むし歯や歯周病の影響で歯を失ってしまった場合、歯科医師からインプラント治療を勧められたことがあるという方もいるのではないでしょうか。
インプラント治療は骨の状態が非常に重要であり、骨の状態が悪ければいきなりインプラント治療のみを受けることができなくなってしまいます。
インプラント治療を行うとき、顎の状態が悪く顎の骨が不足していると、顎の骨の骨量を増やす骨造成という手術を行う必要があるため歯科医師に確認するようにしましょう。
本記事では、骨造成の痛みの原因や対処法、骨造成の種類についても解説します。
インプラント治療の骨造成による痛み・腫れはいつまで?
インプラント治療の骨造成は、骨量を増やすためには欠かせませんが、術後は痛みや腫れが生じてしまいます。
骨造成は種類にもよりますが、痛みや腫れは術後3日がピークとなり、1週間程度痛みと腫れが続きます。
手術では、人工骨を入れたり歯茎切開も行ったりするため、内出血のようなあざを発生させてしまうこともあるため注意が必要です。
顎の骨量が不足している状態のままインプラント治療を行うと、インプラントが抜けてしまう可能性があります。
そのため、骨量不足の方がインプラント治療を行うとき、骨造成は避けて通れないといえるでしょう。
手術中に痛みはほとんど伴わない
実は骨造成は、手術部位に局所麻酔をするため、手術中に痛みを感じることはほとんどないといわれています。
ただし、全身麻酔ではないので、歯科器具を使った手術中の様子は目に映ります。
そのため、手術が苦手な人は手術に対する緊張を感じたり、不安な感情を抱いてしまったりする可能性はあるでしょう。
手術にかかる時間はインプラント手術前に行う骨造成で、30〜40分程度が目安とされています。
術後は痛みが生じる場合がある
骨造成は、術後に痛みが3日でピークを迎え、1週間程度続くとされているため注意深く観察しましょう。
骨造成の痛みは治療法の種類によって異なっており、術後すぐに腫れや痛みが生じるものから、麻酔が切れた後も腫れや痛みを生じにくいものまであります。
骨造成は名前だけを聞くと恐ろしく感じますが、自分の血液や骨から作るという身体の治癒力と適合したものですので、安全性は高いといわれています。
インプラント治療の骨造成による痛みの原因
骨造成は、手術範囲が広く手術時間も長いため、通常のインプラント手術よりも大規模な手術となります。
また、骨量が少ない場合の骨造成手術にかかる期間は、骨ができるまでの数ヵ月必要になることがあるとされています。
歯茎をメスで切開したり骨に穴を開けたりする手術ですので、内出血も生じ、痛みも生じる可能性は十分にあるでしょう。
インプラント治療だけでなく骨造成も行うため、通常よりも出血量が多くあざが出ることもあります。
しかし、このような手術を行うことでなぜ痛みが生じるのか気になる方もいるのではないでしょうか。
ここでは、骨造成の手術による痛みの詳細について解説します。
免疫反応・防御反応
インプラント治療や骨造成治療では患部を切開するため、外科手術で傷口を守る免疫反応や防御反応が起きて、患部の腫れがひどくなることがあります。
ただし、安静にしていれば患部の腫れは2週間程度で治まるといわれています。
腫れが2週間経っても引かないと感じた場合には、異常が生じている可能性があるため、治療を担当した歯科医師に相談するようにしましょう。
細菌感染
骨造成後の腫れや痛みは、患部の細菌感染が原因となっている場合もあります。
細菌感染が原因の腫れや痛みは、放置しておくと化膿したり、膿が出てきたりしてしまいます。
その結果、骨とインプラント体の連結を妨害してしまうことにもつながるため、症状の悪化を察知したときは担当の歯科医師に相談することが大切です。
インプラント治療の代表的な骨造成手術の種類
インプラント治療時に行う骨造成手術ですが、実はいくつかの種類が存在します。
そのなかでも、代表的な骨造成の種類は3つあります。
この3つは治療部位や骨量の充足具合によって適した方法が異なっているため、事前にどのような方法があるのか確認しておくようにしましょう。
手術の種類によって、手術内容や手術時間はもちろんのこと、費用や術後の腫れや痛みにも影響を及ぼします。
