インプラント治療には外科手術を伴うため、その前後の生活習慣には十分な配慮が必要となります。特に日頃からお酒を飲む習慣がある方は、インプラント手術前や手術後の飲酒がどのように制限されるのか気になることでしょう。お酒は、ストレスや疲れ、不安感などを軽減するうえでも役立ちますが、インプラント治療では注意しなければならないポイントがいくつかあります。ここではそんなインプラント治療後の飲酒の注意点や飲酒がもたらす悪影響、飲酒を再開するステップなどを詳しく解説します。
インプラント手術後の飲酒の注意点
はじめに、インプラント手術における飲酒の注意点を解説します。
- インプラント手術後の飲酒はいつから可能ですか?
- インプラント手術をした後は、1週間程度、禁酒するのが望ましいです。インプラント手術では、歯茎をメスで切開したり、顎の骨にドリルで穴を開けたりする外科処置を伴うことから、全身の血流が良くなる飲酒はしばらく控えてください。インプラント手術によってできた傷口は、2〜3日程度で痛みや腫れのピークを迎えますが、1週間くらいは禁酒をして安静に過ごすのがよいでしょう。インプラント手術から1週間経過したからといって、いきなり大量に飲酒するのはNGです。傷口に大きな負担がかからないよう、徐々に再開していくようにしてください。
- 術前日の飲酒は問題ないですか?
- 手術前日の飲酒は、適量であれば問題ありません。ただ、飲酒をすることで眠りが浅くなったり、適度な量で飲酒をやめられなかったりする人は、手術前日からお酒を断った方が安全といえます。インプラント手術は、軽い外科処置に分類されますが、手術当日に寝不足があったり、疲れが残っていたりすると、治療結果に悪影響が及ぶ可能性もあるため、その点は自己責任で管理してください。
- 術後当日の飲酒が禁止される理由を教えてください
- インプラント手術を行った日の飲酒が禁止されているのは、アルコールによって患部の炎症が悪化したり、傷の治りが遅くなったりするからです。ケースによっては、アルコールによる血流の増加で傷口が開き、再び出血が起こることもありえます。これはインプラント治療に限らず、ほぼすべての外科手術に共通していえることです。基本的に、皮膚や粘膜をメスで大きく切開して縫合する外科手術で、その日から飲酒が許可されるケースはないといえます。
飲酒がインプラント治療に与える具体的な影響
次に、お酒を飲むことがインプラント治療にどのような影響を与えるのか、具体的に解説します。
- 飲酒が傷の治癒に与える影響を教えてください
- お酒を飲むと、次に挙げる理由から傷の治癒が遅れます。【理由1】傷口が開いて再出血する
アルコールを摂取すると全身の血流が良くなることで、インプラントの傷口が開きやすくなります。傷口が開いて再出血すれば、当然ですが治癒は遅れます。
【理由2】薬が効きにくくなる
お酒を飲むと、肝臓の働きが促進されて、アルコールだけでなく薬の分解も早くなります。これは手術後に処方された鎮痛剤や抗菌薬の分解も早めるため、痛みを感じやすくさせるだけでなく、細菌感染のリスクも高めることから、傷の治りを遅らせる一因になりえます。
【理由3】アルコールの分解にエネルギーが使われる
アルコールを摂取すると、その分解に相応のエネルギーが使われます。本来、創傷治癒に使われるべきエネルギーまで奪われるため、飲酒後は傷の治りが遅くなることがあるのです。
- インプラントと骨の結合に飲酒がどのような影響を与えますか?
- インプラントと骨の結合(オッセオインテグレーション)は、創傷治癒と同じようなメカニズムで進行します。そのため飲酒によって傷の治りが遅れれば、インプラントと骨の結合も阻害されます。また、アルコールは、カルシウムの吸収を妨げる作用がある点も注意しなければなりません。インプラントと骨が結合する過程では、カルシウムが必要となるので、その吸収量が減少すれば自ずとオッセオインテグレーションも妨げられます。
- 術後の感染リスクに飲酒が関係するのはなぜですか?
