インプラント

インプラント治療は持病や慢性疾患があるとできない?持病と慢性疾患の種類やリスク、ほかの治療法について解説

インプラント治療は持病や慢性疾患があるとできない?持病と慢性疾患の種類やリスク、ほかの治療法について解説

インプラント治療は、外科手術です。そのため、手術中や手術後に患者さんの状態が変化したり、口腔内の神経や血管が損傷したりするリスクがあるでしょう。

患者さんの持病や全身の状態によっては、治療が行えないこともあります。以下で、インプラント治療ができない可能性がある持病・慢性疾患やリスク、ほかの治療法を紹介しています。

インプラント治療を行おうか迷っている人は参考にしてみてください。

インプラント治療ができない可能性がある持病・慢性疾患

糖尿病 検査インプラント治療には、大きく2つのリスクが存在します。それは、手術自体のリスクと骨との結合を妨げるリスクです。以下で紹介する糖尿病・心臓病・高血圧・骨粗しょう症はこの2つのリスクが高いため、状態によっては治療できない場合があります。

糖尿病

手術した箇所の治癒が遅い・感染症にかかりやすい・成功率や残存率が低いなどの点から、糖尿病はインプラント治療に適さないとされています。

高血糖状態になると、たんぱく質と糖がくっついて最終糖化産物(AGE)と呼ばれる強い毒性をもった物質を作ります。AGEは、老化・糖尿病・動脈効果などの疾患で体内の量が増えるのが特徴です。

この物質が血管内皮細胞や骨組織に付着し、血流量の低下や骨の代謝異常を引き起こします。

また、血液中のブドウ糖を原料にしてソルビトールが作られます。ソルビトールは、飴・ガム・飲料などにも使われている人工甘味料です。

ソルビトールが好中球に蓄積して、好中球機能の低下が起こり感染症にも罹患しやすくなります。また、糖尿病に罹患していることで、インプラント周囲炎になりやすい傾向にあります。

インプラント周囲炎は、インプラントの周囲組織に破壊が生じる疾患で、進行するとインプラントの喪失につながります。

心臓病

心臓に生じる病気の総称です。心臓自体の不調・心臓に血液を送る血管の不調で起こり、虚血性心疾患・心不全・先天性心疾患などに分類されます。

虚血性心疾患には、狭心症や心筋梗塞などがあります。狭心症は動脈硬化などで心臓の血管が狭くなることで、血液の循環が悪くなり、胸や心臓の痛みが発作のように繰り返し起こるのが特徴です。

心筋梗塞は、動脈硬化でできた血の塊が心臓の血管に詰まり、血液が流れなくなり心臓の筋肉が壊れる疾患です。

心臓病で血管が狭くなっていたり詰まっていたりすると、インプラント手術で心臓に負荷がかかりやすいでしょう。

高血圧症

血圧計普段から血圧が高めの人は手術への不安・局所麻酔薬の影響・術中の尿意などの要因から、手術の際に、より血圧が上がりやすくなります。

脳卒中の発症リスクは収縮期血圧が140mmHg以上で3倍、180mmHgを超えると9倍に増加するとされており、インプラントの手術時や手術直後に合併症や死亡のリスクが高くなります。

そのため、高血圧もインプラント治療ができない可能性がある疾患の1つです。
ただし、内科に通院しており、ある程度血圧のコントロールができている場合はインプラントの手術をしてくれる医院の方が多いです。

骨粗しょう症

骨強度が低下するため、インプラント埋入時の固定失敗や埋入後の歯槽骨との結合の維持などが問題点になります。骨強度は、骨密度と骨質の2つの要因で決まります。

骨粗しょう症は高齢の女性で罹患率が高い疾患です。閉経後のエストロゲンの分泌低下や加齢によるカルシウムの吸収能の低下で、骨密度は低下していきます。

また、骨粗しょう症の患者さんでステロイドを投与している人・糖尿病や腎不全などの合併症がある人では、インプラント治療を行わない傾向にあります。

ステロイドの服用で、カルシウムの吸収を助けるビタミンDの産生や吸収が阻害され、骨密度が低下しやすいためです。

糖尿病で高血糖状態の際には、AGEがたくさん作られ、骨の構造を変化させ骨質が低下します。

骨粗しょう症で全身疾患がなくインプラント治療が適応の人は、歯科医師と相談のうえ、治療が行われることがあるでしょう。

むし歯・歯周病もインプラント治療ができない原因になる?

