インプラント治療では手術を伴うため、治療直後に噛むと違和感がある方は多いでしょう。しかし、噛んだときの違和感が長期間続く場合は何かしらトラブルが起こっているかもしれません。
違和感の原因は複数あり、内容によって適切な対処法が異なります。また、放置してしまうとさまざまなリスクにつながる可能性があり注意が必要です。
この記事では、インプラント治療後に生じる違和感の原因や放置によるリスク、対処法について解説します。
トラブルなくインプラントを使うためのポイントも紹介するため、治療箇所に違和感を抱える方の参考になれば幸いです。
インプラント治療後の違和感に慣れるまでの期間
インプラント治療では手術が必要です。そのため術後の痛みを感じる方はめずらしくありません。
一般的に術後の痛みは2~3日で徐々に治まりますが、痛みとはいわないまでも違和感が続くと不安になる方もいるでしょう。
それまで歯がなかった場所にインプラントが装着されると、多少違和感を覚えることがあります。噛み合わせのバランスの変化や舌がインプラントに当たることなどが理由として考えられます。
しかし、このような違和感は一時的なもので一般的には1週間程度で慣れてくるでしょう。
2週間を過ぎても違和感がある場合はインプラント周囲で何らかのトラブルが起こっている可能性があります。
違和感が続くときは早めに歯科医院を受診するようにしましょう。
インプラント治療後に噛むと違和感がある原因
インプラント治療の数日後までは、腫れや出血などにより噛んだ際に違和感を覚えることがあります。
しかし、症状が続く場合はなんらかのトラブルが原因になっている可能性があり注意が必要です。
ここでは、インプラント治療後に生じる違和感の主な原因を3つ解説します。
インプラント歯周炎
1つ目はインプラント歯周炎です。インプラント治療後に噛むと違和感がある場合、インプラント歯周炎が考えられます。
インプラント歯周炎は、細菌感染に伴う炎症性疾患です。
インプラントと歯茎の間の隙間で歯周病菌が増殖し、歯肉に炎症が起きます。進行するとインプラント周囲の骨が溶けることもあります。
このような状態は、インプラントのぐらつきにつながり、噛んだときの違和感を覚える原因になるでしょう。
インプラント周囲の疾患は初期には痛みを感じにくく症状が進んでしまうため注意が必要です。
噛み合わせのずれや不安定感
違和感の原因の2つ目は、噛み合わせのずれや不安定感です。
インプラント治療後に噛み合わせが悪くなる原因は大きく3つあります。
- インプラントの位置や高さがあっていない
- 残っている歯とのバランスの崩れ
- 噛み合わせの調整不足
一つずつ解説します。
一つ目は、インプラントの被せ物が高すぎて噛んだとき強く当たりすぎることです。反対に被せ物が低すぎると噛みにくく、反対側の歯に負担がかかることになります。
このような状態は顎関節の負担にもつながります。噛みにくさを感じたら我慢せずに歯科医師に相談しましょう。
次に、残っている歯とのバランスが崩れることが原因になるケースもあります。
天然の歯は少しずつ動くことがあるため、治療直後は問題なく使えていた場合でも、時間が経つにつれて噛み合わせが合わなくなることがあります。
そして、3つ目は噛み合わせの調整不足です。インプラント治療直後は噛み合わせが安定しないこともあるでしょう。定期的な噛み合わせのチェックと調整の必要があります。
インプラント体(人工歯根)と骨の結合トラブル
3つ目の原因は、インプラント体と骨の結合トラブルです。インプラントと骨がうまく結合されずに固定されないと、噛んだときの違和感につながります。
インプラントはインプラント体(人工歯根)が骨と強く結合することで支えられています。
この結合を安定させるためには、適切な位置にインプラントを埋め込むことが重要です。
また、顎の骨に穴をあける際にダメージが加わると、インプラントが結合しにくくなります。このような場合は、ぐらつきや違和感などの症状が早期に現れることが特徴です。
また、一度結合が安定したインプラントでも、インプラント歯周炎により骨が溶けて脱落する場合があります。
インプラントで噛むと違和感があるのを放置するリスク
インプラント治療後、噛むと違和感がある状態を放置するとさまざまなリスクが高まります。インプラントは、本来残っている歯と同様の自然な使用感が魅力です。
違和感がある場合はなんらかのトラブルが起きている可能性があります。放置するとどのようなリスクがあるのか具体的に解説します。
食事がしにくく胃腸に負担がかかる