- 飲酒によって傷口が開き、再出血すると、細菌感染のリスクが高まります。また、アルコールは全身の免疫力を低下させる作用もあるため、結果として術後の細菌感染が起こりやすくなるといえます。さらには、上段でも述べたように、アルコールで薬剤の代謝が早まると、抗菌薬の効果も弱まることから、術後の感染リスクも自ずと高まってしまうのです。こうした理由から手術後1週間程度は、飲酒を控える必要があります。
インプラント手術後の飲酒再開に向けたステップ
インプラント手術から1週間以上経過したら、飲酒を再開して問題ありません。ただし、適切なステップを踏んで徐々に再開することが大切です。
- 飲酒を再開する際に注意すべきポイントを教えてください
- インプラント手術後に飲酒を再開する場合は、適量から始めるようにしてください。普段の飲酒量が多い方がいきなり同量まで戻したら、患部や全身に悪影響がおよびます。また、飲酒をする頻度も徐々に増やしていくのがポイントです。ちなみに、お酒を飲むと口腔内が乾燥し、歯周病菌やむし歯菌などの活動が活発化することから、感染リスクという観点からもインプラント手術後の飲酒量や飲酒の頻度には配慮が必要といえます。
- 再開時に避けるべき飲料や飲み方はありますか?
- アルコール度数の高いお酒は、あまりおすすめできません。また、たくさん糖質が含まれているお酒も口腔衛生状態を悪くしかねないことから、飲酒の再開時からいきなり飲み始める飲料としては推奨できないといえます。インプラント手術後に飲酒を再開するときの飲み方に関しては、時間に配慮が必要です。長時間にわたってチビチビとお酒を飲み続けるのもよくありません。
インプラント治療中の飲酒と日常生活
ここでは、インプラント治療中の飲酒と生活習慣について解説します。
- インプラント治療中の飲酒習慣はどのように管理すべきですか?
- インプラント手術後、傷口が安定して飲酒を再開して以降は、健康に気を遣いながらお酒の量や飲む頻度を管理していきましょう。お酒を飲みすぎると、全身の健康状態が悪くなり、結果としてインプラントと骨の結合を妨げてしまうことがあります。飲酒習慣を自己管理することが難しいという方は、パートナーやご家族、ご友人などの力を借りながら、お酒を飲む量や飲む頻度をコントロールしてください。高額な費用を支払って、外科手術まで受けたインプラント治療が失敗に終わってしまったらもとも子もありません。そのリスクも考慮したうえで、飲酒習慣を管理、改善するのが望ましいです。
- 飲酒以外の生活習慣がインプラントに与える影響はありますか?
- 次に挙げる生活習慣は、インプラントに悪影響をもたらす可能性があるため、十分な注意が必要です。【習慣1】タバコを吸っている
喫煙習慣は、インプラントと骨の結合を妨げるだけでなく、インプラント周囲炎のリスクも高めるため、原則的に禁煙する必要があります。
【習慣2】硬い食べ物を習慣的に食べている
ナッツ類やおせんべい、フランスパンなど硬い食品は、インプラントやその周囲の粘膜に大きな負担をかけることになるため、インプラント治療中は控えた方がよいです。
【習慣3】口腔ケアが不十分
毎日の歯磨きが不十分で、歯科医院での定期的なメンテナンスを受けていないと、口腔衛生状態が悪くなり、インプラント治療にもネガティブな影響を与えます。患部が細菌に感染したら、インプラントも定着しないため、インプラント治療中の口腔ケアは徹底するようにしましょう。
編集部まとめ
今回は、インプラント治療後の飲酒の注意点や再開に向けたステップなどを解説しました。インプラント手術の前日は、適量であれば飲酒をしても問題ありませんが、手術してから1週間程度は、禁酒することが前提となります。また、飲酒を再開する場合もアルコール度数の低いものから少量ずつ、飲み始めると、インプラントへの悪影響もできる限り抑えられることでしょう。喫煙習慣や硬い食べ物を食べる習慣がある場合は、インプラント治療を成功させるためにも改善するのが望ましいです。
参考文献