インプラント治療は、歯周病やむし歯などで歯が抜けてしまったときに検討される治療法です。自分の歯のように噛み心地がよく、見た目が自然で話したり笑ったりしても目立ちにくいです。
しかし、この治療法は誰でも受けられる訳ではありません。持病がある人などは治療ができないと判断されることもあります。
それでは、高血圧ではインプラント治療が可能なのでしょうか。
この記事では、高血圧でもインプラント治療ができるのか、注意点・リスク・インプラント以外の治療法なども併せて解説します。インプラント治療を考えている高血圧の人は、参考にしてみてください。
インプラント治療の特徴やメリット
- インプラント治療の特徴について教えてください。
- むし歯や歯周病などで天然歯を失った場合、放置すると歯の噛み合わせの悪化などの問題が生じるため、人工の歯を補う必要があります。
歯を補う手段の一つが、インプラント治療です。インプラント治療は人工歯根を骨に埋め込み、その上に人工歯を固定する治療法です。インプラントは以下の3つの部品で成り立っています。- インプラント体(フィクスチャー):顎骨に埋め込む部品です。生体親和性が高く顎の骨と結合するという理由から、純チタンまたはチタン合金で作られています。
- アバットメント:インプラント体と人工歯を連結する部品です。
- 人工歯(上部構造):インプラント体の上に付ける部品です。失った歯の代わりとなる人工の歯で、ジルコニアやセラミックなどの材質で作られています。
インプラント治療の特徴は、本物の歯の使用感に近いことです。チタン製のインプラント体が顎骨に埋め込まれると、時間の経過とともに両者は一体化し強く結合します。
チタンと骨の結合はオッセオインテグレーションと呼ばれています。インプラント体と顎骨が結び付き固定されているので、違和感もなく力を入れて噛むことが可能です。
- どのようなメリットがありますか?
- インプラント治療には以下のようなメリットがあります。
- 審美性が高い:セラミックやジルコニアの人工歯は美しく、天然歯のような自然な見た目です。
- ほかの歯への負担をかけない:健康な歯を削って周りの歯に負担をかける必要がありません。
- 長持ちする:インプラントは長持ちする治療法です。
- デメリットやリスクはありますか?
- インプラント治療は満足度の高い治療法ですが、メリットばかりではなくデメリットや注意すべきリスクもあります。
- 治療費が高額:むし歯や歯周病による歯の欠損には、健康保険が適用されません。自由診療のため費用はクリニックによって異なりますが、1本300,000円~500,000円(税込)程度が一般的です。
- 外科手術が必要:インプラント治療は顎骨にドリルで穴を開けて、インプラント体を埋入する手術が必要です。
- インプラント治療のリスク:インプラント治療には、治療が失敗するリスクを高めるリスクファクター(危険因子)があります。リスクファクターには噛み合わせや歯周病などの局所的リスクファクターと、持病などの全身的リスクファクターに分類されます。全身的リスクファクターとなる代表的な疾患は糖尿病・骨粗鬆症・貧血・高血圧症です。
高血圧の人とインプラント治療
- 高血圧とはどのような状態ですか?
