歯医者さんでの治療は痛いというイメージはありませんか?
歯を削ったり、歯石を取ったりするだけでも痛いのに、インプラント治療では骨に金属のボルトを埋め込むということもあって、激痛があるのでは?と想像する方もいるのではないでしょうか。
この記事では、インプラント治療が実際に痛いのかどうかや、痛みの原因、そして対処法などをご紹介します。
インプラント手術は激痛?
インプラント治療とは、むし歯の進行や歯周病など、何らかの原因で歯を失ってしまった方が、自分の歯と同じように噛める人工の歯を手に入れたいときに有効な治療法です。
インプラント体と呼ばれる人工歯根を、歯槽骨という歯を支えている骨に対して埋め込み、その人工歯根にセラミックなどで作られた人工の歯をかぶせることで、見た目や機能の両面で天然の歯に近い歯を作ることができます。 インプラント治療を行うことで、歯が抜けてしまう前と同じような噛み心地が実現できるだけではなく、見た目にも自然で、さらにセラミックの歯は汚れもつきにくく、白く美しい状態が維持されやすいというメリットがあります。
一方で、インプラント治療のデメリットといえるものが費用と手術による身体への負担です。
インプラント治療はすべて保険適用外となり、自費診療の治療であるため、治療を受けるためには十数万円以上の費用がかかることが多いといえます。
また、人工歯根を歯槽骨に埋め込むためには手術が必要で、手術中や術後の経過において、ある程度の痛みが生じる可能性があります。 ただし、インプラントの手術そのものは麻酔を使用して行われますし、歯槽骨にインプラントを埋め込むことで痛覚が刺激されるわけではないため、治療によって耐えられない程の激痛が引き起こされるという可能性はあまり考えられません。
手術の前に麻酔の注射を行う際の痛みはありますが、これはほかの歯の治療の際の麻酔と同じ程度のものなので、激痛といわれる程にはならないでしょう。
また、クリニックによっては手術への恐怖心などを和らげるため、インプラント治療は鎮静剤を使用して眠っている間に行うということも多いといえます。この場合、手術を受けている実感もなく、目が覚めたら手術が終わっているというような状況となり、手術による激痛を感じることはまずないといえるでしょう。
インプラント治療の痛みについて
インプラント治療によって生じる痛みとしては、手術を行っている最中ではなく、手術後の経過において出てくるものが考えられます。
インプラント治療で感じる可能性のある痛みについてご紹介します。
手術後に激痛や違和感が出る可能性
インプラント治療の手術は、歯槽骨に対してインプラントの埋入を行うため、歯茎を切開して骨を露出させる必要があります。
歯茎には痛みを感じる神経が通っているため、この神経が切開によってダメージを受けることで、麻酔が切れた後に痛みが生じる可能性があります。
ただし、この痛みは個人差や症例による差はあるものの、激痛とされる程の痛みではなく、ズキズキとした鈍痛程度であり、処方された痛み止めなどを服用すれば抑えることができる程度であることがほとんどです。
手術の翌日やその次の日までは痛みが生じやすい期間となりますが、手術から2~3日すれば痛みのピークがおさまり、長くても1~2週間程度すれば痛みを感じることはなくなるといえます。 ただし、手術後の痛みがおさまった後も、違和感が残り続けることはあります。
違和感は時間が経過するとともに慣れて気にならなくなりますが、お口のなかはとても敏感な部位であるため、手術から2~3ヶ月の間は違和感や異物感が気になるという可能性もあります。 なお、インプラントの手術では歯槽骨に人工歯根を埋入させるわけですが、骨には痛覚がないため、痛みを感じることはありません。
逆にいえば、歯槽骨は痛みを感じる機能がないため、歯周病によって歯槽骨が溶かされてしまっても痛みなどの自覚症状が出ることなく、気が付かない間に症状が進んでしまいやすいのです。
骨造成をした場合の痛み
インプラントを埋め込む際、骨の量が足りていないとしっかりインプラントの固定ができなくなってしまうため、骨の厚みや高さを出すために、骨造成手術と呼ばれる治療が併用されることがあります。 骨造成にはサイナスリフトやソケットリフト、GBR法と呼ばれるような方法があり、いずれも骨の生成を促進する薬剤を、歯茎を切開して顎の骨を露出させ、そこに塗布するという方法で行われます。
インプラント治療を行う前に骨造成が行われる場合や、インプラント手術と同時に骨造成が行われるケースがありますが、骨造成手術を伴うインプラントの手術は、通常のインプラントよりも大がかりな手術となります。 切開する範囲が広くなるため、手術にかかる時間も長時間となり、術後の腫れや痛みも強くなりやすく、人によっては激痛と感じるような痛みが出る可能性も考えられます。
