インプラントの術式とはインプラント体を顎骨に埋め込む手術方法のことです。インプラントの手術方法には主に1回法と2回法があります。
1回法は手術を1回だけ行う方法であり、手術が1回で終わるため短期間で治療可能です。
ここではインプラントの術式の種類と違い・それぞれについてメリット・デメリットを解説しますので参考にしてください。
インプラントの術式の違いとは
インプラントはインプラント体(人工歯根)・アバットメント(支台装置)・上部構造(人工歯)という仕組みです。
歯の喪失により歯根が失われた部分にインプラント体を埋入し、アバットメント・上部構造を取り付けます。
天然歯に近い機能・審美性の回復ができるのがインプラントのメリットです。顎の骨にインプラント体を埋め込むため、硬い食べ物でもしっかりと噛むことができます。
メリットの多いインプラント治療ですが、外科手術が必要などのデメリットもあります。費用相場は30万~50万円(税込)程度です。
インプラントの術式には1回法と2回法があります。両者の違いは外科手術を何回行うかです。
1回法は1回、2回法は外科手術を2回に分けて行います。それぞれにメリットデメリットがあり、患者さんのお口の状態などでどの術式にするか選択されます。
インプラントの術式の種類
先述したように、インプラントの術式の種類には1回法と2回法があります。
本項では1回法と2回法について詳しく説明します。
1回法
1回法は、インプラント体を埋め込んだ後にアバットメントを装着し、外科手術を1回で終わらせる方法です。
インプラント体とアバットメントが一体になった、ワンピースタイプを使用する場合もあります。
顎の骨にインプラント体を埋め込むとき、アバットメントは歯茎の表面に露出させたままにして、その状態で顎の骨とインプラント体が結合するのを待ちます。
1回法ではインプラント体とアバットメントを一度に装着するため、治療期間が短くなり患者さんの負担を軽減できるのが特徴です。
顎の骨とインプラント体が結合したら上部構造を取り付けて完了です。
2回法
2回法は、歯茎にインプラント体を埋入する手術とその上にアバットメントを取り付ける手術を別々に行う方法です。
1次手術でインプラント体を埋め込んだ後は歯茎で覆い、1回法と同じように顎骨とインプラント体が結合するのを待ちます。
数ヶ月後、2次手術を行います。再び歯茎を切開し、インプラント体にアバットメントを取り付けるのです。
顎骨とインプラント体が骨と結合するのを待つため、半年程度待つこともあります。
その後歯茎の傷が治るのを待ち、上部構造を取り付けます。歯茎の切開手術を2回行うため、1回法よりも治療期間が長くなることが多いです。
1回法のメリット
先述したように、1回法はインプラント体を埋め込んだ後に上部にアバットメントを装着するため、手術が1回で済みます。
手術が1回で終わるため、患者さんの心身への負担が少ない・治療期間が短くて済むなどのメリットがあります。
患者さんの心身への負担が少ない
1回法の手術では、インプラント体を埋め込んだ後の上部にアバットメントを装着します。
手術が1回だけで済むため、手術によるダメージは1回だけです。そのため、患者さんの心身の負担は2回法より少ないです。
ただし、この方法がすべての人に適しているわけではありません。骨が薄いもしくは弱いなどの場合は1回法が選択できない場合があります。
このように、適応範囲が限られているので治療するときは担当の医師に相談してください。
治療期間が短くて済む
1回法は手術が1回なので、治療期間が短くて済みます。通院回数も減らせるので、忙しくて時間が取れない方でも治療を受けやすいでしょう。
また、手術回数が少ないので治療費用も抑えることができます。
2回法のメリット
2回法はインプラント体の埋め込みを行ってから、開いた歯茎をいったんすべて閉じて、後から再び歯茎を切開しアバットメントを装着します。
1次手術のときに傷口をすべて塞ぐため、2回法では術後の感染リスクの抑制が可能です。
また、骨量が不足して骨造成が必要な場合や、前歯などで審美性を重視する場合など、2回法はほとんどの症例に適用できます。
多くの症例に対応可能
2回法は骨量不足で骨造成が必要な場合・前歯などの審美性重視の場合などのさまざまなケースに対応が可能です。
1回法は傷口を塞がないため、感染リスクが高いです。顎の骨や歯茎が少ない場合、さらに感染リスクが上がることもあります。
そのため、適応できる症例が限られているのです。しかし2回法は感染リスクが低いため、適応範囲が広く、多くの症例に対応可能です。
感染のリスクが低い
2回法では、1回目の手術で傷口を完全に塞ぐことから、術後の感染のリスクを抑えることが可能です。
インプラント体が感染するとインプラント周囲炎という病気になります。インプラント感染の原因は主に細菌です。
インプラント周囲炎は、インプラント体を支える顎骨が溶けたり膿が出たりする大きな原因です。インプラント周囲炎は通常の歯周病よりも進行しやすく、治療が難しい場合もあります。
