インプラント治療はインプラント体を顎の骨に埋め込むため、手術では麻酔を使用します。
麻酔を使用することで痛みや手術への緊張感を和らげ、安定した状態でインプラント治療が受けられるでしょう。
インプラントの麻酔方法は患者さんの体調や希望に合わせて歯科医師と相談のうえ、選択します。
しかし、どのような麻酔方法があるのか、またインプラント治療の麻酔でリスクがあるのかなど不明な点が数多くあるのではないでしょうか。
本記事では、インプラント治療の麻酔方法の違いについて、種類・静脈内鎮静法のメリットと併せて解説します。
これからインプラント治療を受けられる方やインプラント治療で行われる麻酔方法について詳しく知りたい方は参考にしてください。
インプラント治療の麻酔方法
麻酔には大きく分けて全身麻酔と区域麻酔があります。インプラント治療で用いられる麻酔方法はほとんど区域麻酔です。
全身麻酔は手術中に完全に眠っている状態で意識がないまま手術が進められます。そのため、患者さんは手術中の記憶がありません。
対して、区域麻酔は原則として手術中目覚めている状態で意識があるため、手術中の記憶も残りやすいです。
区域麻酔・全身麻酔ともにさまざまな部位で用いられますが、区域麻酔を使用する手術は小手術が多く、インプラント手術では区域麻酔が採用されています。
しかし、患者さんの全身状態やインプラント治療を行う箇所の状態などによっては全身麻酔を使用することもあります。
インプラントの麻酔方法の種類
インプラント治療における麻酔方法には下記の4つが挙げられます。
- 表面麻酔
- 区域麻酔(局所麻酔+伝達麻酔)
- 全身麻酔
- 静脈内鎮静法
それぞれの麻酔方法はインプラント治療する箇所の状態やインプラント治療を受けられる患者さんの全身状態によって使い分けられています。
では、各麻酔方法の概要と用いられる場面について詳しくみていきましょう。
表面麻酔
表面麻酔とは、麻酔薬を歯茎の表面に塗布することで塗った箇所の感覚を麻痺させる方法です。
歯石のクリーニングや乳歯の抜歯など、区域麻酔をするほどでもないが痛みが生じる治療で活用されます。
また、区域麻酔を行う際の注射の痛みによって恐怖心や不安を感じてしまうケースがあるため、注射の痛みを感じないように用いられることも多いようです。
表面麻酔を行う際は口の中にガーゼやコットンを入れて麻酔薬がほかに流れていかないようガードし、麻酔薬を塗布したのち数分間作用させます。
インプラント治療でも区域麻酔による手術を行う場合は区域麻酔前に表面麻酔にて注射の痛みを緩和させます。
区域麻酔
区域麻酔のうち、痛みをとりたい部分の歯茎に注射して麻酔薬を投与する方法が局所浸潤麻酔です。
区域麻酔は浸潤麻酔法と伝達麻酔法の2つです。下顎の奥歯にもインプラントを埋め込む場合は、治療する際に麻酔が効きにくいため、浸潤麻酔法に加え、奥歯の後方に麻酔薬を注入する伝達麻酔法が行われることもあります。
インプラント治療では顎の骨にインプラント体を埋め込むため、麻酔なしでは手術ができません。
全身麻酔
全身麻酔とは治療する箇所だけでなく、全身に麻酔をかけることで患者さんが眠った状態のまま手術を行います。
大がかりなインプラント手術や患者さんに障害があるなど局所麻酔では対応が難しいケースの場合に用いられるものです。
全身麻酔は揮発性麻酔薬を笑気とともに用いる吸入麻酔法・静脈麻酔薬を点滴から持続的に投与する完全静脈麻酔法・両者を併用する方法の3種類に大別されます。
全身麻酔では手術中は眠っているのでインプラント手術の記憶がない状態になります。
静脈内鎮静法
静脈内鎮静法は鎮静薬を血管内に点滴で投与することで中枢神経の働きが鈍くなるため、うとうとした状態になり、痛みを感じることなく治療が受けられる方法です。
親知らずの抜歯やインプラント手術といった、侵襲性の高い手術を受ける際に採用されています。
静脈内鎮静法によってインプラント治療を行う場合は、術前に診察により全身状態を確認し、手術前の食事制限や帰宅後の注意事項などの注意事項の説明を受けます。
