インプラント治療では「カバースクリュー」という装置を使用することがあります。カバースクリューは、インプラントの治療中のみに使用するものなので、治療後の生活では意識することはありません。
ただしカバースクリューは、インプラント治療を成功をするうえで、とても重要な役割を担っていることから、患者さんも用途や使用中の注意点について正しく理解しておく必要があります。この記事では、インプラント治療で使用するカバースクリューについて詳しく解説します。
カバースクリューの概要
インプラント治療のカバースクリューの基本事項を確認しておきましょう。
カバースクリューの構造
インプラントのカバースクリューとは、インプラントを保護する役割を担ったネジ(スクリュー)です。
頭の部分には、ドライバーを差し込むための穴が開いていて、根っこの部分にはらせん状のギザギザがついています。カバースクリューの構造は、一般的なネジをイメージするとわかりやすいでしょう。カバースクリューには、人工歯根にあたるインプラント体と同じ純チタンやチタン合金が使われています。
カバースクリューが用いられる治療方法
カバースクリューは、すべてのインプラント治療で用いられるわけではありません。
治療方法のなかでも、2回法で行うインプラント治療にのみ、カバースクリューが必要となります。
◎インプラントの1回法と2回法とは
インプラント体を埋め込む手術は、1回法と2回法があります。1回法は、手術が1回で済む術式で、インプラント体の埋入と連結装置にあたるアバットメントの装着を同時に行います。術後は、ヒーリングアバットメントと呼ばれるキャップのような装置がインプラント体を保護する形となるため、カバースクリューは必要ありません。
2回法は、インプラント体の埋入とアバットメントの装着を2回の手術に分けて行う術式です。1回目の手術では、インプラント体を埋め込み、その状態で歯茎を縫合するため、いくつか問題が生じます。その問題を解消するために装着するのがカバースクリューです。2回目の手術では、アバットメントを装着することから、カバースクリューは不要となります。
カバースクリューを使用する用途
インプラント治療におけるカバースクリューの用途を解説します。
インプラント埋入後の保護
インプラント埋入後に異物が入らないように保護する目的で使用されます。異物は、感染や炎症を引き起こす病原体だけでなく、歯周組織が再生する過程で作られる骨や肉芽組織(にくげそしき)なども含まれます。
骨や肉芽組織はインプラント体を安定させるために必要なものなのですが、それらがインプラント体の穴にまで入り込むと、2次手術でアバットメントを装着することができなくなります。そこで有用なのがカバースクリューです。インプラント体の穴の部分をきれいに塞ぐような形態をしており、異物が入らないよう保護してくれます。
骨とインプラントが結合する間の安定性を保つ
インプラント体にカバースクリューを装着することで、歯周組織が理想的な形で再生していきます。骨とインプラント体が結合するまでの間の安定性を維持してくれます。
細菌や異物の侵入を防ぐ役割
インプラントのカバースクリューには、細菌や異物などがインプラント体の穴のなかに入り込むのを防ぐ役割も期待できます。
インプラント体の穴に細菌や異物が侵入すると、歯周組織に細菌感染が起こり、顎骨との結合が妨げられてしまいます。これも一種のインプラント周囲炎であり、インプラント治療が失敗する原因にもなりかねません。インプラントのカバースクリューには、こうしたトラブルを防ぐ役割もあるのです。
カバースクリューの役割
インプラントのカバースクリューの役割をもう少し掘り下げて解説していきます。
インプラント周囲組織の保護
インプラント体を埋め込んだ周りには、歯茎や歯槽骨といった歯周組織が存在しています。これらは生きた細胞からなる組織であり、病原体による攻撃を受けることがあります。インプラントは、体の中にチタン製の人工歯根を埋め込む治療なので、その周囲に存在している組織はダメージを受けやすくなっている点に注意が必要です。
インプラント体にカバースクリューを装着することで、病原体が住み着きにくい環境を作り上げることが可能となります。カバースクリューは、アバットメントを装着する穴を便宜的に塞ぐだけの部品ではなく、インプラント周囲組織を保護する役割を担っているのです。
インプラントの長期的な安定性を確保
インプラント手術は、インプラント体を埋め込むことができれば治療の成功というわけではありません。インプラント体の長期的な安定性がなければ、補綴装置としての役割を果たすことができないためです。インプラント体の長期的な安定性には、オッセオインテグレーションが必要です。
◎オッセオインテグレーション
オッセオインテグレーションとは、顎の骨とチタン製のインプラント体が物理的に結合する現象です。異物が外から入ってくるとそれを取り除くように生体反応を示すのですが、チタンは拒絶反応が起こらず、生体に取り込むような現象が起こります。
このオッセオインテグレーションが正常に進むかどうかによって、インプラント手術の成否や、インプラントの寿命も決まってくるため、長期的な安定性を担う要素となります。
1次手術後にカバースクリューを装着しないと、インプラント体の穴に細菌が入り込んだり、予期せぬ形で歯周組織の再生が進んだりするため、正常なオッセオインテグレーションの獲得を阻害しかねません。このような観点からも、インプラントのカバースクリューの役割は大きいです。
二次手術に向けた準備段階としての機能
2回法のインプラント治療では、万全の状態で二次手術を迎える必要があります。オッセオインテグレーションを獲得し、インプラント周囲の組織も理想的な状態で手術するのが望ましいです。インプラントのカバースクリューは、こうした二次手術に向けた準備段階としての機能も果たしています。
