むし歯や歯周病などが進行すると、最悪の場合歯が抜け落ちてしまうことがあります。一度抜け落ちた歯は再び生えてくることはありません。
歯が抜け落ちた後の対応策として、インプラントによる治療があります。
インプラントは歯を欠損した方でも以前のように食事を楽しめます。また、見た目も自分の歯とそれほど遜色はありません。
しかし、インプラントは何歳でも受けられる治療なのか気になるところではないでしょうか。
本記事では、インプラントの適正な年齢層・年齢制限・高齢の場合についても解説します。
インプラントを検討している方や歯が抜けてしまって悩んでいる方はぜひご覧ください。
インプラントの適正な年齢層は?
インプラントは多くの世代で受けられる治療方法ですが、定期的な通院が可能な40代〜60代が適正な年齢層といわれています。
インプラントは治療期間だけでなく、インプラント治療後の定期的なメンテナンスが重要です。
そのため、仕事や子育てなどで通院が難しい20代〜30代より、自分の時間が確保しやすい40代〜60代の方がインプラントの相談・治療・メンテナンスがスムーズに対応できるでしょう。
また、40代〜60代あたりから歯周病による歯の欠損がみられるケースが増えます。歯を欠損したままで過ごすと、食事がしにくく歯並びが不揃いになるなど不具合が生じやすくなります。
しかしインプラントで治療することで以前と変わらない食事が可能なことや、歯並びがより良くなる効果を得られるといったメリットを40代〜60代ではより感じられるでしょう。
インプラントに年齢制限はある?
インプラントは発達段階である子どもに対しては行うことができません。
なぜなら、顎の骨が成長段階の場合に埋め込んだインプラント体が骨の中に埋没してしまう可能性が高いためです。
しかし、歯が折れるなどの理由で欠損してしまった場合にインプラントによる治療も選択肢の1つとして検討の余地が必要でしょう。
では、インプラントの治療を行うには何歳くらいから始めると良いのでしょうか。詳しくみていきましょう。
18歳以上が望ましいとされている
インプラントによる治療を行うには、骨の成長が止まる18歳以上が望ましいとされています。
顎の骨の成長は女性であれば18歳頃、男性であれば20歳頃には骨の成長が止まるため、その頃合いをみてインプラントの治療を始めると良いでしょう。
ただし骨の成長は人によって進み具合が異なるため、見た目だけでは骨の成長が止まったかどうかを判断するのは難しいでしょう。
そのため、インプラントの治療を検討している場合は歯科医と相談の上、治療の開始時期を決めることをおすすめします。
顎の骨の成長が完了してから行う
年齢以外でインプラントの治療を開始するタイミングとしては、顎の骨の成長が完了したところで行うのが良いでしょう。
インプラントは顎の骨に対し、インプラント体を埋め込んで上部構造を装着する治療法になります。
そのため、顎の骨の成長が進んでいる段階では埋め込んだインプラント体が顎の骨の中に埋没してしまう恐れがあります。
加えて成長途中でインプラント体を埋め込んだ場合にその後成長が進み、インプラントを装着した位置が動いて不具合を生じやすくなることも考えられるでしょう。
よって、顎の骨の成長が完了した段階を歯科医が判断した後にインプラントの治療を始めましょう。
60代・70代・80代など高齢の場合も治療を受けられる?