その後インプラント手術の当日はモニターを装着し、鎮静薬を投与します。鎮静薬の投与は、治療内容によって投与量を調整します。
インプラント手術の痛みに恐怖心がある方や持病があり全身麻酔が難しい方などでは静脈内鎮静法が採用されることがあります。
静脈内鎮静法のメリット
インプラント治療で行われる麻酔方法の1つである静脈内鎮静法は、麻酔医が常駐している歯科医院では近年よく採用されています。
患者さんにとっても負担が軽減できる麻酔方法ですが、静脈内鎮静法にはどのようなメリットがあるのでしょうか。詳しくみていきましょう。
リラックスして治療を受けられる
静脈内鎮静法は患者さんがリラックスして治療を受けられるメリットがあります。インプラントの手術中は、鎮静剤が効いている状態で行われます。
鎮静剤が効くと、まるで今にも眠りに落ちそうなうとうとした状態になるのです。インプラント治療を行う箇所に局所麻酔を併用して行うので、痛みはほとんど感じられないでしょう。
インプラント手術は侵襲性のある治療になりますので、少しでも痛みがあると怖いと感じてしまう方にとっては痛みの不安なく受けられる静脈内鎮静法がおすすめといえます。
安定した体調で手術を受けられる
静脈内鎮静法は手術前から生体モニターなどで管理されるため、安定した体調で手術が受けられます。
静脈内鎮静法でインプラント手術を行う際は、鎮静剤を投与する前から心電図・血圧・心拍数などの数値が監視されます。
インプラント手術が終わり、意識が回復するまで常に監視されているので、体調の異変があればすぐに気がつくことが可能です。
また、点滴により静脈のルートを確保しているため、容体が変化してもすぐに対応できます。
静脈内鎮静法によりインプラント手術を行う際は麻酔医が常に生体モニターを監視しているので、不安なく受けられます。
意識のある状態で手術を行える
静脈内鎮静法は全身麻酔と異なり、意識のある状態で手術が行われます。
ただし、意識があるといっても静脈内鎮静法は健忘効果があるため、手術中の記憶はほぼ残らないといってよいです。
また、時間の経過を正確に把握する感覚も鈍くなるため、気付いた時には、すでにインプラント手術が終了していることもあります。
静脈内鎮静法は意識がある状態で手術が行えるものです。麻酔から回復するまで半日以上時間がかかるものではないため、手術当日中に自宅へ帰宅できます。
ただし、麻酔から回復するまでは危険が伴うため、院内で安静にしている必要があります。
日帰り手術が可能
静脈内鎮静法は麻酔からの回復が数十分程度のため、日帰り手術が可能です。
全身麻酔によるインプラント手術では、麻酔からの回復に時間がかかるため入院が必要になるケースが多くみられます。
しかし、静脈内鎮静法では意識がある状態で手術が行われるため、当日中に自宅へ帰宅可能です。
ただし麻酔から回復しても、ふらつきや眠気が続く可能性もあるため、手術当日中は帰宅後も安静にする必要があります。
手術当日は急激な体調の変化も考えられるため、終日インプラント手術以外の予定を入れないことをおすすめします。
静脈内鎮静法のデメリット
ここまで、静脈内鎮静法のメリットについて紹介しました。
侵襲性の高いインプラント治療で患者さんの恐怖心を緩和させるためには、静脈内鎮静法はストレスなく手術を受けられる麻酔方法です。
しかし、静脈内鎮静法は主に手術後にほかの麻酔方法と比較してさまざまな面で負担になるケースが存在します。
では、静脈内鎮静法のデメリットを詳しくみていきましょう。
手術後は安静にする必要がある
静脈内鎮静法によるインプラント手術を受けた際は、術後に麻酔が回復するまで安静にする必要があります。
全身麻酔に比べ、静脈内鎮静法は麻酔から回復する時間は短くなっていますが、意識がはっきりするまでは歯科医院にて安静にして体調を整える必要があります。
また、麻酔から回復した後もふらつきや眠気などの状態が続くため、帰宅してからも安静に過ごすことが求められるでしょう。