ここでは、骨造成手術の種類別の詳細を紹介します。
GBR
GBR法(骨誘導再生法)は、骨造成のなかでも、インプラント治療をする際に必要となる骨の厚みや高さが不足している場合に行われる手術です。
GBR法はインプラント治療でよく使われる骨造成手術といわれており、メンブレンと呼ばれる人工膜の中に骨や人工骨補填剤を入れて骨の再生を促進させる手術です。
骨ができあがるまでにはおよそ3ヵ月〜6ヵ月かかるとされており、辛抱が必要です。
GBR法では、インプラント治療と同時に行われるものや、最初はGBR法のみの手術を行って骨ができあがったときにインプラント治療を行う2つの方法があります。
GBR法は、再生させる骨量や患部の状態によって偏りもありますが、全国的には55,000〜110,000円(税込)程度の値段で行われている骨造成術といわれています。
サイナスリフト
サイナスリフト(上顎洞挙上術)法は、上顎の骨の高さが3~5mmに満たず不足しているときに行われる手術です。
多くの骨が欠損している場合はサイナスリフト法が適用されます。
サイナスリフト法では、骨ができあがるまでに6ヵ月〜10ヵ月程の期間が必要となることもあり、骨造成のなかでも期間は長いといえるでしょう。
後述するソケットリフト法よりも負担が大きいといわれていますが、広範囲で骨を造成することが可能です。
サイナスリフト法は、メスでの歯茎切開など治療の負担が大きく、費用は330,000円(税込)程度が相場と高い値段になっています。
ソケットリフト
ソケットリフト法(クレスタルアプローチ)は、上顎の骨の高さが3〜5mm以上ある場合に行う手術で骨量の不足が激しくなく、治療範囲が限られているときに適用されます。
ソケットリフト法は、口腔内から上顎洞底部を上に上げてできた隙間に骨移植や再生療法を行う手術です。
サイナスリフト法よりも外科的な侵襲を生じにくいため、細菌感染のリスクを抑えられるメリットがあります。
ただし、上顎でなければ手術を受けられない場合やソケットリフト法が適していないと判断される可能性もあるため、歯科医院で相談するようにしましょう。
ソケットリフト法は顎の骨の不足量が少ないときに適用されるため、費用も55,000円(税込)程度とお財布に優しい値段になっています。
骨造成の費用については、骨量の不足が少なければ少ない程あまりお金をかけずに治療できるといえるでしょう。
インプラント治療の骨造成手術後に痛みが生じた場合の対処法
骨造成手術後もインプラント治療に限らず、痛みが生じる可能性はあります。
骨造成後は抗生物質と同時に鎮痛剤も処方されるため、痛みが生じたときには鎮痛剤を服用しましょう。
鎮痛剤を服用すれば、痛みが軽減して夜も眠れるため、過度な心配は必要ありません。
また、患部が熱を持っている場合は適度に冷やすことで内出血などによるあざなどや腫れの痛みを緩和できます。
そのため、鎮痛剤を服用しても痛みが残っているときは患部を冷やすことで、痛みを抑えることができるでしょう。
術後に患部の熱や腫れが治まってきたら、体温に近い温度のタオルで温めましょう。
インプラント治療の骨造成手術後に生じる痛みを予防する過ごし方
骨造成の手術直後は麻酔が効いているため、痛みを感じることはほとんどないといわれていますが、手術後麻酔が切れてからの痛みが心配な方もいるでしょう。
実際に骨造成も行うとなると、インプラント治療のみの場合より手術時間も必然的に長くなるため、負担は大きくなり痛みも生じやすいです。
特に骨造成した後の上顎洞の膜はデリケートなため、破損しやすいといわれており、破損した場合には腫れと痛みが出る可能性があります。
この場合の腫れや痛みは、ある程度は抗生物質によって3〜4週間程で治まるとされていますが、炎症が悪化しているときは一度インプラントを外して炎症を抑えるために膿を出すことになるでしょう。
骨造成はメス切開なども行う手術となり大かかりな手術となりますが、過ごし方によっては痛みを少しでも和らげることができます。
ここでは、骨造成手術後の痛みを少しでも和らげるための過ごし方について紹介します。
飲酒・喫煙をしない
骨造成を行った手術当日は、飲酒や喫煙は控えるようにしましょう。
アルコールの摂取は血の巡りを促してしまうため、出血や痛みを伴う原因となります。
