腔インプラント学会が認定する資格です。
日本口腔インプラント学会に5年以上在籍し、認定条件を満たし試験に合格した医師に与えられます。
資格は5年ごとに更新となるため、資格を習得後も勉強が欠かせません。そのため、専門の医師の資格がある歯科医師は、インプラントに関する知識・技術力が高いといえるでしょう。
歯槽膿漏の原因は?
歯槽膿漏の原因は何でしょうか。一般的にいわれている原因を下記に記載します。
- プラークに含まれる細菌
- よくない歯並び
- 生活習慣の乱れ
- 口呼吸
- 喫煙
- 糖尿病などの全身疾患
ここでは、上記の原因に関して、詳しく解説していきます。
プラークに含まれる細菌
プラークにはどのような細菌が含まれるのでしょうか。プラーク1mgのなかには、およそ300種類1億個もの細菌が存在しています。
プラークとは、食べ物のカスが歯の表面に残ることで細菌が増殖したものです。
プラークのなかには歯周病菌があり、その菌が毒素を出して歯茎を攻撃します。攻撃を受けた歯茎は炎症を起こします。
これが歯周病です。初期段階ならプラーク・歯石の除去などで進行を抑えることが可能です。しかしそのままにしておくと、どんどん進行していきます。
歯周病が重症化している歯槽膿漏の状態になると、顎の骨が溶け始め、歯が抜けることもあるため注意が必要です。
プラークは歯周病だけではなく、むし歯の原因にもなります。食後の口の中はむし歯菌や乳酸菌の働きなどで酸性になります。
酸性になることで、歯のカルシウムを徐々に溶かし始めてしまいます。歯磨きですぐに取り除かれれば自然に修復しますが、プラークが長時間ついてしまうと元に戻りません。
よくない歯並び
よくない歯並びは、歯槽膿漏の原因になります。なぜなら、歯並びがよくないと歯周病の進行を早めるリスクがあるからです。
過度な力が常に歯に加わると、歯を支える組織がその力に耐えられず損傷します。これを咬合性外傷といいます。
咬合性外傷は一次性咬合性外傷と二次性咬合性外傷に分けられ、一次性咬合性外傷は健康な歯茎を持っている歯に対して損傷が起こっている状態です。二次性咬合性外傷は歯周病になっている歯に対して損傷が起こっている状態をさします。
歯周病になると通常の噛み合わせであっても、健康な状態の時よりも組織に与えるダメージは大きいです。そのため、歯周病の進行が早くなり、歯槽膿漏になることがあります。
生活習慣の乱れ
生活習慣の乱れが歯槽膿漏の原因になることもあります。生活習慣の乱れによって歯周病が起こり、そのまま放置していると重症化し歯槽膿漏になることが考えられます。
例えば、歯磨きをしないで寝ることが多い方は注意が必要です。
歯周病の原因はプラークです。歯磨きを怠るとプラークが溜まってしまうため、歯周病になるリスクが高くなります。
間食が多い・柔らかい物ばかり食べる人も歯周病になるリスクが高いです。
食事をする回数が多いほど、プラークは溜まりやすくなります。だらだらと食べるのは良くありませんので、できるだけ間食は控えるようにしましょう。
柔らかい食べ物はあまり噛まずに食べることができるため、唾液の分泌がきちんとできなくなります。唾液の分泌がきちんとできないと、口腔内に細菌が繫殖しやすくなり歯周病のリスクが高くなるのです。
食生活だけではありません。睡眠なども大事です。睡眠不足が続くと免疫力が弱まり、細菌に感染するリスクが高くなります。
ストレスも歯周病の原因の1つです。直接的な要因ではありませんが、ストレスにより食生活が乱れたり生活習慣が乱れたりするためです。
喫煙
喫煙は、歯槽膿漏に影響があります。タバコに含まれるニコチンは神経毒の一種です。
血管を縮ませ、体が酸欠・栄養不足の状態になります。さらに免疫機能も低下させます。
たばこの煙にも注意が必要です。たばこの煙に含まれている一酸化炭素は歯肉の組織に酸素を供給することを阻害し、結果歯肉の血管が細くなり歯周病の悪化につながるのです。
口腔内に入ったたばこの煙・成分は口腔内の粘膜・歯茎から吸収されます。ニコチンや一酸化炭素により歯茎に酸素が行きわたらなくなると、歯周病菌が繫殖しやすくなります。
喫煙は血行不良も起こすため、出血・腫れなどの歯周病の症状が出にくいです。そのため、気づいたら重症化し歯槽膿漏になっている場合もあります。
さらに、歯周病の治療を始めても効果が低いという問題もあります。
糖尿病などの全身疾患
歯槽膿漏は、糖尿病などの全身疾患につながります。歯周病の細菌は、血糖値を下げるインスリンを効きにくくする性質があります。
インスリンがしっかりと働かないと、血糖値を下げられなくなるのです。その結果、糖尿病の治療を妨げてしまい全身疾患にもつながります。
インスリンの効果が軽減されることで、心筋症や心筋梗塞などの発症にも関わる恐れがあります。高血糖状態が続くと血管が傷つくため、非常に注意が必要です。
また歯周病の菌が唾液を通して、気管内に侵入してしまうと肺の中で細菌が増殖を起こし、誤嚥性肺炎を引き起こしてしまいます。
肺炎は、日本での死因第3位の病気のうえ、近頃のコロナウィルス感染などで重症化する恐れもありますので注意が必要です。
歯槽膿漏の症状
歯槽膿漏には、どのような症状があるのでしょうか。歯槽膿漏になると歯の骨を溶かしてしまうため、歯がグラグラしてくることがあります。早急に治療を開始しないと歯が抜けてしまいますので、注意が必要です。