噛む際に違和感があると、無意識に普段どおりの咀嚼ができなくなります。しっかり噛めなくなると咀嚼能力が低下し、食べ物をよく噛まずに飲み込むことになりかねません。
よく噛むことで唾液中の消化酵素の分泌量が増え、細かく噛み砕くことで胃腸の負担をやわらげることができます。
しっかり噛んで食べると満腹感を感じられるため食べすぎを防ぐことができるでしょう。
厚生労働省では、ひと口30回噛むことを目標にしています。ゆっくりよく噛んで食べることが難しくなると胃腸に負担がかかってしまうでしょう。
むし歯や歯周病のリスクが高まる
違和感を放置していると噛み合わせが悪くなりがちです。
噛み合わせが合わないと特定の歯だけに強い力が加わり、歯と歯肉の間の溝の隙間が広がってしまいます。この歯周ポケットを放置すると歯周病菌が増え歯周病のリスクが高まります。
また、噛み合わせが合っていない場合、歯の磨き残しが増えむし歯のリスクが高まるでしょう。
感じている違和感がインプラントのトラブルだと思っていてもインプラント周囲の残っている歯がむし歯になるリスクもあるため注意しましょう。
顔面のゆがみや顎関節症のリスクが高まる
噛むときに違和感があると、噛みやすいところを使いがちになり、負担がかかる場所が偏るようになります。
顎の関節や筋肉に無理な力がかかると、お口を開け閉めする際にカクカクと音が鳴ったり、痛みを感じたりするようになります。
さらに放置すると、お口の動きがスムーズにできなくなったり、食事や会話に支障が出たりするなど、顎関節症のリスクが高まるでしょう。
また、歯ぎしりや食いしばりにつながるリスクがあり、さらに症状が悪化する恐れがあるため注意が必要です。
このように噛むときに使う筋肉のバランスが崩れると、顔面のゆがみにつながることもめずらしくありません。
インプラント治療後に噛むと違和感があるときの治療法
インプラント治療後、噛んだときの違和感を放置するとさまざまなリスクが高まるため、適切な治療を受けることが重要です。
治療法は違和感の原因により異なります。ここからは先述した3つの原因ごとにそれぞれの治療法を解説します。
インプラント歯周炎が原因の場合
インプラント歯周炎が疑われる場合は、歯周組織の検査や細菌検査、問診をします。その際、喫煙や全身疾患の状態も重要な情報になるため、歯科医師に正確に伝えましょう。
インプラント歯周炎の治療は、非外科治療と外科治療に分けられます。
非外科治療とは、口腔衛生指導や抗菌療法として殺菌消毒による洗浄などのことです。
また、インプラント周囲の粘膜下に抗生物質を直接投与する方法は、症状の軽減に有効とされています。
外科治療とは、インプラント体表面を露出させる切除療法や歯肉弁根尖側移動術、インプラント体表面のスレッドの削除形成などです。
重度のインプラント歯周炎では骨移植材を使用して顎の骨を再生させる治療が可能ですが、再生療法は成否が左右されるとの報告があります。
噛み合わせのずれが原因の場合
噛み合わせのずれがあると噛んだときの違和感につながります。インプラントや対応している歯の違和感やスクリューの緩みがないか注意しながら慎重に調整を続け対応します。
特に治療後すぐは、期間を空けすぎないよう噛み合わせのチェックを含めた定期検診に通院しましょう。
無意識のうちに噛みしめや歯ぎしりの癖がある方は、ずれの原因になるため癖が出ないように趣味の時間を作ったり、睡眠中のマウスピースの使用を相談してみたりするとよいでしょう。
小さなずれでも放置するとさまざまなトラブルの原因になります。早めに調整することで大きなトラブルを防ぐことができるでしょう。
インプラント体(人工歯根)と骨の結合トラブルが原因の場合
インプラント体と骨の結合トラブルにより噛んだときの違和感がある場合は、結合に至らなかった原因の鑑別が重要です。
固定用のスクリューが破折している場合は除去します。
除去が難しい場合は上部構造を作り直しますが、上部構造が安定しないとインプラント体を除去しなければならないこともあるようです。
インプラント埋入時、骨に穴をあける際にオーバーヒートになった場合は修正が難しく、一般的にはインプラント体の撤去をすることになります。
インプラント治療後に噛むと違和感があるときの対処法
違和感があるときにはどのような対処ができるのでしょうか。歯科医院での治療に限らず、日頃から自分でできる対処法もあります。
3つ解説しますので、違和感でお困りの方はすぐできる対処法から試してみてはいかがでしょうか。
インプラント周囲の清掃を丁寧に行う
インプラントをよい状態で保つには日頃から丁寧なケアが必要です。
