”フラップレスインプラント”は切開を伴わないインプラント手術として採用されています。術後の腫れや痛みが抑えられるなどのメリットがある一方で、デメリットも存在します。
本記事ではフラップレスインプラントのデメリットについて以下の点を中心にご紹介します。
- フラップレスインプラントとは
- フラップレスインプラントのメリット
- フラップレスインプラントのデメリット
フラップレスインプラントのデメリットについて理解するためにも、ご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
フラップレスインプラントとは
フラップレスインプラントとは、歯茎を大きく切開せず、専用の歯科用パンチなどで歯茎に小さな穴を開け、そこからインプラントを埋め込む低侵襲の治療法です。
従来のインプラント手術では、歯茎を切開と剥離して骨を露出させる必要がありましたが、フラップレス法ではこうした処置を行わないため、術後の腫れや痛みが軽減されやすいというメリットがあります。
また、縫合や抜糸が不要なため、治癒が早く、通院回数の負担も抑えられます。さらに、フラップレスインプラント手術では歯科用CTで撮影した三次元データをもとに、埋入位置を高精度にガイドするサージカルガイドという補助装置を使用します。
その結果、骨の厚みや神経・血管の位置を踏まえた、より安全性に配慮したインプラント埋入が行いやすくなるとされています
フラップレスインプラントのメリット
フラップレスインプラントには、どのようなメリットがあるのでしょうか。以下では、メリット別に解説します。
心身ともに負担が抑えられる
フラップレスインプラントは、歯茎を切開せずに小さな穴を開けてインプラントを埋め込むため、従来のインプラント手術より身体への負担を軽減できます。出血や腫れが少なく、術後の回復もスムーズであるため、体力に不安のある方にもおすすめな選択肢とされます。
また、メスを使わない治療法であることから、切る手術への不安感が軽減され、精神的なハードルが下がるというメリットもあります。さらに、治療に対する恐怖心が和らぐことで、継続的な通院やメンテナンスにも前向きに取り組めます
治療期間の短縮が期待できる
フラップレスインプラントは、従来のインプラント治療よりも手術時間を短縮できます。1本あたりの埋入はおおよそ5〜10分程度で完了するケースが多く、手術にかかる時間が短いぶん、患者さんの身体的、精神的な負担も軽減されます。
さらに、歯茎を切開しないことから縫合が不要となり、それに伴う抜糸のための通院も必要ありません。その結果、治療期間の短縮だけでなく、通院回数も少なくて済むというメリットがあります。また、歯茎へのダメージが抑えられるため、術後の治癒も早く、状態によっては2次手術を省略できるケースもあります。
痛みや腫れが抑えられる
フラップレスインプラントは、歯茎へのダメージが抑えられ、術中の出血も少なく済みます。また、麻酔が切れた後の痛みや腫れも軽度で済むケースが多く、術後の回復もスムーズです。これに対し、従来のインプラント手術では歯肉を大きく切開、剥離して骨を露出させる必要があるため、術後に強い痛みや腫れを感じることも少なくありません。
さらに、フラップレス法では歯科用CTのデータをもとに製作したサージカルガイドを使用することで、インプラントの埋入位置や角度を高い精度で決定できるとされています。 その結果、神経や血管への接触などの重大なリスクも軽減され、安全性の高い手術が可能とされています。
持病のある方も適応できる可能性がある
糖尿病や高血圧などの持病をお持ちの方は、出血や感染のリスクが高まることから、従来のインプラント治療を断られる場合があります。なかでも、歯茎を切開する手術では、術後の傷が治りにくかったり、経過が不安定になったりするリスクも否定できません。
こうした背景を受け、近年では身体への負担が少ないフラップレスインプラントが採用されています。この術式は全身状態が安定していれば、持病をお持ちの方でも治療を受けられる可能性が広がっています。治療の可否は症例によって異なるため、まずは歯科医師に自身の健康状態や不安点を相談し、治療法についてしっかりと話し合うことが大切です。