頬を抑える男性歯周病でインプラント治療ができない原因は2つあります。1つ目は、歯周病により歯槽骨が吸収され、骨量が不足する可能性がある点です。

歯周病で歯を喪失した箇所では、歯槽骨が吸収されていると、インプラントを埋入させることが難しいでしょう。

2つ目は、歯周病原細菌がほかの歯やインプラントに感染する点です。インプラント埋入後に隣の歯周ポケットから細菌感染が起こることが知られています。

感染するとインプラント周囲疾患を発症するでしょう。インプラント周囲疾患はインプラントで起きる歯周病に似た症状です。

インプラントと歯肉の間に隙間ができ、そこに歯周病原細菌が繁殖して炎症が生じ、インプラントが埋入された歯槽骨が溶けます。

そのため、インプラント埋入前から歯周病原細菌を減らすようにしましょう。治療によって歯周病の状態が良くなっても、ケアを怠ると元の状態に戻ってしまうため、日々のケアを心がけてください。

持病がある人がインプラント治療を行うリスク

ドクターストップ持病がある人がインプラント治療を続けていくうえでのリスクは次のようになります。出血が止まりにくい・炎症を起こしやすい・血糖コントロールに影響するの3つです。

出血が止まりにくい

高血圧症や狭心症などの心疾患・脳梗塞などで血が固まりにくくなる薬を服用している人は、手術中・手術後に出血がとまりにくくなる可能性があります。

ただし、手術のために薬をやめてしまったり減らしてしまったりすると、血栓ができるリスクがでてきます。そのため、抗血栓療法中の人は、服薬したうえで手術を受けるのが望ましいです。

ただし、手術方法や埋入本数などによっては手術後に出血が生じる可能性があるため、こまめに止血管理を行う必要があるかもしれません。

炎症を起こしやすい

男性糖尿病や高血圧症などの疾患は、インプラント周囲炎と呼ばれる炎症の一因と考えられています。糖尿病や高血圧症などは、脂肪組織や血管に炎症を起こす疾患です。

糖尿病では、AGEが白血球の一員の単球やマクロファージに作用して、炎症性サイトカインを過剰に作ります。すると、炎症反応がさらに強くなります。

炎症性サイトカインは、炎症反応を引き起こす細胞間の伝達物質のことです。高血圧症では、加齢や酸化ストレスなどによる炎症で血管内皮が障害され、血管の構造や機能が変化します。

変化で血管内が狭くなると血圧が上がりやすくなります。糖尿病や高血圧症などで炎症が起きやすくなるため、慢性疾患にならないように心がけましょう。

血糖コントロール不良が起こる可能性

血糖コントロールが不良な場合、インプラント周囲炎に罹患しやすく、インプラントの喪失率も高くなります。

糖尿病の治療は、食事・運動・薬物療法で血糖コントロールを目指します。どれも自己管理が必要になり、特に食事・運動はご自身で気をつけなければいけません。

しかし、不規則な生活を続ける・間食や夜食を食べる・運動習慣がないなど、治療意欲がないと血糖コントロールもより難しくなります。

血糖コントロールが不良な場合、コントロールが良好な人に比べて歯周病の進行が速くなるため、インプラント周囲炎や脱落にもつながりやすいです。

血糖コントロールがうまくいくように、できることから始めていきましょう。

持病があってもインプラント治療を受けたい場合

レントゲン検査担当医師や歯科医師に相談しましょう。症状をコントロールするために、適切な努力も求められます。

担当医師や歯科医師に事前に相談する

インプラント治療は、手術のため外科的侵襲があり、持病の状態によっては手術が行えない場合もあります。

そのため、持病があってもインプラント治療を受けたい場合には、医師に相談してみましょう。

持病を把握せずにインプラント治療が行われると、全身合併症の発症頻度や死亡のリスクを高めてしまいます。

また、インプラント治療後のインプラント周囲炎や喪失にもつながります。せっかくかけたお金と時間がもったいない形で終わるでしょう。

上記であげた糖尿病・心臓病・高血圧症・骨粗しょう症以外にもインプラント治療を受けたい場合に医師に相談が必要な疾患は多数あります。

心筋梗塞・狭心症・喘息・腎炎・関節リウマチ・うつ病などが該当します。相談の際に迷ったら、医師に伝えて判断を仰ぎましょう。

持病の症状をコントロールする

持病の症状をコントロールできていると、治療が受けられる場合があります。例えば、糖尿病はインプラント治療のリスク要因と考えられている疾患の1つです。

HbA1cが6.9%以下で空腹時血糖も140mg/dL以下、食後血糖が200mg/dL以下でケトン体でない程にコントロールされている状態での手術が推奨されています。

HbA1cは、1~2ヵ月前の血糖値を反映した数値です。ケトン体は、体が飢餓の際にブドウ糖の代替エネルギーとして肝臓で作られる物質です。

また、高血圧症では180/110mmHg以上の際には、緊急処置以外は内科的管理が優先されます。血圧の異常な上昇は、重篤な合併症につながりやすいため、注意が必要です。