カバースクリュー使用中の注意点
インプラントのカバースクリューを使用中に、注意しなければならない点を解説します。
適切な口腔ケアで周囲を清潔に保つ
インプラントのカバースクリューを装着した直後は、一次手術による傷口がまだ塞がっていないため、患部のケアが大切です。患部を硬い歯ブラシで圧力をかけたり、舌で刺激したりするような行為は避けましょう。傷口が開くと、治癒が進まなくなり、感染のリスクも高まります。
インプラントのカバースクリューを装着してからしばらく経過すると傷口が塞がります。一般的には、カバースクリューが口腔内に露出していない状態となることから、感染リスクは手術直後よりも低下します。口腔内の衛生状態が低下すると、周りの歯が歯周病になり、患部にも感染が広がりかねないため、口腔ケアの徹底は継続するようにしましょう。
違和感や痛みがある場合は担当医に相談する
インプラントの一次手術では、歯茎をメスで大きく切開して顎の骨にドリルで穴を開けるという侵襲性の高い処置を行います。
そのため手術直後は、ほぼ100%違和感や痛み、腫れなどが生じてしまいます。一次手術から2~3週間、あるいは1ヵ月以上経過しても痛みや腫れが治まらない場合は、何らかの異常が疑われるため、担当医に相談しましょう。
外れた場合はすぐに歯科医師に連絡する
インプラントのカバースクリューは、一次手術後に歯茎で覆われるので、一般的には外れてしまうことは稀です。
しかし、患者さんのお口の状態や選択した術式などによっては、カバースクリューが口腔内に露出した状態で一次手術を終えることもあるため、外れる可能性があります。カバースクリューが外れたまま放置すると、以下にあげるリスクを伴うことから、速やかに歯科医師へ連絡するようにしてください。
- 細菌感染のリスク
- インプラント体が脱落するリスク
カバースクリューのなかに食べカスや口内細菌が入ると、細菌感染を引き起こすことがあります。そうなるとインプラントの周りの組織に炎症反応が起こり、オッセオインテグレーションが阻害され、インプラント治療そのものが失敗に終わります。
また、カバースクリューが外れた状態で食事をすると、まだ安定していないインプラント体に過剰な負担がかかって、歯槽骨からの脱落を招くことがあります。上述したインプラント周囲炎もインプラント体の脱落を引き起こすことから、外れたカバースクリューはできるだけ早く付け直す必要があります。
◎カバースクリューが外れる原因
インプラントのカバースクリューは、自然に外れることはまずありません。そもそもカバースクリューは、1次手術後に歯茎で覆われますし、インプラント体ともしっかり固定されます。それにも関わらずインプラントのカバースクリューが外れる主な原因としては、以下の2つがあげられます。
- カバースクリューが適切な位置まで締められていない
- インプラント体が抜け落ちた
カバースクリューは、一般的なネジと同じように、ドライバーで定位置までしっかりと締めなければなりません。締め方が不十分だと、時間の経過とともにネジが緩んで外れてしまいます。インプラント治療の経験や知識も豊富で、正しい技術も身に付けている歯科医師に手術を任せれば、こうしたトラブルは未然に防ぎやすくなります。
また、一次手術後にカバースクリューが外れる原因としては、インプラント体ごと抜け落ちるケースもあるでしょう。これはインプラント治療の失敗を意味します。インプラント体ごと抜け落ちる理由としては、以下の3つがあげられます。
- インプラント体が定着しなかった
- 術後のメンテナンスが不十分だった
- 品質が担保されていないインプラント材料を使用した
インプラントの一次手術後には、顎の骨とチタン製の人工歯根が結合するオッセオインテグレーションが必要となります。この現象が起こらず、インプラント体が顎骨に定着しなければ、自然に脱落することも十分にあり得ます。事前の精密検査やインプラント体を埋め込む位置、実際の埋入処置に誤りがあると、顎骨への定着が阻害されるため注意が必要です。
術後のメンテナンスも抜け落ちる原因です。カバースクリューを装着するインプラントの一次手術後のメンテナンスが不十分だと、患部が不衛生となってインプラント周囲炎を発症します。一次手術後の治癒期間にインプラント周囲炎を発症した場合は、オッセオインテグレーションが起こらず、インプラント体の脱落を招きます。
インプラントの品質も大切です。近年、格安インプラントと呼ばれるものが話題となっています。一般的なインプラントシステムでは、インプラント1本あたり30〜50万円程度の費用がかかるところ、格安インプラントなら1本10万円程度で治療できるということで、インターネットやSNSでも関心を持つ人が増えているのです。
しかし、こうした格安インプラントは、インプラント体に質の低い材料を使っていたり、廉価版やコピー品を活用していたりすることから、カバースクリューやインプラント体そのものが外れるというトラブルが増えています。
メジャーなインプラントシステムであれば、カバースクリューやインプラント体が外れることはないというわけではありませんが、廉価版やコピー品はそのリスクが高くなる可能性があることを知っておくことが大切です。
まとめ
今回は、インプラント治療で使用するカバースクリューの用途や役割、使用中の注意点などについて解説しました。インプラント手術の2回法では、一次手術の後に数ヵ月の治癒期間が設けられるため、インプラント体の頭の部分の穴を塞ぐ必要があります。そこで使われるのがカバースクリューで、インプラント体や周囲の組織の保護、二次手術に向けた準備段階としての機能が期待できます。そんなインプラントのカバースクリューには、ネジが緩んだり、外れたりするなどのトラブルが起こりえるため、適切なセルフケアと歯科医院でのメンテナンスをしっかり継続することが重要といえます。
参考文献