- 高血圧とは、慢性的に血圧が高い症状を指します。医療機関で血圧を測ったときに、最大血圧が140mmHg以上・最小血圧が90mmHg以上の場合は、高血圧と診断されます。
血圧とは心臓からの血流が、動脈の壁を押す圧力のことです。高血圧になると血管に強い圧力がかかり、血管の壁が厚くなったり硬くなったりします。この状態は動脈硬化と呼ばれ、さまざまな病気を発症するリスクを高めます。
高血圧は病気などが原因で起こる「二次性高血圧」と原因が不明の「本態性高血圧」に分かれ、日本人の高血圧のほとんどは本態性高血圧です。本態性高血圧は遺伝的要素のほかに塩分の摂りすぎ・肥満・運動不足などの生活習慣によって引き起こされるといわれています。
- 高血圧の合併症について教えてください。
- 高血圧を放置すると、以下のような合併症が起こる場合があります。
- 脳梗塞:脳の血管が詰まり、血液が流れにくくなって脳の組織が壊死する病気です。半身のしびれや麻痺、言語障害などの症状が出ます。
- 脳出血:脳にある細い血管が破れて、出血することで起きる病気です。血腫が脳を圧迫してダメージを与えます。
- 狭心症:心臓の筋肉に血液を送る冠動脈が動脈硬化によって細くなったり詰まったりすると、心臓への血流が少なくなります。この状態を狭心症と呼び、代表的な症状は締めつけられるような胸の痛みです。
- 心筋梗塞:冠動脈が血栓などで塞がり心臓への血流が途絶え、心筋が壊死する状態が心筋梗塞です。心筋梗塞は突然死の原因となりますので、狭心症の段階で治療を始めることが重要になります。
- 腎硬化症:腎臓の血管が動脈硬化によって狭くなり、血流が悪くなることによって腎臓に障害が起きる病気です。病気が進行すると透析が必要になる場合もあります。
- 高血圧の人はインプラント治療を受けられますか?
- 高血圧の人でもインプラント治療を受けられる場合が多いですが、健康な人よりもリスクが高いため、手術には事前の準備が必要です。治療に対する緊張で血圧が上がってしまう人には、局所麻酔ではなく静脈に鎮静剤を投与する静脈鎮静法で手術を行うこともできます。
インプラント治療での静脈鎮静法は自費診療となり、費用の目安は50,000円〜100,000円(税込)程度です。手術中は血圧・脈拍数などを測定するモニターを装着し、体の状態を把握します。
- 高血圧でインプラント治療を受けたい場合は医師に相談するべきですか?
- 高血圧の人がインプラント治療を希望する場合、まずは歯科医師にご相談ください。治療によって血圧が安定していれば、問題なくインプラント治療を受けられることが多いです。
治療が可能な血圧の目安は、最大血圧が140mmHg以下、最小血圧が90mmHg以下です。重度の高血圧の場合は、患者さんの内科の担当医と歯科医師とで、治療が可能かを判断します。
- 高血圧の人がインプラント治療を受ける場合の注意点を教えてください。
- 血圧が上昇し歯科医師が危険と判断した場合は、手術を中止することもあります。
高血圧の人がインプラント治療を受けるリスクやほかの治療方法
- 高血圧の人がインプラント治療を受けるリスクを教えてください。
- インプラント治療の際には、緊張やストレスで血圧が上がる場合があります。極端に血圧が上昇するとめまい・動悸・頭痛・吐き気・けいれん・意識障害などさまざまな症状が現れる高血圧緊急症を発症するリスクがあるので、注意が必要です。
高血圧緊急症は脳・心臓・腎臓・大動脈などに障害が起こる病気です。大動脈解離・脳梗塞・高血圧脳症・急性冠症候群などの緊急に治療が必要な病気を引き起こす場合があります。高血圧の人は、内科を受診して血圧をコントロールする治療をしてからインプラント治療を受けましょう。
- インプラントが受けられない場合の別の治療方法を教えてください。
- 失った歯を補う治療は、インプラント治療のほかにも入れ歯とブリッジという方法があります。
入れ歯には部分入れ歯と総入れ歯の2種類があり、部分入れ歯は歯の欠損部分だけに装着する入れ歯です。ブリッジは欠損した歯の両隣の歯を削って、橋を架けるように連結した人工歯を被せる治療法です。
入れ歯とブリッジは外科手術が必要ないので、体にかかる負担は少ないと考えられますが、まずは高血圧の治療を行うことが重要です。
編集部まとめ
ここまでは高血圧の人のインプラント治療について解説してきました。
高血圧の人でも、治療を受けて血圧が安定していれば可能な場合が多いです。まずは内科の担当医や歯科医師に相談してみましょう。
手術中に生体情報モニターなどが必要な場合もあるので、設備が整った歯科医院を選ぶと安心です。
健康診断を受けていない人は、自分が高血圧であることに気付いていない可能性があります。特に中高年の人は定期的に血圧を測定することをおすすめします。
参考文献