インプラントは、骨の成長が止まる18〜20歳頃から施術が可能になる治療法です。インプラント治療を受ける年齢層は、40代後半・50代・60代の方が中心層です。
インプラント治療を選択する方のなかには、長らく入れ歯で生活してきたけれど、インプラントが気になってきたという方もいます。
インプラント治療は口内や体の健康状態が問題なければ、高齢でも受けられる治療ですが、インプラント治療を希望される方の中には基礎疾患をお持ちの方も少なくありません。
インプラント治療を安全に受けて頂くためには、基礎疾患のコントロール状況の把握や治療内容を確認するために、治療を担当している医師へ対診を行うことが一般的です。
こちらの記事では、特に50代の方のインプラント治療について、入れ歯と比較して解説します。
50代からのインプラント治療がおすすめな理由は?
今更インプラント治療は遅いかも、と不安を感じている50代の方も少なくありません。
しかし冒頭でもお伝えしたとおり、インプラント治療を受ける年齢は40代後半〜60代の方が多い傾向があります。
そのなかでも、50代からのインプラント治療がおすすめな理由をご紹介しますので、治療を検討する際の参考にしてください。
よく噛めることで健康を維持しやすい
歯がなかったり入れ歯でよく噛めなかったりすると、唾液の分泌量が少なくなります。唾液には消化酵素や自浄作用があり、胃腸の働きや歯の健康に大きな影響を与えます。
よく噛めない状況が続くと、胃腸に負担がかかったりむし歯や歯周病などの歯の病気にかかったりする可能性が高まり、健康を維持することが難しくなってしまうのです。
ほかにも脳の機能を高めたり、満腹中枢を刺激でき肥満予防になったりと、歯には健康に欠かせない重要な役割があります。
歯を失って入れ歯になると、噛む力が3分の1程度に下がってしまうとされています。入れ歯に比べて咀嚼能力に優れているため、よく噛んで健康を維持するにはインプラント治療を検討してみてはいかがでしょうか。
ほかの歯を失うリスクを減らせる
入れ歯や歯周病で患部の歯だけでなく、周辺の歯を失ってしまうことが少なくありません。健康状態を維持するのに歯は欠かせない存在です。
健康寿命に歯は深く関わっており、長生きするうえで歯を失うリスクはできる限り下げた方が望ましいでしょう。
インプラント治療では、健康な歯を削る必要も骨が痩せることもなく治療が可能です。治療前に歯周病の検査や治療を受けることになるため、気付いていなかった歯周病を治療するタイミングになることもあります。
審美性が高く見た目の若々しさを保ちやすい
治療のためでなく美容目的でインプラント治療を受ける人がいる程、インプラントは審美性が高いです。
日本の生活レベルが向上し、快適さや便利さのほかに美しさを求める人も多くなっています。
インプラント治療では自然な仕上がりから美しさを追い求めた仕上がりまで、幅広いニーズに応えており、見た目の若々しさを保ちたいなどの希望も叶えることが可能です。
50代からのインプラント治療の症例
50代の方のインプラント治療の症例は、多くのクリニックが紹介しています。50代はインプラント治療を受けるメイン年齢層になるため、症例を探すことは難しくありません。
こちらの項目では、50代男性のインプラント治療の症例を簡単にご紹介します。
とある患者さんが、インプラント治療を7本行う場合、治療には7ヵ月程を要しました。
セカンドオピニオンとして来院された今回の患者さんは、前の医院で入れ歯を選択しようとしていたようです。インプラントは思っていたよりも痛みも腫れもなかったと、現在は快適に過ごしているようです。
上記は一例であり、インプラントの材質や本数、クリニックによって治療にかかる費用は異なります。歯科医院で検査・相談をして、納得して治療を受けることが大切です。
インプラントと入れ歯の違い
インプラントと入れ歯はどちらがいいのか気になる方も少なくないことでしょう。
よく比較されることも多いインプラントと入れ歯は、それぞれメリットとデメリットがあります。
インプラントと入れ歯の違いを比較してご紹介しますので、自分に合った治療法を選ぶ際の参考にしてください。
治療方法・治療期間の違い
インプラントと入れ歯は、治療方法や治療期間が大きく異なります。
インプラントは歯を削る必要はありませんが、顎の骨に穴をあけるような外科手術が必要です。顎の骨が足りない場合には、骨造成の手術が必要になるケースもあります。
骨造成を行わない外科手術の場合でも、治療期間は3〜5ヵ月以上かかることが少なくありません。治療期間の長さはデメリットといえます。
入れ歯は外科手術が不要で、顎や舌のサイズを計測して入れ歯を作成します。新しい入れ歯を作成してからしばらくは、やわらかいものや小さいもので慣らして調整する期間が必要です。
