インプラントは失った歯を補う治療法の一つです。入れ歯などと比べて強く噛み締めることができ、顎の骨の吸収を防ぐ効果もあります。
また、インプラントは一度埋入すれば取り外すケースは少なく、その後の一生を付き合うことになります。そのため、できる限り壊さずに大切に使いたいものです。
仮にインプラントに修理が必要となった場合、費用はどのくらいかかるのでしょうか。
この記事ではインプラントの修理費用の目安や再治療が必要なケースを解説します。
インプラントの修理や再治療が必要なケース
- インプラントは修理が可能ですか?
- インプラントは大きく3つのパーツに分かれます。
骨に埋入するインプラント体・人工歯となる上部構造・インプラント体と上部構造をつなげるアバットメントです。
このうち上部構造は修理が可能になります。
なお、上部構造を固定する方法としてスクリュー固定とセメント固定があり、修理可能なのはスクリュー固定のみです。
これはセメント固定がアバットメントを使用せず、セメントでインプラント体と上部構造を一体化させる方式になるからです。
- インプラントの修理や再治療が必要なのはどのようなケースですか?
- インプラントの修理や再治療が必要な場合は、大きく2つのケースに分かれます。
- 上部構造の破損・落下
- インプラント体の脱落
人工歯となる部分の上部構造の破損や落下の原因は、ほとんどが締め付けの悪さからくる緩みや、噛み合わせの悪さからくる力の偏りです。
単純な緩みの場合は修理が不要の場合もありますので、歯科医師に確認をしましょう。
噛み合わせの悪さからくる場合は人工歯がすり減っていたり、ひび割れたりしている可能性があります。この場合は修理が必要となる可能性が高いです。
インプラント体の脱落は骨密度が足りなかったケースや、インプラント周囲炎による骨の吸収が考えられ、早期の対応が必要です。
内容によっては骨造成手術などの再治療が必要となり、半年以上の治療が必要なケースもあります。
- インプラントが取れた・破損した場合の応急処置方法を教えてください。
- インプラントが取れた・破損した場合には、どのパーツに異常がある場合でも歯科医師に相談するのが大切です。
インプラントはおおまかに上部構造・アバットメント・インプラント体に分かれます。
まず上部構造が取れた・破損したケースは対処しやすい内容です。特に外れただけの場合は嵌め直せば問題ありません。
ただし、嵌め方にもきちんとした手順があるので、ご自身で戻そうとせずに歯科医師の所に外れたパーツを持参しましょう。
アバットメントが取れた場合も同様で、歯科医師の所へ持参しましょう。
ただし、アバットメントが取れた場合はインプラント体がむき出しの状態になるため、細菌感染を起こさないように早めの対処が必要です。
インプラント体が取れた場合は危険な状態です。炎症を起こす原因になるため、患部は触らずそのままにしておく必要があります。
また、何の理由もなくインプラント体が取れた・破損した状況は、すでに炎症を起こしているケースもあります。口腔内を清潔にし、歯科医院で処置を行うのが大切です。なお、この際にも取れた部品はすべて歯科医院に持っていく必要があります。
- 破損したインプラントをそのまま使用し続けるリスクを教えてください。
- 破損したインプラントをそのまま使用し続けた場合、インプラントそのものの脱落や健康な歯に対する悪影響が考えられます。
インプラントが破損するということは、その時点で口腔内で噛み合わせなどに負担がかかっている証明になります。
原因としては歯ぎしりや食いしばり癖が考えられますが、この時点で適切な処置を行わないとインプラント周囲炎などのトラブルに発展する可能性があり危険です。
インプラント周囲炎が悪化すると歯茎の出血や排膿だけでなく、歯槽骨の吸収が起こりインプラントを支えきれなくなります。こうなると埋入したインプラントの脱落も考えられます。
また、インプラント周囲炎により口腔内が清潔に保たれず、歯周病などを併発する可能性も少なくありません。
インプラントの修理費用はどのくらい?
- インプラントの修理や再治療には保険が適用されますか?
