インプラント

糖尿病で歯がなくてもインプラントは受けられる?知っておきたいリスクや注意点

糖尿病で歯がなくてもインプラントは受けられる?知っておきたいリスクや注意点

糖尿病の患者さんは、健康な人に比べて歯を失う確率が高いといわれています。失った歯を補う治療法はいくつかありますが、天然歯に近い噛み心地になるといわれているインプラント治療を希望する方も少なくありません。しかし、糖尿病だとインプラント治療ができないという話を耳にしたことがある方もいるのではないでしょうか。この記事では糖尿病と歯の関係、糖尿病の方がインプラント治療を受ける際のリスクや注意点などを詳しく解説していきます。

糖尿病と歯の関係性について

糖尿病と歯の関係性について 糖尿病は、血糖値を一定の範囲内に収める効果を持つインスリンが十分に働かなくなる病気です。高血糖が慢性化すると血管が傷つき、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症、動脈硬化、糖尿病性足病変など、さまざまな合併症を引き起こす原因になります。

糖尿病は、上記のように血液や血管に関連する病気です。そのため、口腔内の疾患である歯周病と関係がないように見えますが、糖尿病と歯にはどのような関係があるのでしょうか。

糖尿病と歯周病の密接な関係

2021年に医学誌Diabetology internationalへ掲載された研究結果によると、HbA1c値や空腹時における血糖値が高い人程歯の本数が少ない傾向があることが明らかになっています。つまり、糖尿病の患者さんは歯を失いやすい傾向があるということです。歯を失う原因としてよく知られる歯周病との関係は特に深く、糖尿病と歯周病の両方に罹患するケースも少なくないことがわかっています。 そのため、歯周病は近年糖尿病の第6の合併症といわれることがあります。

血糖コントロールが不良だと、歯を失いやすい

血糖コントロールがうまくいっていないと、体内の血糖値が高くなります。高血糖の状態が続くと血液がドロドロになり、悪化すると血の塊である血栓(けっせん)ができてしまいます。この血栓が脳にできれば脳梗塞、心臓にできれば心不全の原因になります。しかし、高血糖による血行不良の被害の範囲は、脳や心臓だけではありません。

糖尿病の患者さんは、歯周組織の細い血管が詰まって血流が悪くなる、歯周結合組織の代謝異常、免疫力の低下、唾液の減少による口腔乾燥などを発症するケースがあり、口腔内に歯周病の原因菌が増えやすい環境にあります。また、せっかく歯周病を治したとしても、血糖コントロールがうまくできていないと上記の理由から再発しやすい傾向があります。そのため、健康な人に比べ、歯周病が悪化して歯を失うリスクが高いといえます。

歯がないと糖尿病が悪化しやすい

これまでの説明で、糖尿病が原因となって歯周病に罹患するように感じたかもしれません。しかし、逆に歯周病が原因となって糖尿病に罹患したり、糖尿病が悪化したりすることもあります。

歯周病が進行すると歯が抜け落ちてしまうことがあります。「1本くらいなくても大丈夫だろう」と軽い気持ちで失った歯をそのままにしていると、しっかり噛むことができず、食事がしづらくなります。その結果、ついやわらかいものや食べやすいものだけを好んで選ぶようになり、栄養バランスが偏って食後の高血糖を引き起こしやすくなります。

また、歯周病が重症化すると、患部から流出する血液を通じて体内に歯周病菌が取り込まれます。体内に歯周病菌が侵入すると、免疫を活性化させるための物質を作り出すのですが、実はこの物質がインスリンの働きを邪魔してしまうのです。インスリンの働きが悪いと血糖コントロールができず、高血糖な状態が続いてしまいます。 これらの理由から、歯周病の悪化は糖尿病を引き起こしたり悪化させたりする原因のひとつだといわれています。

なぜ糖尿病の人は歯周病になりやすいのか

なぜ糖尿病の人は歯周病になりやすいのか 前述のとおり、糖尿病と歯周病には深い関係があります。では、なぜ糖尿病の人は歯周病になりやすいのでしょうか。

血管が収縮しやすい

糖尿病の特徴のひとつとして、血管の収縮があります。人間は生命活動を維持していくために必要な栄養や酸素を、血液によって送り届けています。しかし、糖尿病に罹患すると血管が収縮したり詰まったりするため、栄養や酸素が体内の隅々まで行き渡らなくなるのです。その結果、歯周病を含めさまざまな合併症を引き起こしやすくなるといわれています。