外科手術が不要な点が入れ歯の大きなメリットといえるでしょう。
見た目の違い
天然の歯とほぼ同じ見た目のインプラントと、天然の歯と色が異なったり針金が見えたりする入れ歯では、見た目の美しさが異なります。
50代からのインプラント治療がおすすめな理由でもご紹介したように、インプラントは審美性に優れています。
歯の美しさは年齢の印象に大きな影響を与えるため、若々しく美しい歯で笑いたいなどの希望が強い方は、見た目に違和感をおぼえやすい入れ歯よりもインプラント治療がおすすめです。
噛み心地の違い
以前入れ歯を利用しておりインプラントに変更した方のなかには、「入れ歯ではよく噛めないから」と言われる方が少なくありません。
入れ歯は歯茎の上に入れ歯が乗っている構造のため、噛んだときの負担が粘膜にかかります。お口の型を正確に取れればお口に合った入れ歯を作れますが、粘膜の厚みは一定ではありません。そのため噛むたびに粘膜が圧迫され、痛みが出やすいのです。
その点インプラントは歯茎ではなく骨に負担がかかるため、天然歯と同じような感覚で噛めます。入れ歯に比べて咀嚼の不快感が少ないため、インプラントを選ぶ方もみられます。
耐久性の違い
入れ歯もインプラントも寿命があります。しかし耐久性はインプラントの方が優れていることが一般的です。
保険適用で作った入れ歯の耐久年数は3〜5年といわれており、定期的に作り直す必要があります。インプラントの場合は、治療後10年で1割程度の方がインプラントを失うとされています。
つまり9割程度の方が、10年以上一度治療したインプラントで生活できているということです。骨移植を行った場合でも、8〜9割の方が10年後もインプラントを失わずに生活しています。
費用の違い
入れ歯は保険適用で作れますが、インプラントは一般的には保険適用外の治療です。そのため必要になる費用が大きく異なります。
インプラントの費用は、全国平均で1本約300,000円〜500,000円(税込)といわれており、自由診療のため歯科医院によって金額が大きく異なります。
失った歯の本数にもよりますが、保険適用で部分入れ歯を作る場合は、約5,000〜10,000円(税込)程度で作ることが可能です。
総入れ歯の場合でも、保険適用であれば3割負担で約10,000〜15,000円程度で作れることが多いようです。部分入れ歯と費用が大幅に異なることもないため、失った本数が多い方でも少ない負担で入れ歯を作れます。
入れ歯からインプラントに変更できる?
入れ歯からインプラントに変更することはできます。しかしほかの歯が抜けてしまった場合は、インプラントですと対応が難しいケースがあります。
入れ歯であればほかの歯が抜けても容易に対応できますが、インプラントは設計上作り直しのハードルが高いです。またインプラントは骨がある部分にしか施術できないため、事前の検査も必須です。
将来的に抜ける可能性が高い歯をどうするかなども合わせて検査して、歯科医師と相談するようにしましょう。
50代からのインプラントのデメリット
これまでインプラントのメリットや入れ歯と比較した際の特徴などをご紹介してきました。しかし大切なのは、デメリットも知ったうえで選択することです。
この項目では、50代からのインプラントのデメリットをご紹介します。
外科的手術が必要
インプラントのデメリットは、外科手術が必要な点です。入れ歯であれば手術なしで作れますが、骨に埋め込むインプラントは外科手術なしでは施術できません。
インプラントの手術時間は、一次手術の場合2〜3本で40〜50分程度かかります。手術の間お口を大きく開け続ける必要があり、ドリルの音や振動もあるため、眠っている状態に近い使用感の静脈内鎮静法を用いる場合があります。静脈内鎮静法を用いる医院とそうでない医院があるため、担当の歯科医師にご確認ください。
化膿のリスクはほとんどなく、1週間〜10日程度で抜糸になるでしょう。手術後インプラント体と骨が直接結合するまでに3〜5ヵ月程度かかり、その間は物理的な力がインプラントにかからないように注意する必要があります。
保険が適用されない
インプラント治療では、一般的に保険が適用されません。そのためできるだけ安く費用を抑えたい方には向いていません。
高額な治療を受ける際は、全体の費用を知っておくことが大切です。インプラントの治療費だけでなく、初診料やCT検査費用、その他検査費用や手術費といった治療が終了するまでにかかる総費用を確認しましょう。
がんなどで顎骨を切除後に、骨移植を行った場合などの一部の症例に対しては保険が適用されるケースもありますが、どこの医療機関でも受けられるものではありません。また該当するケースも少ないため、ほとんどの方が全額自己負担でインプラント治療を受けています。
インプラント周囲炎のリスクがある