もちろん手術中については麻酔が効果を発揮しているため痛みは感じませんが、術後の痛みが通常のインプラントと比べて強くなると考えるとよいでしょう。 ただし、骨造成を併用した場合の痛みについても、基本的には手術後に処方される痛みどめを服用することで軽減が可能で、耐えられない程の痛みを我慢し続けなくてはならないという可能性は低いといえます。
抜糸の際の痛み
インプラント手術では、治療方法にもよりますが、歯茎を医療用の糸で縫合し、傷が塞がったタイミングでその糸を除去する、抜糸が行われます。
抜糸は糸を取り除くだけなので、切開するような痛みが生じるものではなく、麻酔などを行わずに抜糸をすることもあります。
この場合、糸を除去するための器具などが歯茎に触れることで、チクチクとした軽い痛みが出ることがあります。
抜糸の際の痛みが心配という方は、クリニックによっては麻酔を行ったうえでの対応が可能な場合もありますので、歯科医師に相談してみるとよいでしょう。
待機期間中の痛み
インプラントの手術では、骨にインプラントを埋め込んだ後、人工の歯をかぶせる前に、数ヶ月の間待機する必要があります。
これは、インプラントで使用するチタンを素材とした人工歯根と骨が、一定期間で強固に結合するというオッセオインテグレーションと呼ばれる反応を待つためです。数ヶ月から半年程度の期間を置くことで、インプラントが骨とがっちり結合し、安定感のある歯を実現することが可能となります。
この待機期間の間は入れ歯や仮歯を装着して過ごすこととなりますが、手術後の患部は炎症が起きていたり神経が敏感になっていたりするため、硬いものを噛むなどして仮歯に強い負担がかかったり、強い衝撃を受けると痛みを感じることがあるといえます。
手術から時間が経って、炎症や腫れがおさまってくれば痛みを感じることは少なくなります。
ただし、痛みなどが出にくくなったとしても、仮歯の期間に治療部位へ無理な力がかかると、インプラントがなかなか安定しにくくなってしまうなどのトラブルにもつながりますので、仮歯の期間中は患部に強い負担をかけないように注意しましょう。 なお、インプラント手術から数週間などある程度の時間が経過しても痛みが続く場合は、インプラントの不具合や、不適切な手術によるトラブル、細菌などへの感染、または噛み合わせのずれなど、何かしらのトラブルが生じている可能性があります。
放置していると状況が悪化していってしまうケースもありますので、痛みが気になる場合は早めに歯科医院で相談するようにしましょう。
インプラント治療後の痛みへの対処法
インプラント治療を受けた後に痛みが出てきた場合、下記のような対応で痛みの軽減や、対策をするとよいでしょう。
ただし、痛みが強い場合や長く痛みが続く場合は何かトラブルが生じている可能性がありますので、無理に我慢せず早めに歯科医院での診察を受けることが大切です。
痛み止めを服用する
インプラント手術の後、麻酔が切れると必ず痛みが生じてきますので、この痛みを抑えるために数日分の痛み止めや、炎症を防ぐための抗生物質が処方されます。
痛みを感じる場合は歯科医師の指示を守りながらこの痛み止めを服用することで、術後の痛みを抑えることが可能です。
処方された痛み止めをすべて服用した後も痛みが続く場合は市販の痛み止めを使用することも可能ですが、あまりにも強い痛みが続くような場合は、我慢せず歯科医師の診察を受けた方がよいでしょう。
なお、痛み止めと合わせて処方される抗生物質については、中途半端に服用すると耐性菌などができてトラブルにつながる可能性もあるため、医師の指示にしたがってしっかり飲み切るようにしましょう。
歯のケアを適切に行う
歯に食べ残しなどが付着したまま放置していると、そこに菌が増殖してしまいます。
菌が増殖すると炎症が生じ、腫れたり痛みが出たりする可能性がありますので、インプラントの治療中や治療後も、しっかりと歯磨きをはじめとしたケアを行うようにしましょう。
食べ残しは歯の表面だけではなく歯と歯の間や、歯と歯茎の隙間に蓄積されやすいため、毛先が細い歯ブラシを使用して歯と歯茎の間を磨いたり、歯科ブラシやフロスで歯の隙間の汚れも除去するようにしましょう。
口腔内の殺菌をするマウスウォッシュなども、適切に使用することで口腔内の雑菌の繁殖を予防できるので、取り入れてみるとよいでしょう。
飲酒や喫煙を控える
飲酒や喫煙は、血流の低下や、そのものに含まれる毒素などの影響により、免疫力を低下させ、口腔内の状態を悪化させる要因となります。