なお、手術当日は仕事や運動は避けるよう注意が必要です。そのため、仕事が多忙な方はスケジュールを調整してインプラント手術を行うことが求められます。
手術後は車の運転ができない
静脈内鎮静法によるインプラント手術を受けた後は麻酔が完全にきれているわけではないので、当日車の運転ができません。
麻酔から回復しても、通常の状態まで戻るまでにはさらに時間を要します。そのため、周囲への注意が必要な車の運転は控える必要があります。
手術後自宅に帰宅する際は、公共交通機関を利用したり、家族の運転による自家用車の送迎を頼んだりするなど自分が運転しなくてもよい状態にしましょう。
追加料金が発生することがある
静脈内鎮静法ではインプラント手術による治療費以外にも追加料金が発生することがあります。
静脈内鎮静法は麻酔医が立ち会って手術が行われるため、ドクター2人が携わることになります。そのため、ドクター2人分の費用が発生するでしょう。
また、手術前から術後麻酔から回復するまで生体モニターを装着するため、機器の利用料が追加で発生する可能性もあります。
追加料金が発生する場合は、1手術あたり100,000円(税込)程度の場合が多いです。静脈内鎮静法は保険適用外のため、費用負担が大きくなる点について注意が必要です。
インプラント治療の麻酔にはリスクがある?
インプラント治療の麻酔には副作用や体調変化のリスクがあります。
局所麻酔によるインプラント治療は一般的に安全といわれていますが、局所麻酔に対するアレルギー反応により稀に発疹・かゆみ・呼吸困難を引き起こす可能性があります。
また、静脈内鎮静法のリスクとしては麻酔薬のアレルギーが稀に起こる点や麻酔が効いている間の記憶が曖昧になる点などです。
加えて麻酔から回復してきても立ちくらみやめまいなど、意識がぼーっとしてしまうこともあります。
そのため手術後は安静に過ごし、できれば家族などに付き添ってもらうと、安心してインプラント手術を受けられます。
麻酔が切れて痛みが出てきた場合の対処法は?
インプラントの手術中は麻酔が効いているため、痛みが生じることはありませんが、術後に麻酔から回復してくると痛みも感じられるようになります。
術後しばらくはインプラントを埋め込んだ箇所に痛みが生じるため、下記の対処法によって乗り切るとよいでしょう。
- 鎮痛剤を服用する
- 血行がよくなるようなことを行わない
それぞれの対処法を、詳しくみていきましょう。
鎮痛剤を服用する
インプラント手術が行われた際は麻酔から回復すると痛みが生じるため、鎮痛剤を服用しましょう。
鎮痛剤は歯科医院から抗生剤とともに処方されることが多いです。
インプラント手術後、当時と翌日をピークに1〜2週間程痛みが続きます。
なお、鎮痛剤が効いている最中は顎など口腔内外の感覚が麻痺しているため、食事すると怪我をしてしまう恐れがあります。
鎮痛剤の効果が薄れてから食事するようにしましょう。
血行がよくなることを行わない
インプラント手術後は血行がよくなると痛みが生じやすくなるため、運動や飲酒などを控えた方がよいでしょう。
血行がよくなると手術した箇所の出血が止まりにくくなり、痛みを強める可能性があります。
まとめ
本記事では、インプラント治療の麻酔方法について、種類・静脈内鎮静法のメリットを解説しました。
インプラント治療では、主に意識のあるまま行われる区域麻酔が採用されています。
区域麻酔によるインプラント手術がメインですが、侵襲性が高いため、静脈内鎮静法などの痛みを伴わない麻酔方法を選択する方が増えています。
なかでも静脈内鎮静法は半分眠ったような状態で、痛みを感じずに、インプラント手術が受けられるので痛みへの恐怖を感じている方には選択肢の1つとしておすすめです。
ただし、標準のインプラント治療料金に追加料金として加わる可能性があるほか、手術当日は体調の変化に注意が必要です。
インプラント治療は多様な方法で痛みを感じずに受けられる治療ですので、治療を検討している方は歯科医師に相談してみましょう。
参考文献