血圧を下げる降圧薬を服用している人では、治療当日も服薬を行います。手術への不安や局所麻酔薬の血管収縮薬の影響・痛みなどで、血圧が上がりやすいため、血圧のコントロールに努めましょう。

骨が少ない場合に行う主なインプラント治療

歯科治療インプラントは骨内長が10mm以上の埋入が必要とされています。しかし、埋入箇所によっては10mmに満たない箇所もあるため、以下のような方法で骨量や骨の長さを増幅させます。

ソケットリフト

上顎臼歯部にインプラントを埋入する際に、上顎の歯槽骨の厚みが足りない際に行われる方法です。

上顎洞を覆っているシュナイダー膜までの骨の高さが5mm以上の場合に適応されます。

方法はインプラントを埋入する箇所の上顎洞まで穴を開け、穴から十分な量の骨補填剤を注入し、インプラントを埋め入れます。骨ができるのに4〜5ヵ月程かかるでしょう。

サイナスリフト

ソケットリフトと同じように、上顎の骨量を増やす治療法です。シュナイダー膜までの骨の高さが5mm以下や喪失歯が多い場合に行われます。

サイナスリフトでは、インプラントを埋入する部分の頬側の歯肉を切って、上顎の歯槽骨を露出させます。

その骨に穴を開け窓を作り、そこから必要な量の骨補填剤を入れて窓を塞ぎます。骨が回復する3~6ヵ月程安静にして、骨ができてから、通常のインプラントを治療が始まる流れです。

GBR(骨組織誘導再生法)

レントゲン写真を見る医師歯槽骨の高さや厚みが足りない際に、人工膜を使って歯槽骨の再生を行う治療法です。まず、歯肉を切開してインプラントを埋入させます。

骨量が少ない場合、この時点で歯槽骨に収まらずに露出しているインプラントの部分が現れるでしょう。この露出してしまった部分に骨補填剤や砕いた自分の骨を入れて人工膜で覆います。

骨欠損が大きい場合、吸収されない材質の人工膜を使うため、インプラントがくっついてから人工膜を撤去する必要があります。

骨補填剤を人工膜で覆うことができたら、歯肉を縫合して歯槽骨が再生するまでの6〜10ヵ月程待ちましょう。待っている間に刺激や負荷が加わらないように心がけてください。

ソケットプリザベーション

抜歯後の穴に人工の骨補填剤を入れ、人工の遮断膜で穴を保護し、抜歯後の歯槽骨の吸収を抑える方法です。

抜歯後に放置しておくと、歯槽骨は吸収されやすく、骨が痩せてしまいます。それを防ぐためにもインプラント治療には欠かせない治療法です。

ソケットプリザベーションを行っても、骨量が足りずにソケットリフトが必要になる場合があります。

持病でインプラントができない場合の治療法

義歯義歯・ブリッジを検討してみましょう。義歯・ブリッジであれば、インプラントのような手術が必要ありません。義歯は、口腔内の形に合うように作られた仮の歯です。

部分義歯や総義歯があり、型を採ったら調整して使用が可能です。取り外しが可能なため、外して掃除が行えます。

また、ブリッジは、歯を入れたい部分の両隣の歯を支えにして、ダミーの歯をつなげて失った歯を補う方法です。

義歯と異なり取り外しの必要はいりません。また、保険適用のため手軽に行えます。ただし、健康な歯をたくさん削る必要がある点と、隙間に汚れが蓄積しやすかったり、支えの歯がむし歯や破損したりする可能性があるため注意が必要です。

インプラントは歯槽骨に固定するため、自分の歯のように噛めます。ブリッジのように隣の歯を削る必要もなく、見た目も自身の歯に近い状態です。

しかし、手術が必要なため持病があると適応できない場合があります。歯科医師に相談してもインプラントができない場合は、義歯やブリッジの導入を検討してみてください。

編集部まとめ

笑顔の男性インプラント治療ができない可能性がある持病・慢性疾患やリスク、ほかの治療法などを紹介しました。

糖尿病・心臓病・高血圧症・骨粗しょう症などは、インプラント治療のリスク要因と考えられています。

治療でのリスクには、手術自体へのリスクとインプラント埋入後のリスクがあります。

心臓病や高血圧症などは手術自体のリスクがあり、糖尿病や骨粗しょう症にはインプラント埋入後のリスクがあるでしょう。

糖尿病など血糖コントロールの状態によっては、インプラント治療が受けられます。そのため、インプラント治療を考えている人は疾患のコントロールを心がけ、担当医師や歯科医師に相談してみましょう。

参考文献

この記事の監修歯科医師
木下 裕貴歯科医師(医療法人社団天祐会 副理事長)

木下 裕貴歯科医師(医療法人社団天祐会 副理事長)

北海道大学歯学部卒業 / 医療法人社団天祐会 副理事長 / 専門はマウスピース矯正、小児矯正 / 一般歯科全般もOK

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