ここまではインプラントを受けられる年齢層について下限年齢をみてきましたが、高齢の場合も治療を受けられるのでしょうか。
特に高齢層の場合は歯周病の進行による歯の欠損が生じやすい年齢層にも差し掛かります。そのため、インプラントの治療が受けられるかどうかは気になるところです。
60代・70代・80代など高齢の場合にインプラントの治療を受けられるかどうかについて、詳しくみていきましょう。
年齢の上限の制限は特にない
インプラントの治療については、特に年齢による上限の制限はありません。インプラントの治療が受けられる健康状態であれば高齢でも問題ないでしょう。
インプラントによる治療を行い、20年以上経過した患者さんのアンケートによると約8割の患者さんは今もインプラントを喪失せずに維持しています。
また、インプラントによって何でもよく噛める割合が80代でも75%を占めることから、インプラントは高齢になっても以前と変わらない食事ができる治療法といえるでしょう。
そのため、歯周病などで歯を欠損しやすい40代〜60代の年齢層からすると、以前と変わらない生活を送れることからインプラントの需要は高いでしょう。
80代など高齢の場合には主治医に相談を
80代などの高齢でインプラントの治療を受けようとしている場合は、かかりつけの歯科医院の主治医に相談することをおすすめします。
インプラントは顎の骨にインプラント体を埋め込むため、骨密度が低い場合インプラント治療ができない可能性があります。
また高血圧や糖尿病などの持病がある場合、状態によってはインプラント手術後の傷の治りが遅かったり、感染を引き起こす可能性などがあったりします。
これらの点から、全身状態や口腔内の状況を主治医と共有し、インプラント治療を行うか否かを相談しましょう。
場合によっては持病や口腔内の治療を先に行った後にインプラント治療ができるケースもあるため、病状や服用している薬などの情報も共有しておくと良いでしょう。
高齢者がインプラント手術を受けるリスク
歯を欠損しやすい中高齢層になると、インプラントを検討する機会が増えるでしょう。
しかし、年齢を重ねてからインプラントを検討する際にはインプラント手術を受けるリスクについてもよく知っておく必要があります。
ここでは、高齢者がインプラント手術を受けるリスクについて、詳しくみていきましょう。
インプラント体が結合しにくい可能性がある
高齢者がインプラント手術を受ける際に、インプラントを埋め込む部分に十分な骨がないとインプラント体が結合しにくい可能性があります。
インプラント手術は顎の骨にインプラント体を埋め込んで結合させることにより、上部構造を支える重要な工程になります。
インプラントを入れようとする箇所の骨の量については、CT撮影などによって調べられますので検査を実施してもらいましょう。
疾患により手術を受けられないことがある
インプラントの手術は、疾患の内容によっては受けられないケースがあります。
例えば心疾患を患っており、状態が不安定な方はインプラント手術は負担が大きいため、手術を受けられないでしょう。
また、糖尿病の方はインプラント手術後にインプラント体の結合が進みにくく、傷の状態によっては感染を引き起こす恐れもあります。
加えて、歯周病に罹患している方は歯周病の治療が先に終わらなければインプラントの手術を受けられません。
このように疾患によってはインプラント手術が受けられなかったり、先に疾患の治療が必要であったりするでしょう。
主治医に相談する際には、疾患について正確に申告してインプラント手術が受けられるかどうか判断してもらいましょう。
感染が起こるリスクがある
インプラント手術は術後の経過によっては、インプラント体を埋め込んだところが感染を引き起こすリスクがあるでしょう。
インプラント手術後、インプラント体が骨と結合し上部構造を支えることになりますが、結合する過程でインプラント周囲粘膜炎やインプラント周囲炎に感染することがあります。
インプラント周囲粘膜炎はインプラント周囲の粘膜に生じる病変、インプラント周囲炎はインプラントが骨と結合する際に生じる病変を指します。
これらの感染はインプラント手術後のメンテナンスによってある程度防げますが、口腔内環境が悪いと発生しやすくなるでしょう。
そのため術後は歯磨きなどのセルフケアを丁寧に行い、口腔内を常に衛生的に保てるようにしなければなりません。
体力が低下しており手術が難しいケースがある
インプラント手術は体への負担が大きい手術になるため、体力が低下していると手術を受けるのが難しいケースもあります。
インプラント手術はインプラント体を埋め込む箇所の粘膜を切開し、顎の骨にドリルで穴を開けて埋め込む流れです。
そのため、体への負担が大きい手術になりますので、衝撃や出血に耐えられるかどうかなどは患者さんの体力にもよるでしょう。
またインプラント手術は局所麻酔を使用して実施するため、手術中に痛みを感じることはありませんが、麻酔が切れると痛みが生じやすくなります。
これらを勘案すると高齢により体力が低下していると、手術が難しいと判断される可能性が高いでしょう。
抜歯などの外科手術を受けられる状態であれば、インプラント手術も可能とされることが多いです。
インプラント手術を受けられないケース
インプラント手術は全身状態が良好であれば問題なく受けられるでしょう。