2回法では歯茎を完全に閉じるため、外部から細菌が侵入するのを防げます。そのため、感染リスクが少ない環境で顎の骨とインプラント体が結合するのを待つことが可能です。
1回法のデメリット
1回法のデメリットの一つとして、インプラント体の周囲に十分な骨量がない場合には1回法を適用できません。
骨移植や人工骨を用いて顎骨を増やす骨造成が必要となるからです。
また、1回法はアバットメントの一部が表に出た状態で歯茎を縫合するため、感染を起こすリスクがあります。
ここからはデメリットについて詳しく説明します。
症例によっては対応できない
1回法は症例によっては対応できない場合があります。代表的なのは骨量や骨質が不十分な場合です。
インプラント体は顎骨に十分に固定される必要があります。そのため、骨量や骨質の不足はインプラント体のぐらつき・埋入部位の感染の大きな要因となるのです。
このような場合、まず骨造成を行ってからインプラント治療を行います。骨造成を行う場合、傷口を完全に塞がないと感染リスクが高くなるので2回法で対応することが多いです。
まず、主治医とよく相談してからインプラント治療を行ってください。
全身疾患がある場合には対応が難しいことがある
全身疾患や全身的な薬剤投与がある場合、1回法に限らず、インプラント治療自体が難しい可能性があります。
例えば、慢性的な全身疾患は、インプラント体と顎骨との結合力を低下させたり治癒過程を遅らせたりすることがあります。
全身的な薬剤投与は、出血や感染のリスクを増加させたりインプラント体と顎骨との結合力に影響を及ぼしたりする原因です。
このような場合も主治医とよく相談してからインプラント治療を行う必要があります。
対応できる歯科医院が限られる
1回法に対応できる歯科医院は限られています。この方法は高度な技術と設備が必要だからです。
さらに、1回法を宣伝している歯科医院でも、必ずしも対応できるとは限りません。
1回法に対応できる歯科医院でも、実際に行っている歯科医師の資格や経験を確認することが重要です。
インプラント専門の医師や日本口腔インプラント学会認定医などの資格の有無・施術件数・成功率などを公開しているかどうかをチェックしましょう。
2回法のデメリット
2回法のデメリットには、患者さんの心身の負担が大きくなる・1回法よりも通院回数が多い・治療期間が長くなるなどが挙げられます。
通院回数は治療方法や個人差によって異なりますが、一般的には2回法の方が1回法よりも多いです。
2回法ではインプラント体を埋め込んだ後、顎の骨とインプラント体が結合するのを待ってからアバットメントを取り付けます。
その後、歯茎の傷が癒えるのを待ってから上部構造を取り付けるため、1回法に比べて、治療期間が長くなるのがデメリットです。
患者の心身の負担が大きくなる
2回法では外科手術を2回行うため、患者さんの心身の負担が1回法より大きいです。
1回法より負担額が多くなる傾向にあるため、費用面においても患者さんの負担が大きいです。
1回法よりも通院回数が多い
一般的に通院回数は2回法の方が1回法よりも多いです。1回法ではインプラント体埋入とアバットメント取り付けを同時に行い、通院回数は3~5回程度となります。
2回法ではインプラント体埋入とアバットメント取り付けを別々に行うため、通院回数は6~9回程度です。
ただし、これらはあくまで目安であり、治療計画や合併症の有無などによって変わる場合があります。
顎骨を増やす治療・骨誘導再生(GBR)・歯茎の移植手術が必要になると、通院回数が増えることもあります。
治療期間が長くなる
2回法ではインプラント体の埋入とアバットメントの装着を分けて行うため、治療期間が長くなる傾向にあります。
歯茎にインプラント体を埋め込んだ後、3~6ヶ月の経過観察期間を置いてからアバットメントを装着します。
インプラント体を埋め込むときとアバットメントを装着するときに歯茎を切開するため、それぞれ回復期間が必要です。そのため、通院回数も多くなっています。
これに対し、1回法はインプラント体の埋入とアバットメントの装着を一緒に行うため、治療期間が短縮でき通院回数も減らすことが可能です。
ただし、1回法は骨量や骨質などによっては短くできない場合もありますので、適応条件が厳しいです。
そのため、実際には患者さんの状態・インプラント体の種類・埋入部位などによって治療期間は異なります。
まとめ
インプラントの術式には1回法と2回法があり、それぞれメリットデメリットがあります。患者さんにとって負担が軽いのは1回法です。
しかし感染リスクがあったり、症例によっては対応できなかったりします。1回法と2回法のどちらを行うかは患者さんのお口の状態などをもとに歯科医師が判断します。
骨造成が必要な場合などは2回法、そのほかの場合には1回法という選択が多いです。
本記事の1回法と2回法のメリットとデメリットの解説を、ぜひ参考にしてください。
参考文献