特に喫煙は口腔環境を悪化させる大きな要因となりますので、インプラントの治療中はもちろん、治療後もなるべく禁煙を心がけた方がよいでしょう。
運動や入浴を控える
インプラントの手術直後は、血流が促進されると内出血や腫れが悪化し、強い痛みにつながりやすくなります。
また、腫れが強くなることで、治療後の状態が落ち着くまでの期間も長くなり、治療期間が伸びてしまう原因となりますので、治療直後は血流が促進される行為はやめておきましょう。
具体的には、ジョギングなどを含む運動や、身体を温める入浴といった行為が血流を促進してしまうため、控える必要があります。 ただし、治療直後の腫れがおさまった後については、血流を促進することで細胞の代謝を活性化させ、治療後の回復に好影響が期待できます。
いつ頃から入浴などが可能になるかは歯科医師から指示があるかと思いますが、おおむね手術後1週間程度が経過したら、適度な運動や入浴で身体を温めるようにするとよいでしょう。
食事内容に気を付ける
インプラント手術後の痛みを抑えるという点では、2つの意味で食事内容に気を付ける必要があります。 一つ目は硬いものを避けることです。
強く噛まないと食べることができないような硬い食べ物は、治療部位への負担となって炎症や痛みの原因となる可能性があります。
また、インプラント治療中の仮歯はやわらかい樹脂製の素材で作られていることが多く、硬いものを噛むと変形したり、割れたりしてしまう可能性があります。
そのため、インプラント手術中については、なるべく硬いものを避ける、または、硬いものを噛む際は治療を行った部位と離れた歯で噛むということを意識しましょう。 二つ目は組織の修復によい食事をとるということです。
インプラント手術を行った後は、傷の回復や歯とインプラントの結合といった身体の働きを待つ必要がありますが、こうした働きは食事によって摂取した栄養で行われます。
細胞の材料となるタンパク質や、代謝を補助するビタミン類、ミネラルなど、食事によって適切な栄養を摂取することで適切に回復させることができるようになりますので、栄養バランスの整った食事を心がけましょう。
治療後しばらくしてから激痛がある場合
治療からしばらくしても痛みが続く場合や、治療直後よりも強い激痛があるという場合、下記のような原因が考えられます。
インプラント周囲炎による痛み
インプラント周囲炎は、インプラントを行った歯の周囲にできる歯周病で、口腔内で増殖した菌が作り出す毒素により、歯茎の炎症や歯槽骨の分解が進むものです。
インプラント周囲炎によって歯茎が炎症をおこすと、その刺激により強い痛みが出たり、痛みが長期間続く可能性があります。
噛み合わせが変化したことによる痛み
インプラントを行うと、それまで歯がなかった場所で噛めるようになり、噛み合わせの状況が変化します。
基本的にはこの変化によってしっかりと噛めるようになるというよい変化が期待できますが、場合によっては特定の歯に強い負担がかかってしまうようになり、これが歯や歯茎へのダメージとなって痛みを生じる可能性が考えられます。
ネジが緩んでいるなどのトラブルによる痛み
インプラントは特殊なネジなどによって人工歯根と人工歯を結合しますが、こうした器具が緩んでしまっていると、歯がグラついたり、無理な力がかかって痛みを生じたりします。
場合によっては歯が外れてしまうということも考えられますので、歯がグラつくような感覚があれば、早めに歯科医院を受診しましょう。
インプラント治療後に激痛がある場合は早めの受診を
インプラントの治療後は、切開による影響である程度の痛みが生じる可能性はあるものの、激痛とよぶ程の痛みが出ることは、通常であれば考えられません。
痛みの感じ方は人それぞれですが、何かトラブルが出ている状況でなければ、痛み止めを服用すれば抑えることができるような痛み程度です。
進行したむし歯のような、強い痛みがあるという場合は何かしらトラブルが生じている可能性が考えられますので、早めに歯科医院を受診し、痛みの原因をしっかりと調べるようにしましょう。
まとめ
インプラントの手術は麻酔を使用して行うため、麻酔注射を行う際の痛みなどはあるものの、手術による激痛が出るということはありません。
また、手術後についても痛み止めを服用すればおさまる程度の痛みが出る程度で、その痛みも数日すればほとんどの場合解消されますので、あまり心配する必要はないでしょう。
我慢できないような激痛がある場合は、インプラントの破損など何かトラブルが生じている可能性が考えられますので、早めに歯科医院を受診し、適切な処置をうけることをおすすめします。
参考文献