しかし、体の状態によってはインプラント手術が受けられない、もしくは症状が安定したのちでなければインプラント手術ができない場合があります。
ではどのような状態の場合にインプラント手術が受けられないのかについて、詳しくみていきましょう。
重症の歯周病がある
重症の歯周病がある患者さんは、インプラント手術を受けられません。
なぜなら歯周病により口腔内環境が悪化している状態でインプラント手術をすると、術後に感染を引き起こしやすくなるためです。
インプラント手術後は感染を防ぐため、日常のセルフケアや定期的なメンテナンスを必要としますが、もともと歯周病により口腔内環境が悪いと感染のリスクが高まります。
感染によりインプラント周囲炎が発生すると、最悪の場合インプラントの喪失につながります。
そのため、歯周病でも重症化している患者さんはインプラント手術を受けられないでしょう。
骨密度が低下している
骨粗しょう症などで骨密度が低下している患者さんもインプラント手術を受けられないことがあります。
インプラント手術は顎の骨に対しインプラント体を埋め込むため、骨が脆くなっている状態ではリスクが高い手術になります。
インプラント手術を受ける前に必ず手術が受けられるかどうかさまざまな検査を実施しており、骨密度が低下している可能性があるかどうかも確認されるでしょう。
なお、顎の骨のボリュームが足りないなどの構造的な問題であれば骨の移植により増殖することでインプラント手術を受けられます。
ただし治療期間が長くなったり、費用が通常よりも多くなったりするため、負担が大きくなるでしょう。
持病がある
心疾患や糖尿病などの持病がある場合はインプラント手術が受けられません。インプラント手術自体が負担の大きい手術になるため、持病が伴う場合は通常よりもリスクが高まります。
例えば糖尿病を患っている場合は、インプラント体を埋め込んだ後の骨との結合が進みにくく、感染を引き起こしやすいでしょう。
また、普段から服用している薬によってはインプラント治療が適さない場合もあるため、持病や服用している薬の申告については正確に行うことが重要です。
特に抗凝固薬や抗血小板薬を服用している場合は血が止まりにくいことが予想されます。
そのため、インプラント治療を検討する際は持病や服用している薬についても考慮した上で主治医に相談しましょう。
喫煙している
喫煙習慣がある方はインプラント手術が受けられないでしょう。インプラントは口腔内環境が衛生に保てなければインプラント周囲炎などを引き起こす可能性があるためです。
インプラント手術後は口腔内を衛生的に保つ必要があるため、日常のセルフケアや定期的なメンテナンスが欠かせません。
喫煙習慣があるとこれらのケアをしていても、口腔内の環境が悪化しやすく感染を引き起こすリスクが高まります。
加えて、インプラント体と骨の結合もタバコの有害物質によって進みにくくなり、最悪の場合インプラント周囲炎によってインプラントの喪失にもつながりかねません。
インプラントを検討している場合はまず喫煙習慣を改善し、口腔内環境が改善されてから受けるようにしましょう。
妊娠している
妊娠中の方もインプラント手術が受けられないでしょう。インプラント手術は母体への負担が大きく、また定期的なメンテナンスが難しいためです。
インプラント手術は体への負担が大きいため、妊娠している場合は胎児への負担も考慮すると受けるのは難しいといえるでしょう。
また、インプラント手術後は定期的なメンテナンスが欠かせません。妊娠から出産を経て子育てとなると歯科医院への通院は難しくなります。
加えて子育てが落ち着くまでは日常のセルフケアも怠りやすくなるため、インプラントを検討する場合は子育てが落ち着いた段階まで待った方が良いでしょう。
インプラント手術を受けている人が多い年齢層
インプラント手術は歯周病による歯の欠損が増える40代以降に受けられる患者さんが増えてきます。
歯周病は年齢を重ねていくと患者数が増えており、歯周病の進行度も高齢層になるに従って増加傾向にあります。
歯周病は進行が進むと歯を支える骨が溶け出し、しまいには歯が抜け落ちてしまうでしょう。
抜け落ちた後は自然と歯が生えることはないため、代替の歯が必要になり、インプラントが選択肢に挙げられることからインプラント手術を受ける方が増えてきます。
ただし、全身状態が良好でなければインプラント手術は受けられないため、比較的健康に過ごせる50代〜60代がインプラント手術を受けるピークともいえるでしょう。
まとめ
本記事では、インプラントの適正な年齢層・年齢制限・高齢の場合について解説しました。
インプラント手術はライフステージや全身の健康状態によって受けられる年齢層が中高齢層にあたる、40代〜60代が適正と考えられています。
なぜならインプラントは手術を受けたら終わりではなく、日常のセルフケアと歯科医院への通院にて定期的なメンテナンスを受けることで長く保てるためです。
インプラント治療に特段年齢制限はありませんが、若年層の場合、顎の骨の成長が止まった18歳頃からインプラントを受けられるでしょう。
また、高齢層の場合は持病・骨の状態・体力・セルフケアが可能かどうかなどを考慮しながら進めていく必要があります。
インプラントは口腔内を衛生的に保つことで10年、20年と長く維持することが可能です。歯を欠損した際の選択肢として検討してみてはいかがでしょうか。
参考文献