インプラント治療は、本来あるはずの組織や歯などに自己骨や人工骨を埋入して欠損部分を補充する治療です。
歯科インプラント治療では、インプラント(人工歯根)を顎の骨に埋め込みます。
義歯と比較すると費用面では高額になりますが、自然の歯と同様に密着しているので違和感なく食事や会話を楽しむことができます。
近年は高齢者もインプラント治療を希望する人が増加していますが、基礎疾患や体力の低下が理由で希望がかなえられない場合もあります。
今回は、高齢者の治療のリスクや注意点を解説するので、インプラント治療を検討している方はぜひ参考にしてください。
インプラント治療とは
- インプラント治療は外科的手術を伴いますか?
- 歯科インプラント治療は、外傷・むし歯・歯周病などで欠損した歯や顎骨の代わりにインプラントを顎や顔面の骨に埋め込みます。埋入したインプラントを支台として、義歯やマグネットデンチャー(磁石式義歯)を固定するため、外科手術が必要になります。手術時には、局所麻酔を使用するので通常は痛みを感じないでしょう。
ただし、歯を抜いたり手術時間が長くかかったりする場合は、麻酔が切れてから痛みが続くことがあります。その場合は、鎮痛薬を服用すれば痛みは数日で改善されます。痛みの感じ方には個人差があるので、我慢できない痛みがいつまでも続くようなら担当医に相談してください。
- インプラント治療のメリットを教えてください。
- インプラント治療は、隣接する歯にブリッジをかけたり削ったりしないため残存歯の負担が軽減されます。
- 大きくお口を開けることができる
- 取り外す手間がない
- 噛み心地に安定感がある
- 味覚に影響がない
- 残存歯が長持ちする
- 発音が安定する
- 硬いものも食べられる
- 審美性が損なわれない
義歯が固定されるので、食事や会話に違和感がありません。歯磨きの際も自身の歯と同様に歯磨きができるので口腔内を清潔に保つことができます。
- インプラント治療のデメリットを教えてください。
- インプラント治療は、インプラントを埋め込む位置の骨に余裕があることが条件になります。また、インプラントは基本的に自由診療のため費用面でも高額になります。
- 自由診療のため費用が高額
- 治療期間が長い
- 食べ物が詰まりやすい
- 義歯のデザインが制限される
- 手術の痛み・腫れ・出血・合併症のリスクがある
- 口腔内の清掃を怠ると感染する場合がある
- 定期的なメンテナンスが必要
- インプラントが破損すると修理が困難
インプラント治療で保険が適用されるのは、事故や病気で顎骨が大きく破損した場合などです。一般的なインプラント治療の費用は全額が自己負担になるため、奥歯で1本300,000〜400,000円(税込)程が相場です。
インプラント治療を受ける場合の年齢について
- インプラント治療には年齢制限がありますか?
- インプラント治療は顎骨の発育が止まってから行うのが望ましいため、治療の開始時期は20歳前後とされていますが、年齢の上限ははっきりとは定まっていません。
高齢化の影響でインプラント治療を希望する人は20〜80歳代と幅広くなっています。しかし、治療にはリスクが伴うため治療を行うには全身状態の良さが重要です。
- インプラント治療は高齢者が受けても大丈夫でしょうか?