免疫力が低下して細菌感染しやすくなる

血液のなかには免疫システムのひとつであるリンパ球が含まれており、細菌のような異物の侵入から体を守る役割をしています。しかし、前述のとおり高血糖な状態が続くと血管が収縮し、リンパ球が体の隅々まで行き渡らなくなります。その結果、免疫力が低下して、歯周病菌が口腔内で増殖しやすい環境が生まれます。

唾液が減って口腔内が渇きやすくなる

唾液は口腔内の湿度を保つ、消化を助けるといった役割だけでなく、むし歯や歯周病の原因となる菌を抑制する働きもしています。そのため、唾液の分泌量が多い人はむし歯や歯周病に罹患しにくいといわれている程です。

糖尿病で失った歯を補う治療法

糖尿病で失った歯を補う治療法 抜けた歯を補う治療法には、どのような種類があるのでしょうか。それぞれの特徴とメリット・デメリットを挙げていきたいと思います。

インプラント

まずは、インプラントから紹介しましょう。

インプラントは、顎の骨に穴を開けてフィクスチャーと呼ばれる人工歯根を埋め込み、そのうえにセラミックなどで作った上部構造を取り付ける治療法です。

見た目が美しいだけでなく、しっかり定着すればまるで天然歯と同じように噛むことができ、正しく使っていれば簡単にズレたり外れたりすることは少ないです。また、歯科医院へ通って定期的にメンテナンスをしていけば、10年以上使い続けることができるのも大きな特徴です。ただし、自由診療となるため治療費が高額になる点と、外科手術を伴うため治療が困難なケースがある点がデメリットといえるでしょう。

ブリッジ

ブリッジとは、抜けてしまった歯の両隣を支えにして固定するタイプの義歯です。両隣の健康な歯にクラウンを被せ、橋渡しのようにして義歯を支えることからブリッジと呼ばれています。

ブリッジは、インプラント程ではありませんが、入れ歯に比べるとしっかり噛むことができます。また、入れ歯に比べると装着時の不快感が少なく、保険適用になるため安く治療できる点がメリットといえます。

しかし、クラウンを取り付ける際に必ず両隣の歯を削る必要があり、健康な歯の寿命を縮めてしまう点がデメリットです。

入れ歯

入れ歯とは、人工歯を用いた取り外し可能な装置です。すべての歯を失った場合に使用する総入れ歯と、失った箇所だけを部分的に補う部分入れ歯があります。

総入れ歯は、床(しょう)と呼ばれるレジンで作られたピンク色の土台に人工歯が並んでいて、土台ごとお口のなかに入れて装着します。部分入れ歯は、クラスプと呼ばれる金属のバネを、失われた歯の両隣にひっかけて義歯を固定します。

どちらの入れ歯も保険適用になるため費用を抑えられることと、全身疾患などがあり外科手術が難しい場合でも治療できること、自分で手軽に取り外しができるため、お手入れが容易なことがメリットといえるでしょう。

しかし、インプラントやブリッジに比べて装着時の安定感がなく、硬い食べ物がうまく噛めないといった悩みを聞くことも少なくありません。また、保険適用の入れ歯の場合、クラスプのバネが目立つ、ズレたり外れたりしやすい、装着時の違和感が強いといったデメリットがあります。

なお、自由診療の入れ歯であれば、見た目や機能性が優れた入れ歯も存在しています。金具がないノンクラスプデンチャー、磁石で吸着させるマグネット義歯、残された歯に冠を被せて固定するテレスコープ義歯などがあります。

糖尿病の方がインプラント治療を受ける際に知っておきたいリスク

糖尿病の方がインプラント治療を受ける際に知っておきたいリスク さまざまなメリットのあるインプラントですが、外科手術を伴うため、糖尿病の方が行うにはリスクが高いといわれています。しかし、糖尿病だからといって、インプラント治療ができないわけではありません。事前にどのようなリスクがあるかを把握し、必ず糖尿病の担当医と相談しながら進めていきましょう。

低血糖や高血糖による発作リスクがある

糖尿病の方は血糖コントロールが難しいため、インプラントの手術中や術後に低血糖や高血糖の発作を起こしてしまうことがあります。特に糖尿病の治療のためインスリン注射や経口血糖降下剤を服用している場合、痛みや腫れで食事がしにくい状況になると低血糖の発作を起こしやすいので気をつけましょう。

高血糖発作は、血糖コントロールがうまくいっていない場合や、手術のストレスや緊張などで引き起こされます。高血糖発作を起こすと昏睡状態に陥る危険性があるため、注意が必要です。