歯槽膿漏になると、自覚症状とともに生活にも大きな影響が出てきます。口腔内の病気だけでなく、糖尿病などの悪化にもつながりますので早めの治療が必要です。
歯槽膿漏の人がインプラント治療を行うまでの流れ
歯槽膿漏の人がインプラント治療を行う場合は、どのようなことが必要でしょうか。下記に記載します。
- 歯槽膿漏(歯周病)の治療を行う
- 人工の骨を造る
- インプラント治療を行う
ここでは、上記の治療の流れについて、詳しく解説していきます。
歯槽膿漏(歯周病)の治療を行う
歯周病で、最初に行われる治療は歯周基本治療です。歯周病の原因であるプラークと歯石の除去、歯根面の滑択化を行います。
歯垢の除去はプラークコントロールと呼ばれ、セルフチェックで行えます。歯科医院では、専用の機械で歯の表面の歯垢や歯石を取り除いてくれるのです。
基本治療で歯周ポケットの深さが改善されず、歯槽膿漏になってしまった場合は、外科手術を行うことがあります。歯茎を切開し、歯根に付着した歯周病菌や歯石を取り除きます。
人工の骨を造る
歯槽膿漏によって、部分的に失われた骨を再生する手術を行う場合もあります。骨が不足している部分に人工骨を植立し、骨を再生する方法です。
手術はそれぞれの症状に合う方法が適応されます。
歯周病は進行すると歯槽膿漏へと悪化しやすい病気です。症状に少しでも気づいたら歯科医院に行くことをおすすめします。
インプラント治療を行う
歯周病の治療や骨造成治療など、インプラントを埋めるために必要な治療が終わったらインプラント治療を行います。
インプラント治療とは、歯を失った箇所に人工的な歯根を埋め込む手術のことをいいます。従来の治療法としては、ブリッジや義歯が一般的な治療方法でした。
ブリッジ・義歯は保険適用で治療できるため、インプラント治療よりも安価にできます。しかしブリッジは支えとなる歯を削る必要があるため、健康な歯に影響を与えるリスクがあります。
支えにした歯がむし歯・歯周病になると作り直さないといけません。また、欠損部分が多いとブリッジはできないなどのデメリットがあります。
義歯は見た目に入れ歯と分かりやすく、慣れるまでは違和感を覚えやすいなどのデメリットがあります。噛む力が弱いため、硬いものが食べにくいです。
インプラント治療は、独立した人工歯を移植しますので、残った周りの歯へ負担をかけることがありません。自然の歯と同じ感覚で使え、骨の変形も少なくなります。
インプラントは、外科手術になりますので治療前に十分なカウンセリングを行い、治療内容を納得したうえで進めることが非常に重要です。
なお、インプラントの費用相場は300,000〜500,000円(税込)程となっています。
歯槽膿漏の人がインプラント治療をした場合の注意点は?
歯槽膿漏の人がインプラント治療をした場合の注意点には、どのようなことがあるでしょうか。
注意点について、下記に記載します。
- しっかりとセルフケアを行う
- 歯科医院での定期検診を受ける
ここでは、上記の注意点について、詳しく解説していきます。
しっかりとセルフケアを行う
インプラント治療で重要なのは、セルフケアをしっかりと行うことです。基本となるのは、歯磨きです。
歯磨きは、歯を1本ずつ磨き残しがないように入念にしてください。口内環境を清潔に保つためにも、重要となります。
歯磨きで落としきれない汚れに関しては、歯と歯の間にデンタルフロスを使用して汚れを落とし、食べ残しや汚れが残らないようにしましょう。
歯科医院での定期検診を受ける
インプラント治療を受けたあとは、定期検査を受ける必要があります。
定期的なメンテナンスをして、装着したインプラントがしっかりと固定しているかレントゲン検査で確認をしてください。
また、インプラントの周辺組織が炎症を起こしていないかなども確認してください。歯槽膿漏が再発していないか確認するためにも定期健診は重要です。
万が一歯槽膿漏の再発が認められた場合でも、早急な対処が可能となります。歯科医と相談のうえ、定期健診の頻度を確定してください。
インプラントが原因で歯槽膿漏になることもある?
インプラントを入れた部分は歯周病になりません。そのため、インプラントが原因で歯槽膿漏になることはないでしょう。しかし歯周病と似た症状がでるインプラント周囲炎になる場合があります。重症化するとインプラントが脱落することがあります。
インプラントと歯茎の間に歯周病菌が侵入することで発症し、症状が進行するとインプラント周囲の歯茎が膿んだり腫れたりします。
歯槽膿漏のように、重度にならないと自覚症状が少ないため注意が必要です。
まとめ
ここまで歯槽膿漏でもインプラントはできるか、歯槽膿漏の原因・症状について詳しく解説してきました。
歯槽膿漏は歯周病の1つであり、歯周炎が重度になった状態です。初期症状が少ないため、悪化してから気づくことが多く、歯を失ってしまうこともあります。
また、インプラントの長期的な安定を脅かす病気であるインプラント周囲炎という状態は歯槽膿漏で歯を失った方や、周囲に歯槽膿漏の歯が存在する方ではリスクが高まることがわかっています。
インプラント治療に際しては口腔内の歯槽膿漏の治療をきちんと行っておくこと、メンテナンスの間隔を短く設定することや定期検診を欠かさないことが大変重要になります。
参考文献