また、タバコは粘膜の治癒を阻害してしまうため、注意が必要です。
タバコを吸うことで歯肉の血の巡りが悪くなり、傷の回復が遅くなってしまううえ、ひどい場合には、化膿してしまう恐れもあります。
患部を刺激しない
痛みを予防する過ごし方として、患部にダメージを与えないことも重要です。
直接患部を手で触ったり、歯ブラシで患部を刺激したりすることはもちろんNG行為ですが、食事にも気をつける必要があります。
例えば1週間程度はやわらかい食べ物にして、手術をした箇所で固いものを噛んだり、塩辛いものなどの刺激物の摂取をしたりすることをなるべく避けるようにしましょう。
また冷やしたり温めたりして痛みを緩和する場合も、お口の中から患部を直接触るのではなく、外側の頬からケアするようにしましょう。
きちんと口腔ケアを行う
口内には汚れや菌が多く溜まっているため、優しく歯磨きをして、口内環境を整えるようにしましょう。
歯磨きでは、毛先のやわらかい歯ブラシを選ぶようにして、患部を刺激して傷口を広げないようにすることが重要です。
ただし、このとき歯磨き粉は研磨剤が含有されたものは使わないようにし、炎症を悪化させないようにしましょう。
また、頻繁にうがいをしたり手
や舌で患部を触ったりすると、細菌から傷口を守るための血餅(けっぺい)を傷つけてしまい、出血のリスクや感染症のリスクになるため注意が必要です。
処方された抗生物質を飲み切る
骨造成の術後は、処方されている抗生物質を最後まで飲み切ることが肝心です。
抗生物質は、患部から細菌が入ることで生じる腫れや痛みを抑えるために処方されています。
そのため、決められたとおりに飲まなければひどい場合には、細菌を発生させてしまい感染のリスクにつながってしまいます。
自己判断で飲むか飲まないかを決めたり、飲み忘れをしたりしないようにしましょう。
また抗生物質だけでなく、うがい薬の提供がある歯科医院もあるため、術後の消毒が必要な場合は指示を守るようにすることが重要です。
インプラント治療の骨造成手術に伴う恐怖心を和らげる方法
インプラント治療でも怖いのに骨造成手術までしなければならないなんて、と感じる方も少なくないでしょう。
骨造成の手術に対する恐怖心を和らげるためには、インプラント治療について正しく知ることが重要です。
骨造成は麻酔を用いた手術となっているうえ、術後の落ち着きも早いため、痛みに対する恐怖や腫れに対する恐怖などの過剰な不安は抱く必要はあまりないといえるでしょう。
骨造成の手術では、局所麻酔だけでなくほかの麻酔を選択できます。
笑気麻酔
骨造成の手術は、笑気麻酔で受けることができます。
笑気麻酔は、甘い香りがするガスを鼻から吸って口から息を吐く腹式呼吸のような方法で行います。
笑気麻酔が効いてくると、ほわほわとした気分になり、不安な気持ちをリラックスさせて手術に臨めるでしょう。
ただし、笑気麻酔とは別に局所麻酔があまり効いていなければ痛みを感じてしまうことは十分にあり得ます。
静脈内鎮静法
骨造成は、静脈内鎮静法と呼ばれる麻酔で手術を受けることも可能です。
静脈内鎮静法とは、静脈内に点滴をする麻酔方法のことで、ウトウトと寝ているような気分になります。
そのため、痛みを感じることはほとんどなく、恐怖心を感じる必要はないでしょう。
静脈内鎮静法は全身麻酔のように完全に眠りについてしまうわけではなく、ぼんやりとした状態で手術を受けられるため、脈拍の変化や嘔吐反射などの症状を抑えることができます。
ただし、静脈内鎮静法を使用して手術を行ったときは、車や自転車の運転は危険を伴うため公共交通機関や送迎での帰宅をするようにしましょう。
まとめ
骨造成手術は、メスによる切開や骨の穴開けなども行う手術のため、大がかりな内容となります。
そのため、手術で生じる痛みや腫れも、通常のインプラント治療より継続する可能性は大いにあります。
しかし、骨造成の手術後に飲酒や喫煙を控えて口内環境に気を配ったり、処方された抗生物質をきちんと服用したりすることで、痛みや腫れが生じるリスクを抑えることは十分に可能です。
医院によっては希望する場合、局所麻酔以外の麻酔でも手術が可能なため、過剰な心配は避けて正しい知識を理解することが重要です。
参考文献