- インプラント治療は、外科的手術が必要になるため誰もがインプラントを埋入できるとは限りません。高齢者は体力の衰えとともに持病を持っている人が少なくないので、術後の感染や誤嚥などのリスクが高まります。
そのため、術前の検査・自己申告・全身状態などの調査が重視され、そのうえでインプラント治療ができるかどうかを判断します。高齢者が、インプラント治療を希望されるのであれば担当の歯科医師と相談しましょう。
- 高齢者がインプラント治療を受ける際の条件を教えてください。
- インプラント治療は顎の骨にインプラントを埋入するため、埋入するための十分な骨が必要です。高齢者は咀嚼能力の低下からやわらかいものを好んで食べる傾向があるため、全身の骨格筋量や骨格筋力が低下している可能性が高く、インプラント埋入が難しくなります。
治療時点で以下の疾患や習慣がある方はインプラント治療には適しません。- 循環器系疾患(高血圧症・心臓疾患など)
- 呼吸系疾患(慢性閉塞性肺疾患・喘息など)
- 消化器疾患(肝機能障害・腎機能障害・胃潰瘍・十二指腸潰瘍など)
- 代謝・内分泌系疾患(糖尿病・骨粗鬆症・甲状腺疾患・副腎疾患など)
- 血液疾患(貧血)
- 脳血管障害(脳梗塞・脳出血など)
- 自己免疫疾患(関節リウマチ・全身性エリテマトータデスなど)
- 精神疾患(統合失調症・うつ病など)
- アレルギー疾患(金属アレルギー・薬物アレルギーなど)
- 特殊感染症(HBV・HCV・HIVなど)
- 喫煙習慣
上記のような持病があると手術の危険度が増し、骨結合の妨げになるためインプラント治療の成功率をさげることになります。特に高齢者は体力も低下しているため、臨床検査(血液検査・尿検査)データをもとに歯科医師と相談して治療の判断をする必要があります。
- 高齢者が歯を失った場合のインプラント以外の選択肢を教えてください。
- 永久歯は抜けても次の歯が生えることはないので人工的に歯を補充する必要があります。インプラント利用以外では3つの方法が一般的です。
- 部分入れ歯:隣接する歯にフックをかけ人工の歯を装着する、取り外しが可能
- ブリッジ:両隣の歯を削って型を取り一塊にした歯を入れる、取り外し不可
- 歯の移植:親知らずなどの余分な歯を、抜けたところに移植する
歯を失ったまま放置すると、抜けた部分に隣接する歯が倒れたり、噛み合わせを失った歯が伸びたりして歯並びが悪くなります。悪い歯並びはむし歯や歯周病のリスクを生み、骨や歯茎が痩せる要因になります。そのため、歯が抜けた場合は早期に歯の補充が重要です。
インプラント治療を高齢者が受けるリスクや注意点
- 高齢者のインプラント治療は若い世代と比べてリスクが大きいですか?
- 前述しましたが、インプラントの治療に年齢の上限制限はありません。ただし、高齢者は基礎疾患があるケースが少なくないため、若年層と比べるとインプラント治療のリスクは高くなります。基礎疾患がある人は、骨結合が妨げられたり傷の治りが遅かったりして感染症のリスクがあがります。
また、インプラント治療を施すと咬合力や咀嚼機能が回復するので、食物摂取量が増加する場合もあるでしょう。しかし、治療前の悪い食生活を維持したままで食物摂取量が増加すると、カロリーの増加や栄養バランスの崩れで代謝性異常を引き起こす可能性がでてきます。
高齢者は運動量が不足気味のため、適度な運動を取り入れながら食習慣の改善が重要になります。
- 高齢者がインプラント治療を受ける際の注意点を教えてください。
- 高齢者がインプラント治療を受ける場合は、基礎疾患や服薬状況などが重要になるので歯科医師と相談して治療を検討します。手術には体力も必要なため、当日の健康状態が重要です。また、高齢者は壮年期前と比べると口腔機能が低下しているため、手術中に注水や血液を誤嚥する可能性があるので注意しましょう。
そして、将来的に経年変化が起こった場合は、インプラントの除去や補綴装置の変更などが必要になる可能性も否定できません。
- 介護が必要になった場合、インプラントのメンテナンスはどうすればよいですか?
- インプラントを埋入した箇所は感染しやすいため、定期的なメンテナンスや口腔ケアは必須です。しかし、要介護状態になると自身での管理が困難になるので、高齢者は要介護状態になった場合の留意点を理解したうえでインプラント治療を検討する必要があります。要介護者が自宅で家族の介護を受ける場合は、家族にインプラントの基礎知識や清掃方法を知ってもらい介助してもらいましょう。
なお、要介護状態になると栄養状態や体力的な衰えから歯茎が痩せて、インプラントが露出しぐらついたり口腔内を傷つけたりする可能性があるので対処が必要になることがあります。
編集部まとめ
日本歯科医師会が8020運動を推進している効果もあり、高齢者の残存歯の保有率は増加しています。
そのため、インプラント治療を希望する人も増加傾向にありますが、生活習慣病や基礎疾患を持っている人は依然として多いです。
しかし、生活習慣病や基礎疾患があると治療の成功率やインプラントの残存年数が減少するため、インプラント治療が適さない場合があります。
高齢者は顎骨の軟弱化が進んでいる人や基礎疾患がある人が少なくありませんが、手術に支障がない程度なら高齢者もインプラント治療を受けることができます。
インプラント治療を受けるのであれば、リスク因子を減らし生活習慣を見直すことがインプラントを長持ちさせるコツです。
また、インプラントの治療後は定期的なメンテナンスや口腔ケアが必須なので、高齢者がインプラント治療を検討する際は家族にも立ち会ってもらい一緒に考えてもらいましょう。
参考文献