フラップレスインプラントのデメリット
上記では、フラップレスインプラントのメリットを解説しましたが、以下では、デメリットを解説します。
歯肉や骨の状態によっては適用できない
フラップレスインプラントの適用には条件があります。この方法では骨の状態を直接確認できないため、診断は歯科用CTの画像に依存します。
しかし、歯科用CTでは微細な骨の欠損や形状の差異までは把握できないこともあり、実際の状態が想定と異なると安全性の高い埋入が難しくなる可能性があります。
また、金属の詰め物があると画像が不鮮明になり、診断精度が下がることもあります。さらに、骨の厚みや高さが不足している場合には、骨造成が必要ですが、その際は歯肉の切開が不可欠です。
治療途中で切開手術に変更になる可能性もある
フラップレスインプラントは、歯茎を切開せずに行える低侵襲な手術ですが、治療中の状況によっては、途中で切開手術に切り替える必要が生じることもあります。
例えば、事前のシミュレーションや歯科用CT画像では問題が見られなくても、実際に埋入する段階で骨の状態が想定と異なるケースがあります。
その際は、安全性を優先し、歯茎を切開と剥離して骨の状態を目視で確認しながら治療を行います。サージカルガイドが使用できない状況では、正確な処置のために切開への変更が必要です。
費用が高くなりがち
フラップレスインプラントでは、サージカルガイドと呼ばれる補助装置が使用されます。この装置は、患者さんの口腔内データをもとにオーダーメイドで製作されるため、製作には精密検査や精密な技術が必要となり、治療よりも費用が高くなる傾向があります。
さらに自由診療であるため保険は適用されません。治療にかかる費用はインプラントの本数や使用する材料によっても異なるので、事前に見積もりを取り、ご自身の予算と照らし併せて検討することが大切です。
費用面が心配な方は、分割払いやデンタルローンなどの利用も視野に入れて、気軽に相談してみましょう。
対応できる歯科医院が少ない
フラップレスインプラントは、手術中に骨の状態を直接確認できないため、歯科用CTによる精密な画像診断と、インプラント埋入位置を誘導するサージカルガイドの使用が不可欠です。
こうした設備や技術を備えている歯科医院はまだ限られており、すべての歯科医院で対応できるわけではありません。なかでも、歯科用CTは高価な機器であるため、導入していない歯科医院ではフラップレス手術が実施できないこともあります。
さらに、術式には精密な専門知識と経験も必要です。治療を検討されている方は、対応可能な設備と体制が整っているか、事前に確認しておくことが大切です。
フラップレスインプラント手術の流れ
フラップレスインプラント手術の流れをご紹介します。
①カウンセリング・検査
はじめに、患者さんのご希望や不安をお伺いしながら、治療内容や手術の流れ、費用などについて丁寧にご説明します。同時に、全身の健康状態や口腔内の状態を確認し、安全性の高い手術が行えるかどうかを判断します。
その後、レントゲンや歯科用CTを撮影し、顎の骨の厚みや形状、神経、血管の位置まで詳しく診断します。これらの情報は、インプラントを正確に埋めるための重要な基礎資料とされます。
②サージカルガイドの作製
歯科用CTで得られた立体的な画像データをもとに、インプラントを理想的な位置、角度、深さで埋入するための補助器具サージカルガイドを作製します。これは患者さんごとにオーダーメイドで作られ、精密なシミュレーション結果を手術に反映させる役割を担います。
③手術(埋入処置)
局所麻酔を行った後、サージカルガイドを使用しながら歯肉に小さな穴を開け、ドリルで顎の骨に慎重に穴を形成します。続いて、インプラント体を計画された位置に正確に埋め込んでいきます。歯茎を大きく切開しないため、出血や術後の腫れ、痛みが抑えられ、回復も早いのが特徴です。
④仮歯の装着と治癒期間