術後の感染症リスクが高い

インプラントは外科手術を伴う治療になるため、どうしても術後の感染症リスクは避けられません。健康な人であればそれ程問題ありませんが、前述のとおり糖尿病の方は免疫力が低下しているため、健康な人に比べてリスクが高くなります。

また、術後のトラブルのひとつにインプラント周囲炎があります。これはインプラント体を埋め込んだ周辺の組織が炎症を起こす感染症で、健康な人でも罹患してしまうことがあります。しかし、糖尿病の方は免疫力が低いため口腔内の歯周病の原因菌が増えやすく、インプラント周囲炎に罹患しやすい傾向にあります。

インプラント周囲炎が進行すると人工歯根を支えられなくなり、せっかく埋め込んだインプラントが脱落しかねないため注意が必要です。

インプラント体と骨が結合しにくい

インプラントは歯肉を切開して顎の骨を露出させ、インプラント体を埋め込んでいきます。切開した傷が治る過程で人工歯根と顎の骨を結合させるのですが、糖尿病の方は傷が治りにくい傾向があるため結合まで時間がかかる可能性が考えられます。

傷が治りにくいことがある

糖尿病は高血糖が原因で血管が収縮するため、血流が悪くなる病気です。血液の流れが悪いと傷の修復に必要な栄養や酸素が行き渡らず、どうしても傷の回復が遅くなりがちです。傷の治りが遅いと、インプラントを埋め込んだときの傷口が炎症を起こしたり、治療期間が長引いてしまったりします。

糖尿病の人がインプラントをする際に気をつける点

糖尿病の人がインプラントをする際に気をつける点 糖尿病の人がインプラント治療を受ける際に気をつけるべき点をお伝えします。

血糖値のコントロールをする

インプラント治療を受けるためには、血糖値のコントロールが必須といえます。具体的には、HbA1cが6.9%以下、空腹時血糖値140ml/dl 以下を目安にしましょう。(この数値はあくまでも目安です。インプラント治療の際は、必ず主治医と相談してください)

また、血糖コントロールができている方でも、症状が急変する可能性があります。必ず術前と術後には血糖値を測定し、少しでも血糖値が高い場合は治療を中止するなどの判断をしてください。

内科医との連携が必要になる

糖尿病の治療をしている方は、インプラント治療を行う前に必ず内科の主治医に相談しましょう。歯科医師は糖尿病の専門家ではないため、糖尿病の症状をすべて把握して備えることができません。リスクを少しでも軽減させるよう、内科の担当医とインプラント治療の担当医が連携して進めることが重要です。

低血糖や高血糖発作に備える

インプラント治療中に低血糖や高血糖の発作を起こす可能性があります。

特に、過去に低血糖発作を起こしたことがある方は要注意です。ブドウ糖、ジュースなど、手軽に補給できる糖分を携帯するのがおすすめです。また、冷や汗、動悸、意識障害、けいれん、手足の震えなどの症状が見られたら、すぐに歯科医師に知らせて対処することが大切です。また、インプラント手術の時間を食後にするなど、時間帯を調整すると発作のリスクを下げることができます。

高血糖の発作も危険です。普段は血糖コントロールができている方でも、緊張などから急激に上昇することがあります。喉の渇きや倦怠感から始まり、悪化すると昏睡状態になるため要注意です。適切な治療が遅れると死に至ることもあるため注意しましょう。

術後の感染症リスクに配慮する

術後は感染症予防のため、普段以上に丁寧な口腔ケアを心がけてください。インプラント治療を行った患部に少しでも気になる症状が現れたら、すぐに歯科医院で相談するのがおすすめです。

まとめ

この記事では糖尿病と歯の関係、失った歯を補う治療法、糖尿病の治療中の方がインプラント治療を受ける場合のリスクや注意点などを解説しました。糖尿病の方は、血流が悪い、免疫力が低下しているなどの理由から外科手術に配慮が必要になるため、インプラント治療が受けられないのではないかと思われることがあります。しかし、血糖値のコントロールができている方であれば、インプラント治療を受けることができます。内科医と歯科医師の連携を取りながら、インプラント治療を進めていってくださいね。

参考文献

この記事の監修歯科医師
木下 裕貴医師(医療法人社団天祐会 副理事長)

木下 裕貴医師(医療法人社団天祐会 副理事長)

北海道大学歯学部卒業 / 医療法人社団天祐会 副理事長 / 専門はマウスピース矯正、小児矯正 / 一般歯科全般もOK

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