通常の歯ブラシで残っている歯と同じように磨きます。歯ブラシは小刻みに動かし、歯と歯茎の境目を丁寧に磨きましょう。
電動歯ブラシの使用も効果的です。信頼できるメーカーのものを選ぶとよいでしょう。通常電動歯ブラシには歯磨剤は必要ないとされています。
残っている歯とインプラントの間やインプラント同士の間など小さな隙間も丁寧にケアします。隙間の大きさによりデンタルフロスや歯間ブラシを適切に使いわけるとよいでしょう。
タフトブラシはインプラントの根元部分やインプラントの被せを支えるインプラントの土台が見えている場合の細かい部分の清掃に適しています。
歯ブラシなどで丁寧に清掃したうえでマウスウォッシュを併用してもよいでしょう。
食事の内容や摂り方を工夫する
インプラント治療後に違和感がある場合は、インプラントに負担の少ない食事を心がけましょう。
食品を小さく切ったりやわらかく調理したりして工夫し、ゆっくり食べるように注意しましょう。
炎症がある場合は飲酒により悪化する可能性があります。また、歯肉にトラブルがある場合は刺激物を避けた方がよいでしょう。香辛料や熱いものは刺激になってしまいます。
やわらかく噛みやすいおすすめのメニューは、おかゆや煮込みうどん、ヨーグルトなどがあります。
歯科医院を受診する
いったん治療が終了しても違和感があれば早めに歯科医院を受診しましょう。
歯科医院では患者さん自身では気付きにくい変化を早期に発見し、早期治療につなげることができます。
インプラント治療後の検診では次のような検査をします。
- 歯の汚れのチェック
- 周囲粘膜の状態チェック
- 歯周ポケットの深さのチェック
- 排膿の有無
- インプラントの動揺度
- レントゲン
- 口腔内の観察と記録
- 細菌検査・血液検査
このほかに噛み合わせの調整や口腔衛生指導、機械を使った歯の清掃をします。
違和感を軽視せず、早めに歯科医院を受診して相談してみましょう。
違和感なくインプラントを使い続けるためのポイント
インプラント治療後、違和感があったら歯磨きや食事に注意し、受診も含め早めに対処しましょう。しかし、可能なら違和感なく使い続けられるのが理想ではないでしょうか。
では、せっかく治療したインプラントをよい状態で長く使うためにはどうすればよいのでしょうか。インプラントを違和感なく使い続けるためのポイントを2つ紹介します。
定期的に歯科医院でチェックを受ける
インプラント治療後は歯科医院での定期的なチェックが重要です。口腔機能やインプラント周囲の健康状態を維持するために継続したメンテナンスを受けましょう。
定期検診では既往歴の更新やインプラントの土台の周囲組織の検査、残っている歯と周囲組織の検査、口腔衛生に関する指導が受けられます。
これらの検査により、むし歯や周囲炎などのトラブルを早期に発見、または回避することができます。
日々のセルフメンテナンスと合わせて歯科医院での定期的なチェックを忘れないようにしましょう。
メンテナンスの頻度は患者さんのお口の状態によりますが、3ヶ月~半年に1度が一般的です。
歯ぎしりや食いしばりの癖がある場合は対策を講じる
歯ぎしりの原因はさまざまですが、ストレスや飲酒、喫煙などがあります。ストレス発散のための飲酒や喫煙は好ましくありません。
軽い運動や趣味など好きなことに集中できる時間を作るよう心がけましょう。
それでも改善が見られない場合は、歯科医院で相談することをおすすめします。インプラントは垂直方向の力以外には耐久性が低くなります。
歯ぎしりのように横方向に力が加わると割れや欠けの原因になってしまうでしょう。
インプラントを長持ちさせるために歯ぎしりや食いしばりの癖がある方は歯科医師とよく相談して早めに対策を講じましょう。
まとめ
インプラント治療後に噛むと違和感がある場合、原因は大きく3つあります。歯周炎や噛み合わせのずれ、骨との結合トラブルです。
これらを放置すると、噛みにくさから胃腸に負担がかかります。また、むし歯や歯周炎のリスク、顎関節症や顔面のゆがみのリスクが高まります。
これらのリスクを回避するため、早期に対処することが重要です。原因により治療法が異なりますが、丁寧な歯磨きや食べるものの工夫など、自分でできる対処法もあります。
それでも噛んだときの違和感が続くときは歯科医院への受診をおすすめします。
歯科医院では自分では気付かない症状を発見し、専門的なケアを受けられるからです。歯ぎしりや食いしばりの癖がある場合も歯科医師と相談し、早めの対策をおすすめします。
インプラントを違和感なく使い続けるために、定期的な検診を欠かさず受けましょう。
参考文献