- インプラント治療は自由診療であり、事故により顎の大部分を失うなどの特殊な例でない限り保険の適用はありません。
そのため、歯科医院によって独自の保証制度を設けていたり、インプラント治療に対しての保証会社による保証があったりします。
- 上部構造やアバットメントが取れた場合の修理の費用相場を教えてください。
- 上部構造やアバットメントが取れた場合、今まで使用していたものを取り付け直すだけで済むので費用はそれほどかかりません。
歯科医院によって多少の違いはありますが、メンテナンス費用として3,300〜8,800円(税込)程度が相場になります。
なお、自由診療ですので保険は適用されない点に注意が必要です。
- 上部構造やアバットメントが破損した場合の修理の費用相場を教えてください。
- 上部構造やアバットメントが破損した場合は、作り直しが必要になります。
上部構造は材質により費用に差が出ます。目安として1本あたり68,900〜175,800円(税込)程度が必要です。
アバットメントも交換する場合は47,500〜71,200円(税込)程度です。
自由診療のため保険の適用はなく高額になりますが、歯科医院によって5〜10年程度の保証期間を設け、無償交換を行っているケースも少なくありません。
ただし、破損原因が故意または過失ではない・定期メンテナンスを受けているなど保証に条件が付いていることがほとんどなので、事前に確認しておく必要があります。
インプラント治療を受ける段階で、その歯科医院でどのようなインプラント保証を行っているのか確認しておくとよいでしょう。
- インプラント体が抜けてしまった場合の再治療の費用相場を教えてください。
- インプラント体が抜けてしまった場合には、どのような再治療を行うかでも費用が変わります。インプラント体が抜けた場合に考えられる再治療には以下のようなものがあります。
- 歯槽骨のなかに残ったインプラント体の除去
- インプラント周囲炎の治療
- 骨造成手術
事故や怪我などが原因でインプラント体が抜けた場合、インプラント体は途中で折れて歯槽骨のなかに残っている可能性があります。
この場合はまずインプラント体の除去手術が必要です。
保険診療が効く場合と自由診療の場合があり、保険診療で1,860円、自由診療で41,750〜44,250円(税込)が目安になります。
次にインプラント周囲炎が原因でインプラント体が抜けた場合です。
この場合まずインプラント周囲炎の治療が必要になります。軽度のインプラント周囲炎なら歯のクリーニングや消毒で済むため6,600円(税込)程度です。
しかし重度のインプラント周囲炎の場合、外科手術や骨造成治療が必要になるため100,000〜200,000円(税込)の費用が必要になります。
これらの費用に加え、あらためてインプラント手術の費用が発生します。
インプラント1本あたりの費用は440,000〜550,000円(税込)程度です。
一連の手術においても保証が効くケース・効かないケースがありますので、再治療の前に歯科医師と費用の相談をしておくのがよいでしょう。
インプラントを長持ちさせるポイント
- インプラントの寿命はどのくらいですか?
- インプラントの寿命は埋入した場所や、歯周病の有無など埋入を行った際の条件によっても変わってきます。
また、使用するインプラントメーカーによってもさまざまです。
歯科インプラント治療指針によると、多くの文献から10年後の歯科インプラントの残存率は92〜95%と報告されています。
また患者さんを対象としたアンケート調査ではインプラントの残存期間は20年という回答が多く、10〜20年は機能するとみてよいでしょう。
- インプラントを長持ちさせるポイントを教えてください。
- インプラントを長持ちさせるためには以下の点に注意が必要です。
- インプラントに不要な負担をかけない
- 日頃の口腔内清掃
- 歯科医師による定期的なメンテナンス
食いしばりや歯ぎしりなど噛み合わせに負担のかかる状況が続くと、上部構造の破損につながります。
また、噛み合わせの悪い状況を放置するとほかの健康な歯にも悪影響を与え、歯周病やインプラント周囲炎の原因にもなります。
インプラント周囲炎はインプラントの寿命を縮める大きな要因です。インプラント周囲炎を発症させないためにも、インプラントに不要な負担をかけない口腔内の環境が重要です。
また、そのためには口腔内のケアも欠かせません。歯科医師による定期的なチェックだけでなく、丁寧な歯磨き方法や歯ブラシの選び方などのホームケアも重要になります。
編集部まとめ
ここまでインプラントの修理費用や再治療が必要なケースを説明しました。
自由診療のインプラント治療は初期費用が高額なだけでなく、修理や再治療の際にも少なくない費用がかかります。
しかし、普段からメンテナンスやホームケアを欠かさずに大事に使えば、長期的に見ると決して高額な治療とはいえないでしょう。
自分の歯に近い感覚で使用できるインプラントは、日々の生活を快適にします。わからないことは歯科医師に相談しながら、一生使うつもりで埋入したインプラントを大事にしましょう。
参考文献