インプラントが骨としっかり結合するまで、2〜3ヶ月程度の治癒期間を設けます。この間は、見た目や日常生活に支障が出ないよう、仮歯を装着して過ごしていただきます。仮歯は必要に応じて微調整も可能とされています。
⑤上部構造(かぶせ物)の装着
骨との結合が確認された後は、上部構造と呼ばれる被せ物が装着されます。審美性や耐久性が期待されるジルコニアやセラミックなど、複数の素材が用意されており、ご希望やライフスタイルに応じて選ばれることが多いです。
⑥定期的なメンテナンス
インプラントを長く快適に使用するためには、治療後の定期的なメンテナンスが重要です。3〜6ヶ月ごとの定期検診で状態をチェックし、必要に応じてクリーニングや調整を行います。また、ご自宅でのセルフケアも継続することで、インプラントをよりよい状態で保てます。
なお、フラップレス法はすべての症例に適用できるわけではありません。骨の厚みや形状、埋入位置などの条件によっては、治療の途中で従来の切開を伴うインプラント手術に切り替える場合もあります。 そのため、治療を受ける際は、経験豊富な歯科医師による精密な診断と判断がとても重要とされます。
フラップレスインプラントの成功率を上げる方法
最後に、フラップレスインプラントの成功率を上げる方法を解説します。
術前の歯科用CT診断とシミュレーション
フラップレスインプラントの手術の成功率を高めるためには、術前の精密な診断と綿密なシミュレーションが欠かせません。なかでも、歯茎を切開しないこの術式では、骨の状態を手術中に直接確認できないため、事前の情報がすべての判断材料とされます。
そのため、歯科用CTを使用することにより、顎の骨の厚みや密度、形状はもちろん、神経や血管の走行まで立体的に把握できるため、リスクの少ない埋入位置を決定することが可能とされてます。
こうした術前準備の丁寧さと精度の高さが、フラップレスインプラントの安全性と成功率を大きく左右する重要なポイントです。
サージカルガイドの活用
フラップレスインプラントで成功率を高めるには、サージカルガイドの正確な活用も欠かせません。サージカルガイドとは、歯科用CTで取得した立体的な画像データをもとに作製される補助装置で、インプラントをあらかじめシミュレーションされた角度や深さで正確に埋め込むためのガイドとして機能します。
その結果、神経や血管などの重要な組織を避けた、安全性の高い治療が可能とされています。ただし、サージカルガイドがあるからといって、すべてが安全性が高いとは限りません。製作時のわずかなズレや、適合の甘さが原因で、ガイドどおりに進めてもトラブルにつながる可能性があります。
そのため、骨を一度に削るのではなく、細いバーを用いて数ミリずつ段階的に形成し、各工程で位置や方向、深さを慎重に確認することが、成功率を高めるために重要です。
まとめ
ここまでフラップレスインプラントのデメリットをお伝えしてきました。
フラップレスインプラントの特徴をまとめると以下のとおりです。
- フラップレスインプラントとは、歯茎を大きく切開せず、専用の歯科用パンチなどで歯茎に小さな穴を開け、そこからインプラントを埋め込む低侵襲の治療法である
- フラップレスインプラントのメリットとして、心身ともに負担が抑えられる、治療期間の短縮が期待できる、痛みや腫れが抑えられる、持病のある方も適応できる可能性がある点が挙げられる
- フラップレスインプラントにはさまざまなメリットが期待できますが、歯肉や骨の状態によっては適用できない、治療途中で切開手術に変更になる可能性もある、費用が高くなりがち、対応できる歯科医院が少ないなどのデメリットもある
フラップレスインプラントは、切開を伴わずに行える低侵襲な治療法で、痛みや腫れを抑えられるなどさまざまなメリットがあります。一方で、骨の状態によっては適用が難しい場合や費用が高くなる点には注意が必要です。
成功率を高めるためには、歯科用CTによる精密な診断とサージカルガイドの活用が重要です。治療をご検討の際は、豊富な経験のある歯科医院での相談をおすすめします。
本記事が少しでもフラップレスインプラントのデメリットについて知りたい方のお役に立てれば幸いです。最後までお読みいただきありがとうございました。