インプラントは、20年後まで使えるのでしょうか。
インプラントは失った歯を補う治療方法の一つですが、治療費が高額になるケースが多く、インプラント治療をするなら長持ちさせたいという方もいることでしょう。
本記事では、インプラントの寿命や長持ちさせるためのポイントを解説します。
破損して寿命を縮めてしまう要因や、破損してしまったときの対処法も解説するので、インプラントを長く使い続けたい方はぜひ参考にしてください。
インプラントは20年後も使える?
インプラントの寿命は、どのくらいなのでしょうか。
インプラント治療は、歯を失ったときの治療法の一つです。失った歯を補う方法には、ほかにブリッジや入れ歯があります。
インプラントは歯を失った箇所に人工歯根を埋め込んで人工歯をかぶせる治療法で、周囲の歯への負担を軽減できる・しっかり噛める・取り外す必要がない点がメリットです。
一方、ブリッジや入れ歯は保険適用が可能ですが、インプラント治療は原則自費診療で治療費が高額になるケースが少なくありません。
直接お口の中に埋め込むことや、治療費が高額になることから、インプラントがどのくらい長持ちするのか気になる方もいることでしょう。
以下では、インプラントの寿命について解説します。
一般的には10~15年程度とされる
インプラントの寿命は、お口の中に埋め込んだインプラントが機能できる期間を指します。一般的に、インプラントの寿命は10~15年程度です。
埋入してから10~15年後にインプラントが残存し機能する確率は、上顎が約90%・下顎が約94%程度といわれています。
抜歯後すぐに埋入したケースや骨移植を伴うケースの残存率は、約87~92%程度とされています。
上顎の残存率が低い理由は、下顎よりもインプラント体を埋め込める骨量が少なく骨もやわらかい傾向にあるためです。
残存率をみると、インプラント治療後10~15年経っても90%程度は使用できる状態だとわかります。
ただし、これらの残存率は適切なセルフケアと定期的なメンテナンスを受けていた場合のものです。また、実際の寿命は、埋入した箇所や条件によって異なります。
メンテナンス次第でさらに長く使用できることも
インプラント治療後しっかりメンテナンスを続ければ、一般的な寿命といわれる10~15年よりも長く機能し、20年後も使える可能性があるでしょう。
インプラント治療はインプラント体を埋入して終わるわけではなく、埋入後のセルフケアと歯科医院での定期的なメンテナンスが重要です。
日々丁寧にセルフケアを行えばお口のなかを清潔に保つことができ、インプラントの寿命を延ばすことにつながります。
また、歯科医院で定期的にセルフケアの指導を受けたり、噛み合わせ・周囲の骨の吸収具合などのチェックを受けたりすることで、より長く使用できる可能性があります。
インプラントが破損しやすくなる要因は?
インプラントの一般的な寿命は10~15年程度とされていますが、それよりも短い期間に破損して使えなくなってしまうケースもあります。
インプラントを長く使うためにも、破損を引き起こしやすい要因を知っておくことは大切です。
以下では、インプラントが破損しやすくなる要因を解説するので、インプラントの寿命を延ばしたい方はぜひご覧ください。
メンテナンスが不足している
インプラント埋入後のメンテナンスが不足しているとインプラント周囲炎を引き起こし、破損の要因になります。
インプラント自体は人工歯なので、むし歯にはなりません。
インプラント周囲炎とはインプラントの周囲が歯周病に似た状態になる病気で、放置すると歯槽骨が溶けてインプラントを支えられなくなり、脱落を引き起こすケースもあります。
インプラントは天然歯よりも炎症が進行しやすいといわれており、細菌感染によるインプラント周囲炎に注意が必要です。
十分なメンテナンスを行うためには、日常のセルフケアはもちろんのこと、歯科医院での定期的なメンテナンスも欠かせません。
噛み合わせがよくない
噛み合わせがよくないと人工歯に負担がかかり、インプラントが破損してしまう場合があります。
天然歯には、歯と歯槽骨の間に歯根膜とよばれるクッションや硬さを判別するセンサーの役割を果たす組織があり、歯に加わる負担をやわらげてくれます。
しかし、インプラントには歯根膜がありません。
噛み合わせが悪いとインプラントに大きな負荷がかかってしまい、クッション代わりになる歯根膜もないため、人工歯が割れたり欠けたりしやすくなります。
また、噛み合わせがよくないと細菌感染のリスクも高まり、インプラント周囲炎を起こしやすいといわれています。