インプラントは治療後に、歯周病のような病気になることがあります。インプラント周囲炎と呼ばれ、歯周病と同じ菌が原因で発症します。
インプラント周囲炎は放置すると、インプラントを取り除かないといけなくなる場合があるため、注意が必要です。
またインプラント周囲炎は、インプラント治療前に歯周病の検査や治療をしていないと発症率が上がります。
インプラント周囲炎にならないためには、次のことが大切です。
- 事前に歯周病の検査や治療を受ける
- インプラント治療後のセルフケアを徹底する
- 定期的な検診を受ける
悪化して外科治療が必要になる前に、定期的にクリーニングや診察を受けられるようにしましょう。
50代からのインプラントの注意点
50代からのインプラント治療における注意点をご紹介します。ぜひ治療を受ける際の参考にしてください。
歯周病にかかっている場合は事前に治療が必要
インプラント治療を受ける前に、歯周病の検査や治療を受けることが大切です。歯周病を放置したままインプラント治療を受けると、治療に失敗する可能性が高まります。
またインプラント治療後に、同じ歯周病菌が原因で発症するインプラント周囲炎になるリスクも高くなります。
早くインプラント治療を受けたいのに、と億劫に感じる方もいるかもしれません。
- インプラントを長く保たせられる
- 治療の失敗リスクを下げる
- ほかの歯を失うリスクを下げる
上記のようなメリットがあるため、インプラント治療より前に歯周病の検査や治療をきちんと受けるようにしましょう。
顎の骨が足りない場合は事前に骨造成が必要
インプラントは顎の骨に金属を埋め込む施術になるため、顎の骨が足りない場合は骨造成手術が必要になるケースがあります。
骨量の不足や機能性や審美性の観点から、骨造成が必要になる場合もあるため、検査時に歯科医師と相談しましょう。
骨造成を行う場合は、骨造成を行わない場合に比べて合併症のリスクが高まります。
持病がある場合は事前に医師への相談が必要
50代になると持病をお持ちの方も少なくありません。インプラント治療は、お持ちの持病によっては手術を受けられない場合があります。
インプラント治療は外科的手術が必要なため、健康状態に問題がある場合はリスクが高まります。次のような持病がある方はインプラント治療を受けられない可能性が高いため、医師に相談しましょう。
- 虚血性心疾患や高血圧、先天性心疾患などの循環器疾患
- 糖尿病や骨粗しょう症、甲状腺機能低下症などの代謝・内分泌系疾患
- 気管支喘息や アスピリン喘息、慢性閉塞性換気障害などの呼吸器疾患
- 脳梗塞や脳出血などの脳血管障害
- 肝機能障害や腎機能障害、胃・十二指腸潰瘍などの消化器疾患
- 統合失調症、うつ病などの精神疾患
- 関節リウマチや 全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患
- アレルギー性疾患(金属アレルギー・薬物アレルギー)
- 特殊感染症(HBV・ HCV・HIVなど)
さらにビスフォスフォネート系薬剤を使用している患者さんや、ステロイド薬を使用している患者さん、 抗血栓療法薬を使用中の患者さんなど゙使用している薬剤によって治療が受けられない場合があります。
その他、頭頸部がんの治療歴がある方や放射線治療の治療歴がある方も、インプラント治療を受けることができません。どうしてもインプラント治療が受けたいからといって、過去の病歴や持病を隠すことのないようにしましょう。
例をあげると、糖尿病の方は傷の治りが悪く、感染症のリスクが高まります。また糖尿病を罹患していない方に比べて、インプラント周囲炎を起こす可能性も高くなります。
上記のような基準は、インプラント治療の安全性を高めるために必要なものです。
一般的には初診時に記載する健康調査票で持病を確認します。しかし記載されていない持病がある可能性があるため、インプラント治療を受ける際はあらためて詳しい検査を受けるようにするべきでしょう。
まとめ
この記事では50代のインプラント治療がおすすめな理由や注意点、入れ歯との違いなどをご紹介してきました。
インプラント治療を受ける年齢は40代後半から50代、60代の方が多く、健康な方であれば多くの場合治療が可能です。
歯は健康寿命を伸ばす・健康状態を維持するのに、重要な役割を担っています。快適に噛むためにも、より負担の少ない自然な歯を入れるとよいですよ。
また、歯を失ってしまった部分だけではなく口腔内全体の状態を正確に把握することで、将来的に治療が必要になる可能性のある部位を事前に把握しておく事ができます。
インプラントと入れ歯、それぞれのメリットデメリットを参考にして、ご自身に合った適切な治療方法を歯科医師と相談することをおすすめします。
参考文献