何らかの衝撃が加わる
インプラントに何らかの衝撃が加わると、表面が破損する場合があります。
インプラント体にかぶせる人工歯の素材にはさまざまなものがありますが、よく用いられるセラミックは強い衝撃が加わると割れてしまう可能性があります。
特に奥歯は噛む力が強く、大きな負荷がかかりやすいため、使っているうちに徐々に破損してしまうことがあるでしょう。
歯ぎしりをする
歯ぎしりはインプラントに大きな負荷をかけ、破損を引き起こす可能性があります。
インプラントにはクッションの役割を果たす歯根膜がないため、噛む力が強いと大きな負担がかかってしまいます。
歯ぎしりがインプラントにかける力は強く、睡眠中に歯ぎしりの癖があると少しずつ削れてしまうため注意が必要です。
また、埋入したインプラント体が歯ぎしりで折れてしまうケースもあり、その場合は外科手術によるインプラントの除去が必要でしょう。
喫煙をする
喫煙はインプラント治療に悪影響を及ぼし、インプラントの寿命を縮める要因になります。インプラント治療は、外科手術が必要です。
喫煙していると傷の治りが悪くなるといわれており、傷の治りが悪いと傷口が細菌感染しやすくなります。
また、たばこのやにが周囲に付着すると、細菌が繁殖してインプラント周囲炎となる可能性もあるでしょう。
喫煙をすると血行障害・血管収縮などを引き起こし、歯肉や骨に十分な栄養が行き渡りません。
栄養が不足すると歯周組織が弱くなったり、インプラントと骨が結合しにくくなったりします。
インプラントがうまく定着しないと脱落しやすくなり、一般的な寿命よりも使える期間が短くなる可能性が考えられます。
インプラントを長期的に使用するポイント
インプラントを入れたら、できるだけ長く使用したいと考える方は多いでしょう。
インプラントを長持ちさせるためには、埋め込んだ後のメンテナンスと癖・生活習慣の見直しが大切です。
以下では、インプラントを長期的に使用するためのポイントを解説します。
せっかく入れたインプラントを長持ちさせ、しっかり噛める機能を維持するためにも、ぜひ参考にしてください。
歯科医院へ定期メンテナンスに通う
インプラントを長持ちさせるためには、インプラントを装着した後も定期的に歯科医院でメンテナンスを受けることがポイントです。
歯科医院では、歯科衛生士によるクリーニングや歯科医師によるメンテナンスが受けられます。
クリーニングでは、セルフケアでは生き届かない部分の汚れや歯石などをしっかり清掃してもらえるうえ、セルフケアの指導も受けられます。
インプラントを清潔に保てれば破損の要因となるインプラント周囲炎を予防でき、寿命を延ばすことにつながるでしょう。
メンテナンスでは、噛み合わせやインプラントに異常がないかなどをチェックします。
使っているうちに噛み合わせやインプラントの状態が変わることがありますが、お口の中の変化は患者さん自身で気付きにくいものです。
歯科医院で噛み合わせを定期的に確認してもらえば、インプラントに過剰な力がかかることによる破損を防げるでしょう。
また、万が一インプラントに異常があっても早期に対処してもらえるため、長持ちさせられる可能性が高くなります。
歯科医院への通院の頻度は、一般的には3ヵ月~半年に一回程度です。
ただし、お口の状態によって異なるため歯科医師の指示に従い、定期的にメンテナンスに通いましょう。
セルフケアを徹底する
歯科医院での定期メンテナンスに加え、徹底したセルフケアも重要です。
日々のセルフケアでお口の中を清潔に保つことで、インプラントをより長く使用できるようになります。インプラントをセルフケアする際のポイントは、以下のとおりです。
- 歯ブラシを細かく動かし、歯肉との間をよく磨く
- 歯間ブラシ・デンタルフロスで隙間を清掃する
- 細かい部分は小さなタフトブラシの使用もおすすめ
- 歯ブラシと洗口液(マウスウォッシュ)を併用する
セルフケアでは、インプラントを入れた箇所も天然歯と同じように歯ブラシでクリーニングします。
歯とインプラントの隙間・インプラント同士の隙間は汚れが溜まりやすいため、隙間の大きさに合わせてデンタルフロスや歯間ブラシでよく磨きましょう。
歯ブラシ・歯間ブラシ・デンタルフロスでのケアをしっかり行ったうえで、洗口液を使用するとより効果的です。
歯ぎしり・食いしばりなどの癖に注意する
歯ぎしり・食いしばりなどの癖があると、インプラントに大きな負荷がかかり破損や炎症を引き起こす可能性があるため注意が必要です。
歯ぎしり・食いしばりを日常的に行っている場合、強い力がかかってインプラントの上部構造が破損しやすくなります。
また歯肉や歯槽骨に炎症が起きやすくなり、炎症が重症化するとインプラントと人工歯根との結合が失われ、インプラントが脱落してしまう可能性もあります。
歯ぎしり・食いしばりは無意識に行っているので、自力で治すことはむずかしいケースが多いでしょう。
歯科医院では、マウスピースを使用したスプリント療法で歯ぎしり・食いしばりによる負荷を軽減できます。
歯ぎしり・食いしばりの癖がある方は、インプラントを長持ちさせるためにも歯科医院に相談してみましょう。
喫煙などの生活習慣に注意する
喫煙はインプラントの寿命を縮めてしまう要因の一つで、喫煙者は喫煙していない方と比べてインプラント治療の問題が発生しやすいことがわかっています。
インプラントを長期的に使用するためには、喫煙などインプラント治療に悪影響を及ぼす可能性がある生活習慣に注意することが大切です。
喫煙しているとインプラントと骨の結合がうまくいかず、脱落を引き起こすケースがあります。
また、口内環境が悪化しやすくインプラント歯周炎のリスクも高くなるといわれています。
せっかく入れたインプラントを長持ちさせられるよう、インプラント治療をする際はできるだけ禁煙したり、喫煙本数を減らしたりするなどの見直しをしましょう。
インプラントが破損した場合の対処法
インプラントが破損した場合は、そのまま使い続けることはできません。
インプラントが破損するケースには、上部構造である人工歯の破損とインプラント体の脱落などがあります。
以下では、インプラントが破損した場合の対処法や再治療の費用を解説します。万が一インプラントにトラブルが発生したときのためにも、ぜひ確認しておきましょう。
人工歯が割れた・ひびが入った場合
インプラント体の上にかぶせた人工歯が割れたりひびが入ったりした場合は、破損した人工歯を修理して取り換えればインプラントを引き続き使用できます。
インプラントは土台となるインプラント体に上部構造(人工歯)を連結させたもので、人工歯のみが破損したときは、土台はそのまま残し上部構造を取り外すことが可能です。
割れたりひびが入ったりした場合は、人工歯の修理・作り直しが必要なため、治療した歯科医院に相談してください。
インプラント体が抜けてしまった場合
インプラント体は、インプラントのうち顎の骨のなかに埋め込む部分のことです。
インプラント体が抜ける要因には、インプラント周囲炎・顎骨の減少・強い衝撃などが挙げられます。
インプラント体が抜けてしまった場合は、歯科医院での処置が必要です。無理に戻そうとすると、細菌感染やトラブルの原因となる可能性があります。
インプラント体が抜けた箇所に触れると炎症を引き起こしてしまうため、自分で対処しようとせず、早めに歯科医院へ相談してください。
抜けてしまったインプラント体・上部構造・アバットメントはケースに入れて保管しておき、歯科医院へ行くときに持っていきましょう。
歯科医院ではインプラントが抜けた原因を特定し、原因やお口・顎の状態からインプラントを撤去するか再治療するかを判断します。
再治療する場合は、再度インプラントを顎骨のなかに埋め込み直します。
インプラント周囲炎や顎骨の異常があるときは、治療を行い再治療できる状態になってから手術を行うことになるでしょう。
再治療がむずかしい場合は、インプラントを撤去してブリッジや入れ歯などほかの治療方法に切り替えるケースもあります。
インプラントの再治療の費用
インプラント治療には保証期間が設けられているケースが多く、保証期間内かつ条件を満たしていれば無料で再治療を受けられます。
保証期間外、もしくは保証期間内でも定期的なメンテナンスやセルフケアを怠っていたなどの場合は保証の対象外となり、自己負担での再治療が必要です。
保証内容は歯科医院によって異なるため、治療を受ける歯科医院に確認してみるとよいでしょう。
まとめ
本記事では、インプラントは20年後も使えるのか、インプラントの寿命や長持ちさせるためのポイントを解説しました。
インプラントの一般的な寿命は10~15年程度といわれており、メンテナンス次第では20年後も使える可能性があります。
ただし、セルフケアや定期的なメンテナンスを怠ったり、歯ぎしり・食いしばり・喫煙をしていたりすると、インプラントの破損を招き寿命が短くなってしまいます。
インプラントを長持ちさせるためにも、ぜひ日頃から徹底したセルフケアと定期的なメンテナンスを行い、インプラントに悪影響を及ぼす癖や生活習慣は見直すようにしましょう。
参考文献